連邦準備銀行は経済を助ける路線を変更したけれど,その一方でロムニー陣営はいっそうの極論に振れてしまった.
先週,連銀議長ベン・バーナンキは連銀による対不況戦略を変更すると発言した.そうすることで,彼は「連銀はもっとやれるし,やるべき だ」という批判の声に応えたようだ.で,共和党はキレてる.
さて,右派の多くは長らくある妄想にとりつかれている.すぐにもインフレが暴走し出すっていう妄想だ.ミット・ロムニーまでやすやすとその仲 間に加わったのにはびっくりしたね.
で,バーナンキ氏はなにを発言したんだろう? それに,その理由は?
通常,連銀は経済が低調なときにはアメリカの短期政府債を銀行から買い入れる.すると,銀行の準備金が増える.銀行はさらなる貸し 出しに乗り出す.で,経済は元気になるって寸法.
残念ながら,消費者債務の巨額負担を残したこの金融危機の規模は大きく,経済の不況はあまりにも深刻になってしまった.そのため, 通常の金融政策の経路は機能しない.連銀は銀行準備金を積み上げられるけれど,その銀行には貸し出すインセンティブがほとんどない.な にしろ,短期金利はほぼゼロにちかいからね.すると,準備金はただ積み上がるだけでおわっちゃう.
この問題に対して,連銀はこれまで「量的緩和」で対応してきた.誤解しやすい用語だけど,ようするに財務省短期証券以外の資産(長 期アメリカ国債とか)を購入するって意味だ.こうした購入によって借り入れコストが下がり,伝統的な金融政策がその限界に達してもなお経済 が後押しされるのが期待されていた.
もちろん,先週の連銀発表にはさらなる量的緩和も含まれていた.今度は不動産担保証券にも手を出すとか.でも,大ニュースだったのは こっちの方だ:連銀の発表によれば,「景気回復がたしかなものとなった後もかなりの期間にわたって非常に緩和的なスタンスが引き続きふさわし いものとなる」とのこと.かんたんな英語で言うと,連銀はだいたいこんなことを約束してる――経済が調子よさげになってきても連銀は金利をすぐ には引き上げださないよ,経済が過熱しだしても,さらには(ひょっとすると)インフレがかなり高くなっても金利を低く抑えたままにしておくよって.
要点はこうだ:経済の奔流をしばらく放置する意志があると示すことによって,連銀は民間部門の支出をいますぐうながすことができる.イン フレがそこそこ高くなると債務の支払いが楽になる.インフレが高くなるという見通しがつけば,潜在的に住宅を買いたいなと思ってる人たちは,購 入を後押しされる.企業は将来の売り上げが伸びるという見込みに後押しされる.株価は上昇して財産は増え,ドルが下落してアメリカの輸 出は競争力が強まる.
これこそ,連銀を批判してきた人たちが主張してきた対策だ――そして,バーナンキ氏自身も連銀議長になる前はこれを主張していた.たし かに,批判側が望んでいるほどはっきりと言葉にしてはいない.それでも,歓迎すべき一手だ.もっとも,いまの経済の問題すべて片付ける万能 薬にはほど遠いけどね(これもかつてバーナンキ氏みずからが強調してた点).
さて,さっき言ったように共和党はキレてる.ロムニー氏もその怒りの輪に加わってる.ロムニーの選挙陣営は,ニュースリリースを公表して連 銀による今度の動きは経済に「人工的な」後押しを加えるものだと非難した――のちに彼はこれを「シュガー・ハイ」とも述べている.で,そのニュ ースリリースによれば,「我々は富を創出すべきなのであって,ドルを刷るべきなのではない」んですって.
ロムニー氏の言葉には1930年代の「清算主義者」の言葉がこだましている.清算主義者たちは,大恐慌を和らげるための対策にはなんだ って反対した.最近まで,清算主義への評価は明快に思えていた:つまり,清算主義を拒否しあざ笑っていたのはリベラルとケインズ主義者たち だけでなく保守派もそうしていた.ミルトン・フリードマンだってそうだったんだ.「積極的な金融政策は不況の深みを減らすことができる」と発言した のは2004年の大統領経済報告でのジョージ・W・ブッシュ政権だ.それどころか,この報告の著者であるハーバードのN・グレゴリー・マンキュー は,先週発表されたのよりもっと積極的な連銀の政策を提唱している.
さて,そのマンキュー氏はロムニーの助言役だとされている――でも,ロムニー候補の経済政策観は明らかに過激論者たちに支配されてい る.その連中は,この不況を片付けようとするどんな対策も,アメリカをジンバブエにしてしまうぞ,いいかジンバブエだぞ,なんて警告してる.
「そうなん? じゃあロムニー氏のいう「富を創出する」とかってアイディアはどうなのよ」 ロムニーの経済「プラン」は実際に打つべき手についてな んにも具体的なことを提示していない.ただ,その主眼はこうだ――アメリカが必要としているのは環境保護をゆるめお金持ちに減税することであ る.わあびっくりだ.
それどころか,ルーズベルト協会のマイク・コンツァルの指摘によると,2012年のロムニー・プランは2008年のジョン・マケインのプランとほぼ同 一でしかも言い回しまで同じだそうだ.2004年と2006年のジョージ・W・ブッシュによるプランとそっくりなのは言うまでもない.状況は変わったの に昔の歌をいまも歌ってるわけよ.
さて,先週,バーナンキは道理のわかった批判者に耳を傾け路線を変更する意志をもちあわせてるのがわかった.でも,それと同時に,外 交政策と並んで経済政策に関してもミット・ロムニーは穏健派の姿勢を放棄して右派の知的伝染性貧血症の患者になったこともわかってしま った.
(Paul Krugman, “Hating on Ben Bernanke,” New York Times, September 16, 2012)
http://econdays.net/?p=7097
クルーグマン「妨害して政治的優位を稼ぐ」(NYT,2012年9月9日)
共和党のシニカルな戦略:「経済を強化するどんな試みも妨害し,経済の低調さを自分の優位に利用せよ.」
「米国雇用法」って覚えてるかな? 1年前,オバマ大統領は経済の推進剤として減税と支出増加を組み合わせていくことを提案した.そ の狙いは,とくに州・地方の政府による雇用を維持することにあった.たとえば,コンサル企業の「マクロエコノミック・アドバイザーズ」の推計によれ ば,同法案は2012年の暮れまでに130万の雇用を追加するだろうとされていた.
こういう肯定的な推計がでてくるのにも,もっともな理由があった.政治談義をみていてもわからないけれど,2008年の金融危機後の世界 の経験からして,支出の一時的な増加は不況下で雇用を促進することは(それに,支出削減は失業率を上げることも)圧倒的に立証されて いる.雇用法こそ,お医者様の処方薬だったわけだ.
ところが,ご存じのようにこの法案はどうにも通らなかった.議会の共和党に阻止されたからだ.その彼らはと言えば,オバマ氏が政策を実施 するのをさんざん邪魔しておきながら,雇用の数字ががっかりな有様なのを指して大統領の政策が失敗したんだと言い立てている.
これを二方面戦略とみてみよう.第一に,経済を強化するどんな試みも邪魔し,その経済の弱体ぶりを利用して政治的優位に立つって 戦略だ.これがシニカルっぽく聞こえるとしたら,その理由は現にシニカルだからだ.でも,これは11月に共和党が勝利を狙うのにいちばん見込み のある戦略ではある.
だけど,共和党はほんとにそんなシニカルな手を打ってるの?
ホンキの経済政策論争が展開されるんだと言いたければ,まあ言えなくもない.オバマ大統領の提案はどれもこれも雇用創出を助けるどこ ろかダメにするんだと共和党が心から信じている論争がなされてるという説もありえなくもない.だけど,それが事実だとしても,いまのぼくらをとりま く経済状況は大統領が望んでいた政策を反映しちゃいないんだよ.
ともあれ,共和党はほんとに政府支出が経済にわるいことだって信じちゃってるのかな? ぜんぜん.
目下,ミット・ロムニーは宣伝の電撃作戦を行っている.オバマ氏が防衛予算を削減する可能性があると 宣伝をうって攻撃してる――ちなみに,その削減は,昨年に議会の共和党が大統領に無理強いした合意によって命じられたものだったりする. じゃあ,どうしてロムニー氏はそうした削減を非難してるの? なぜって,彼に言わせると,この削減は雇用と引き替えになされるんだって.
これは古典的な「武装したケインズ主義」だ――この主張によれば,政府支出が雇用を生み出せるのは軍事企業にお金が流れたときにか ぎられる.もし本当なら軍事企業は経済の活力源だってことになる.でも,いやいや,そんなの理屈が通らない.
しょっちゅう耳にする説で,オバマ氏はずっと前に経済を修復しておくべきだったってのはどうだろう? この説によると,こんな具合:就任して最 初の2年のあいだに,オバマ氏は議会で多数派を固めていたのだから,なんだって望み通りのことをやれたはずで,彼には好機があったんだ ――
簡潔にお答えすると,「ご冗談でしょう」だね.
注意を払ってる人なら誰だって知ってるように,民主党が上下両院を掌握していた期間は,上院での前例のない妨害に遭っていた期間だ .昔ならごく稀な場合にのみとっておかれていたフィリバスター[議事妨害]が,このときはふつうの作戦に使われていた.事実上,60票がなくては なんにも議会を通せない事態になっていた.民主党はほんの数ヶ月の間しか60票をもっていなかった.そんな短期間に民主党は大々的な新 経済プログラムを通すようがんばっておくべきだったっていうんだろうか? いまとなっては,実際そうだった――でも,だからって,オバマ氏の就任期間 の大半にわたってアメリカの財政政策は大統領のプランではなく共和党の議事妨害によって決まっていたという現実に変わりはない.
ぼくに言わせれば,この議事妨害のもたらしたいろんな帰結のなかでも最重要なのは,州・地方政府が大いに必要としている援助の拡大 をやりそこねたことだ.そうした援助がなかったために,州・地方の政府は何十万という教員その他の労働者をクビにせざるをえなくなった.そして, こうしたレイオフこそ,雇用の数字をこうもざんねんなものにしてしまった大きな要因だ.オバマ氏が就任して1年後に景気は底を打った.それ以 来,民間部門の雇用は460万件増えた.他 方で,通常なら人口増加と歩調を合わせて増加する政府雇用は,むしろ57万1,000件も減少している.
こう言い換えてみようか:共和党が議会を掌握したとき,彼らはみずからの経済哲学は「削除して成長を」だと宣言した――政府を切り詰 めれば経済は繁栄すると言いはなった.で,その焦土戦術によって,彼らの望んだとおりの削減が行われることになった.ところが,もたらされると された経済成長はいっこうに実現していない――で,共和党はその失敗をオバマ氏のせいにしたがっている.
さて,こうした経緯でホワイトハウスはきびしい苦境に立たされている.共和党が妨害しやがるんだと大騒ぎしてみたところで,そんなのは泣き 言だと言われてしまう.でも,共和党が妨害してるのは事実だし,おそらく,目下の経済の低調さを説明する単一にして最大の理由だと言って いい.
この妨害して政治的優位をかせぐ戦略が成功したらどうなるだろう? これがこれからの政治のありようなんだろうか? そうだとしたら,アメリカ は統治不可能なバナナ共和国になり果てる道のりを大きく前進してしまったことになるね.
(Paul Krugman, “Obstruct and Exploit,” New York Times, September 9, 2012)
http://econdays.net/?p=7079
「ヴィクセルが中国に行く」by Paul Krugman
以下の文は、Paul Krugman,”Wicksell Goes To China“の翻訳になります。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。
我々アメリカ人は中国の手中にあるという考え――中国人がアメリカ国債を買うのを止めれば、恐ろしいことが起こる――がすごく幅を利かせている。 だが、それはまったくの間違いだ。
こんな風に考えてほしい:中国人が米国債を買うのを止めれば、利子率が急騰するという主張は、アメリカ政府がもっと国債を売りに出せ ば、利子率が急騰するという主張と同じことだ。覚えているか分からないが、実際にその問題は3年以上前に激しい論争になっていた――その後の成り行きはご存知の通り。
また、これをヴィクセル 的な観点から考えることもできる:現在の我々の状況では、先天的な貯蓄の供給――完全雇用の時に人々が貯蓄する量――が先天的な投 資の需要を上回っている。そして、この過剰貯蓄が経済を落ち込ませている。
中国が米国債を買うと、この過剰貯蓄がさらに増える――それは我々の状況を悪化させる(これを言い替えると、中国の人為的な貿易黒 字はアメリカ経済に損害を与えている――同じことを別の表現で言っているだけ)。そして、我々は過剰貯蓄が小さくなってほしい。つまり、彼らが 米国債の購入をストップすることは恐ろしいものであるどころか、我々はその見込みを歓迎すべきなんだ。
この点には論争の余地すらない――概して、コメンテーターたちは中国恐怖症が間違っているかもしれないと気づいてさえいないわけだが。
http://econdays.net/?p=7072
クルーグマン「iPhone 経済刺激」(NYT,2012年9月13日)
最新 iPhone の売り上げが経済の助けになると思ってる人は,政府が乗り出してもっと手を打つのに賛成してることになる.
