小沢一郎・独占インタビュー第2弾 「官邸は能天気だ!」(上)
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週刊朝日2012年01月27日号配信
消費増税の行方と解散時期
最大の山場だった民主党の小沢一郎元代表(69)の被告人質問が終わり、陸山会裁判の実質的な審理は終了した。その直後、野田政権は発足からわずか4カ月で内閣改造を断行し、消費増税法案の年度内提出に向けて狙いを定めた。政局はにわかに動き出している。"剛腕"は何を考え、狙っているのか。被告人質問の夜、本誌の単独インタビューに答えた。
−−陸山会裁判の山場である小沢さん自身の被告人質問が、1月11日に終わりました。率直な感想を聞かせてください。
一連の捜査は最初からすべて、僕が「不正なカネ」を受け取ったということを大前提にして進められてきたので、僕自身も、この事件で逮捕・起訴された僕の元秘書3人も、この3年間、非常にしんどい思いをし、無念の思いできました。
それでも昨年12月の公判で、元東京地検特捜部の田代政弘検事による捜査報告書の「捏造」疑惑などが飛び出し、あらぬ疑いがいろんな形で晴れてきたので、まあ、忍耐、苦労のしがいがあったと思います。国民みんなが徐々にわかってきてくれたということで自分を慰めて、自己満足するしかないかな、という気持ちですね。(笑い)
−−被告人質問では、裁判の焦点の一つとなっている「現金4億円」の原資について、(1)両親から相続した東京・湯島の自宅を14億〜15億円で売却し、現在の自宅を9億円前後で購入した残金(2)東京・上野の土地を相続し、売却した1億円前後(3)著書の印税8千万円などの収入計1億6千万〜7千万円−−などと具体的に説明しました。
すべて説明しましたよ。そもそも、検察が強制捜査をしても、不正は何もなかったんです。「不正なカネ」を取ったということを前提とした「見込み捜査」から始まっているから、何ともしようがないんですが、結果として、国民の皆さんもだんだんと真相がわかってきてくれているようだから、それで「よし」とする以外にないですね。
−−2日間の被告人質問で、話すべきことは話したという感触はありますか。
検察官役の指定弁護士もほかに聞くことがないからだろうけれど、同じことを何度も何度も聞いてくるんです。裁判官の質問にも答えましたが、政治資金収支報告書をいちいち細かく見ている国会議員なんていません。法律の趣旨に照らしてどうかと聞かれても、確かにそれがいいというわけじゃないけれど、現実問題として、収支報告書の中身を細かく把握する物理的・精神的余裕はない。
それに、これも裁判で何度も言いましたが、収支報告書は、1年間の資金の出入りを書くという非常に単純な作業です。普通の能力を持っている人間ならば誰でもできることで、それを秘書に任せているわけです。議員がすべてを検証するのは不可能だし、議員自身が検証しなければならないのなら、秘書は必要ないということになります。
−−小沢さんの被告人質問のさなか、永田町で浮上したのが内閣改造論です。野田政権は1月13日、発足からわずか4カ月で改造人事に踏み切りました。参院で問責決議を受けた小沢グループの一川保夫・前防衛相と山岡賢次・前消費者担当相兼国家公安委員長も交代しました。
グループがどうこうというよりも、問題は、4カ月で大臣を次々と代えざるを得ない状態になっていることです。ちょっと尋常ではないですね......。
それでも改造人事をするならば、国会運営の一環としてやらないと意味がないけれど、見ていると、ただ「代えたからいいでしょ」ということだけでしょう。
通常国会が始まる直前のこの時期に人事を行うというのも異例のことで、基本的にはおかしい。新年度の予算編成は昨年末に終わっているわけですからね。新大臣は、自分で予算編成をしていないから、国会で質問されても答えられない。そうなれば、野田首相がすべて代わりに答えなくちゃいけないことになる。
そういう筋道のおかしさもあるけれども、そもそも、いま野田さんが国会運営の全体像をどう見ているのかよくわかりません。そんな中で、消費増税だけは「やる、やる」と言い張っているんですから。(苦笑)
◆国会直前の改造、正直わからない◆
−−今回の改造は政権浮揚につながりますか。
人事と絡ませるのはいい手段ではありませんが、それでもあえて人を代えるなら、通常は、それに関連していろいろと国会運営を巡る与野党間の話し合いがあってしかるべきです。だけれど、そんなことをやっているフシもない。
