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2013/4/1 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
きょうから新年度がスタート。日銀も3日に黒田新体制の下で初めて金融政策決定会合を開く。この場でさらなる金融緩和に踏み込むのは間違いない。
市場はまたまた好感し、なお一層の緩和を迫る相場になるのだろうが、忘れてもらっては困ることがある。
新総裁の黒田東彦氏(68)は財務省出身だということだ。一時は、あれだけ「財務省OBはダメ」という世論が盛り上がっていたのに、スンナリ決まってしまった。日銀OBで大商大教授の佐和良作氏(経済学)はこう言う。
「なぜ、財務省OBの日銀総裁就任が問題視されたかというと、国債を発行する財務省と引き受ける日銀が一体になれば、国債増発に歯止めが利かなくなる恐れが出てくるからです。戦時中は政府が軍事費捻出のため、国債を増発し、それを日銀が際限なく引き取ったことで、戦後のハイパーインフレを招いた。紙幣が紙クズ同然になってしまった戦時国債の教訓を忘れてはいけません」
本来であれば、きっちり、すみ分けるべきポストを、これまで財務省は天下りの指定席としてきた。だからこそ、批判されてきたのに、安倍政権が誕生するや、アッという間になし崩し。安倍首相と黒田総裁は2%のインフレ目標に向かって、二人三脚で走り出した。日銀の独立性を踏みにじり、政府・財務省とベッタリ、癒着だから、露骨だ。
アベクロコンビに期待する市場では円安・株高が進み、庶民も何となく「景気が良くなれば結構」なんて思っているが、ちょっと冷静になって、耳を傾けた方がいい。聞こえてくるのではないか、財務官僚の高笑いが。
◆あらゆる政党に財務省の毒が回っていた
なぜ財務省OBが日銀総裁に選ばれたのか。なぜ、円安・株高が進んでいるのか。とんとん拍子で進んだ一連の流れの裏には、財務官僚の仕掛けたワナが見え隠れする。ズバリ、来年の消費税アップを強行するための用意周到なシナリオだ。
慶大教授で評論家の赤木昭夫氏が「世界」4月号で、こんな話を展開している。
昨年の選挙前、自民党の安倍総裁は「物価上昇率3%」や「名目成長率3%」を公約に掲げた。実は民主や公明、維新なども同じ数字を掲げていて、なぜ、そうなったかというと、〈財務省の見えない網が政党間に張り巡らされていたのである〉と書いている。
消費税を引き上げるには景気回復という条件があって、法改正の際、付則18条に「税率引き上げの条件」が盛り込まれた。そこに同じ数値目標が出てくるのだ。
だから、各党が同じ数値目標を公約に掲げた。言うまでもなく、財務省の根回しの成果だろう。赤木氏は〈(最近は)政党が安定感を欠き、働きが怪しくなってきた。そこで官僚は、超党派の同意を得るためにいよいよ根回しを図ることにならざるを得ない〉と書いていたが、まさしく、その通りのことが行われたのだろう。
さて、各党に公約を根回しした後は、経済成長の演出だ。消費税を断行するには2%の実質成長が必要で、そのために日銀には2%のインフレを起こしてもらう必要がある。それを実行する日銀総裁を選ばねばならない。
そこで送り込まれた“刺客”が、OBの黒田総裁というわけだ。
◆責任を政治家になすりつける悪しき習性
日銀に国債を引き取らせ、一時的にでも強引に「実質2%、名目3%」という数値目標に近づける。みせかけの成長で「景気が良くなるかも」という気分を庶民に植え付け、増税受け入れムードにもっていく。周到で薄汚い財務省は当然、日銀の抵抗も見越していて、今年1月には「日銀法改正を目指す超党派連絡会」なるものもできた。もちろん、裏で糸を引いているのは財務省で、日銀への無言のプレッシャーになる。それと相前後して、白川前総裁も「物価目標2%」をのむ政府との共同声明に応じて陥落した。そうこうしているうちに黒田総裁の流れが次第に出来上がっていったのである。