キミやキミの知り合いはガジェットオタかな.だったら,きっと水曜が iPhone 5 の発表日だったのは知ってるよね.同席してる相手と話したり ,さらには目を向けるのさえ避ける最新の方法をアップルが披露した日だった.
で,この新しいスマホはアップルが言うようにぶったまげるほどすごいしろものなのかな.おおっと,デヴィッド・ポーグみたいな話 は遠慮しとくからね.そうじゃなくて,ぼくが興味あるのは,iPhone 5 の発表がアメリカ経済に大きな推進剤になるかもしれないって話の方 だ.次の四半期または半年にわたってあれが経済成長をそこそこ加速するとかっていうやつ.
これがありそうなことだと思った読者にちょっとお知らせ:そう思ったなら,自覚があろうとなかろうとキミはケインジアンだ――暗黙のうちに,政府 は不況下の経済で支出を減らすんじゃなく増やすべきだって主張を受け入れてることになる.
そのあたりを話す前に,この iPhone が経済成長を推進するとかいう話の出所についてお話ししよう.
JPモルガンから最 近でた研究ノートでは,新しい iPhone は2012年の最終四半期に 0.25 から 0.5 パーセントポイントほど GDP 成長を増やすかもしれ ないと論じている.どうやって? 第一に,そのレポートによればアップルは短期間でたくさんのスマホを売りあげる見込みが高い.第二に,それによ ると iPhone は海外で製造されていて,みんなが購入時に払う価格の大半は国内で価値を付加されている――小売り・卸売り・広告・利益, これらすべては GDP の一部に数え入れられる.最後に,そのレポートは1台当たりの価格と販売数の見込みを取り上げて,それをもとに GDP への影響を推計してる.
実に単純な話だ.でも,そこにある含意は世間の大半が思ってるのより広くにおよぶ.
ここで決定的に大事な点は,新 iPhone がもたらすこういう短期の便益は,その端末としてのよしあしと何の関係もないってこと――買った 人の生活がどれだけよくなるとか,彼らの生産性がどれだけあがるか,なんてこととはちっとも関係がない.そうした効果はもっと長い時間をかけて やっと出てくる.そうじゃなくて,iPhone 5 が経済をすぐさま加速するだろうとJPモルガンが考えてる理由は,ひとえに iPhone 5 がみんなにもっと 支出するよううながすからに他ならない.
で,もっと支出することで経済が加速すると信じるには,供給じゃなくて需要が経済停滞の要因だってことを信じなくちゃいけない――さっき の話を信じた人はそう考えていてしかるべきなんだ.いまアメリカの失業率が高いのは,べつにアメリカ人が「はたらきたくないでござる」と言ってるか らじゃないし,労働者にしかるべきスキルが欠けているからでもない.そうじゃなくて,働く意欲もあるしスキルももってる労働者が仕事をみつけられ ないのは,雇用主が彼らを雇えるようになるほどモノを売れてないからだ.これを解決するには,全体の支出を増やして国民が仕事に就けるよう にする方法をみつけることだ.
じゃあ,支出の増加はどこから生じる? 企業は大量の現金を抱えていながらも,だいたいのところ,投資をたくさんやる理由をほとんど見い だせずにいる.既存の生産能力をフル活用するほどの売り上げもないのに,誰が生産能力の拡充をはかったりするね? で,企業がたくさん支 出をしていないので,所得は低くなる.それで消費者たちの需要も低くなり,売り上げ低迷もえんえんと続くはめになってる.
でも,景気低迷はいつか終わる.政府の政策でこの罠から経済を抜け出させなくても終わる.なんで? その昔,ジョン・メイナード・ケインズ はその答えは「使用・老朽化・陳腐化」にあると主張した:つまり,たとえ不況下 の経済であっても,どこかの時点で企業は設備を入れ替え始める.その理由は,既存の設備がくたびれちゃったからかもしれないし,もっといい のが登場したからかもしれない.さて,そうやって設備の入れ替えが始まると,経済は活況を呈しだす.ご明察のとおり,それこそいまアップルがや ってることだ.アップルは陳腐化をもたらしているわけですな.よしよし.
でも,なんでわざわざ数年にわたって生産の低迷と高失業率を堪え忍んで陳腐化が十分に進むのを待つ必要がある? 政府には全体の 支出を増やすことなんてできないとか,政府支出は雇用を創出できないとか,言わないでね.iPhone 5 に経済をちょっと持ち上げることができ ると信じてるなら,キミはすでに次の2つとも是認してることになる――経済の全体の支出額は固定した数字じゃないってこと,そして,さらなる支 出こそぼくらが必要としてるものだってこと.そして,この支出が民間のものでなくちゃいけない理由なんて1つもない.
ところが,苦境にある経済を支えるのに公共支出を使うどころか,ぼくらの政治体制は――共和党の妨害と誇張された赤字の恐怖とイデオ ロギーのそろい踏みに後押しされて――この不況を悪化させる方に手を打ってきた.そうね,たしかに失業手当やフードスタンプは増えてる.これ ほどまでに困窮する人たちが増えちゃってるからだ.他方で,公共投資の落ち込みとともに政府雇用も落ち込んでいる.
さて,こういう事情はありながらも,やがては景気も回復する.時間が経てば入れ替えの必要な設備は増えてくるし,支出をうながす iPhone みたいなイノベーションもあれこれ登場するだろうから,長期的にはぼくらはこの経済の罠から脱出する.でも,さっきのと別の文脈でケイ ンズが指摘したのでよく知られているように,長期的にはぼくらはみんな死んでる.ぼく自身の言葉をもちだすなら,「さっさと不況を終わらせちゃど うだね?」
(Paul Krugman, “ The iPhone Stimulus,” New York Times, September 13, 2012)
クルーグマン「割れ窓と iPhone 5」(ブログ,2012年9月11日)
このところにぎやかに取り上げられてるレポートがある. iPhone 5 は,それ単体でアメリカ経済の大きな起爆剤になれるって話だ.売り上げ見込みがどれくらい妥当なものなのか,ぼくには判断できな いけれど,1つ指摘しておいてよさそうだ――この起爆剤がどうのって話の経済学的な論理が,もっと大きな構図にどう関連しているのかってことを ね.
鍵となるポイントは,iPhone がもたらす影響に関する楽観論はこのスマホがもってるとされる品質とまったく(あるいは,大して)関係がないし ,どのようにして iPhone がぼくらをもっと幸せにするとか生産的にするとかってこととも関係がないってこと.そうじゃなく,すぐさま利得が生じるのは ,この新しいスマホによってみんなが古いスマホをゴミに出して取り替えることによる.
言い換えると,iPhone がほんとに経済の大きな起爆剤になるかもしれないと信じてるなら,みんなは――そうと知ってであろうとなかろうと― ―「割れ窓」理論の一バージョンを採用していることになる.この理論によれば,古い資本を破壊するのは不況下の状況では実際にいいことに なる.
もちろん,古い資本をおしゃかにする理由が「よりよいものに入れ替えるため」であって「たんに壊すため」でないのはけっこうなことだ.でも,同 じくけっこうなことがあるけど,わかるかな? インフラみたいなものを建設して,それがなければ用なしだった労働力とキャッシュを活用することだよ .
(Paul Krugman, “Broken Windows and the iPhone 5,” The Conscience of a Liberal, September 11, 2012, 8:03 am)
クルーグマン「経済の面倒ごとを片付ける」(NYT,2012年9月6日)
民主党全米大会でビル・クリントンがやった演説は見事だった.すごいマジメな難しい話(こういう大会の演説であれほど政策の細かいこと まで盛り込んだのって聞いたことある?)に,心に残る機知のひらめきが組み合わさっていた.そういう機知のなかでもいちばんよかったのは,たぶ んオバマ大統領再選を否定する共和党の主張を皮肉まじりにまとめたところだろう:「我々はオバマに面倒ごとをそっくりそのまま残しておいた.そ の片付けは十分すばやくできていない.そこで,オバマはクビにして我々をふたたび政権に戻そうじゃないか」
冴えてるねえ.でも,面倒ごとはほんとに片付いてきてるの?
ぼくに言わせると,答えは「イエス」.この先4年は,ここ4年よりもずっとマシになりそうだ――ただし,見当違いな政策でまた面倒ごとがおきな きゃの話だけど.
とは言っても,過去について言い訳をしたいわけじゃない.あるべき姿とくらべて,雇用の増加はのろかったし,失業率はずっと高い.オバマ氏 が引き継いだ面倒ごとを考慮に入れても,こうならなくてすんだはずだった.この話はまた後ほど.それより,まずは達成されたことに目を向けてみ ようか.
2009年の就任式の日,アメリカ経済は3つの主要な問題に直面していた.第一の問題,そしていちばん切迫してた問題は,金融システム の危機だった.これにより,信用の決定的に重要な経路がたくさん凍結してしまっていた.事実上,大恐慌をもたらした銀行取り付け騒ぎの21 世紀版に苦しんでいたんだ.第二に,経済は巨大な住宅バブルの崩壊から大打撃をくらっていた.第三に,高水準の家計債務によって,消費 者支出が冷え込んでしまっていた.その家計債務の多くはブッシュ時代のバブル中に積み上がっていたやつだ.
この3つの問題のうち,第一の問題は迅速に解決された.連銀による多大な努力のおかげもあるし,もちろん,あれだけ悪口を言われた銀 行救済のおかげもある.2009年の暮れには,金融の切迫度合いはだいたい平常にもどった.
でも,こうして金融が正常化したからって,頑健な景気回復がもたらされたわけじゃない.急速な回復は,たいてい決まって住宅ブームが先 導する――ところが,バブル中におきた住宅の建てすぎぶりからして,そんなことは起きそうになかった.一方,家計はどうにかして債務を返済しよ うとつとめていた(あるいは,債権者にそうせき立てられていた).返済にいそしめばそれだけ,需要は停滞することになった.こうして,たしかに経済 の自由落下は食い止められたけれど,景気回復は相変わらず低調だった.
さて,いまガッカリな景気回復のあらすじを語った際に,先週フロリダ州タンパで共和党が語ったようなことはいっさい登場してこなかったのに 気づいた読者もいるだろう――高税率と規制の効果だの,オバマ氏が「雇用創出者たち」に惜しみない称賛を送り損ねたことで生じたとかいう 安心感の欠如だの(ぼくはこれを「あの野郎オレをコケにしてやがる」理論と呼んでる),そういうことには言及していない.なんで省いたのさ? それ はね,経済を弱らせている原因について共和党が立ててる説には,ひとかけらも証拠がないからだよ.しかもその一方で,大部分は家計債務の 超過による需要不足が現実問題だっていう見解には強固な証拠がある.
ここでよいお知らせ:経済の足を引っ張っていた要因は,どうやらこの先数年で消え去りそうだ.住宅建設の着工数は,この数年にわたって きわめて少なかった.だから,バブル期に生じた建設の突出した超過も,過去のことになっている――それに,住宅建設の回復はすでに始まって いるように見える.家計債務はいまだに歴史的な高水準にあるけれど,対GDP比でみた債務は,ピーク時からずっと低くなっている.これで,もっ と力強い消費支出がはじまるのが期待できそうだ.
企業投資についてはどうだろう? 実は,2009年終盤から投資は急速に回復してきている.あらゆる面から見て,自分たちの製品への需要 が高まるのをみて企業が投資を増やしていくと期待できる.
