JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
迫り来る財政の崖、確実性を切望する米国のCEO
2012年11月19日(Mon) Financial Times
(2012年11月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米議会は危険なほど財政の崖に近づきつつある〔AFPBB News〕
今から6カ月前、筆者が参加した米国のCEO(最高経営責任者)が集まるビジネス・カウンシルの会合で、CEOの見解に関する――議論を呼ぶとは言わないまでも――印象的な調査が公表された。
米国議会が予定されている歳出削減と増税の「財政の崖」に危険なほど近づく中、この調査の結果は再検討されるだけの価値があるだろう。
CEOたちは5月、どの機関が健闘しているか尋ねられた時、自分の会社をリストの最上位に置いた(そう、本当に)。90%の人が、世界的な大企業が近年、経済問題をうまく処理してきたと答えたのだ。
1位は企業、2位は中銀、3位は中国政府という評価
支持する機関のランキングの第2位は各国の中央銀行で、中銀は80%のCEOたちに称賛された。だが、第3位になったのは――米国やユーロ圏の政府、国際通貨基金(IMF)に大差をつけて――中国政府だった。3分の2のCEOが、中国政府は自国の経済問題をうまく処理してきたと考えていた。対照的に、米国議会を評価したのはわずか5%だった。
質問はかなり大雑把なうえ、質問されたCEOが70人しかいなかったため、こうした調査は明らかに割り引いて考える必要がある。だが、ほかのことはさておき、この調査は過去6カ月間で何が変わったのか――もし変わったことがあれば、の話――を問うための興味深い出発点となる。
このCEOたちが今同じ質問をされたら、中国に対する楽観論はもう少し後退しているのではないだろうか。量的緩和の効果が不確かなことを考えると、西側の中央銀行に対する評価も低下した可能性がある。
だが、米国議会あるいは米国政府が以前より高い得点を上げるかどうかは疑問だ。
大統領選が終わったため、ワシントンのムードが少し良くなっているのは確かだ。11月14日には、CEOたちの一団がバラク・オバマ大統領と会談し、財政に関する超党派合意をまとめるよう大統領に要請した。ハネウエルのCEO、デビッド・コート氏は会談の後、「勇気づけられた」と感想を述べた。「CEOたちは、政治家が何か策を講じてくれるという好感触を得た」からだ。
同じCEOたちは今、「Just Fix It(とにかく修復しろ)」(ナイキの標語をもじったもの)のような標語を使った超党派合意を求める広告を出すために4000万ドル相当のロビー活動資金を使って、この機会をさらに生かそうとしている。
だが、議会が問題を「修復する」保証はまだ全くない。それどころか、11月半ばの政治家の発言から判断すると、米国が少なくとも一時的に崖から転落する可能性は十分にある。
そして、どんな合意がまとまるにせよ、恐らくは2段階のプロセスになるだろう。まず、「一時的な」修復(例えば、歳出削減と歳入増加の規模に関する大まかな合意)が行われる。そして、その後、来年半ばになって、ようやく詳細が詰められるだろう。
投資を凍結させかねない2段階のプロセス
市場の目から見ると、こうした2段階の修復はそれほど悪くないように思えるかもしれない。何しろ、米国経済が崖から転げ落ちた場合、あるいは債務水準が法定上限に達した場合に引き起こされるかもしれない混乱は回避される。
また、市場の反応はリアルタイムで追跡するのが非常に容易であるだけに、財務省の官僚たちは、どんな取り決めであれ、確実に債券投資家をなだめられるものになるよう細心の注意を払っている。
だが、CEOたちの雰囲気は観察するのがはるかに難しい。そのため、ジャーナリスト――あるいは政策立案者――から同じ程度の固唾を飲むような注目を集めることはないが、それでもCEOの考えは潜在的に極めて重要だ。1つには微妙なタイミングの問題があるからだ。
多くの企業は今、2013年の投資計画を作成しており、確実性を切に望んでいる。だが、2段階の取り決めになれば、不確実性が2013年いっぱい続く可能性がある。つまり、議会が再び問題をうやむやにすれば、来年の投資計画が凍結される可能性が高いということだ。