前出の佐和良作氏は「金融緩和でデフレを脱却できるなんて学術的な根拠は皆無に等しい。出たとこ勝負の成り行き任せで、財務省は時の政権をなだめすかし、責任を政治家になすりつけるのでしょう。それが財務官僚の習性です」と切り捨てた。
この調子だと、再来年の「消費税10%」も確実で、庶民の暮らしはインフレと大増税で干上がってしまうことになる。
◆いい加減、霞ヶ関のだましの手口を見抜け
それにしても、こうした財務官僚の復権を見ていると、この国はいつになったら変わるのか、と暗澹(あんたん)たる気持ちになってくる。
バブル崩壊後の長引く不況でデフレは延々と続き、失われた10年が20年となり、閉塞状況が蔓延している。この間、日本の財政は悪化の一途で、問題解決の先送りとバラマキの結果、GDP比245%超という膨大な借金が積み上がった。
すべては官僚、とりわけ財務官僚の責任なのに、彼らは責任を取るどころか、こうやって裏で政治家と政党を操り、ついには日銀まで傘下に押さえて、自分たちの開けた穴を大増税という形で埋めようとしている。それに国民は怒るどころか、たった4000円の株高で浮かれて、「歓迎ムード」なのである。どこまでお人よしなのか、と思ってしまう。
大体、安倍政権誕生後、いつの間にか復権・復活を果たして、やりたい放題なのは財務官僚だけではないのだ。
安倍は「復興のために原発再稼働が必要」と屁理屈をこねて、原子力ムラと経産官僚の事故責任を不問にした。普天間問題もそうで、安倍は対米追随一辺倒。辺野古埋め立ての抜き打ち申請を強行し、外務省や防衛省の官僚を喜ばせた。
大体、安倍政権誕生後、いつの間にか復権・復活を果たして、やりたい放題なのは財務官僚だけではないのだ。
安倍は「復興のために原発再稼働が必要」と屁理屈をこねて、原子力ムラと経産官僚の事故責任を不問にした。普天間問題もそうで、安倍は対米追随一辺倒。辺野古埋め立ての抜き打ち申請を強行し、外務省や防衛省の官僚を喜ばせた。
◆3・11以前の日本に戻していいのか
作家の高橋源一郎氏は朝日新聞で〈この国はいま、「三・一一以前再稼働」への道をまっしぐらに歩みつつある〉と書いていたが、その通りだ。再稼働するのは原発だけでなく、すべてが3・11前に戻りつつある。
3・11で我々が知ったのは、この国のいい加減で無責任な体制ではなかったか。
〈震災と原発事故は、この国の中にひそんでいた、多くの闇をぼくたちの前にさらけ出した。地方をなぜ切り捨ててきたのか。原発事故はなぜ起こったのか。誰が、どんな責任をとり、そこからどんな未来を目指すのか。けれど、新しく首相となった人の、総選挙直後の会見や、国会での所信表明、施政方針演説をいくら読んでも、これらの疑問への回答はない。一言も。まるで、3・11以前の政治には問題がなかったかのようだ〉(高橋源一郎氏の文章より)
その象徴が財務省の復活であり、黒田日銀総裁なのである。政治評論家の森田実氏はこう言った。
「普天間問題や原発事故は、戦後の自民党政治の闇の部分をイヤというほど見せつけました。自民党も変化を求められているはずなのに、政権に返り咲いた安倍首相はどこ吹く風。『株価が上がれば支持率も上がる』といい気になって、以前の自民党政治や官僚のやりたい放題に何の問題もなかったかのような態度です。霞が関には拝金主義がはびこり、福島や沖縄に補助金をバラまけばいいじゃないかという発想が蔓延している。あからさまに国民をナメてかかっているのです」
有権者もいい加減、官僚のだましの手口を見抜く目を養わなければ、いくら政権が交代しても霞が関のやりたい放題が続いてしまう。
「本当に恐ろしいのは、一部の国民も安倍政権の拝金主義に毒されつつあることです。“景気が良くなれば、ええじゃないか”というムードが広がっています。しかし、安倍政権と霞が関のイケイケドンドンを許してしまえば、そのツケを負わされるのは庶民。官僚は戦後一貫して悪政の責任を取らなかったことを思い出すべきです」(森田実氏=前出)
国家財政を破綻同然にさせたのも官僚、年金・医療制度を崩壊寸前にさせたのも官僚だ。インフレでチャラ、そのあと大増税――なんて悪だくみを許してはいけない。