http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130215/dms1302150710007-n1.htm
2013.02.15 夕刊フジ
ほとんどの人が幼児期にかかる水痘(水ぼうそう)。その原因ウイルスは水痘が治った後も脊髄近くの神経節と呼ばれる部分に潜んでいる。加齢や疲れ、ストレスなどで免疫機能が低下すると、ウイルスは再び暴れ出し、水疱(水ぶくれ)や激しい痛みが特徴の「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」を引き起こす。日本人では50歳以上の帯状疱疹の年間発症率は1・07%で、免疫力が低い人は高い人に比べ5・6倍発症しやすいことが分かった。
■激烈な痛み
帯状疱疹では、最初に体の左右どちらかに「ピリピリ、チクチク」とした痛みやかゆみ、感覚異常が生じる。やがて同じ場所に赤い発疹や小さな水疱が帯状に現れる。神経節に潜伏していた「水痘・帯状疱疹ウイルス」が再び増殖を始め、神経を伝わって皮膚に到達するために起きる症状だ。
水疱はうみがたまった膿疱やただれになることもあるが、数週間で改善し乾いてくる。通常、皮膚症状が良くなるころには痛みもなくなる。
だが、患者によっては痛みが長く残ることがある。「焼けるような」「電気が走るような」などと形容される激烈な痛みは「帯状疱疹後神経痛(PHN)」と呼ばれる。ウイルスの攻撃で神経がひどく傷ついた場合に起きる厄介な後遺症だ。研究班は地元医師会や自治会の協力を得て、小豆島の50歳以上の住民約1万2000人を2009年から3年間追跡調査した。
■皮内検査
「島は人口の出入りが少なく追跡しやすい。50歳以上が対象なのは、この年代から発症が増え始めるため」と、主任研究者で医薬基盤研究所(大阪)の理事長を務める山西弘一さん(ウイルス学)は解説する。
月1回、登録者全員に電話で発疹や痛みの有無などを聞き取るほか、うち約5700人には水痘の抗原を腕に注射して、発赤の大きさからウイルスに対する免疫力の強さを調べる「皮内検査」を実施、その後の発症との関係を探った。
調査の結果、3年間の発症者は396人で、年間発症率は1・07%。70歳以上は70歳未満に比べ1・53倍、女性は男性に比べ1・51倍発症しやすいことが分かった。
皮内検査では、発赤の長径が10ミリ未満の陰性者は、10ミリ以上の陽性者に比べ5・6倍発症しやすく、長径が5ミリ未満の人は5ミリ以上の人に比べ、PHNのリスクが14・3倍も高まることが判明。つまり、ウイルスに対する免疫が低いほど、発症も重症化もしやすいことが明らかになった。
■ワクチン開発
「皮内検査で陰性の人が陽性になるようなワクチンを開発すれば帯状疱疹は予防できる」と山西さん。実は、小児用水痘ワクチンを高齢者に接種すると、陰性を陽性に変えられることが既に確認されているという。「今後大人で治験を行えば、水痘ワクチンを帯状疱疹ワクチンとして早期に使えるようにできるはず」と山西さんは期待する。
横浜市にある杉田皮フ科クリニックの杉田泰之院長によると、現在、帯状疱疹の治療では抗ウイルス薬が用いられ、必要に応じ鎮痛剤も併用される。しかしPHNになると、従来の鎮痛剤では対処できないことも多い。
2010年、痛みを伝える神経伝達物質の過剰放出を抑える新薬プレガバリン(一般名)が登場した。「これまで対処できなかった痛みにも有効」(杉田さん)で、欧米では第1選択薬となっている。
一方、ふらつきや眠気などの副作用が出やすく、「安易に高齢者や車の運転をする人に処方すると転倒や事故の危険がある。慎重に使うべきだ」と指摘する。