『メディアの破壊者 読売新聞』(七つ森書館/清武英利・佐高信編著)
読売、清武潰しの実態〜損害賠償1億請求、出版妨害、社員尾行疑惑?
http://biz-journal.jp/2013/02/post_1564.html
2013.02.25 Business Journal
この時期、プロ野球界は大物新人のキャンプ情報やWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)など賑やかな話題でいっぱいだ。そうした中、約1年前に大騒動を巻き起こしたあの一件は、今どうなっているのだろうか?
読売巨人軍代表(当時)の清武英利氏が、ある日突然記者会見を開き、読売新聞グループ本社会長で同球団会長の渡邉恒雄氏を告発し、読売による清武氏への訴訟に発展した件である。
騒動を大まかに振り返っておこう。
2011年10月20日、巨人軍2012年度コーチ人事案が確定し、内示を経たうえで、同球団代表の清武英利氏は、コーチとの契約締結など人事案の一部履行に着手した。ところが11月4日、渡邉氏が記者団に「俺は何も報告を聞いていない」と発言し、同月7日には同球団社長の桃井恒和氏に、2日後の9日には清武氏に、江川卓氏をヘッドコーチに招聘すると通告。そして11日、清武氏は渡邉氏を告発する記者会見を行い、18日に同球団により取締役を解任されたのだった。
1月24日、清武氏は都内で開かれた「日本の司法を正す会」で「清武の乱といわれるのは心外だ。テーブルをひっくり返したのは渡邉氏で、あれは“ナベツネの乱”だと思っている」と強調した。
●無関係な清武氏の著書にまで圧力?
さらに「渡邉氏の告発とまったく違う問題」(清武氏)なのに、この事案に関連づけられて、清武氏がグループで執筆した『会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証』(新潮社)の復刊が暗礁に乗り上げた。
七つ森書館は同書の復刊に向けて11年3月10日、読売新聞社社会部次長に出版契約書を送付。5月10日頃、同次長より「本社の法務部門と協議の上、私個人の捺印としました」と付箋をつけた契約書が送付されてきた。ところが、清武氏の記者会見が過ぎた12月1日、読売新聞グループ本社社長室法務部長と同主任が七つ森書館に来社して、「出版契約を合意解約したい。補償はお金でする」と申し出た。
『メディアの破壊者 読売新聞』(七つ森書館/清武英利・佐高信編著)によれば、申し出を受けた七つ森書館は、読売に対し出版に理解を求めたが、読売は東京地裁に「出版契約無効確認請求事件」として提訴。その理由について読売は、「権限を有していない社会部次長が署名しているから無効である」と主張したという。
こうした経緯をたどり、巨人軍・読売と清武氏が双方に対して、さらに読売が七つ森書館に対して、それぞれ以下のように複数の訴訟を提起した。裁判は継続している最中だ。
(1)巨人軍・読売が清武氏に対して、名誉毀損に基づく損害賠償請求。
(2)巨人軍が清武氏に対して、動産引渡請求。
(3)清武氏が巨人軍・読売・渡邉氏に対して、不当解任・名誉毀損に基づく損害賠償等請求。
(4)清武氏が巨人軍・読売・渡邉氏に対して、朝日新聞の巨人軍新人契約金報道【註1】に関して名誉毀損行為をされたとして、損害賠償等請求。
(5)清武氏が巨人軍・読売・渡邉氏に対して、週刊文春の原監督1億円支払問題【註2】に関して名誉毀損行為をされたとして、損害賠償等請求。
(6)読売が七つ森書館に対して、出版契約無効確認請求、販売差止仮処分。
複数の訴訟の中で、清武氏が「一番ショックだった。仰天した」と強調するのは、清武氏に対する証拠保全申し立てである。12年5月21日、巨人軍サイドが清武氏個人の携帯電話の通信記録などの提出を求めたのだ。清武氏の弁護士は「“もしかして裁判官が認めてくれるかもしれない”との期待のもとに起こしたのだろう」と推測したという。
この申し立てに対しては、清武氏側が反論書面を提出して、6月15日に巨人軍は申し立てを取り下げたが、清武氏は「もし費用を用意できなくて反論書面を提出できなかったら、裁判所は読売側の主張を認めることになったかもしれない」と読売側の横暴さを指摘する。
●社員を尾行?
一連の騒動に関して、清武氏が特に問題視したのは、読売新聞の記者が抱く恐怖心である。
「(11年11月11日の)記者会見のあと、電話をかけてきた部下や社内の友人と会ったが、ゲーペーウーとかKGBという言葉を用いて“つけられているかもしれないので、離れたところで会おう”と言ってきた。“ドン”に反旗を翻した人に近づくとパージされるという恐怖心があるのだろう」
恐怖心は、読売側から裁判所に提出された陳述書にも表れた。
「社内の記者たちが述べた陳述書を読むと、事実に反することを書いている。『清武に支配されていた』とか(笑)。オウムじゃないんだから。多くの記者が踏み絵を踏まされたのだろうが、情けないことだ。昔の記者には若干の勇気が、少しは感じられたが、今はなくなった」(清武氏)
渡邉氏を評する記者の発言は、昇進するにつれて変化していくという。
「ヒラのときは『ナベツネ』と呼び捨てにしていた記者も、ポストが上がるにつれて『良いオヤジだ』『良いところもある』などと言い出す。私は読売新聞でのポストの序列を“背信の階段”と呼んでいる」(同)
●読売にマイナスとなった1億円損害賠償請求
しかし、この騒動で記者に良心が芽生える可能性もあるのではないか。そう指摘するのは、正す会に出席した元衆議院議員で弁護士の早川忠孝氏である。
「複数の裁判の中で、巨人軍・読売サイドが清武氏に対して、名誉毀損で1億円の損害賠償請求訴訟を提起したことは読売側にとってマイナスだった。1億円という金額については、裁判の結果を待つまでもなく社会が容認しない。読売の社会的評価を下げたし、事実をねじ曲げた陳述書を書いた記者に良心が芽生えて、いずれ反撃してくる可能性もある」
さて、裁判の行方はどうなるのだろうか。清武氏は「勝ち負けは心の中にある。仮に裁判で負けても、訴えたことは正しいので、それは勝ちだ」と述べたが、同席した七つ森書館社長の中里英章氏は、勝訴への決意を表明した。
「出版言論の自由に関わることなので、当社も清武氏も負けるわけにはいかない。どちらとも勝たないと日本の夜明けは遠くなる」
司法が健全に機能しているかどうかは、ひとえに国家の健康状態を判断する基準でもあるが、清武氏をめぐる裁判は、どんな健康状態を明らかにしてくれるのだろうか。
(文=編集部)
【註1】朝日新聞の巨人軍新人契約金報道:12年3月15日付朝日新聞は、1997〜2004年度にかけ、巨人軍が、プロ野球12球団で申し合わせた新人契約金の最高標準額(1億円+出来高払い)を超える契約を、6選手と結んでいたと報じた。この報道について読売側は、清武氏の関与があるとの見解を表明した。
【註2】週刊文春の原監督1億円支払問題:「週刊文春」(文藝春秋/2012年6月28日号)は、原辰徳巨人軍監督が、現役時代の女性問題に関連し、06年、反社会的勢力に1億円を支払ったと報じた。この報道について読売側は、清武氏の関与があるとの見解を表明した。