というわけで,さっき言ったように大きな失敗をやらかさなければ,この先4年はここ4年よりずっとマシなものになるだろう.
それってつまり,アメリカの経済政策はいい仕事をしたってこと? いんや,ぜんぜん.
ビル・クリントンは,オバマ氏が就任して直面した問題に触れて,こう発言した.「次々に見つかった破損をたった4年で完全に修理しつくすこ とは,誰にもできなかったでしょう」 彼が債務負担のことを言ってたんなら,大いに正しい.でも,それなら家計が債務返済にあえいでいる苦しみ を緩和する強力な政策を打つべきだったし,債務を減らす政策も必要だった――なにより,住宅の価値ががっくり下がってしまった住宅所有者 たちの救済策を打つべきだった.
実際になされた政策は,とうてい妥当なんて言えるものじゃなかった.とりわけ,債務免除には失敗したね――しかも,そうなった理由の大部 分は,オバマ政権がこれを真剣にとらえなかったからだと言える.
ただ,そうは言っても,オバマ氏はたしかにいろんな政策をやり遂げている――自動車産業救済や再生法といった政策がなければ,不況は いま以上にひどい有様になっていただろう.救済策についてはミット・ロムニーが史実をねじまげようとしているけれど,実際には,共和党は〔自動 車産業と銀行の〕どちらの救済策に対してもえげつない反対をした.オバマ大統領の提案ならなんだってそうやって反対してきたんだ.
というわけで,ビル・クリントンは基本的に正しいことを言ってる:自分の政権下でアメリカが苦しんできた痛みについては,オバマ氏はこの国が 難局を切り抜ける助けをしてきたと公明正大に主張できる.そして,いまその難局からアメリカはようやく抜け出しつつある.
(Paul Krugman, “Cleaning Up the Economy,” New York Times, September 6, 2012)
クルーグマン「ビル・クリントンと構造的失業」(ブログエントリ,2012年9月6日)
ビル・クリントンには困ったもんだ.彼のおかげで,ぼくの定番のジョークが台無しだ.つまりね,経済について話をするとき,これまでぼくはよくこ う言ってきた.「他の評論家連中とぼくはちがった物の見方をするよ,なんたってぼくにはたいていの政治レポーターが持ち合わせてないものがある からね――たとえば,そう,算数とか」 このネタは,もう使えそうにない.大物からネタをパクったと言われてしまうもの.
まじめな話,すごい演説だった.クリントンは政治家としての才能にすぐれているだけじゃない.彼は込み入っためんどい話を説得力ゆたかに 人に飲み込ませる才能ももってる.もちろん,クリントンには相手側の通称「政策通」どもに対して大きな優位点があった(ぼくはいまだにライアン の自壊には首をひねってる).その優位点とは,みなさんよくご存じのように,事実はリベラルよりのバイアスがかかるという優位点だ.
でも――どうせここで「でも」がくると思ってたでしょ――クリントンは1つ間違いを冒した.長年にわたってずっと間違い続けてる点だ.彼はアメリカには構造的失業の大問題があるという考えのとりこになっているんだ:
もちろん,新しい雇用はたくさん必要です.ですが,すでに300万以上もの雇用が空席なままになっているのです.それというのも,主として,そう した求職に応募する人たちが必要な技能を持ち合わせていないためなのです.
クリントンは長年にわたってこういうことを言っている.でも,これは事実じゃない――共和党よりの経済学者ですら,これには同意する .
大会の文脈でなら,これは重大じゃない.だけど,再選されたときには,オバマにはぜひともこの構造論の罠にはまらないでほしいと願うね.
(Paul Krugman, “Bill Clinton And Structural Unemployment,” The Conscience of a Liberal, September 6, 2012, 8:41 AM)
http://econdays.net/?p=7063
クルーグマン「金融政策 vs. 財政政策,再説」(ブログ,2012年9月1日)
このブログにコメントをつけてるみなさんから繰り返し寄せられている不満の声に,こういうのがある.こうもどっぷり不況にはまってる経済への 対策として金融政策 vs 財政政策のちがいをぼくがどうとらえているのか,よくわからん,という声だ.あるときはゼロ下限では金融政策は効果的 でないと言ったかと思えば,またべつのときにはベン・バーナンキはまだまだできることをやってないとうるさく言ってる.どっちなんだよ,というわけね.
でも,これは別に矛盾じゃない.マイク・ウッドフォードの最新ペーパー をみてもらうと――とくに,昨年のケンブリッジ・ケインズ・カンファレンスでの彼のペーパーと 併読してもらうと――そのあたりはすべて解説されている.
マイクが実証しているのは,流動性の罠を懸念してる人たちが長きにわたって――ぼくの1998年の文章以来――言い続けてきた論点だ. いまの金融政策はたしかに流動性の罠において効果的じゃない.でも,中央銀行ができることの射程はまだある.経済がゼロ下限に直面しなく なった将来においても金融政策をゆるめたままにしておくと信頼できるコミットメントをとるかたちで対策を打てる.
そこで問題となるのは,そういう信頼できるコミットメントをとる方法だ.実のところ,これは2段階の問題となっている.まず,経済が流動性の 罠から抜け出たとたんに通常の政策(標準的なテイラールールとか)に復帰することはないというシグナルを送るのはいい考えだってことを,中央 銀行に納得させなくちゃいけない.その次に,危機が過ぎ去ったとたんに中央銀行がもとにもどることはホントにないんだと民間部門に信じさせな くちゃいけない.
2008年暮れから2009年序盤あたりのぼくの判断では,この2段階を突破するには時間がかかるだろうと考えていた.事実,マイクのペーパ ーが明快に述べているように,ミニ大恐慌に突入して4年たっても連銀はいまだに第一段階に向かってジリジリ進んでいるような有様だ.そうして いる間に,不況はすでにぼくらに襲いかかっている.
財政政策はどうだろう? マイクが昨年のペーパーで指摘しているように,流動性の罠において財政刺激を打つのには,べつに危機が過ぎ 去ったとたんに自分が行動を変える[ことはない]と市場に信じさせる必要はない.財政刺激はまったく期待に左右されないからだ.政府が乗り 出して雇用をつくりだす,ただそれだけ.だから,不況に主な速攻の対策として財政刺激をうつと主張するのは,大いに理にかなったことなんだ.
でも,財政刺激だって政治的には通りにくいんじゃない? ごもっとも――ただ,いくらかは財政刺激を打ったし,おそらくいまの経済の痛手を 和らげるのに大きな効果は上げているだろう.また,共和党の焦土戦術による反対がなかったら,もっと財政刺激をできたはずだ.そして,これは 経済分析の問題じゃあない.
じゃあ,財政政策と金融政策の両方が不十分な現状で,善意の経済学者はなにをすべきなの? 答えは,その両方の戦線でキャンペー ンを展開すること.緊縮は間違ってるし連銀はもっとインフレが進んでも金利を上げない意志をもってるとシグナルを送り始める必要があるってこ とを,有力なプレイヤーたちに納得させる努力をすることだ.
で,ぼくもだいたいそんなことをやってるのよ.
(Paul Krugman, “Monetary Versus Fiscal Policy, Revisited,” The Conscience of a Liberal, September 1, 2012, 1:19 PM)
http://econdays.net/?p=7083
クルーグマンのNGDP目標に関するコメントについて by Scott Sumner
サムナーブログから、“Krugman on NGDP targeting”(7. June 2012)。引用されているクルーグマン部分は、本サイトのOptical_frogさんの翻訳をまるっと写しました。
以下はBritmouseさんが教えてくれたクルーグマンのインタビューの抜粋だ。すべて実に面白い。
財政政策 vs. 金融政策の論争では,イングランド銀行にはもっとお金を刷れという圧力がずいぶんかかってい ましたね.「Xの分量をやればXの分量のリターンがある,そしてそれが我々のやるべきことだ」と言えるような証拠はあると思いますか?
証拠は実に弱いね.中央銀行のバランスシートを拡大したり,伝統的には購入しなかった資産にまで手を広げるだけで経済に多大な効 果が及ぼせるという証拠は薄い.なんとも疑わしい話だし,根拠薄弱な話であって,何事かはあるのかもしれないけれど,すすんで依拠できるよ うなもんじゃあないね.どうやら理解できることは,大規模な金融緩和 (QE) プログラムがアナウンスされると,期待に大きな影響がでるってこと. とくにインフレ期待には大きな影響がでる.これこそ,単純なモデルにおいて,いまのような状況でテコ[レバレッジ]を手にできる方法なんだ.連銀 が QE2 プログラムを開始したとき,金利の構造という観点では大きな変化が生じてる証拠はあんまり挙がらなかった.でも,インフレ期待は大き く上昇して,そのあとまた下げ戻した.おそらく,QE は中央銀行がトリガーを引いて金利を上げ始める意欲はとくにありませんよと伝えるシグナル の役目を果たしている.金融緩和は,表面的な経路じゃなくて,期待の経路をとおして作用してるんだ.ただ,ここでも手に入れられるのはそれ 相応のものだけだ.ぼくの考えはいまでも変わってなくて,財政刺激を主要ツールにして,金融政策でこれを支援するのが賢明な政策だと思って る.どうしても財政刺激が使えないときには,QE をやって幸運を祈ろうじゃないの.
名目GDP目標についてはいかがです? イングランド銀行の責務の変化を支持されますか?
小さな懸念はもってる.つまり,もっと長い目で見て,NGDP を採用したとき,潜在生産性成長の伸びが加速した場合には自動的に暗黙 のインフレ目標は下がっていくことになる.そんなことを本当に望むのかってこと.だから,長い目で見てこれがいい枠組みかどうかは不明だね.こ れを支持していろんな人が展開してる論証では,言葉で多くを語ることなく将来のインフレに対して信用できるコミットメントをつくりだす方法なん だと言われる.そこでぼくとしてはこう思う.それで誰でもごまかせる――あの[金融政策にきびしいリバタリアンの]ロン・ポールをやりすごせる――と 思っているなら,それは都合良く自分をごまかしてる.NGDP に関しては,ぼくはこれといって強固な意見があるわけじゃない――ただ,これが特 効薬だっていう考えは間違っていると思う.でも,NGDP ならもっと積極的な金融政策を推せるんなら,結構なことだよ.
単にイングランド銀行の政策インフレ率を上げるというのは?
全面的に賛成.2パーセントインフレのかわりに4パーセントインフレにするミクロのコストは,ぼくらの知るかぎり些細なもんだよ.4パーセントイ ンフレはロナルド・レーガンの第二期に起きてるけど,これといって大問題は起きたように見えない.2パーセント目標が標準になったのは,どういう わけだろうね? ゼロ下限問題[金利はゼロ以下にできないのに経済がさらに刺激を必要としている場合があること]を,みんなは気にしないのか な.それに,2001年/2002年になされた連銀その他による多くの研究があって,それによると,2パーセント目標にしているかぎりゼロ下限にあ らがうのはきわめて見込みが薄いそうだ.このことはわかったばかりだ.実は,4パーセントの方がずっと意味があるんだ.これは予想に関わるものと して意味をなす.つまり,少なくともインフレ予想を引き上げるし,いま長引いてるような状況に対するもっと厚い緩衝材にもなる――ぼくはこの路 線を1998年からずっと主張してるんだけどね.ただ,クレイジーな荒くれ者どもの方が標準的な教科書を信奉していて,聡明そうな連中の方が ありとあらゆる理由をひねり出して教科書が「やるべき」と言ってることをすべきと主張してるっていうのがいまの状況なんだよね.
イングランド銀行は連銀のように雇用に関する責務をもつべきでしょうか?
「インフレ率を安定させることは同時に持続可能な完全雇用を目指すことにもなる」という考え方をするとなると,長期的なフィリップ曲線は 垂直だっていう信念〔インフレ率がどうだろうと失業率は一定になるという信念〕に依拠することになる.いまや,そうはならないっていうすごく強固な 証拠が固まってきてる――安定したインフレがある一方で永続的に低調な雇用が両立しうるっていう証拠がね.ぼくが恐れているのは,経済が その能力のはるか下で回っている最中に,中銀が「ふむ,インフレ率は安定しておりますから,我々はきっちり仕事をしておりますぞ」と言い出す ような状況になりはしないかってこと.