企業の投資が今年既に期待外れであることを考えると(第2四半期から第3四半期にかけて投資は1.3%減少した)、これは短期的に経済成長に打撃を与える可能性がある。だが、もっと微妙なリスクもある。財政を巡る瀬戸際戦術が長く続けば続くほど、ますます不信感を煽ることになるのだ。
例えば、ハーバード・ビジネス・スクールは先日、米国の企業経営者の53%が、米国の競争力が3年後に低下していると予想していることを示す調査を公表した。そして、政治の機能不全が競争力低下の主因であるという超党派の合意があった。
米国の競争力低下を予想するCEO
「2012年は、非常にリベラルな回答者の間でさえ、過半数の人が米国の競争力が3年後に低下すると見ている」とハーバード・ビジネス・スクールのジャン・リブキン教授は言う。「彼らは船が以前よりゆっくり沈んでいると考えているが、それでも沈んでいると思っている」
悲観論の中にも潜在的な希望の兆しはある。ワシントンが冷笑家たちの予想を裏切り、財政の取り決めを結ぶことができれば、経済の流れを一変させるものになるかもしれない。どんなものでも確実性の感覚があれば、投資支出の大幅な回復の引き金になる可能性がある。何しろ、直近の調べでは、米国企業は合計で約2兆ドルの余裕資金を持っている。
だが、すぐにこれに賭けてはいけない。「管轄地域で私が話すCEOたちは『うずくまった状態』だ」と、ある地区連銀の総裁は話す。「彼らは凍りついている。守りの姿勢を取っている」
株式投資家が非常に神経質になっているのも無理はない。議会よ、注意した方がいい。
By Gillian Tett
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36573
JBpress>海外>USA [USA]
「保守的白人」の国ではなくなったアメリカ
再選されたオバマ大統領が描く国家の未来像とは
2012年11月19日(Mon) 石 紀美子
今回の米国大統領選挙は、大方の予想に反してあっけなく終わってしまった。
前回、オバマ大統領を選んだ選挙が「希望」に満ちていたのに対し、今回の選挙は「絶望」の中の究極の選択のような雰囲気が漂っていた。
現在、米国はもちろんのこと、ヨーロッパも日本も、悲観に蝕まれている。今回の選挙も、総評としては「内容が薄い」「論点が不明確」とされ、オバマ大統領の再選によって一体なにが変わるのか、というシニカルな見方が蔓延している。
本当にそうなのか?
慢性的な懐疑主義に陥ってしまった自身の視点を変え、新たな気持ちでこの選挙の結果を考えてみた。
そして、オバマ大統領が率いる米国の未来には、やはり「希望」があると感じた。その希望が即座に国民の日常生活を向上させることはないかもしれない。しかし、アメリカンドリームは健在なのだと再認識させられるものだった。
理解し難い米国人の言動
とはいいつつも、選挙運動の期間中は、米国人というものが分からなくなることがよくあった。
例えば、共和党員や支持者からしつこく出た「オバマ大統領ケニアで出生説」である。大統領になる資格の1つに、米国内で生まれた市民でなければならないと憲法に定められている。オバマ大統領がハワイで生まれたというのは嘘で、父親の故郷であるアフリカのケニアで生まれたので、実は大統領になる資格がないという主張である。
ハワイの当局もホワイトハウスも出生証明書を公表したが、「ケニア出生説」の主張者たちは、書類は偽造されたものだと信じなかった。一時は、国民の4分の1が本気で信じ、共和党の大統領候補選では、ほとんどの立候補者たちが「ケニア出生説」を支持していた。
医療保険制度改革問題についても、反対意見を聞きながら幾度もため息が出た。
これまでの民間保険会社ベースの医療保険は、各保険会社の意向が強く、値段も高く、一度大病をすると破産に追い込まれるような理不尽さがあった。それを国民皆保険制度に変え、より多くの病人を救おうという、これ以上ないほど分かりやすい理論は、なぜか米国人には通用しないのである。
多くの人は「国民皆保険は、米国が社会主義に走るきっかけになる」という飛躍も甚だしい理由で反対した。しかも、社会主義が何かという基本的な知識が欠けているにもかかわらず声を大にしていた。
