都外からの全日制都立高校受験について、「家族全員で都内に転入」を応募の条件とする都教委のパンフレット
福島の中3 転校余儀なく 都立高受験「両親避難が条件」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013010790070636.html
2013年1月7日 07時06分 東京新聞
福島の仲間たちと一緒に卒業の日を迎えたい−。中学三年の男子生徒(15)のささやかな願いが、断たれようとしている。福島第一原発事故で東京都内に自主避難した母親らと暮らそうと、都立高校の受験を希望したが、都教育委員会に門前払いされた。父親が四月以降も郡山市に残るため、「両親そろった転住を条件とする受験資格を満たさない」という理由だ。母親は「東京へ避難したばかりに、つらい思いをさせている」と嘆く。 (柏崎智子)
男子生徒は、両親と妹(13)の四人家族。一家の暮らす地域は市内でも放射線量が高く、健康被害を心配して一昨年八月、母親(50)は妹を連れ、以前住んだことのある都内へ自主避難した。
母親によると、長男で当時二年生だった男子生徒は、部活熱心で次期部長に選ばれた直後だった。「途中で投げ出せない」と、仕事の都合で郡山に残る自営業の父親(51)と暮らすことを選んだ。
昨秋、進路を考える中で、高校進学のタイミングで東京に行くことを決めた。母親は「地元に行きたい高校があったけれど、妹と仲がよく、大人になっていずれ別々に暮らすまでの貴重な時間を一緒に生活したいと考えたようだ」と話す。
ところが、母親が都教委に問い合わせると、「都外に住む生徒は、両親そろっての一家転住予定でなければ全日制高校を受験できない」と言われた。残された選択肢は、定時制高校を選ぶか、いったん福島県の高校に入ってから都立高へ転学するか、出願までに都内の中学校へ転校するかだった。
友達と一緒の卒業式を区切りに心機一転しようとしていた男子生徒は、とてもがっかりした様子。「卒業文集委員を最後までやりたかった」と、母親にこぼした。事情を知った都内の中学教諭らが都教委に掛け合っても、変わらなかったという。
都道府県外からの受験は、多くの自治体が保護者一人との転入で認め、一家転住を条件に掲げる自治体も「個々に話を聞き、状況に応じて受験を認める」(大阪府教委)と弾力的に運用している。
都教委が一家転住にこだわるのは都内に多い単身赴任者にある。担当者は「その子どもたちも受験できるようにすると、都内の中学生の数を基準にする各高校の募集人数と合わなくなる」と話す。
東日本大震災後、都教委は被災地からの高校生受け入れや、住民票を移さず都内へ避難した中学生の受験には特別な配慮をしている。だが、「中学卒業を機に避難するケースまでは想定していなかった」という。担当者は「生徒にとって厳しい状況だと思う。課題があると認識した」と話した。
母親は「原発事故がなければ東京には来なかったし、兄妹が離れて暮らすこともなかった。子どもたちは健康不安や友達との関係に悩み、苦しみながら決断している。せめて地元で卒業する希望をかなえさせてやりたい」と話した。