165. 2012年5月08日 00:01:17 : bWQ9VmiR16
日本は、1950年代後半に核エネルギー技術を欧米から導入したが、当初より地震対策に真剣に取り組み、技術開発を重ねている。原子力発電所の耐震設計にあたっては、その保有する機能の重要性の観点から他産業施設の耐震設計と比較して非常に厳しい条件を課してきた。心臓部である原子炉格納容器の鉄筋コンクリートの厚みはおよそ1メートル、さらに、それが設置されている建屋の外壁の厚みも同程度ある。これが、岩盤の上に直接建設されている。つまり、日本列島の地表にある最も頑丈な建造物が、原子炉が設置されている建屋である。
ガラス張りの首相官邸や超高層の都庁舎などは防衛上脆弱だが、これとは反対に原子力施設は剛構造で強い。いわば、防衛上、日本最強の建造物ともいえる。原子炉格納容器のコンクリート壁の強度は、対戦車向けの可搬型ミサイルで攻撃されても、炉心が破壊されないほどである。この強度は、フランスの高速増殖炉スーパーフェニックスへの反対派によるテロ攻撃で証明済みである。しかも、ジャンボジェット旅客機が激突しても、原子炉格納容器は破壊されないことが予測されている。
原子力発電所の地震対策として、剛構造による耐震性のほかに、地震波を感知して、原子炉の核反応をいち早く自動停止させる機能を開発している。本震となるS波(3〜4km/秒)よりも早く到達する弱い振動のP波(5〜7km/秒)を感知して、原子炉内の核反応を急停止させるのである。日本の原子炉の自動停止機能は、P波(5〜7km/秒)を検知してから、およそ1秒以内で全制御棒が炉心に挿入されて核反応を停止できるように設計されている。
新潟県中越沖で、2007年7月16日10時13分に発生した地震(中越沖地震)は、日本の軽水炉などの核エネルギー施設の耐震性能の実力を知る契機となった。地震の規模はマグニチュード6.8で、震源の深さ17kmである。この地震は、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所に震度6強を与え、核エネルギー史上最大の震度となった(当時)。震度6強は日本の核エネルギー施設が想定する最大級の地震動であるので、これは注目すべき事象である。
柏崎刈羽の原子力発電所は、震源から23km(水平距離で16km)の位置にある。総出力821万キロワットの7基の原子炉からなる。そのうち当日稼働していた4基は、地震対策の設計どおりにP波(5〜7km/秒)を感知して、最大加速度を与えるS波(3〜4km/秒)が到達する前に、制御棒が平均1.2秒以内にすべて挿入されて、核反応が自動停止した。震災の当日稼働していた4基の原子炉の地震波記録を分析すると、1号機が最大加速度の地震を受ける6〜7秒前に、4基の原子炉すべての核反応が停止していたことになる。確かに安全機構が設計どおりに作動したといえる。
地震直後には核燃料のある原子炉内の水温は280℃近くの高温状態にあった。余震が続くなか、運転員たちは、運転中および起動中だった4基の原子炉を安全に100℃未満に冷却する操作に取り組んだ。この操作を半日以上にわたり的確に遂行し、炉心の冷却に成功した。
他の3基は定期点検中で、運転されていなかった。岩盤上に建設された強固な原子力施設本体の安全性は保たれ、二次放射線災害は誘発されなかった。
国連科学委員会はチェルノブイリ原発事故の後も、注意深く放射能汚染の人体への影響を研究してきました「UNSC 2008」。そして事故後20年間の研究結果を報告しています。その結果、今までのところ事故直後の高濃度の放射性ヨウ素に汚染されたミルクなどを摂取した子供に、通常よりも高い頻度で甲状腺癌が発生したことが判明しています。4000人ほどの甲状腺癌の患者が見つかり、現在までに15人が死亡してしまったそうです。また、事故の緊急作業に従事し、急性放射線症やその後の癌などで50人ほどが死亡してしまいました。しかし、それ以外の放射線による健康被害は現在のところ見つかっていません。
国連科学委員会のレポートによると、むしろ放射線の影響を厳しく管理しすぎて、強制移住などによる精神的な健康被害が多かったことを述べています。強制移住させられた住民は、精神的なストレスから、アルコール中毒やうつ病になって自殺するなどで平均寿命が短くなってしまうほどでした。これらは放射線とは直接関係ないものです。この事実は、今回の福島の原発事故に対する対応でも、大変参考になるのではないでしょうか。
チェルノブイリ原発事故の健康被害は、いっぺんに被曝するような原爆のデータをもとに当初考えていたよりも、遥かに軽微だったようです。よって、放射能の恐怖を煽ったり、避難生活を無理強いするよりも、なるべくコミュニティを維持させ、経済的な復興に力を入れるべきだというのが、長年の研究結果から示唆されます。
一般的に、死亡した人を解剖すると、実際には考えられていたよりも多くの人から甲状腺癌が見つかる事から(軽度の癌は生涯見つからずにそのまま放置される)、チェルノブイリ原発事故により甲状腺癌が増えたのは、入念な検診プロジェクトによって報告が増え、見かけ上増えただけだという研究結果もあります。しかしチェルノブイリ原発事故では、すぐには住民は避難させられず、高濃度の放射性ヨウ素を含む食べ物が周辺住民に流通したこと、また放射性ヨウ素は成長期の子供の甲状腺に貯まることが生理学的にも明らかなことなどから考えて、多少は報告が増えたことによるバイアスもあるかと思いますが、やはり健康被害を及ぼしたと考えるべきでしょう。
甲状腺癌は稀な癌で、通常1年の間に100万人に数人程度です。これが放射性ヨウ素の汚染により10万人に数人程度まで増えたのです。放射能による健康被害が証明されたのです。しかし、依然として、高濃度に放射能汚染されたミルクなどを摂取しても99.9%以上の人に何の被害もなかったことも、放射能を正しく恐れるために理解しておく必要があるでしょう。極めて頻度の低い癌の発生確率が、数倍から数十倍に上がったのは事実ですが、それでも癌の発生確率そのものは依然として非常に低いままなのです。