ホットスポット:指定外住民「苦痛」と申し立てへ 福島
http://mainichi.jp/select/news/20120906k0000e040203000c.html
毎日新聞 2012年09月06日 15時00分(最終更新 09月06日 15時11分)
東京電力福島第1原発事故に伴う特定避難勧奨地点指定を巡り、福島県伊達市霊山町小国地区の住民が「指定されずに精神的苦痛を受けた」として東電に慰謝料を求める和解仲介を年内にも、原子力損害賠償紛争解決センターに集団で申し立てる準備を始めた。同地区は指定された世帯とされなかった世帯が混在し、住民間にあつれきが広がっているという。同地点を巡る集団申し立ては初めて。
指定世帯は避難してもしなくても、東電の賠償(1人月10万円)▽国民健康保険税と介護保険料の全額免除▽医療費無料−−などの支援がある。一方、指定されていない世帯に対し東電は「対象外」として賠償に応じておらず、住民間に格差を生んでいる。準備を進める地区復興委員会の大波栄之助会長(78)は「住民の絆が段々と薄まっているように感じる。精神的なダメージも大きい」と語る。
集団申し立てでは、1人当たり月35万円の慰謝料を求める方針。同地区約420世帯のうち指定されなかった約330世帯を対象に今後、復興委と原発被災者弁護団が説明会を開き参加者を募る。
同弁護団の丸山輝久団長は「指定世帯とそれ以外の区別があいまい。申し立てを通じ、指定の基準が正しかったのかどうかも問いたい」と話している。【小林洋子】
◇基準あいまい、隣でも差
「福島では私たちは被災者として扱われない。県外に行くしかない」。小国地区で工務店を営む秋葉良典さん(39)宅は指定を外れた。愛知県で借り上げ住宅が見つかり、妻と中学1年の長男、小学4年の長女を4月に自主避難させた。仕事の都合で秋葉さんは残り、親子離ればなれだ。「東電の補償も謝罪もない。ほんの少し家が離れただけで違いがありすぎる」と憤る。
市内128世帯の同地点のうち、約7割の90世帯が集中する小国地区。人口約1300人、同市南西部の山あいの農村だ。のどかな田園集落に、わずかな放射線量の違いが溝を作った。
市と国は「20ミリシーベルト超」の地点を基準としつつ、この地点の近くや「子どもや妊婦の有無」に配慮して指定先を選び、結果的に隣近所でも割れた。指定先や個別の理由は公表しておらず疑心暗鬼を生んだ。地区の人が集う夏の盆踊りは震災後開かれていない。秋の芋煮会が途絶えた集落もある。
一方、約2割の指定世帯も「白い目で見られている」「肩身が狭い」と漏らす。昨年11月に追加指定され、同市の別地区に避難する大波盛雄さん(70)は「ガラスにひびが入ったのと同じ。なかなか元の町には戻らない」と顔を曇らせる。
住民によると、8月に本格的に始まった市の除染で、指定を受けていない家よりも放射線量が低くなった指定世帯もあるという。市の担当者は「地域全体を(面的に)除染せねばならず、地点の解除はその後ではないか」と説明する。仮置き場がなく除染が滞る地域もあり、解除の見通しは立たない。【小林洋子】
◇特定避難勧奨地点
局所的に年間積算放射線量が高い、ホットスポットのうち20ミリシーベルトを超す恐れのある所を対象に、国が市町村と協議して世帯単位で指定する。昨年6月30日の伊達市を最初に南相馬市、川内村も合わせ計282世帯を指定、解除例はない。国が一律に避難を求める警戒区域などと異なり、避難するか否かの判断は住民に委ねられている。