彼のQE2分析には同意。主となる効果が働いたのは、金利の期間構造を通じてではなく、インフレ期待を通してだった(もちろん私に言わ せればNGDP期待)。また、成長が加速するときに暗黙のインフレ目標を下げることについて「そんなことを本当に望むのか?」っていう質問につ いては、その答えはイエス!!!!!! それが経済の安定化につながるのだから。彼は何を心配しているんだろう。もちろんクルーグマンはNGDPでなく インフレ率がカギになる名目変数だとしている。それでもしかするとインフレ率を下げることが金利の低下につながり、流動性トラップの可能性を 高めると心配しているのかもしれない。しかし、もちろん高い実質成長は金利に上昇圧力をかける。NGDP目標の下であっても金利は景気循 環的だろうから。そして本当に高いインフレ率が必要な低成長な時期にはもちろんNGDP目標がそれをもたらす。
しかも最後の答えの中で彼が心配している問題はNGDP水準目標なら消え失せてしまう。経済がダメでインフレ率は軌道に乗っているよう なときに中銀がそこに甘んじることはできない。そのときNGDPは目標軌道を下回っているわけだから。不思議なのだが、クルーグマンが水準目 標を語っていることを見たことがない。そしてなおかつ他のケインジアン、たとえばクリスティ・ローマーやマイケル・ウッドフォードはこの点を強調してい るのに。彼がどう見ているのかどなたかご存知?
私は長いことインフレ率を4%から2%に引き下げよと主張するインフレタカ派だったが、今はそれは間違っていたと考えている。長期の資本 形成のためには2%のインフレ率がベターなのは正しいが、4%のインフレ率ならば避けられたはずの政策の大失敗というコストと比較すればその 利得は小さい。もちろんNGDP水準目標ならばどちらにしても最善だ。低いインフレ率、マクロ的安定。
PS. NGDP期待でなくインフレ期待を使っている人たちはよく、人々はインフレ率を気にするけれどNGDPなど見ていないと言う。その逆も 真なのだ。あなたは水晶玉を持っていて誰かほかの人に家を買うかどうかについて話すとしよう。「水晶玉のお告げによればあなたの生活費は年 8%の率で増え始めます。」インフレ率モデルの人々は、普通の人ならばこの知らせにびっくりして家を買いに飛んでいくだろうと主張する。では、 次のように話すとしよう。「水晶玉のお告げによればあなたの収入は向こう30年に渡って年8%の率で増え始めます。」 NGDPな人々は、普 通の人はこの知らせにびっくりして家を買いに飛んでいくだろうと言うわけだ。どちらがもっともらしいだろう?
クルーグマン・インタビュー全文書き起こしの全訳 (PART 3/3)http://econdays.net/?p=6706
クルーグマン・インタビュー全文書き起こしの全訳 (part 1/3)
以下は『インディペンデント』のためにおこなされたインタビューの全文書き起こしを全訳したものです.(PDF)
(“Krugman: the full transcript,” Eagle Eye (The Independent blog), Wednesday, 30 May 2012)
ケインジアン一派にとって,今週クルーグマンがイギリスにやってきたのは,コミケとオリンピックがいっしょにやってきたのより興奮することだったろ う.『インディペンデント』用にやったこのノーベル経済学賞受賞者へのインタビューは ここ で読める.でも,もっとマニアックにNGDP目標だのフ ィリップ曲線だのグラス・スティーガル法だのといった話題についてクルーグマンの意見を聞きたい人たちは,下記のトランスクリプトをご覧あれ.
このなかで,かの「クルーグ・マン」(誤植にあらず)は,イギリスの家計債務の水準が経済を停滞させていると考える理由や,IMFが緊縮策 を後押ししたのを後悔してるんじゃないかと睨んでる理由を説明している.さらには――おそらく一番のおどろき――ドイツのアンゲラ・メルケル首 相への共感さえ口にしている.
楽しんでね.
『インディペンデント』:ギリシャはなんとかユーロにとどまれるでしょうか,それとも離脱は不可避でしょうか?
クルーグマン:なにもなしではすまないよね.最終的にはギリシャは離脱するしかない.もう2年やりぬけたら驚きだし,あと1年でもつだけでも ぼかぁ驚くよ.新民主主義党[緊縮を支持している]新政権をやってるけど,2ヶ月もすれば,明白になるね.なんにも変わってなかったって.決 定打になる出来事は,欧州中央銀行が緊急貸し付けにストップをかけたときだね.誰もそんなことを望んでいないけれど,いずれかの時点で, 数字の問題として,避けられなくなる.〔銀行の取り付け騒ぎ[バンク・ラン]ならぬ〕「バンク・ジョグ」が[ギリシャの銀行で]起きる――緩慢な離脱 だ.もしもぼくがギリシャの預金者なら,預金を国外に逃そうとするね.だって,長い週末がようやく過ぎてみたら預金が新ドラクマに化けていて,も との価値から50パーセントから30パーセントくらい下がっちゃいました,なんてことになる確率がそこそこあるわけだから.もちろん,ほかにも決定打 になる出来事はありうる.今週末のスペインはじつに興味深いところだと思うね.
『インディペンデント』:ギリシャは離脱した方がマシになるのでしょうか?
クルーグマン:わかんない.現行の政策のもとでは,スタグネーションと極端な景気落ち込みという条件の不安がある.アルゼンチンを例に挙 げると[アルゼンチンは2001年に1ドル=1ペソのペッグを解消し通貨を切り下げた],あのときは短いながらもひどい期間があって,そのあとに強 力な景気回復がつづいた.そこで問題は:「ギリシャはそれと大きくちがうのか?」ってこと.ギリシャはちがうって話はずいぶん聞かされてるけど,そ の多くは事実にあわない.つまり,ギリシャはほとんど輸出がないっていうけど,それはコモディティ輸出にしか当てはまらない.回復の可能性は確 かにあるんだ.主要な輸出の1つはもちろん観光だね.混乱しきった政治情勢はもちろん好ましくない.大まかだしカリカチュアとしてはひどく不公 正なものになるけど,イメージとしてはこんな感じ:ギリシャが離脱→ひどい混乱→銀行がつぶれる→6ヶ月か1年ほどすごくひどい情勢が続く→で もそのあとイギリスのヨッパライ連中がギリシャの島巡り観光ツアーに次々やってくる.「問題ねえよ,通貨は下がってンだから!」なんてね.ひどい 話に聞こえるけど,若年失業率50パーセントに比べれば,そう悪くもないんじゃない.
『インディペンデント』:でも,アルゼンチンはコモディティ輸出ブームでずいぶん利益を得ましたよね.離脱したギリシャが直面するのは,いまだ に不況下にある欧州経済ですが…
クルーグマン:「アメリカ経済政治研究所」(the American Center for Economic and Policy Research) の Mike Weisbrot が言う には,そのアルゼンチンのコモディティ輸出は誇張されているそうだ.ぼくも賛成.実のところ,通貨切り下げ前夜に,あの国のGDPに占める輸出 額は,いまのギリシャの半分くらいでしかなかったんだよ.世間で言われてることが間違ってるってのは,1つにはこれでね.[でも]はっきりしないとこ ろもある.サービス輸出とはいうものの…ちょっとどれくらいちがうものなのかわかってないんだよ.確かに言えることはない.通貨切り下げの3年後 にはギリシャはうまくやってるとぼくがすごく自信満々だって誰もが言うんだけど――いや,ぼくにはわからんよ.でも,いまのギリシャがこのままでやっ ていけるようには思えない.いまの話は,少なくとも1つの可能性を提示してはいる.
『インディペンデント』:ギリシャの離脱がイギリス経済に及ぼす影響はどうでしょう?
クルーグマン:本質的に,ユーロ圏へのノックオン効果をのぞいて,ギリシャは問題にならない.ギリシャが離脱すれば,ユーロ[への加盟]は 不可逆じゃないことが世間の知るところになる.そうなれば,スペインとイタリアの銀行に取り付け騒ぎがおきるけど,欧州中央銀行にユーロを供 給し続ける気があるうちはすぐさま危機にはつながらない.それでも,欧州中央銀行のバランスシートの大幅増加にはつながる.すると,これが問 題になる:「こうした国々が景気回復する希望はどこにある?」 つまり,欧州中央銀行が大量にお金を貸し付ける気があるなら,しばらく時間が 稼げる.本質的に無制限の額面を貸し付けるつもりがあるなら,すぐさま崩壊にはつながらない.でも,これが持続可能なのは,政策に変更が なされる場合だけだ.つまり,5年ほど経てば回復が起きるという理にかなった希望をもたらす政策に切り替えられれば,これも持続可能だ.ここ が分岐点なんだよ:欧州中央銀行による無制限の貸し付け,プラス,もっと拡張的な[財政政策]と,もっと高いインフレ目標をとるか,それとも ,完全なユーロ圏の瓦解か.どちらの選択肢も不可能そうに聞こえるけれど,どちらかは必ず起こらざるを得ない.最終的に,ドイツはどうなるだ ろう? これは『ソフィーの選択』じゃなくてドイツの選択だ.もしかすると,ドイツも最後にはユーロを救うために正統な手を打つ必要を認めるかも しれない.――でも,昨晩イェンス・ヴァイトマン[ドイツ連邦銀行総裁]を読んだんだけどさ:「それはなさそう」ってところかな.
『インディペンデント』:単一通貨にとどまる能力でみて,スペインとイタリアは根本的にギリシャとちがっていると思われます? それとも,同じ 論理で両国も行く先は同じになるんでしょうか?
クルーグマン:どちらの国も,ギリシャより根本的にずっと強い立場にある.ただ,それでもひどいことに変わりない.スペインの公的債務はいま だに割と低水準にある.そこはギリシャとちがうね.ギリシャの公的債務はまぎれもなく狂った水準にある.必要とされてる実質的な切り下げを成 し遂げるまともな見通しさえつけられれば,スペインの状況はもっと手の打ちようができる.イタリアの公的債務は高い水準にあるけれど,財政赤 字は比較的に低い水準だ.イタリアには精神的な底力もある.ギリシャは正真正銘に無責任で不誠実だけど,スペインとイタリアはそうじゃない .
『インディペンデント』:ユーロ圏危機の全責任の非難を浴びせるとしたら,誰が候補に挙がります?
クルーグマン:賽は投げられていたと思う.すべては,[1992年に]マーストリヒト条約が署名された瞬間から,運命はほぼ決していたんだろう .これを望んでいたのは,事実上,ヨーロッパのエリート全体だった.誰か一人が「全速前進,さあやるぞ」と言い出したわけじゃない.もしかする と,原罪は欧州石炭鉄鋼共同体にまで遠くさかのぼるのかもしれない.あれは仕方なかったんだろう.明らかに,ろくでもない助言を途中で吹き 込んでいた連中がいるね.
『インディペンデント』:では,この運命づけられた危機に取り組まざるを得なくなったアンゲラ・メルケルとユーロ圏の政治家たちに,いくらか共 感を覚えますか?
クルーグマン:覚えるね.実のところ,ぼくもメルケル個人の問題にしようってわけじゃなくて….彼女は明晰さと力強さの模範って人でもない でしょ.でも,かりにそうだったとして――なにができる? どっちにしても彼女はドイツの有権者を率いていかなきゃいけない.ユーロ圏っていう構想 は最初の一歩からまるごと粗悪品だったんだ.決定的な過ちは,1980年代後半になされた.この企図が具体化したときだ.避けられない悲劇 の論理だったんだよ.
『インディペンデント』:メルケルに向けられる批判の1つに,ドイツ人に,じぶんたちが明白な選択を迫られていることをハッキリ告げなかった, というものがあります:つまり,ユーロの費用を負担するか,ユーロがつぶれるにまかせるか.
クルーグマン:それはドイツに限らないね.ユーロの指導者たちは揃いも揃って選択のきびしさをごまかしてきた――例の「拡張的な緊縮」へ の熱狂は,本質的に智慧のフリをした無い物ねだり思考[ウィッシュフル・シンキング]だったんだよ.理想的な世界では――そこでドイツがどうなっ てるかわかんないけど――メルケルは国際会議を主催してドイツ版の「千載一遇の説教の瞬間」を迎えることだろうね.でも,それはちょっと欲張 りな話だし,かりにそんな瞬間がきてもうまくいったかどうかあやしいね.
