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2013/1/7 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
今年の景気への楽観論の当否
幸先良いスタートを切った巳年相場に市場関係者が沸いている。消費増税以外に何もやらなかった野田首相が退陣。威勢のいい発言を繰り返す安倍首相が再登板した。マーケットは好感し、日経平均は年明け4日も300円近く上昇している。
市場では「今年は年前半に明るい材料が多い」(マネックス証券の広木隆チーフストラテジスト)との声が支配的だ。しばらくは上昇基調が続くと受け止められている。こうなると「乗り遅れるな」の心理が働く。買いが買いを呼ぶ展開だ。
一方の為替相場は円安が進み、1ドル=90円台も視野に入ってきた。大企業製造業の想定為替レートよりもおおむね10円近く安い水準。「自動車メーカーなどは関連業種の裾野が広く、景気への波及効果も大きい」(SMBC日興証券の野地慎・為替ストラテジスト)とみられている。為替の動きも株高を後押しする格好だ。
問題は、この円安株高基調が、本当に景気回復につながるのかどうかである。恐らくこれは新年最大の関心事だろう。
安倍は、まるでカムバックを歓迎するかのような相場に自信を深めているようだ。年明けの会見でも「経済再生の大きな一歩をしるすことができるよう頑張る決意」と話していた。お仲間の甘利経済再生担当相もきのう(6日)、「政府が成長戦略の工程表を描き、いかに強力に関与していくか。決意が問われる」と意気込んだ。自分たちがリードすれば、かつてのような経済成長も可能だと言いたいらしい。
◆50年前の高度経済成長を引きずる浦島太郎政権
まったく、自民党には呆れてしまう。この国を借金漬けにした揚げ句、「失われた20年」と呼ばれる長期デフレを招いた張本人が、旧来の手法で景気回復ができるのか。
声高に「成長戦略」を口にしているが、高度成長期ならイザ知らず、そんなに簡単にできるわけがない。いまだに50年前の発想を引きずっているようなものだ。
同志社大教授の浜矩子氏(国際経済学)が言う。
「安倍政権は、時の流れに乗り遅れた浦島太郎です。今が21世紀で、経済はグローバル化が進んでいるということを理解していない。日銀に圧力をかけて市場をジャブジャブにし、公共事業を起こしてカネをばらまく。それで経済成長がもたらされるという考えです。むろん、ヒト、モノ、カネが自由に行き来できなかった20世紀なら、こうしたやり方も通用したでしょう。かつては国単位の経済政策が効果的に働いた。今は違います。例えば、日本国内の公共事業で潤うのは、外国資本の企業だったり、外国人労働者だったりする。しかも、経済波及効果はどんどん小さくなっています。それでも短期的には、多くの投資家が円安株高と考えているから、流れは加速する。それが怖いのです」
時代遅れのアベノミクスがもたらすのは景気回復ではない。日本経済はグローバル化の渦にのまれてズタズタになる。「成長よもう一度」は国民生活を苦しめるだけだ。
◆グローバル経済を踏まえないインフレターゲット
急激な円安株高で、ちょっとしたバブルが発生しても、庶民には恩恵がない。物価だけが上昇し、ますます暮らしは苦しくなる。そんな事態が予測されるのだ。
「安倍政権は物価を2%上げると言っているから、なんとかつじつまを合わせて目標を達成するでしょう。しかし、同時に賃金も上昇させるような手は打たれていません。物価だけはどんどん上がるが、賃金は増えない。そんな姿になるのです。以前なら、モノの値段が上がれば、給料も遅れて上がった。今はそれも期待できません。例えば円高で食材が安く仕入れられていた牛丼は、円安になれば価格を引き上げざるを得なくなる。それを嫌うのなら、人件費を削減するという具合。競争が激しい中で物価高になれば、調整できるコストは賃金しかありません。シワ寄せは、いつも弱いところに出る。インフレターゲットはグローバル観に欠けた政策なのです」(浜矩子氏=前出)
厚労省の毎月勤労統計調査によると、基本給や残業代、特別給与を合わせた現金給与総額は昨年11月に27万4103円となった。3カ月連続のマイナスだ。しかも、10年前の同月に比べ、2万円近くも下落している。そんな中でさらに給料が減らされ、物価が上がり始めれば、一般的なサラリーマン家庭はアップアップだ。
中小企業もいじめられる。物価が上がっても自分たちは被りたくない大企業は、下請けに無理難題を押し付けるだろう。それも限界となれば、より安いところを探すだけ。今よりも人件費が安い国に進出し、必要なモノを必要なだけ調達するようになるのだ。
◆成長求めた競争が貧困を拡大させる
弱者は息も絶え絶えで、強者だけが生き残る。安倍がやるのは、そんな格差拡大の再加速だ。
なにしろ、日本社会に格差を植え付けた悪名高い米国かぶれの竹中平蔵慶大教授を重用し、甘利が仕切る産業競争力会議のメンバーに指名したのだから、センスのなさは救い難い。株高やインフレで、仮にGDPがプラスになったとしても、だれもが思い描く景気回復とは違うのだ。
「グローバル時代は、協調と分かち合いや支え合いが求められる。鍵を握るのは、多様性と包摂性です。自国のことだけを見て、“自分さえよければ”で行動するのは、その対極にある。多様性を無視して成長だけを追い求め、競争力を付けようとすればするほど、包摂性は失われ、貧困が広がっていく。そもそも日本は十分に成長し成熟しているのです。いまさら高い成長は望めません。多様性を認め、包摂性を重視すれば、取るべき政策はおのずと決まる。賃金と金利を上げ、“分配のゆがみ”を正すことです。労働者や年金生活者が、正当な分配を得られるようにする。それが政治の進むべき道です。グローバル時代がなんたるかを理解せず、従来型の国家主義的な姿勢で行動し、多様性も包摂性も認めない安倍政権は、日本を危うくするだけです」(浜矩子氏=前出)
不景気ヅラしたドジョウが退場した途端、大マスコミは一斉に楽観論を流布している。マーケットも悪乗りし、相場は円安株高に振れた。まるで旧自民党の悪政三昧を忘れたかのようである。
民主党政権は確かにひどかった。だが、それを批判して首相に返り咲いた安倍は、KYと呼ばれた世間知らずのボンボンだ。経済の現状を理解しているわけがないし、庶民生活に目を向けることもない。アベノミクスで景気が良くなるなんて、悪いジョークである。