今回、小沢氏は「数の力」よりも「理念の一致」を重視しているという。その結末やいかに
民主“分裂”秒読み!“小沢新党”真の狙いは?
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20120625/plt1206251811004-n1.htm
2012.06.25 夕刊フジ
★鈴木哲夫の核心リポート
民主党分裂が秒読みに入った。消費税増税を柱とする「社会保障と税の一体改革」関連法案の採決を目前に控えた先週末、小沢一郎元代表のグループ議員は「造反・離党姿勢」をさらに強め、野田佳彦首相側は引き留め・切り崩し工作に躍起になった。与党が過半数を維持するための「54人攻防」という見方もあるが、小沢氏自身はどう考えているのか。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が「壊し屋・小沢一郎」の本心に迫った。
この1週間、政治報道は「小沢新党」の動きをめぐって過熱している。「小沢グループは都内のホテルに陣取って結束確認」「新党次第で民主党は過半数割れ」「党執行部は切り崩し工作」…。
だが、私(鈴木)は、そうした永田町的喧騒には違和感を持たざるを得ない。取材を進めると、「数」や「ギラギラした権力闘争」と一線を引いているのが、今回の小沢氏だと思うからだ。
小沢グループの1年生議員は「いよいよ新党結成だから『できる限り数を集めなきゃ』と思っていたら、小沢さんはそうでもなかったので、非常に驚いた」といい、小沢氏について、こう語る。
「小沢さんは『一緒にやろうとついて来る人だけでいい。自分でどうするか考えればいい』と笑っている。純化路線というか、多数派工作を仕掛ける様子がない。『理念を大事にすれば、新党は大きな流れになる』という意味なんだろうが、小沢さんと話すと達観した心境のような気がする」
この半年、小沢氏は陸山会裁判を抱えながら、年齢や体力・気力と向き合い、政治家としての最後の仕事を計画的に進めてきた。にもかかわらず、外野は今ごろになって騒ぎ出した。
小沢氏が「新党もやむなし」と決断したのは、このリポート(1月6日発行号)で報じたように昨年12月。野田首相が党合同会議で消費税増税方針を明言した瞬間だ。このとき小沢氏は「民主党はもうダメだな」と、それまで一度も口にしなかったセリフを吐いた。
小沢氏は、年明けから動き始めた。
グループ内の1人ひとりに声をかけて、「愚直に一貫して訴えていこう。消費税増税は選挙で国民にした約束を破るもので政党の自殺行為だ」と説いた。3つあったグループを1つにまとめて「新しい政策研究会」(新政研)という新党のベースを整備してきた。
一方で、小沢氏には「長い時間かけて実現した政権交代と、二大政党を壊したくない」という未練もあった。野田首相が翻意して、党が再結束するならばそれで良かったのである。こうした心情は、小沢氏の言葉からも読み取れるという。消費税増税について「賛成できない」とは言ったが、「反対」という言葉を使わなかったのだ。
小沢氏周辺の解説。
「小沢さんは使い分けてきたと思う。『賛成できない』は党内論議の段階で使う言葉だが、『反対』は明らかに党の方針と違うという意思表示。つまり離党・新党しかないということ。先週21日の輿石東幹事長との会談後、小沢さんは『反対』という言葉を使うようになった」
ついに、民主党への決別宣言をしたのである。
小沢新党は果たして何人か。21日夕、ホテルの1室に結集したとき、離党届にサインしたのが小沢氏も含めて45人前後。その後、数人がサインしたとされ、48−50人少々が衆院採決で反対し、小沢新党に参加するものとみられる。小沢氏側近はいう。
「少数でも、国民生活を第一に、消費税増税に反対し、国の統治の仕組みを変える−などを訴える『理念型の政党』を作る。そうすれば、同じ理念型の『大阪維新の会(維新)』や『みんなの党』とも共闘できる。その後、もう一度、二大政党へと持っていく。今度の新党は、小沢氏が首相を目指したり権力を手にするものではない。政界再編への触媒になるためのものだ」
つまり、小沢氏は「枠組みを作るのが俺の最後の仕事。あとは若い議員たちがやればいい」と、そう考えているようだ。
《維新幹事長である大阪府の松井一郎知事は22日、『小沢グループの人たちと同じ価値観を持てるとは思えない』『組むことはない』と政党間で連携する考えはないと発言。東京都の石原慎太郎知事は同日の記者会見で、小沢氏らの動きについて『みんな私利私欲や我欲、保身だと世間は眺めている』と批判した》
小沢氏と行動をともにしてきた鳩山由紀夫元首相について、小沢グループでは「党代表選や菅内閣不信任案などで裏切られた。鳩山さんらは小沢新党の数に入れていない」(中堅)と語る。
《鳩山氏は24日、『消費税率を上げる前にやることがあると期待してくれた有権者に顔向けできない行動はしたくない』と増税法案採決に反対する意向を示したが、『離党は考えていない』と語った》
鳩山グループの展望だが「反対投票は7、8人。即離党せずに処分を待つ。除名されなければ党に残り、執行部に不満を持つ中間派の受け皿になる。除名なら鳩山グループで会派を作る。政局が見えないなか、小沢グループと共倒れを避けるため、連携しながらも別行動をとる」(グループ関係者)。
消費増税法案は26日に採決される見通し。反対・離党が54人を超えなければ、永田町は「民主党の過半数割れは阻止できた」と、小沢新党を過小評価するだろう。
しかし、「小沢新党=政界再編への触媒」と達観する小沢氏にとって、まだ序章でしかない。そんな批評は耳に入らないはずだ。
■すずき・てつお 1958年生まれ。早大卒。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部などを経て、現在、日本BS放送報道局長。著書に「政党が操る選挙報道」(集英社新書)、「汚れ役」(講談社)など。