『インディペンデント』:デヴィッド・キャメロンによれば,緊縮 vs 成長というのは間違った選択の立て方だそうです.彼は正しいんでしょうか?
クルーグマン:たしかに選択はあるよ.いまは拡張をしておいてから,後で緊縮に転じる政策もありうる.でも,キャメロンが言ってるのはそうい うことじゃないよね.政府がレバレッジ解消 (deleverage) の動きに加わろうとするのなら――レバレッジ解消の相互破壊的な悪循環に突入し ようとすれば――,そして,政府がそれを相殺しようと対処するかわりにむしろこのプロセスに加わろうとするのなら,経済にとっては痛手になるね. そこをどうにかうやむやにできると考えるのは,願望優先の思考[ウィッシュフル・シンキング]だよ.
『インディペンデント』:労働党は,付加価値税 (VAT) の大幅減税という大きなアイディアを出しています.ですが,学術的なエコノミストの 多くは,インフラと建設の方が優先順位は高いと言っています.なぜなら,そちらの方が財政的な乗数が大きいからだと.あなたが建設支出の 方を好んでいるのは承知していますが,ここで一時的な減税をするのはダメでしょうか?
クルーグマン:無策よりはマシだと思うよ.一時的な減税をやってもその分は節約されるので無効かもしれないって事実はつねにある.VAT 削減はちょっとばかり面白いね.というのも,これは将来のインフレ期待を産み出すことになるから,その点でいくらか効果的かもしれない.次善 の策だね.ここイギリスでの政治的な影響については,じっくり調べていないんだけど.昨秋,オバマは給与税減税の延長を打ち出した.あれは 刺激策の一環としてぼくがのぞんでいたでは断じてなかったけれど,それでも支持はしたんだ.ないよりはマシだったからね.それに,どっちにしても あれは〔刺激策というより〕里程標をおくものだった.だから,ここイギリスでも〔減税をやって〕いいんじゃないかな.連立政権のプランでは,公共投 資の劇的な削減を求めている――あれはほぼ確実にいい考えじゃないわけでね.
『インディペンデント』:イギリスの国家的な債務は第二次世界大戦後に比べると高くありません.ですが,平時に比べると高いですね.これ で考え直すことはありますか?
クルーグマン:もっと返済しておくべきだったね.ブレア/ブラウン時代にはえげつない――ギリシャ並の――財政的無責任はなかったとは,公 平に見て言えると思うよ.でも,彼らは景気をうまく活用しなかった.戦争ではないけれど,いまは30年代以来でも最悪の財政的/経済的な 危機だ.ぼくら――イギリスやアメリカ――は,べつに気まぐれにこれほどの赤字を出してるわけじゃない.いまの状況を考えれば,妥当だ.赤字財 政をする理由としては,じつにまともだよ.「これで行動パターンは永遠に定まる」といえるようなものじゃない.そんなことはない.あらゆる証拠が示 しているのは,政治家はあまりにも赤字削減にヤル気を出し過ぎているってことであって,あまりに腰が重いってことじゃあない.経済が回復した 後でも彼らがひどい無責任財政を続けるだろうって考えはまちがいだよ.
『インディペンデント』:家計債務はイギリスで非常に高くなっています.これも経済にのしかかっているんでしょうか.
クルーグマン:ほぼ確実にね.アメリカでは,たくさん実証研究がでてる.それによると,家計債務はアメリカの低調さの主な要因だそうだ.お そらく,同じことはここイギリスでも言えると思う.ただ,こちらでそれに相当する研究は見てないんだ.アメリカでは,最善の進行中の筋書きは,過 剰な家計債務の筋書きだね.
クルーグマン・インタビュー全文書き起こしの全訳 (part 2/3)
※訳者から:原文の解釈に自信がもてない箇所が残っています.「ベータ版」と考えてお読みください.
『インディペンデント』:金融政策委員会の Ben Broadbent が言うには,イギリスではアメリカ式の住宅バブル崩壊はまったく起きなかった, だからイギリスの家計の債務水準は過剰ではない,維持された資産価値と帳尻が合っているのだから―――だそうですが.
クルーグマン:いまいち明確でないように思うね.問題は,その高い住宅価格でもなお家計がレバレッジ解消を必要だと感じているかどうかだ よ.たしかに,家計の純資産への巨大な一撃はイギリスではおきていないけれど,それが重要な要因じゃないって言うなら驚くね.金融業界の 問題は,ここイギリスでの方がいっそう重みをもってる.シティやウォール街はだいたい同じ規模ではあるけれど,シティの方は,イギリスっていうもっ と小さな経済で活動してるわけで,だからシティの方が大きな問題なのかもしれないってだけであってもね.先進国の多くに当てはまる一般論と して,どうも,過剰な家計レバレッジとその支払いがあるように思う.
『インディペンデント』:ユーロ圏に入っていればイギリスはもっと状況がよかったかもしれないという主張は?〔訳者から:原文では bitter off とあるが,話の流れから better off と解釈した〕
クルーグマン:へえ! いやあ,まあ主張だけならなにかしらできるもんだけど,恐れ入るね.キャメロンとオズボーンはいまの低い借り入れコス トは自分たちの手柄だと好んで語ってるけど,でも実際には圧倒的にユーロに加盟していないおかげだよ.いまだって――状況は刻々と進行中 だけど――イギリスと比べてスペインの財政的な見通しは決して見劣りしないし,もしかしてマシかもしれない.それでもスペインの国債利回りは 6.6%,一方イギリスは 1.6% だもの.正直,トラファルガー広場にゴードン・ブラウンの銅像でも建てて,イギリスをユーロに加盟させずにおいてく れたことに感謝した方がいいね.
『インディペンデント』:ゴードン・ブラウンと言えば,2008年に口を滑らせた一件がありましたね.いち早く銀行の資本増強に動いたとき,じ ぶんは「世界を救った」と言って.実は,あれはフェアな発言だったんでしょうか?
クルーグマン:正しかったと言えると思う.リーマン破綻の6ヶ月後をいまになって振り返るとね.政策担当者たちは正しいことをやったよ.もっ とたくさんヒモをつけたりなんかして,監視すべきだったとは思うけど.それでも,彼らは完全な金融崩壊を食い止めるのに必要な手を打った.起こ るべく運命づけられていたかのようにいまのぼくらは語ってるけどね.でも,そうでもないんだろうね.明らかに,ゴードン・ブラウンこそ,最初にあれを やった人間だった.あれがなければ,モラルハザードをなくすためにリーマンがつぶれるにまかせるのは妙案だと考えていた人たちが,その主張をさら に2ヶ月ほど続けていたかもしれない.そうなっていれば,事態は取り返しがつかなくなっていたかもしれない.
『インディペンデント』:ゴードン・ブラウンはジョージ・オズボーンによって IMF を率いるのを阻止されました.マクロ経済について熟知している 人物が率いていれば IMF にとっていいことになったと思われます?
クルーグマン:多分ね.じぶんでマクロのことをよくわかってる事務局長がいれば興味深いことだし,きっといいことでもあったろうと思う.でも, クリスティーヌ・ラガルドがぼくの古くからの同僚のオリヴィエ・ブランシャール[IMF主席エコノミスト]とす ごく密接にはたらくようになってるしね.だから,IMF がマクロ経済学に関して明晰を欠くってことはないよ.だから,うまくやってると思うね.
『インディペンデント』:ただ,ラガルドはまだ手加減していますよね.最近出た IMF のミッションステートメントの行間をお読みになって,これは 「プランB」を求めているんだとお考えですよね.ですが,彼女はロンドンにやってきて,ジョージ・オズボーンの路線は正しいと発言しました.IMF が本心を言えずにいるのは問題ではないですか?
クルーグマン:でも,ゴードン・ブラウンがやってたらマシになってたって話になる? きっとすごくぶざまなことになってたよ.そこが問題なんだ:調整 プログラムを必要としない主要国を相手にするときには,やれることも言えることもせいぜいこれくらいなんだよ.なにより,IMF は当時でも馬鹿げ ていたもともとのプログラムを強力に奨めたわけだし.あれは完全な失策だったとスタッフ全員考えてるだろうとぼくも推察するけどね,でも彼らはな かなかそうとは言えないよ.問題はこうだと思う:イギリス国民は,これをどう判断するだろうか? 「第4条」[IMF のイギリス報告書]が実際に言ってたことについて ,なにか幻想を抱いていた人なんていたっけ?
『インディペンデント』:著名な経済学者でたくさん間違った考えを持ってる人も大勢います.素人にとっては,いまこの経済学って分野を信 用するのは困難です.この懐疑心はいいことでしょうか? それとも,悪評で経済学者の発言を封じる攻撃なんでしょうか?
クルーグマン:我が同僚たちがその信頼に値すると身をもって示してくれていたら,ぼくももっと困惑してたんだろうけどね.経済学に免許はい らないんだよね.だから,すごく自信たっぷりな口調で完全に間違った発言をした一部の人たちは,そもそも経済学の訓練なんて受けていないし … でも,そこはたいして問題じゃないんだよね.というのも,多大な業績をもちながらも,完全に間違ったことを言った人は大勢いるわけだよね.「 影の連邦公開市場委員会」をずっとやってるアラン・メルツァーが2009年に発言して連銀のバラ ンスシート拡大から歯止めのないインフレが起こると予想をしながら,その3年後に「歯止めのないインフレ」とやらがいっこうに実現する様子がなく ってもまったく自信を失うそぶりも見せずにいるってんだから,そりゃ国民は経済学を信用しちゃだめだよね.ぼくを信用しなきゃ!
クルーグマン・インタビュー全文書き起こしの全訳 (PART 3/3)
※訳者から:原文の解釈に自信がもてない箇所が残っています.「ベータ版」と考えてお読みください.
『インディペンデント』:経済学は科学ではない,政治とイデオロギーが大量に含有されるのは避けられないということを国民がもっと認識す べきなんでしょうか?
クルーグマン:「避けられない」ってところは定かじゃないな.ただ,後退はしたんだと思う.40年前なら,この経済学という学問はもっとうまく反 応していたと思う.イデオロギーと政治に議論が毒されるのが,とうとう経済学の学問にまで及んだわけだ.なにかがひどく間違っている.〔経済学 の〕教えがうまく機能しているようには見えない.それがこの危機で失敗したんだ.淡水学派[ネオリベラル系のシカゴ学派]という経済学の企図 はその多くが30年前に目に見えて実証問題で失敗している.それなのに,この分野で勢力をますます広げている.経済学はその性質上もっと 科学的になれないのかどうかは,ぼくにはわかんない.ただ,かつてより科学的になっていないのは確かだね.
『インディペンデント』:もっと科学的な方向には進めないんでしょうか?
クルーグマン:マクロ経済学では,ほんとに洗練された実証研究がたくさん進んでる.ぼくが30代だった1980年代には,すでにマクロ経済学 でこの塹壕戦が展開中だった.核心的な問題に踏み込むのは,地雷原に踏み込むようなもんだったんだ.だから,もののわかった人でいたけれ ば,それ以外の問題を取り上げて,ビジネスサイクル関係の話にはほとんど触れない論文を書くにしくはなかった.でも,それ以外のやり方もあっ た.重箱の隅をつつくような細かい実証研究をやる手もあったわけ.それはそれで実に楽しいことではあって,おそらくはぼくらの救いの道でもあっ たんだよ.いま20代とか30代の若手でマクロをやってる人たちをみてると,20年後にはずっといい分野になってるだろうなって思う.本質的に,誰 もじぶんが間違っていたなんて認めたりはしない.でも,昔から言うように,「科学は葬式のたびに進歩する」んだよ.
『インディペンデント』:財政政策 vs. 金融政策の論争では,イングランド銀行にはもっとお金を刷れという圧力がずいぶんかかっていました ね.「Xの分量をやればXの分量のリターンがある,そしてそれが我々のやるべきことだ」と言えるような証拠はあると思いますか?