この他、中絶問題を巡る論争や、イスラム教に関するコメント、銃規制や移民法の議論でも、感情的で非論理的なやり取りが繰り広げられた。
世界は本当の米国人を知らない
外国人である我々からは、ともすれば支離滅裂に見受けられる言動が多いと感じるのは、反対に我々が「本当の米国人」を知らないからなのではないか。
米国人がいかに外国人と接しないかという話になると頻繁に取り沙汰される数字が、パスポート所有率である。
公の機関がはっきりとした数字を公表していないため、様々な説が飛び交っている。いずれも米外務省が公表しているパスポート発行数などを基に数字を割り出しているが、これだという分析がないので、単なる目安でしかない。それにしても、だいたい20%前後から、多くても30%だろうと推測されている。しかも海外渡航の半数は、隣のカナダかメキシコが占めている(Office of Travel and Tourism Industries)。
57%の米国人は生まれた州に一生住み続ける。多くは、故郷である町から出ることはない(Pew Research Center)。
反対に、外国人である我々が米国に行くとすれば、だいたい都市部での観光か仕事か留学になる。都市部にはリベラルで進歩的な考え方をする人たちが多く住んでおり、支持政党はたいてい民主党だ。
外国人が仕事や留学で接する米国人は様々だろう。だが、進んで外国人と個人的に親しくしようとする米国人は、実はそんなに多くない。
つまり、外国人である我々が接する米国人の多くは、リベラルかつ進歩的な都市住民である。「平均的な米国人」でないことが多いのである。
選挙の常識が覆された
典型的な米国人を、男性なら「ジョー」、女性なら「ジェーン」と呼ぶ。形容詞は様々で、「平均的ジョー」「ただのジョー」「ビールを半ダース持ったジョー」などで、選挙中もよく聞かれた言葉だ。
平均的なジョーもしくはジェーンは、高卒以下の25歳以上の白人で、中流階級の下の方か、労働者階級の上部に属している。年収はおよそ3万2000ドルで、郊外の持ち家におよそ3人家族で住み、一生に1度以上結婚し、1度以上離婚する。体重は60キロから93キロの間で、銃を所有する権利を信じ、何らかのペットを1匹飼っている。クレジットカードにおよそ7000ドルの借金があり、持ち家の価値はおよそ17万ドルである(米国勢調査局、ケビン・オキーフ、「Time」誌)。
これまでの選挙では、こうした「平均的な米国人」の票を取り込むことが最重要課題だった。ターゲットは保守的な白人労働者である。この層の支持を獲得すれば、当選の確率が高くなるというのが、これまでの常識だった。
それが今回の選挙で覆された。
米国はすでに白人支配の国ではなくなっている。そして、保守的な価値観が主流ではなくなっているのだ。
共和党の最大の敗因は、この点を見誤ったことにある。そして、オバマ大統領の再選に見られる希望とは、この点にある。
「政治家が言うほどこの国は分裂していない」
連邦議員選挙では、記録的な人数のアジア系米国人と、ラテン系米国人が議員に当選した。上院には20人の女性議員が加わった。
新たに3つの州が同性婚を認め、2つの州が大麻を合法化した。これまでタブーだった違法移民の問題も解決しようという気運が高まってきている。
米国は、真の多様性国家にゆっくりと変貌を遂げている。真の意味で個人の自由、自己実現、そして誰もが尊厳を持って生きられる社会を築きつつある。この先も多くの困難があろうが、オバマ大統領と一緒に、米国は進むべき方向と新しい未来像を見いだそうとしているのである。
再選後、初めてのスピーチでオバマ大統領は国民に熱く語りかけた。
「君が黒人であろうが白人であろうが、ヒスパニックでもアジア系でもアメリカ先住民でも、若くても年取っていても、金持ちでも貧しくても、健常者でも体が不自由でも、同性愛でも異性愛でも、努力をする気持ちさえあれば、ここアメリカでは成功できるのです。
私はそんな未来をあなたたちと一緒に実現できると信じています。なぜなら政治家が言うほど、この国は分裂していません。評論家が言うほど、我々はシニカルではありません。我々は、個人的な野心よりも大きな目的を持ち、支持政党の違いに関係なく団結するのです。それが真のアメリカ合衆国の姿なのです」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36558