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2013/2/18 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
「アベノミクスは世界に容認された」――メディアはそんな論調一色だ。モスクワG20の共同声明で日本を名指しする批判が控えられたことを受けての報道である。
読売あたりは「(共同声明は)アベノミクスに一定の評価を与えた」とまで書いていたが、共同声明のどこをどう読めば「アベノミクス容認」となるのか。奇々怪々だ。
日本への評価といえそうなのは〈欧州、米国、日本における重要な政策措置と、中国経済の強靭さのおかげで、世界経済の巨大なリスクは後退した〉くらいのもの。残りは名指しこそしていないが、明らかに日本の円安政策にクギを刺す内容ばかりである。
〈為替レートの無秩序な動きは経済に悪影響〉〈通貨の競争的切り下げは控える〉〈競争力強化のために為替レートの目標を設けない〉〈金融政策は中央銀行の責務に従って国内物価の安定に向けられるべき〉……どれもこれも、アベノミクスに冷水をブッかける文言だ。
それなのに、大マスコミ報道は安倍政権には本当に甘い。
マフィアのボスのような格好でモスクワに乗り込んだ麻生財務相の「一定の理解を得られた」との発言を無批判にタレ流し、「アベノミクス容認」ムードを醸成し、煽(あお)っている。
◆円はどっちへ向かうのか、アベノミクスは破綻するのか、この経済政策は正統なのか異端なのか
どの新聞も「うまく批判をかわした」「当面、円安基調が続く」「今週末までに95円台になる可能性もある」といったエコノミストたちの楽観コメントを載せていたが、大新聞の激甘論調を聞かされれば、どんなエコノミストだって、そう答えてしまうのだろう。エコノミストがそう分析すれば、市場も「円安」に流れるというものだ。
何だか市場・為替操縦みたいな報道ばかりが目につくのだ。
◆大臣の身勝手解釈を許す日本の特異性
大マスコミには「前科」がある。G20に先立つ、G7の共同声明をめぐる報道だ。
「通貨安狙いはダメだが、国内の景気浮揚目的なら構わない」といった玉虫色の声明を逆手に取って、麻生は「デフレ対策の政策が為替相場のために使われていることはないと、正しく認識された」と発言。「各国に円安政策が容認された」と都合よく解釈した。
「この時も日本のメディアは、麻生発言をタレ流すだけ。身勝手な説明に便乗し円安容認ムードを煽って一時、円売りは加速しました。すると、G7当局者が匿名で『(円安容認は)誤解している。声明は円相場の過度の変動に懸念を示した』とロイター通信などにコメント。わざわざ麻生発言を全面否定する騒ぎとなったのです」(金融市場関係者)
財務大臣が誤った情報を発信しても、メディアは放置し勝手な解釈が独り歩きしていく。そんな日本の「特異性」にはG7当局者も腹に据えかねたのだろうが、今度のG20をめぐる報道だって一緒ではないのか。
G20各国は、通貨安競争によって輸出競争力を得ようとするアベノミクスを真っ向否定した。そう見るのが、妥当な評価である。
◆なぜ世界の批判を見て見ぬフリなのか
大新聞・TVはハッキリ伝えないが、世界がアベノミクスに批判的なのは明らかだ。欧米メディアも「日本が声明で名指しされないのは驚き」と書いている。
今回、G20各国が日本を名指しして批判しなかったのは、それぞれ事情を抱えていたからに過ぎない。
「アメリカと欧州は、日本を批判できる立場じゃありませんでした。なにしろ、最初に“通貨安競争”を仕掛けたのは、アメリカと欧州ですからね。新興国も日本の円安誘導には内心、カンカンですが、アメリカ、欧州、日本の景気が良くなってくれないと、自分たちも困る。我慢して口を閉ざしただけのことです」(民間シンクタンク研究員)
実際、G20直前まで日本は新興国や欧州各国から袋叩きに遭っていた。
「安倍政権の新たな政策を非常に懸念している。為替レートは操作されるべきではない」(ドイツのジョイブレ財務相)
「(日本政府は)行き過ぎた発言をしてきた」(米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長)
「為替介入は(日本のように)単独で行うべきではない」(欧州中央銀のドラギ総裁)
ブラジルのマンテガ財務相は通貨戦争」と、刺激的な言葉でアベノミクスを猛攻撃した。これが世界各国のホンネで、「アベノミクスに一定の評価」など、あり得ない話なのだ。
「日本への名指し批判が回避されたのは、米国が強力な援軍になったためです。その背景には、TPP参加や防衛コストのさらなる負担増、集団的自衛権の解禁などの魂胆があるのでしょう。それなのに、この国のメディアは何も真相を書かない。知っていて伏せたのか、取材力の劣化か。いずれにしろ、マトモに機能していません」(元NHK記者で評論家の川崎泰資氏)
◆庶民の犠牲の上で成り立つアベノミクス
そもそも、大新聞・TVは、「アベノミクス」を本気で素晴らしいと思っているのか。日銀を恫喝してでも人為的に「円安」を演出し、国際競争力を強めることが、果たして「正統な経済政策」といえるのか。まさか、こうしたやり方で「円安」「株高」が長続きすると信じているわけじゃないだろう。経済評論家の吉見俊彦氏はこう言った。
「円安を目的にした金融緩和策はどう考えても禁じ手。よほど素晴らしい『成長戦略』を描かない限り、カネ余り現象から一時的なバブルを発生させるだけです。むしろ円安の副作用で『輸入インフレ』の傾向が出始め、ガソリンや小麦、電気料金の高騰など庶民の暮らしを脅かしつつある。資材・原油の輸入価格上昇は企業にとってもコスト高要因で、さらなる賃下げ圧力となりかねない。アベノミクスは庶民の犠牲の上に成り立っているのです」
大マスコミは、こうした負の部分をロクに検証せず、ひたすらアベノミクスを持てはやす。改めて日本のメディアには「自民党政権なら何でも善なのか」と問いたくなる。前出の川崎泰資氏も、こう言うのだ。
「民主党政権時代は何をしても『財源の裏づけがない』と批判したのに、自民党政権に戻った途端、バラマキ容認。金融政策の禁じ手もOKで、世界中の批判にも見て見ぬフリです。批判精神を失ったメディアとアベノミクスの行き着く先に、国民はどんなツケを払わされるのか。想像するだに恐ろしくなります」
メディアの情報をうのみにしていると、景気判断や投資判断はもちろん、この国の未来を見誤ることになる。