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2013/2/25 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
手土産に持参したパターで大物を釣った気になっているらしい。
ホワイトハウスを訪問した安倍首相は、山形市の職人が作り、豪州選手が世界最少スコアを記録したパターを持参。オバマ米大統領にプレゼントする際に、「Get in the hole! Yes, we can(カップに入れろ。我々ならできる)」と、TPPでの協調を呼びかけたという。これにオバマが応じ、「TPP交渉参加に際し、一方的にすべての関税撤廃をあらかじめ約束しない」という共同声明を了承。日本メディアは、小道具を呼び水にして「例外容認」を勝ち取ったとして、安倍を思い切り持ち上げている。
本人も上機嫌だ。「緊密な日米同盟が完全に復活した」と手応えを強調。オバマとも「大変ケミストリー(相性)が合ったように思う」と浮かれている。
まったく、冗談ではない。共同声明をちゃんと読めば、日本側が何の成果も得られていないのは明白だ。「TPP交渉に参加する場合には、すべての物品が対象とされる」「最終的な結果は交渉の中で決まっていく」……。要するに、例外となる品目はなく、すべては話し合い次第だから、あらかじめ何かを決めたりしないと言っているだけ。驚くような文言は一切ない。ワシントンくんだりまで出掛けながら、当たり前のことを確認して帰ってきたに過ぎないのだ。
安倍外交の手柄なんてゼロ。実態は、むしろ敗北に近い。
声明では、両国の懸案事項として、自動車と保険が明記された。これまでも米国が執拗に圧力をかけてきた分野。日本が農産物の関税を維持しようとすれば、これ幸いと燃費の悪い米国製乗用車を押しつけ、米国の保険会社が参入しやすいように国民皆保険制度の見直しを求めるわけだ。日本にとってプラスの要素はまったくない。
◆愛国心に欠ける安倍の伝統農業の破壊
法大教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「安倍さんは何かと愛国心を強調する政治家です。常日頃、日本の伝統や文化を守ると言っている。でも、だれよりも愛国心に欠けているのは、その安倍さんではないか。TPPに参加すれば、日本が長年培ってきた稲作の伝統や文化は終わりです。米国は戦後、学校給食でパン食を徹底させ、自国の小麦を日本に押しつけてきた。ついに昨年は小麦とコメの消費額が逆転しています。その上、現在は778%の関税が撤廃されたり、引き下げられたりすれば、ますますコメの消費量は減る。しかもTPPでは、相手国で不利な扱いを受けた場合に提訴できるISDS条項も盛り込まれます。そのため、政府が稲作農家を保護すれば、米国の食品会社などから提訴される可能性も大。農業だけではありません。中小企業への補助金など日本独自の保護措置も不公平だとなりかねない。TPPによって、日本の主権は奪われ、弱者は政府の助けを得られなくなる。これが日本を愛する政治家がやることでしょうか」
事実上のTPP参加交渉入りを歓迎する財界やマスコミも同罪だ。「TPP参加は日本の国益だ」とか何とか主張しているが、戦後70年、米国の言いなりが当たり前になり、まっとうな感覚を失ったらしい。
農水省の試算によると、農産物の関税撤廃で207万人の雇用が失われ、約10兆円の農林水産品の生産額も3兆4000億円減少する。「それでいいのだ」と大喜びで受け入れる人たちの神経が分からない。
◆憲法見直し、国防軍創設で目指す傭兵国家
今回の会談で安倍は、わざわざ日本の防衛費の増額もオバマに伝えている。集団的自衛権行使や日米ガイドラインも見直し検討を表明。ミサイル防衛での協力強化や米軍の早期警戒レーダーを追加配備する方針も確認している。日本が米国に差し出すのは市場だけではないのだ。
立正大教授の金子勝氏(憲法)が言う。
「今の米国は『アジア太平洋最優先』を世界戦略としています。経済的にはTPPでアジア市場を奪う考えだし、軍事的には台頭する中国を牽制しようとしている。財政問題を抱える米国では、国防費の削減が避けられない。ただ、アジア太平洋地域向けの軍事予算を削る考えはありません。安倍首相が憲法を見直し自衛隊を国防軍に変えようとしているのは、そんな米国と一緒になって戦争をやれるようにするため。実際、ペンタゴンでも米中戦争を想定し始めていると報道されています」
安倍が防衛予算の増額を決め、米軍からオスプレイやレーダーを買えば、日本の防衛力は強化される。軍事費の捻出にアップアップの米国も大助かりだ。アジア戦略の一部を日本にも負担させ、武器や兵器の代金を受け取る。われわれの血税は、米軍の戦略や戦費を肩代わりするのに使われるわけだ。
「安倍首相は日本を米国のための傭兵国家にしようとしているのです。成長戦略の名の下にTPP参加を推進する一方で、軍事費や自衛隊まで差し出そうとしている。国家は米国に支配され、国民は自由を失う。安倍首相の政治は恐ろしい。国民も早く悟るべきです」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)
◆米国に忠誠誓い長期政権狙う
明治時代、日本政府は「脱亜入欧」を合言葉に国家の近代化を進めている。髪を切り、刀を置き、鹿鳴館でダンスに興じた。西洋人の猿まねをする一方で、中国や韓国を蔑視したのである。
悪い習性は抜けていない。対米隷属に拍手喝采する連中は、すでに米国人にでもなったつもりでいるのか。「脱亜入米」一辺倒で、中国や韓国を軽んじる。虎の威を借る狐。自分では立派だと思っていても、世界中からバカにされ、冷笑されて嫌われる。和を貴び、助け合いの精神を重んじる日本の伝統とは懸け離れた姿だ。
「安倍首相が同盟復活と称して対米従属を強化するのは、権力を維持するためでもあります。日本では、米国の言いなりにならない政権は、あちこちから足を引っ張られて潰される。マスコミや官僚はもちろん、党内からも矢が飛んでくるような状態になります。国民が求めている脱原発方針を白紙撤回したのも、沖縄に核兵器を配備したい米国の核戦略に狂いが生じないようにするためでしょう。原発の存在は、日本を潜在的な核保有国にしています。それによって国民の核アレルギーも弱まる。安倍さんは米国に忠誠を誓うことで、政権の長期安定を目指した。一度失敗しているだけに、なおさら米国の後ろ盾を必要としているように思われます」(金子勝氏=前出)
安倍は「Japan is back(日本は戻ってきた)」と題したワシントンでの講演で、「I am back(私は返り咲いた)」と切り出して会場の笑いを誘っていた。
果たして、何人の日本国民が、このジョークに笑えるのだろうか。