高速バス事故の事故の責任は、あなたにも私にもあるかもしれない。ブラック企業を生み出す「ブラック消費者」という問題
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32469
2012年05月04日(金) ふっしーのトキドキ投資旬報 藤野 英人 :現代ビジネス
藤岡市の関越自動車道を走行中の高速ツアーバスが道路左側の防音壁に衝突し、乗客45人が死傷、うち7名が死亡した事故は大変ショッキングな事故でした。運転手の居眠りが原因だと思われており、現在取り調べをされている最中です。本当にあってはならない事故であるし、亡くなられた方には心からご冥福をお祈りします。
現在はこの事件についてさまざまな問題提起がされています。高速バスそのものの安全性の問題、運転者のモラルの問題、運行会社の管理の問題、道路の構造問題、特に競争過多である路線バスのコスト削減競争が今回の事故原因の遠因ではないかという論点があり、確かにそれはそのとおりなんだろうと思います。もしバスの運転者が二人交代制であったならば、居眠りの問題は解消できたかもしれないし、一人体制よりも二人体制のほうが事故の発生確率はだいぶ抑えられるでしょう。
ただ実際には検証しなければいけないのが、路線の拡大以上に事故が増えているのかどうなのかも同時に議論する必要があります。どうしても事故そのものはゼロにするのは難しく、そのための安全技術の開発が求められることと、ヒューンマンエラーをどう抑えるのかという問題は分けて考えなければならないでしょう。
■年収300万円以下の層を狙った企業やサービスが伸びる
少し話は代わりますが、日本は構造的なデフレに苦しんでいます。たとえば1995年から現在までの日本の株価の値上がり率上位を見ると、ヤマダ電機、ファーストリテイリング(ユニクロ)、ニトリなどの会社が上位に来ます。デフレ対応に成功をした会社群たちです。
論者によっては彼らがデフレを引き起こしたというような議論がありますが、それはまったくの間違いで、原因と結果を混同しています。マーフィーの法則の中に、「飛行に乗ると機内サービスを始めるとよく気流が乱れる。結論:機内サービスが気流をまきおこす」というジョークがあります。そのようなものに近いです。
同じように民主党もデフレ対応で成功をした政党だといえるでしょう。格差是正を訴えて政権を奪取したのですが、その背景は年収300万円以下世帯が増えていることと関係あると思います。格差是正を訴えることが効果を発揮したのは格差が広がったからです。貧乏になったと思った怒りをうまく得票に変えたことが前回の民主党の勝利の最大の要因だと思います。
この日本の中で今も増えているのは、年収300万円以下の層であり、彼らに満足を与えるサービスや製品を提供している企業や組織が増えていったのは当然です。年収300万円以下の層は年々増えています。デフレ経済が続く限り、平均年収は下がり続けるし、ビジネスという意味ではそれに上手に対応をした会社が成功するのは今後も続くでしょう。
このデフレ経済に対応をするためには、消費者に対する価格を下げるための企業努力が必要になります。それは「消費者がのぞんでいるから」です。生産者や販売者は売値を安くしたい動機はあまりありません。売値を下げるのは厳しい経営努力が必要になるからです。売値を下げるには、相当なビジネスモデルの工夫が必要ですし、原価を下げるか、従業員やアルバイトに長時間労働をお願いするか、賃金を引き下げるか、従業員の数を減らすしかないわけです。
私は大学で教えているので定期的に大学生と会う機会がたくさんあります。すると面白いのは大学1、2年生は話の仕方とか礼儀とかまったくなっていないのですが、3、4年生になるとそれなりにこなれてくるのですね。それはなぜかというと、アルバイトをする(せざるをえない)からです。
家庭教師などもありますが、多くはサービス産業に流れていくわけです。飲食業などが特に多い。そうなると消費者の強烈さに驚きます。父や母に怒られたことはないのに、お客様はとても偉そうです。たかが居酒屋であっても、非常に高いサービスを求めています。お金は払いたくないけれどもサービス満点を求めているし、店側も激しい競争のためにそのために少しでもそのような期待に応えようと頑張ります。
結果的に、そういう厳しい消費者に鍛えられて、学生たちは相当にたくましくなっていきます。自分の娘や息子には怒鳴れないオヤジがお客様という立場になると物凄く横柄な口で従業員に威張りちらします。読者の皆様もそのような人たちを日常見ませんか?
■ブラック企業を生むバッドスパイラル
従業員に過重労働を強いるという「ブラック企業」を生み出しているのは、それにも増しておそろしい「ブラック消費者」とはいえないでしょうか。より安くよりよいサービスを求めるのは賢い消費者の条件であります。しかし、それが度を超えてブラック消費者になってしまってないでしょうか。
お客様は神様なのでしょうが、そのような客としての傲慢がその会社の従業員やアルバイトにしわ寄せを生んではいないでしょうか。タクシーの運転手のささいな口の利き方で腹を立てたりしていませんか。本来はサービスの受け手と出し手は平等なはずです。お客様に感謝をするのは商売人としては当たり前ですが、消費者としてもサービスの担い手にも感謝をするのが当然ではないかと思っています。
よりよくてより安いサービスを。しかし、それが行き過ぎてしまい、過当な価格競争をするのはサービスの提供者だけでなく受け手の行動にも原因があります。多少価格が高くてもより安全性の高いものがウケるということになれば、サービスの提供者も安全性を高くし少しコストをかけて、その中で価格競争をしていくでしょう。
社会全体で給料が下がっていく。給料が下がる中でやりくりをしなければいけない。だから、消費者とするとより安いサービスを提供する業者にいかざるをえない。そうなるとその業者で働く労働者にしわ寄せがくる。そしてその労働者に過重労働か賃金引き下げのプレッシャーがくる。するとその人自身がブラック消費者になって、飲食店で怒鳴る。――というバッドスパイラルが起きています。
ある意味では、今回の事故を引き起こした原因を知らず知らずにうちに私たち全員で作り出しているかもしれない。
この負の連鎖を断ち切るのはどうしたらよいのでしょうか。政府が悪い、政治が悪い、官僚が悪い、大企業が悪い、と言っても天に唾する様なもので、すべて私たちに帰ってきます。ならば、まず自分たちでできることから始めたらどうでしょうか。
より良いサービスにお金を払う、「適切に支払う」ということは私たちが今日から行動できることです。「安く」でも「高く」でもなく「適切に」です。ほんの少しのトレンドの変化が世の中を変えます。少なくとも今回の高速道路の事故を少しでも「自分事」と受け止めて、少しずつ行動を変えることが、このような悲惨な事故を減らす、遠回りなようで、一番確実な方法です。
ブラック消費者にならずに賢明な消費者になろうとすれば、それが日本経済を発展させることができるでしょう。ひとりひとりが日本経済を支えているのですから。