クルーグマン:証拠は実に弱いね.中央銀行のバランスシートを拡大したり,伝統的には購入しなかった資産にまで手を広げるだけで経済 に多大な効果が及ぼせるという証拠は薄い.なんとも疑わしい話だし,根拠薄弱な話であって,何事かはあるのかもしれないけれど,すすんで 依拠できるようなもんじゃあないね.どうやら理解できることは,大規模な金融緩和 (QE) プログラムがアナウンスされると,期待に大きな影響が でるってこと.とくにインフレ期待には大きな影響がでる.これこそ,単純なモデルにおいて,いまのような状況でテコ[レバレッジ]を手にできる方法 なんだ.連銀が QE2 プログラムを開始したとき,金利の構造という観点では大きな変化が生じてる証拠はあんまり挙がらなかった.でも,インフ レ期待は大きく上昇して,そのあとまた下げ戻した.おそらく,QE は中央銀行がトリガーを引いて金利を上げ始める意欲はとくにありませんよと 伝えるシグナルの役目を果たしている.金融緩和は,表面的な経路じゃなくて,期待の経路をとおして作用してるんだ.ただ,ここでも手に入れ られるのはそれ相応のものだけだ.ぼくの考えはいまでも変わってなくて,財政刺激を主要ツールにして,金融政策でこれを支援するのが賢明な 政策だと思ってる.どうしても財政刺激が使えないときには,QE をやって幸運を祈ろうじゃないの.
『インディペンデント』:名目GDP目標(以下「NGDP」)についてはいかがです? イングランド銀行の責務の変化を支持されますか?
クルーグマン:小さな懸念はもってる.つまり,もっと長い目で見て,NGDP を採用したとき,潜在生産性成長の伸びが加速した場合には 自動的に暗黙のインフレ目標は下がっていくことになる.そんなことを本当に望むのかってこと.だから,長い目で見てこれがいい枠組みかどうか は不明だね.これを支持していろんな人が展開してる論証では,言葉で多くを語ることなく将来のインフレに対して信用できるコミットメントをつく りだす方法なんだと言われる.そこでぼくとしてはこう思う.それで誰でもごまかせる――あの[金融政策にきびしいリバタリアンの]ロン・ポールをや りすごせる――と思っているなら,それは都合良く自分をごまかしてる.NGDP に関しては,ぼくはこれといって強固な意見があるわけじゃない―― ただ,これが特効薬だっていう考えは間違っていると思う.でも,NGDP ならもっと積極的な金融政策を推せるんなら,結構なことだよ.
『インディペンデント』:単にイングランド銀行の政策インフレ率を上げるというのは?
クルーグマン:全面的に賛成.2パーセントインフレのかわりに4パーセントインフレにするミクロのコストは,ぼくらの知るかぎり些細なもんだよ. 4パーセントインフレはロナルド・レーガンの第二期に起きてるけど,これといって大問題は起きたように見えない.2パーセント目標が標準になった のは,どういうわけだろうね? ゼロ下限問題[金利はゼロ以下にできないのに経済がさらに刺激を必要としている場合があること]を,みんなは 気にしないのかな.それに,2001年/2002年になされた連銀その他による多くの研究があって,それによると,2パーセント目標にしているかぎ りゼロ下限にあらがうのはきわめて見込みが薄いそうだ.このことはわかったばかりだ.実は,4パーセントの方がずっと意味があるんだ.これは予想 に関わるものとして意味をなす.つまり,少なくともインフレ予想を引き上げるし,いま長引いてるような状況に対するもっと厚い緩衝材にもなる― ―ぼくはこの路線を1998年からずっと主張してるんだけどね.ただ,クレイジーな荒くれ者どもの方が標準的な教科書を信奉していて,聡明そう な連中の方がありとあらゆる理由をひねり出して教科書が「やるべき」と言ってることをすべきでないと主張してるっていうのがいまの状況なんだよ ね.
『インディペンデント』:イングランド銀行は連銀のように雇用に関する責務をもつべきでしょうか?
クルーグマン:「インフレ率を安定させることは同時に持続可能な完全雇用を目指すことにもなる」という考え方をするとなると,長期的なフィリップ曲線は垂直だっていう信念〔インフレ率 がどうだろうと失業率は一定になるという信念〕に依拠することになる.いまや,そうはならないっていうすごく強固な証拠が固まってきてる――安定 したインフレがある一方で永続的に低調な雇用が両立しうるっていう証拠がね.ぼくが恐れているのは,経済がその能力のはるか下で回ってい る最中に,中銀が「ふむ,インフレ率は安定しておりますから,我々はきっちり仕事をしておりますぞ」と言い出すような状況になりはしないかって こと.
『インディペンデント』:民間銀行はどうです? 政府がいまやっているように「囲いで保護される」のではなく完全に分割されるべき〔市中銀行 が証券会社を所有できないようにするべき〕なんでしょうか?
クルーグマン:イギリスの改革には注意を払っていないんだ.グラス・スティーガル法[大恐慌後にアメリカの銀行を分割した]――これを支持 して言えることはたくさんある.でも,この分割をやったり,あるいは「大きすぎてつぶせない」銀行を解体するのが〔金融の〕安定性の十分条件だ と考えるなら,まちがいだよ.リーマンブラザーズはグラス・スティーガル法があっても影響を受けなかったろうね.あそこがやってたのはシャドウ・バン キングだったんだから.あってもなくても同じだったわけだよ.1930年代だと,小さな銀行からカスケード式に連鎖して崩壊がおきた.使ってる基本 モデルが Diamond-Dybvig のモデルな ら,複数の均衡点がある.つまり,銀行取り付け騒ぎの可能性がある.このモデルだと,2つのことがわかる―― [1] 実は預金に特別なことはな んにもないってこと.短気で借りて長期で貸し付けるのはなんだって非流動的だから,シャドウ・バンキングは通常の預金銀行業とまったく同等に 危険なんだ.また,[2] 多くの小さな銀行からなる経済もこうした事態を免れないってこともわかる.「大きすぎてつぶせない」に関して懸念すべき 理由はたくさんある――それは政治経済の問題,モラルハザードの問題だ.でも,銀行をその機能とサイズの両面で分割すれば,問題はいくら か小さくなる.でも,問題が解決するわけじゃない.30年代のあと半世紀にわたって続いていた銀行規制システムと機能的にひとしいものを再 びつくりだせたらいいだけどね――あれはちゃんと機能してたんだから.過去30年間でなされた金融のイノベーションで,明白で見間違いようなく 有益だったのをATM以外に挙げてみてほしいね.誰一人として,これに答えられた人はいないじゃない.
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/655.html
#金融政策の無効化に関する議論は収束しつつも続く
最適金融政策のニューケインジアンモデルにまつわる問題 by Scott Sumner
サムナーのブログより、”The problem with New Keynesian models of optimal policy rules”(16. September 2012)。ウッドフォード祭りをご存知ない方はご一読の前に本サイトのこれ、himaginaryの日記におけるこれやこれに目を通しておくことをお勧めします。
多くのニューケインジアン達が、NGDP目標よりも(厚生の観点から)よい結果を上げるフレキシブルインフレ目標ルールがあると指摘している。それは正しい。私も一つ前のポストにおいてNGDPLT(名目GDP水準目標)が常に最適な政策ルールというわけではないというウッドフォードの主張に同意した。しかしいくつかのコメントを読むとあのエントリは修正する必要があるようだ。私はフレキシブルインフレ目標がNGDPLTより優れているとするニューケインジアンモデルの有効性を認めているわけではないのだから(そう読めてしまうのは失敗だった)。私が理論的に最適だと見ているのは全く別のルールで、名目賃金目標だ。
先ほどジョージ・セルギンのコメントに気づいたのだが、ニューケインジアン金融モデルに対する私の異議申し立てをうまく述べてくれている。
スコットもみんなも「名目GDP目標は最適ではないが実践的に良い解決策だ」論を余りにも易々と受け入れ過ぎている。今回のウッドフォードの文章と彼の同系列の仕事を詳細に見直したのだが、それらの中にはいつも物価の変動を「悪いもの」として扱う損失関数があった。それはいつも非明示的なものというわけではなかった。しかしそのように扱うための説得力ある根拠は書かれていない。単に「最適ではないが実際的には正当化される」のような表現でのごまかしがあるだけだった。(ところで同様なことはゼロインフレが最適だと扱うヴィクセルの議論にも言える。ゼロインフレを達成する政策は、金利を「自然」水準に保つことと同じだとするのだから。実際にその議論が成り立つのは生産性成長が一定の場合だけで、もちろん通常はそうではない)
もちろん、NGDP(または名目収入)目標が特に「最適」なものではないことはほとんど間違いない。しかしそれは他の通常の選択肢に比べて「最適」さにおいて劣るということを意味しない。今やDSGEなど多くの研究がこれを補強している通りだ。
ジョージに100%同意。私は「インフレの厚生損失」を想定することは、NGDPの変動や行き過ぎにおける厚生損失を考えるよりも良いとしょっちゅう言ってきた。このことはマーケットマネタリスト陣営が「モデルを欠いている」と見做されていることとも深く関係している。私とてモデルを示してきたのだが、他の経済学者たちはモデルの何たるかをわかっていないのでそれをモデルと認識できていないのだ。彼らはモデルとは方程式の束だと誤解している。誤解なきよう、方程式は有益だ。私も 方程式を使ったモデルで賃金ターゲットの最適性を示した論文を公にしているしNGDP先物目標についても同様。しかし正直なところ、これらの論文の方程式群は単にモデルの仮定から直感的に明らかなことを述べているだけなのだ。
ここが多くの経済学者がわかっていないところだ。われわれはいかなる政策が最善かを数学モデルで示せるような段階にまだ達していない。インフレの厚生損失についてさえ十分に知ってはいない。CPIがインフレの厚生損失の代理変数たりえると考える人の推す最適政策ルールにおいて、インフレが重要な役割を果たすのは当然のことなのだ。そしてジョージや私のようにインフレの厚生損失をよく表すのはNGDPだと考えるならば、政策ルールの中でNGDPが重要な役割を果たすことになる。常識的なことだ。
1970年代にミルトン・フリードマンはマクロ経済学がヒュームを超えたのは一点のみ — 名目の変化の一階微分の扱い方を知っていること — しかないと言った。1920年代の経済学者たちはマクロの問題を方程式ではなく言葉で議論していたものだ。そのアプローチに戻るのは無意味なことではない。
http://econdays.net/?p=7105
ウッドフォード「名目GDP目標は妥協案」
経済 |
Mark Thomaやサムナーが賛意を表しつつ紹介しているWaPoインタビューで、ウッドフォードがそう述べている。
We proposed what we called an “output gap adjusted price level target”. The idea was to talk about a price level, as opposed to the inflation rate, but a corrected price level target where you add to it some multiple of the real output gap. In various models you could show there were ideal properties to this kind of proposal. But in only relatively special circumstances would that coincide with nominal GDP. I thought there was a strong case for having the nominal level variable, but not just a price index, to also take into account the level of real economic activity. But it’s not just real economic activity. It has to be corrected for potential growth. There are a lot of things to discuss about the ideal level of the target variable, but I was mostly arguing for the desirability of schemes that involved a level variable.
The thing about the Jackson Hole talk this year is that probably the most practical version of such a proposal that you can imagine the Fed adopting is an NGDP target. That is a compromise relative to the theoretical ideal. It’s worth asking what you could imagine the Fed actually going for, which is not going to be what, in an ideal world where everyone understood economics perfectly, you would want to do.
(拙訳)
(Woodford=Eggertsson(2003)で)我々は「生産ギャップで調整した物価水準目標」というものを提案しました。インフレ率ではなく物価水準を対象にする、という話ですが、その際、実質生産ギャップの何らかの倍率を加えた修正済み物価水準目標とする、ということです。この目標政策は、様々なモデルにおいて理想的な特性を有することが示せます。しかし、それが名目GDPと一致するのは、比較的特別な状況下においてのみです。名目水準変数を対象とすべき強力な理由があるというのが私の考えでしたが、それは単なる物価指数ではなく、実体経済の活動水準を取り入れるべき、と考えていたわけです。潜在成長率で修正を掛けるべき、ということです。目標変数のあるべき水準という点についても論じるべきことが数多くありますが、私は専ら水準変数を伴う政策スキームが望ましいということを論じていました。
今年のジャクソンホールで話したことは、そうした提案でFRBが採用すると考え得る最も現実的なバージョンは、おそらく名目GDP目標だろう、ということです。理論的な理想から言えば、それは妥協案です。FRBが実際にどんな政策を採用できるか、と問うことは意味のあることです。その政策は、皆が経済学を完璧に理解している理想的な世界で実現したいと考えるような政策にはならないでしょう。
またウッドフォードは、1990年代末に日本に対して政策提言を行った際にも、既にバーナンキと微妙な意見の違いがあった、と述べている。
We certainly talked about the issue then, because both he and I were interested in the Japanese situation and writing things about it. There was always some difference in emphasis in our preferred advice back then. He gave a lot of emphasis on the idea that purchases as such were the key, or at least that’s something he would give a lot of emphasis to as opposed to being committed to particular targets. I thought future policy and the targets of future policy was the correct thing to talk about. He also talked about the desirability of commitments to keep interest rates low as a policy tool that could also be used but he never pushed it as hard as I would have pushed it. So there was probably some difference in preferred approach even then.
