http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LZ2B231A74E901.html
2月8日(ブルームバーグ):イランの核開発疑惑やシリアの流血の弾圧、ギリシャのデフォルト(債務不履行)懸念を受けても市場は動じていない。各国中央銀行が、世界経済が崩壊するようなことのないよう先例のない措置を講じているからだ。
米株式相場のボラティリティ(価格変動率)を示す指標で、「恐怖指数」と呼ばれるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は今月3日に17.1と、昨年7月以来の低水準に達した。米国債の変動を測る指標、バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチのMOVE指数は今月6日に72.3と、2007年7月以来の低水準付近となった。為替相場のインプライド・ボラティリティを測るJPモルガン・チェースの指数は1月23日に10.2と、昨年3月以来の低水準を付けた。
地政学リスクは高まっているものの、投資家が手掛かりにするのは、景気支援に向け金利を押し下げ大量の資金供給を行う米国や欧州、中国の中央銀行当局者の動きだ。米シカゴのビアンコ・リサーチによれば、世界の6大中銀のバランスシートは06年以降、2倍強の13兆2000億ドル(約1000兆円)に膨らんだ。
ダブルライン・キャピタル(ロサンゼルス)で250億ドル相当の運用に携わるジェフリー・シャーマン氏は7日の電話インタビューで、「投資家は鎮静剤投与でまひしている」と述べ、「金融システムに資金がジャブジャブとあるため、ボラティリティの低下につながっている」と分析した。
@市場リターン
ボラティリティの低下を受け、株式相場は今年、18年で最高の出だしを見せているほか、国債利回りは過去最低に達し、商品価格は急上昇している。
S&P500種株価指数は11年10月3日に付けた安値から22.5%回復。欧州首脳による財政規律強化に向けた取り組みや、FRBが低金利政策を少なくとも14年遅くまで維持する方針を示したことが背景にある。
世界の社債相場は1月のリターンがプラス2.38%と、1998年のBOAメリルリンチのグローバル・ブロード・マーケット・コーポレート・アンド・ハイイールド指数の算出開始以降で最高のスタートを切っている。同社のソブリン債指数は今週、利回りが2.79%に低下。昨年11月は4.28%だった。商品市場では、S&P・GSCIトータル・リターン指数が昨年10月4日の安値から15.7%上昇している。
フィフス・サード・アセット・マネジメントの債券担当責任者、ミッチェル・ステープリー氏は7日の電話インタビューで、「金融システムへの流動性供給を維持することに専念する世界の中銀当局者を見落としてはいけない」と述べ、「08年の教訓から学んだことがあるとすれば、重要な変数は流動性ということだ。金融システムに流動性が供給されれば多くの苦しみを癒すことになる」と語った。
★デフレ脱却に向け高まる日銀への圧力−米国の物価上昇率2%明示で
(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LZ2B711A1I4H01.html)
2月9日(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)が2%の物価上昇率を目標に掲げるとともに、2014年終盤まで異例の低金利を続けると表明したのを受け、日本銀行に追加緩和を求める政治圧力が高まっている。米国が量的緩和第3弾(QE3)に踏み切れば日銀も一段の追加緩和に踏み切らざるを得ないとの声も出ている。
消費税率引き上げをめぐる論戦が続く国会で、景気の停滞と物価の下落が長く続いていることに対し、日銀へのいら立ちの声が強まっている。NHKで中継された7日午前の参院予算委員会では、白川方明総裁に対するやじが乱れ飛び、答弁をいったん中断せざるを得ないほどだった。
FRBは先月25日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、中長期的な物価上昇率の目標として2%を明示した。公明党の魚住裕一郎氏は同予算委でこれを引き合いに出して、日銀が物価の安定として、物価上昇率で1%中心としていることは「メッセージとして日本はデフレでいいと言っているようなものだ」と指摘。2%程度の物価安定目標を導入するとともに、さらなる緩和を実施すべきだと訴えた。
白川総裁は「日本の消費者物価は一貫して米国より低く、国民の物価観から離れた数字を示すのは難しい」と述べ、現在の枠組みを正当化したが、信州大学の真壁昭夫経済学部教授は「FRBの措置を受けて、日銀に対してデフレ脱却へのより強いコミットメント(約束)を求める声が高まるだろう」と指摘する。
@FOMC声明後に一時円高に
FOMC声明はまた、異例の低金利が続く時期を従来の「2013年半ばまで」から「14年終盤」に延長した。これに対し、日銀は物価の安定が展望できるまで実質ゼロ金利を続けると約束しているものの、具体的な時期までは示していない。FOMC声明の公表後、米国の緩和姿勢が一段と強まったとの見方から一時ドル安・円高が進行した。
山口広秀副総裁は2日の講演で「市場とのコミュニケーションの在り方を含め、客観的かつ冷静な目で不断に点検していくことが重要だ」と語った。その後の記者会見では、物価安定の考え方や金融政策運営の約束を変える可能性について「状況、状況で変え得るものだというのは一般論としてはあるのだろう」としながらも、「差し迫って今、そういう状況にあるとは思っていない」と述べた。
東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジストは先行きの金融政策運営の考え方を示す、いわゆる時間軸政策において、日銀がこれまでFRBに先行していたが、先月25日のFOMC声明により「追い越されてしまった」と指摘。「今後は政治的圧力がかかりやすく、特に時間軸はより明確な文言に追い込まれる公算が大きい」とみる。
@QE3ならドル安圧力
バーナンキFRB議長はFOMC後の会見で、今後の金融政策運営について、QE3が依然として検討対象となっていることを明らかにした。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「FRBがQE3に踏み切れば、それはドル安圧力をもたらす」と指摘。「日本を含め、各国の中央銀行は自国通貨の上昇圧力を回避するため、再び金融緩和を余儀なくされる恐れがある」とみる。
シティグループ証券の道家映二チーフJGBストラテジストは「永田町では今後、消費増税の是非をめぐる議論が活発化しよう。増税反対派の多くは、日銀の追加緩和によるデフレ脱却を主張している」と指摘。春以降の衆院解散・総選挙が視野に入る中で、「政界再編に向けた動きと絡め、日銀法改正論議の再燃など、日銀に対する政治圧力が強まりそうだ」とみている。