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2013/3/16 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
日本経済の発展にプラスになるというが有力な反論もこれだけある
安倍首相が15日、TPP交渉参加を正式に表明したが、ぶったまげたのはその言い草だ。
自民党は先の選挙で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」と明言。あたかも「TPPには慎重」の姿勢を装ってきた。6割を超える議員がTPP反対を売り物に選挙を戦い、勝ち抜いてきたのは周知の通りだ。
ところが、安倍は「TPPがアジア太平洋の世紀の幕開けとなった。後世の歴史家はそう評価するに違いありません」「その中心に日本は存在しなければなりません」「TPPへの交渉参加はまさに国家百年の計であると私は信じます」と高らかに宣言したのである。
もう筋金入りのTPP礼賛ではないか。会見では取ってつけたように「聖域」についても触れた。しかし、「守るべき項目をしっかりと胸に、強い交渉力を持って結果を出したい」と言っただけ。質疑応答で「(聖域の重要5品目の関税を)堅持できない場合、TPP交渉から離脱するのか」と突っ込まれると、「今ここで離脱するかどうかを申し上げるのは国益に反する」とゴマカした。
最初から交渉参加ありき。それがものの見事に露呈した記者会見だったのである。
東大大学院教授の鈴木宣弘氏は「民主党の公約破りをあれだけ非難してきたのに、自民党の公約破りは許されるのか。有権者に対する信じがたい背信行為だ」と言ったが、本当だ。
一事が万事で、安倍や政府が説明するTPPに関する話はことごとくデタラメだ。とにかく、米国に言われたから、TPPに参加する。国益は二の次三の次。そのために、二枚舌を弄して、国民を騙(だま)し続けてきたのが真相だ。
◆国民皆保険は揺らぎ、食の安全もなし崩し
安倍は会見で「TPPはアジア太平洋の未来の繁栄を約束する枠組みだ」「日本の国益だけでなく世界の繁栄をもたらすものと確信している」とも言った。
すべてウソッパチである。TPPについては医師会は連日、意見広告を出して反対している。JAは4000人デモ行進で反対した。未来の繁栄を約束するのであれば、なぜ、かくも反対運動が起こるのか。すべてが詭(き)弁(べん)だからである。
前出の鈴木宣弘氏が言う。
「医師会が反対してるのはTPP参加によって、国民皆保険が揺らいでくるからです。米国は長年、日本の医療制度を攻撃し、崩そうとしてきた。国民健康保険があると、米国の保険会社は商売がやりにくいし、日本の薬価制度は米の製薬会社には参入障壁になるからです。企業にとって邪魔なものは排除する。政府が従わなければ、ISD条項で訴える。これがTPPですから、当然、国民皆保険もターゲットになる。TPPは皆保険崩壊を加速させることになるのです。農業についても同じです。米国は乳製品と砂糖を例外品目にしようとしたが、オーストラリア、ニュージーランドの反発で、認められそうにない。聖域なき関税撤廃が前提なのですから、日本の農業の聖域が守られるはずがないのです。米国は日本の厳しい食の安全基準も問題視している。TPPに参加すれば、農業が大打撃を受けて、地域経済、コミュニティーが崩壊するだけでなく、食料自給率は低下し、食の安全基準の緩和も余儀なくされ、国民の健康不安も増大することになります」
バラ色の未来なんて、とんでもない話なのだ。
◆これから参加する日本に交渉の余地なし
安倍や政府は「各国とも聖域はある」「交渉次第だ」みたいな言い方もしているが、これも大ウソだ。
「遅れて交渉に参加したカナダやメキシコは、すでに決まっている条件については口出しできず、今後、決まることについても先に交渉に参加している国の意向が優先されることになっています。そういう念書が交わされたのですが、日本も同じですよ。つい最近、シンガポールで行われた交渉で米国の担当官は『日本は交渉する時間も権利もないんだよ』と言ったといいます。交渉次第で聖域が守られるというのはマヤカシです」(鈴木宣弘氏=前出)
そうこうしているうちに、事前協議で米国の自動車の関税維持や日本は米国車の安全基準を受け入れること、最低輸入台数の設定、学資保険の内容変更などを求められていることがバクロされた。もちろん、安倍政権はグニャグニャだろう。
自民党は先の選挙で、自動車など工業製品の数値目標は受け入れない、国民皆保険は守る、食の安全は守る、ISD条項には合意しない、など6項目の公約を掲げた。これらが守れないなら、直ちに交渉から脱退すべきなのに、安倍は言を左右にしてしまう。
国民には情報を開示しないまま、国益に反する秘密交渉が進んでいる証拠だ。いや、交渉ではなく、一方的な譲歩を迫られ、ドンドン、それに応じている。それが真相に近い。こりゃ、国民生活や日本の産業は大変なことになる。米国を筆頭に他国の草刈り場になってしまう。それがTPPの現状、惨状なのである。
◆すべては安倍首相の政権維持のため
元外交官で、あまたの国際交渉を経験してきた孫崎享氏は「TPPで日本は得るものは何もない。ひとつの例外を除いて……」と言った。
その例外こそがTPPの本質だ。
「米国の言いなりになって、政権維持をしてもらうこと。それしかメリットはありません。つまり、安倍首相のためだけのTPPです」
そうなのだ。それほど、この交渉は不可解、奇怪で、国民にはいいことがひとつもないのである。孫崎享氏が続ける。
「全体会議は7月で終わります。すでに条約は出来上がっているのも同然で、すぐにシャンシャンでおしまいになる。日本が聖域の交渉をできる余地はないのです。日米首脳会談の合意文書には『すべてが交渉で決まる』かのような表現が出てきますが、これは『最初から聖域なし』と約束するわけではないという当たり前のことを言っただけ。交渉の余地がないのは政府も知っているはずです。それなのに国民には何も知らせず、後発国には出る幕がない交渉に参加する。これは白紙委任状と同じです。そうまでしてなぜ、参加するのか。安倍首相のメリットしか思い当たりません」
だとすれば、今後の交渉の結末も見えてくるというものだ。これまでもウソをつき通してきたように、今後もウソとゴマカシで国民をけむに巻く。しかし、最終的には日本市場を丸ごと米国に手渡すわけだ。亡国政権の身勝手を断じて許してはいけない。