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デフレ脱却を問う:日銀景気見通しは甘すぎ=水野・元審議委員--(ロイター)
[東京 9日 ロイター] 水野温氏・クレディスイス証券取締役副会長(元日銀審議委員)は、日銀が4月27日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)について「見通しが甘すぎるのは明らかだ」とし、欧州情勢は再び混迷する情勢となるなど「前提自体がすでに崩壊している」と指摘した。
日銀が現在金融緩和手段とし活用している「資産買入等基金」を中心とした包括緩和政策は、枠組みの限界がみえ始めていると指摘、長期国債購入を増額するなら、むしろ輪番オペを柔軟に活用した方が、機動的かつ市場機能を維持した政策運営が可能だとした。円高抑止を目的にした日銀による外債購入は、調整相手が増える分、機動的に動けず効果が薄いとした。ロイターとのインタビューで語った。
<見通し下ぶれなら、日銀は組織的に厳しい局面に>
水野氏は、足元の世界経済はその回復モメンタムが低下しているとし、すでに日銀の最新の景気見通しの前提は崩れているとみている。
日銀の展望リポートでは、12年度前半には緩やかな回復経路に復していくとの景気シナリオを示した。しかしその大前提となる海外経済の想定は「国際金融市場市場が総じて落ち着いて推移するとの想定のもとで、新興国・資源国にけん引される形で、徐々に成長率が高まっていく」というもの。
水野氏は「欧州のソブリン・金融危機に対する抜本的な解決が展望できていないというのが市場参加者のコンセンサス。新興国・資源国でも景気減速への対応からブラジル、インドの利下げ、中国の預金準備率引き下げなどの状況を踏まえると、日銀の見通しは楽観的だ」と指摘する。「13年度下期にデフレ脱却を展望できるシナリオを描くために、甘めの想定を置かざるをえなかったのではないかと推察される」とした。「日銀法改正をめぐる国会の動きなど、成長戦略の議論をせずに金融政策に甘える姿勢を見せていることにいらだっていることはよく理解できるが、こうした景気判断に沿って世界経済が回復していかない場合、追加緩和期待が高まるだけでなく、日本銀行は組織として政治的に非常に厳しい局面に追い込まれるリスクがある」と危惧(きぐ)する。
<対照的な白川総裁とバーナンキ議長のメッセージ>
世界経済の不透明感が強い中で、各国中央銀行総裁の市場との対話力も、金融市場へのセンチメントを左右すると水野氏は指摘する。
「FEDのバーナンキ議長は、4月25日の記者会見で、FOMC内の議論が若干インフレ・タカ派的な方向に振れているにもかかわらず、必要あらば追加感和を行う用意があるとする用心深い姿勢を見せることで市場に安心感を与えた。一方の白川総裁は、せっかく市場が期待していた緩和措置のメニューを決定したにもかかわらず、デフレ脱却は中央銀行だけで実現できないと追加緩和に消極的な姿勢を見せた。2人のトップの記者会見のトーンの違いが、その後の両国の株式市場の明暗を分けたと言える」とみている。
もちろん、中央銀行ができることは極めて限定的であることを理解しつつも、市場に安心感を与える発言を見せたバーナンキ議長の市場との対話の方が適切であったことは明らかだという。
<包括緩和は限界に、輪番オペを活用で機動的に>
4月27日に日銀はデフレ脱却を目指した追加緩和を実施。10兆円の長期国債購入や、国債購入の年限長期化、そのほかのリスク性資産の購入も打ち出され、市場の期待に沿う内容だった。
しかし「資産買入等基金を中心とした包括緩和政策の枠組みは限界がみえ始めている」と水野氏は指摘する。「多様な資産を購入することでスタートしたが、最近の購入対象はもっぱら国債が中心となっている。日本銀行の国債購入増加の結果、民間金融機関の国債投資の期待収益率が低下すると同時に、民間金融機関の国債ポートフォリオのデュレーションが長期化しやすい環境を作り、金利リスクの管理を難しくする」という面があるためだ。
このため水野氏は「むしろ国債買い切りオペ(いわゆる輪番オペ)を柔軟に活用した方が、機動的かつ市場機能を維持した金融政策運営ができる」と提言する。
円高抑止のため一部で取りざたされている日銀の外債購入に関して水野氏は、実施しても効果は限定的とみている。資産買入等基金で購入する外債の金額をあらかじめアナウンスすれば、為替市場に与えるインパクトは限定的になる。また、日本銀行が外債購入をする場合、為替政策の主管である財務省、米国の国債管理政策を担当する米国財務省や米連邦準備理事会(FRB)など、事前に調整する必要する必要のある関係者が多いためだ。このため「機動的な対応ができない。機動的でなければ、為替市場は驚きもしない」と指摘している。
ただ、日銀としても円高を止めることは難しそうだ。水野氏は「これだけ対外純資産を持ち、経常収支は黒字であり、介入していない国は日本だけ。放っておくと円高になりやすい構造になっている。たまたま今、貿易収支の赤字が定着しそうであり、為替相場は1ドル80円前後でとどまっている。基本的にはドル円相場は米国の経済と金融政策で動いている」と分析。
それでも日銀が為替を気にしているとのメッセージは、昨秋ごろから記者会見などで言及されている。「少なくとも、デフレ克服に向けて円高進行を止めるために、金融政策でも警戒している姿勢を見せることは重要」だという。
(ロイターニュース 中川泉 伊藤純夫)
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