(拙訳)
確かに当時、我々はその問題について話し合いました。彼も私も日本の状況に興味を抱き、それについて書いていましたので。当時、各人がそれぞれの政策提言において重視した点には若干の違いがいつもありました。彼は購入自体が重要だ、という考えにかなりの重きを置いていました。少なくとも、ある特定の目標にコミットする、ということに比べれば、彼はそうしたことにかなりの重きを置いていました。私は、将来の政策と将来の政策目標こそが主題となるべき、と考えていました。彼も、金利を低く留めておくというコミットメントも望ましい政策ツールとして使える、という話をしましたが、私ほど熱心にそれを推奨することはついぞありませんでした。ということで、当時においても、推奨する政策には若干の違いがあった、と言えるでしょう。
ちなみにウッドフォードは、名目GDP目標を取り上げるに当たってサムナーの影響はあったか、という問いに対し、にべもなく、無かった、と答えている。それについてサムナーは、インタビューで言及してもらっただけで光栄、とコメントしている。
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20120917/woodford_interview
ウッドフォードがやってくる!
経済 |
ジャクソンホールで提示した論文でマイケル・ウッドフォードが名目GDP目標支持を表明したことで、市場マネタリスト界隈がちょっとした祭り状態になった:
もちろん、大物経済学者の発言だけに、市場マネタリスト以外の注目度も高く、WSJブログがバーナンキ以外で最も注目される講演と評したほか、クルーグマンも「Important stuff」と評している。
そうした中で、ロバート・ワルドマンとStephen Williamsonという経済学者としてはおよそ両極に位置する2人が、ウッドフォードに批判的なコメントを寄せているのが興味深い(言うなれば、オールドケインジアンとニューマネタリストが、ニューケインジアンの代表的な金融学者を挟撃する、という構図になっている)。
ワルドマンはマシュー・イグレシアスのブログエントリとツイートを足掛かりに*1、論文の結論部しか読んでいないと断りつつも、以下のように論じている。
- ウッドフォードは名目GDP目標がGDPに顕著な(もしくは少なくとも検出可能な)影響を与えるか否かについて明確な見解を示していない。
- ウッドフォードは将来の政策に関する約束の無いQEの無効性について大いに論じているが、遠い将来の政策が効果を発揮するという証拠を何ら示していない。その理由は単純で、期待インフレ率を上昇させようと試みた中央銀行は未だ存在しないからだ。
- ウッドフォードは、中央銀行の中長期の政策ガイダンスがもたらす効果についての情報を我々は事実上有していない、と示唆するが、期待インフレ率の上昇ではなく低下についてならば、そうした情報は大量に存在する。70年代終わりから80年代初めに掛けて金融当局は、自分たちが低インフレを真摯に達成しようとしていることを人々に納得させようと必死に試みた。もし期待経路が(他の経路が塞がれている場合においても)機能するというならば、短期リスクフリーレートの高騰や深刻な景気後退や歴史的な高失業率といった直接的な効果抜きでも、そうした金融銀行のコミュニケーションにより低インフレが達成できたはずだ。即ち、金融当局の中期目標に関する声明が、期待経路以外の政策抜きには決して達成できなかった、という証拠は大量に存在する。
- ウッドフォードもイグレシアスも、こうした歴史的な証拠が自らの主張に対する反証にはならない、という点については説明できていない。
- イグレシアスは、ウッドフォードは雇用創出法を分かっている、とツイートしたが、数学的な証明もしくは証拠の提示が無い限り、分かっている、とは言えない。
一方のWilliamsonは、この96ページの論文は、時間価値がゼロで無いならば読む必要無し、と痛撃している*2。その上で、FRBが苦労して培ったインフレ抑制のコミットメントを放棄するべきではない、と論じ、以下のように結んでいる。
Woodford seems not to think much of QE, and goes off on an extensive discussion of forward guidance, most of which made me happy that Woodford is not in charge of forward guidance at the Fed. If he were, we would never understand what they are up to.
(拙訳)
ウッドフォードは量的緩和をあまり評価していないようだ。その上で将来政策のガイダンスについて大いに論じているが、それを読むと、ウッドフォードがFRBで将来政策のガイダンスに関与していないことが喜ばしく思える。もし関与していたら、FRBが何をやろうとしているのか我々は決して理解できないだろう。
また、批判というほどではないが、上記のNunesがリンクしているEconomist’s ViewエントリでMark Thomaは、ウッドフォードの名目GDP目標支持にばかり注目が集まっていることに異議を唱えている。
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20120903/Taking_Woodford
「金融政策に関するウッドフォードの見解(やや専門的)」by Paul Krugman
以下の文は、Paul Krugman,”Woodford On Monetary Policy(Sort of Wonkish)“の翻訳になります。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。デヴィッド・ベックワースの見解(hicksianさん訳)。
僕はジャクソンホールには参加していない――実際、おそらくグリーンスパン批判がファッションになる前に無謀にもそれをやってしまったもんで、ずっとのけ者にされてるみたいだ。別に問題はない。もうその論文を読むことはできている――そして、その中で一番重要なのがマイク・ウッドフォードの論文(pdf)だ。
ウッドフォードの論文は、彼が徹底的といえるほど詳細にたくさんの実証研究を検討しているために、長く本当に密度が高いものになっている。だが、その結論は「ベン、あんたのやってることは間違いだ」ということ。
そこで議題になってるのは、利子率がゼロ下限(もしくはゼロ下限近傍――最小値が正確に何であるかは重要ではない)に達したときに、金融政策が何らかの効果を持ちうるのかということ。これらの状況の下では、伝統的な金融政策――ただ短期債券を買うことによって、銀行の預金準備を増やすこと――は牽引力を持たない。
だが、このことは中央銀行にオプションがないということを必ずしも意味しない。僕は自分が最初にその点を突いた(pdf)と考えているが、それは2003年にウッドフォードとガウティ・エガートソンによって大幅に拡張された。具体的に言うと、中央銀行が、経済が回復した後にも以前の予想よりもっとインフレ的な政策を追求することを、公衆に確信させることができれば、牽引力を再び取り戻すことができる。僕がその時書いたように、中央銀行は信頼ある形で無責任になることを約束する必要がある。
でも、中央銀行は本当にそんなことができるのか? ウッドフォードはその論文の前半部を「先行き見通し(forward guidance)」(中央銀行が将来の意思を発信すること)に関する証拠の拡張的な論評に費やしている――そして、そのようなメッセージが重要な意味を持つという強い証拠を見出した。だから、彼の答えはイエスだ。FRBは、景気が回復しても、利子率の引き上げを遅らせるとコミットメントすることによって、経済を押し上げることができる。
だが、それはFRBが主としてやってきたことではない。少なくとも明示的なものとしては。それよりも、FRBは非伝統的な資産の購入(量的緩和やQEと言う誤解を生む名前で呼ばれる)、特に長期国債の購入に依存してきた。これは効果があったのか? ウッドフォードは証拠を解析して、QEの明示的な効果のほとんどは予想の経路を通して達成されたものである――つまり、QEは、市場がそれをFRBの先行き見通し(forward guidance)と見なす程度において、効果があった――と試験的に結論を下している。
それなら、FRBはなにをすべきなのか? ウッドフォードは基本的な政策表明のやり方を変えて、「歴史依存的」なものにする必要がある――つまり、大不況の後には、他の状況の場合よりも利子率の引き上げを遅らせるという意思を表明する必要があると言うこと――と結論を下している。 [1] そして、その過去時制を繰り返させてほしい:現在の状況だけなく、大不況の後にも。
どうやってこれをやるのか? 名目GDPターゲットが一つの答えになる。なぜなら、それがFRBに長期間利子率引き上げを遅らせるための理由を与えるから。他のスキームにも機能するものがあるかもしれない。
ポイントは、まさにFRBがこうしたことをやってないってこと。バーナンキは労をいとわず、できるだけ早期に通常の政策に回帰する、FRBはかつてと同じほどインフレに対し警戒していると言っては政治家たちを安心させようとしている。ウッドフォードはこういうことをやるなと言っている。これらは全て間違った方向の先行き見通し(forward guidance)を与えることになってしまうから。
重要な内容だ。
- 原文:And let me repeat the past tense: following a big slump, not just when you’re in it. [↩]
http://econdays.net/?p=7074
「ウッドフォード、名目GDP水準目標を支持」 by David Beckworth
以下は、David Beckworth, “Michael Woodford Endorses Nominal GDP Level Targeting”(Macro and Other Market Musings, August 31, 2012)の訳。
マイケル・ウッドフォード(Michael Woodford)といえば世界を代表する貨幣経済学(monetary economics)の研究者として知られているが、そんな彼が本日のジャクソンホール・シンポジウムで発表した論文(pdf)の中で名目GDP水準目標(nominal GDP level targeting)を支持する意向を示している。ウッドフォードの件の論文では過去4年にわたるFedの金融政策が批評されているのだが、その批評の一環として名目GDP水準目標への支持が表明されているのである。彼の批評のポイントをピックアップすると以下のようになろう。
(1) 量的緩和がそれほど効果をあげなかった理由は、量的緩和に伴うマネタリーベースの増加が(世間一般の人々によって)永続的なものと見なされなかったためであった。仮に量的緩和に伴うマネタリーベースの増加が永続的なものだと予想されるようであれば、それに伴い将来の物価水準や将来の名目所得もまた永続的に上昇するだろうと予想されることになり、それを受けて家計や企業は現時点での名目支出を増やすことになるだろう。マネタリーベースの増加が永続的なものだという点を人々に伝達する(コミュニケートする)ことがキーとなるのである。この話題についてはビル・ウールジー(Bill Woolsey)が突っ込んで検討しているのでそちらを参照してほしい。
(2) Fedは政策金利(FF金利)の将来(期待)経路に関する先行き見通し(forward guidance)を公表しているが、この先行き見通しは堅調な景気回復を促す上ではほとんど何の役割も果たさないだろう。例えば、Fedが先行き見通しの中で政策金利の将来経路の低下を予測したとしよう[1] 。果たしてこれはさらなる(追加的な)金融刺激策の採用を意味しているのだろうか? それともFedによる景気見通しが下方修正[2] されたことを意味しているのだろうか? もし後者の理由で政策金利の将来経路の低下が予測されたのだとすると、Fedは弱々しい経済の現状を追認しているに過ぎないということになろう。この点についてはかつて私自身も話題にしているので詳しくはそちらを参照してほしい。
(3) 大規模資産購入は長期金利を引き下げる上では効果がなかった。確かに長期金利は低下したものの、その理由の大半は経済の低迷によって説明されると考えられる。長期金利が低下した原因の一部は長期的な構造要因の変化(例えば、人口の高齢化やアジアにおける貯蓄選好の高まり、生産性伸び率の低下予想)に求められるかもしれないが、今般の危機の過程で10年物国債の利回りが5.1%以上の水準から1.6%にまで下落した事実は循環的なストーリー[3] の妥当性を示唆していると言えるだろう。つまりは、先進各国で今後も経済の低迷が続くだろうと予想されているがために長期金利に低下圧力がかかっているのである。Fedは世界全体の金融環境に対して影響力を持っており、その影響力をもとにして先進各国の今後の景気に関する予想を転換し、そうすることで[4] 長期金利の上昇をもたらし得る存在であるが、そうだとするとFedは通常考えられているのとは違ったかたちで低金利の現状に責任を負っている[5] と言えるだろう。
今後Fedが採るべき最善の方途としてウッドフォードが挙げているのが名目GDPを危機以前のトレンドの経路に戻すことにコミットする名目GDP水準目標である。名目GDP水準目標は−適当なかたちで実施されたとすれば−上でピックアップしたウッドフォードの批判を免れることになるだろう。ウッドフォード自身の言葉を以下に引用しよう。
世間一般の人々に対してチャールズ・エヴァンズ(Charles Evans)の提案[6] と同じくらい容易に説明することができ、加えてエヴァンズの提案よりも産出ギャップで修正を加えた物価水準目標(output-gap adjusted price-level target)の利点をより多く備えている基準(criterion)[7] は、Romer(2011)等によって提案されている名目GDP水準目標であろう。名目GDP水準目標が採用された場合、FOMC(連邦公開市場委員会)は実際の名目GDPがあらかじめ定められた目標経路−もしも2008年後半以降にゼロ下限制約によってFedの政策が縛りを受けていなかったとすれば名目GDPが辿ることになったであろう経路−を下回って推移している間はFF金利を現在の水準(ゼロ金利)に据え置くことを約束することになろう。そして一度名目GDPが目標経路に復帰した後は名目(政策)金利は名目GDPの定常的な成長を保つ上で必要な水準にまで引き上げられることになろう。
加えて、ウッドフォードは名目GDPがトレンドを下回っている様子を示す今ではよく知られた図[8] を掲げた上で現時点において名目GDPは目標とする水準を10〜15%ポイント下回っている事実にも注意を喚起している。この事実を指摘することでウッドフォードは2008年後半以降のFedの金融政策は実質的に引き締め過ぎであったと非難していると見なすことができよう。ウッドフォードの論文ではこのエントリーで触れた話題以外にも興味深い議論が多々見受けられるが、それにしてもマイケル・ウッドフォードのような優れた人物がマーケット・マネタリストが過去4年にわたり唱え続けてきた主張に支持を与えてくれるとは何とも元気づけられるものである。ここのところFedに対して金融政策のレジーム転換を求める圧力が高まっている(この点についてはこちらとこちらを参照)が、ウッドフォードの論文はこの圧力のさらなる高まりに加勢することになろう。
(追伸)ウッドフォードの論文ではマーケット・マネタリズムや名目GDP水準目標を推進する上でマーケット・マネタリズムが果たした影響については触れられていないものの(注33は嬉しい驚きではあったが[9] )、まあそれはよしとしよう。そんなことよりも何よりも重要なのは、引き締め気味の金融政策のために人々が味わっている多大なる苦痛を最小化する(可能な限り和らげる)ことである。ウッドフォードの論文はその目標の達成に向かってさらに一歩踏み出す手助けとなることだろう。
- 訳注;例えば、これまでの先行き見通しでは2014年の後半に政策金利が上昇すると予測(2014年後半まで政策金利が現在の水準に据え置かれると予測)されていたものが、新たに公表された先行き見通しでは政策金利の上昇が2015年にずれ込むと予測されたり [↩]
- 訳注;これまで予測していたよりも景気の回復が遅れそうだと判断 [↩]
- 訳注;長期金利が低下したのは循環的な理由、つまりは景気の低迷が原因 [↩]
- 訳注;景気の回復を促すことで [↩]
- 訳注;Fedによる積極果敢な金融緩和策の結果として金利が低下しているのではなく、Fedが景気の低迷を放置している結果として金利が低下している、ということ [↩]
- 訳注;チャールズ・エヴァンズシカゴ連銀総裁によるゼロ金利解除に関する7/3 threshold rule。失業率が7%を上回っているか中期的な期待インフレ率が3%を下回っている間はゼロ金利を継続するが、失業率が7%を下回るか中期的な期待インフレ率が3%を上回るかした場合にはゼロ金利を解除する。 [↩]
- 訳注;ゼロ金利解除の基準 [↩]
- 訳注;ウッドフォードの論文ではpp.45にFigure 13として掲げられている [↩]
- 訳注;ウッドフォードの論文の注33ではベックワースのブログエントリーへの言及がなされている [↩]
http://econdays.net/?p=7041
- 最適金融政策のニューケインジアンモデルにまつわる問題 by Scott Sumner
- クルーグマン「ベン・バーナンキを憎む共和党」(NYT,2012年9月16日)
- クルーグマン「iPhone 経済刺激」(NYT,2012年9月13日)
- クルーグマン「割れ窓と iPhone 5」(ブログ,2012年9月11日)
- クルーグマン「金融政策 vs. 財政政策,再説」(ブログ,2012年9月1日)
124. 2012年9月19日 12:29:25 : X0cY5zjgys
しょうがないだろう、これは。ここで「ユニクロは潰れろ!」とか息巻いてる奴らって、自分が今中国に言って「お前は日本人か!?」と聞かれたたらそうだと答えるのかね。十中八九「違います」と言うに決まってる。こんな暴動の最中、商品や店、お客や従業員を守るためにビラを貼ったからって何だっていうんだ。
本当に気に入らないのは、この手の息巻く奴らは大抵自分が被害を受ける立場になった途端にコロっと態度を変える事だ。これが首尾一貫してるならまだ分かるのだが。
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/619.html#c124
07. 2012年9月19日 12:30:53 : XVPJ8MG0Qk
幕を閉じたのではありません。
名前を変更したのです。
マスゴミの報道に洗脳されないことです。
http://www.asyura2.com/12/genpatu27/msg/421.html#c7
03. 2012年9月19日 12:32:29 : L0wrLWyduw
日中両国民の誰も戦争など望むものではない?
平和ボケの日本が何時までも軟弱な甘い幻想を抱き続ければ相手に容易に侵略され
る事は自明の理である。
中国も国内事情からも直ちに戦火を交えるつもりは無いと思うが、尖閣問題を
今後も棚上げし、誰も上陸できない無人島としてたなざらしにすれば、いづれ
両国のパワーバランスが崩れた暁には中国はなりふり構わず一気に日本を占領して
しまうであろう。
時間のある間に日本独自で強力な軍事大国になる必要がある。
充分な抑止効果をはっきりと相手国に知らしめるためにも早急な「防衛力強化」が
望まれる。
65歳以上が3000万人以上もいる老人国では、人海戦術は取れない、全てを
日本が誇るロボット兵器である、無人の兵器を開発すべきである。
それが日本の生きる道ではなかろうか?
125. 2012年9月19日 12:36:41 : rWn9PLlcps
>>122我が家の近隣で普段着を手軽に購入出来る場所はほぼユニクロしかない状況で
由緒正しい日本人は普段着など買わずに家の古着を自分で縫い直して普段着を自作して着るもんだ。もったいないからな。
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/619.html#c125
03. 2012年9月19日 12:38:14 : uwyuaLgJi6
ちなみに映像は、http://www.youtube.com/user/MotherJonesVideo?feature=watch
http://www.asyura2.com/12/warb10/msg/178.html#c3
126. 2012年9月19日 12:40:30 : 7uPtGleutM
自分の国を愛せない売国奴は他国人からも馬鹿にされて信用されないよ。ユニクロが中立しますと暴論はいてる屑だ。憂国しないといけんだろうが。日本の肩をもつのが日本人だ。世界のひとはそれで納得する。シナ人がなんで信用されないかわかるか。その理由の一つが平気で裏切るからだ。他人や国なんてドーでもいい何でもいい。自分だけだ。こんな連中を信頼できるか。
勿論インチキな説で他国の物を盗るのはだめだ。ユニクロは堂々と尖閣は日本のものだというビラを貼れ。日の丸といっしょにな。シナ人が襲撃してきたら店をたたんで逃げろ。
そしたら安らかに眠れる。死に場所を見つけたのは嬉しい事だ。反日は廻り回って自分に帰ってくる。日本国の滅亡と言う形でな。その時に民俗浄化で子孫は絶える。
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/619.html#c126
27. ケロリン 2012年9月19日 12:41:41 : 6aICm6xzPa6aE : nhPsiJqdrc
ウラン検出の問題・・・、
三井科学の岩国「劣化ウラン」倉庫は、
東京湾じゃなく、「埼玉」だったな?
東京の『ウラン汚染』は、ソコが一番の汚染源だろ?
だから、光が丘でも、ウランが検出されているんだろ?
光が丘は、埼玉の隣りだろ??
光が丘と、成増には親戚が居るけれども、
すでに、かなり、吸い込んでるんだろうな??
ココで、ガス抜きしてんと、
だれか、検証しろよ・・。
http://www.asyura2.com/12/genpatu27/msg/410.html#c27
127. 2012年9月19日 12:41:47 : rWn9PLlcps
>>124
おまいは中国に行ってユニクロの前でわたしは尖閣が中国領であることを支持しますと張り紙してきたらどうだ。ここでぐじぐじ言ってないで。
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/619.html#c127
128. 2012年9月19日 12:42:17 : GXNzvoZZIk
日本人が怪我をさせられている。
まがりなりにも日本の企業と称している連中が億単位の被害を受け、当事者の相手国は知らん存ぜぬを繰り返し、しらばっくれている。
やつら集団で強盗略奪をしても犯罪はしていない(愛国無罪)とうそぶき、すでにあいつらには法律など存在しない現状だ。
中国相手にここで腹を決められない奴が、本当にこの日本で隷米勢力と闘えるのか?
悪いが四捨五入すれば日本の裏支配は100年近い。
回復の闘争はこんなものではないぞ!
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/619.html#c128
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MT 2012/09/04 07:56 ワルドマンが反証として挙げている、期待経路が機能するならコミュニケーションによって期待に働きかけるだけで、失業等を伴わずにインフレを低下させられたはずだ、というのは、期待NGDP水準目標を唱えている人たちのロジックを誤解した上でのものになってませんか?すでに高いインフレという予想が形成されている以上、どんな手段であれそれを低いインフレ予想へと変化させれば、その時点で引き締め効果が発揮されてしまう(つまり期待経路が機能しても、というより機能するがゆえに高失業が発生する)というロジックなはずです。だからこそ、現在の低いレベルで形成されている期待インフレ(NGDP)を引き上げるだけで景気が回復し、その後に期待インフレ(NGDP)を安定させることで景気が安定する、と主張しているはずですから。
anti-libertarian 2012/09/04 08:58 >MT氏
それは、FFレートの引き上げを伴わなくても、低インフレのコミットメントでインフレ退治ができたはずだということになるだろうか。(ほんとうにそんな方法があるならボルカー先生も大喜びだっただろうけど・・・)
でも流動性の罠でより高いインフレをコミットしようっていう考えは、FFレートを上げなくても低インフレに出来たはずだって考えと完全に対称的。そういう意味でワルドマンの指摘に意味はある。
MT 2012/09/04 10:18 >FFレートの引き上げを伴わなくても、低インフレのコミットメントでインフレ退治ができたはずだ
FFレート以外にも政策手段がありそれを使って低インフレのコミットを信用してもらえる可能性がある、そうすれば高失業と低インフレが訪れる、という意味ではその通りではないでしょうか。
ただ、市場マネタリストのロジックは、(FFレートの引き上げかどうかは別として)なんらかの景気を引き締める政策なしにはインフレ退治が出来ない(というか、期待インフレの低下自体が景気を引き締める)、ということを意味しているので、別に「夢のような」ものではありません。
市場マネタリストが、期待NGDPの引き上げが望ましいと言うのは、いま既に期待NGDPが落ち込んでしまっているからそれを引き上げる余地があるためです。
anti-libertarian 2012/09/04 19:31 FFレートは例示に過ぎない。要は期待以外のパスが存在しないときに、期待以外のパスが存在していたときと同じことが・・・総需要の調整が出来るという話は根拠薄弱だっていうのが、多くのケインジアン(とその他)の懸念なのだ。
期待以外のパスが存在しないときとは? それが今、流動性の罠だ。
流動性の罠において、ベースマネーを供給することそのものに意味がないことは、マーケットマネタリストのサムナーすら認めていることである。そこで彼はターゲティングと期待を持ち出すわけだけど、「効果を持たない政策に対し期待を要請する」というのは(少なくとも、マーケットマネタリスト以外にとっては)非常に奇妙なものに見える。
その奇妙さを克服するために、例えばスヴェンソンは為替介入による対外収支改善(これはちょっと規模が小さすぎ)、クルーグマンは財政出動による需要創出(政治的ハードルが高い)を"必須"とするわけだが、サムナー、あるいは多くのマーケットマネタリストにとってはそれは不要らしい。