本来の議会制民主主義では、どんなに与野党が対立しているときでも、国会対策委員会と議院運営委員会では、つながっているものです。いまの与野党間にそれがないとしたら、もう何を変えてもうまくいかないと思う。
−−今回の人事では、平野博文前国対委員長が、文部科学相になりました。
国会開会の直前に、まったく新しい人を国対委員長に起用するというのは、正直、ちょっと何を考えているのかわかりません。大臣を交代させ、ましてや国対委員長まで代えて、10日後に始まる国会をちゃんとやれと言っても、そう簡単にいくもんじゃない。そこまで考えが及ばないということなんでしょうかね。
−−野田首相が本当に消費増税法案を出すかどうかはともかく、少なくとも野党はこれから年度末に向けて予算関連法案を"人質"に衆院解散・総選挙への圧力を強めてきます。打開策はありますか。
野党は、赤字国債発行に必要な特例公債法案よりも、むしろ「交付国債」に反対するでしょう。将来の消費増税による返済を当て込んで、基礎年金の国庫負担財源2・6兆円をまかなうというものですが、あれは本来、赤字国債を出せばいい話です。それを、単に見かけ上の国債発行額を抑えるために、一般会計に計上しなくて済む交付国債にしようとしている。子供だましもいいところです。なぜこういうことをやるのかなあという気がします。
困った状況ですね。文字どおり、メルトダウンの感じになってきた。(苦笑)
−−それが冗談に聞こえないところが、悲しいところです。小沢さんの裁判は4月に終わる予定ですが、そこまで政治状況が待ってくれますか。
メディアの最新の世論調査では、だいたい内閣支持率が30%、不支持率が50%と、20ポイントの差がついています。今後、支持率が20%程度になることもあり得る。そうなると大変ですよ。よく「支持率が1%になっても辞めない」というような話を聞きますが、実際はそうはいかないです。
こんな状況にもかかわらず、野田首相は3月末までに消費増税法案を出すと言っています。でも、法案提出にさえ党内は反対するでしょう。私自身、反対します。
−−やはり小沢さんは、消費税をいま上げることには反対ですか。
以前から言っていますが、賛成できません。やはり、順番が決定的に違う。われわれの国民との約束は、まず霞が関への権力集中をなくして、地域主権を進めることです。それに伴って補助金制度、特殊法人・独立行政法人、特別会計などを抜本改革する。そうすることによって国、地方を通じて徹底的に無駄なお金をなくし、「国民の生活が第一。」の政策を実行する財源を作る。それでもなお財源が足りなければ、次の任期中に税制改正をやりましょう、というのが民主党の約束した改革の順番です。
−−小沢さんはずっと、特別会計を含む国家予算の全面組み替えで財源は出ると言っていますが、いまからでもできますか。
それはできます。総理がその気になればね。でも、いままでと同じ方法で各省庁の要求どおりに予算編成をしていたら、財源なんて出るわけがありません。われわれの主張は、明治以来続く官僚主体の中央集権の国家機構を革命的に変えよう、ということなんです。だから、それに抵抗があるのは当たり前ですけれども、「官僚の壁」は突破しなければならない。
◇
小沢一郎・独占インタビュー第2弾 「官邸は能天気だ!」(下)
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最大の山場だった民主党の小沢一郎元代表(69)の被告人質問が終わり、陸山会裁判の実質的な審理は終了した。その直後、野田政権は発足からわずか4カ月で内閣改造を断行し、消費増税法案の年度内提出に向けて狙いを定めた。政局はにわかに動き出している。"剛腕"は何を考え、狙っているのか。被告人質問の夜、本誌の単独インタビューに答えた。
◆法案は通らない、そして解散に...◆
−−小沢さん自身は、今後の政局がどうなったらどう動くというシミュレーションはしているのですか。
考えていますよ。やはり外部要因としては、世論調査の影響が大きい。なぜかというと、いまの民主党議員はマスコミの世論調査結果に敏感に反応して、すぐに右往左往するでしょ。その時々の国民の雰囲気が党内に伝わり、「これでは、とてもダメだ」という話になってしまう。
−−前回のインタビューで小沢さんは「年内に衆院解散がある」と断言しましたが、こんな状況で野田首相は解散できますか。
年内に解散・総選挙はあると思います。だけれど、野田さんができるかどうかはわからない。
野田首相は「解散する」と脅しているけれど、野党が「解散しろ」と言っているんだから、脅しになっていない。あれは本当に不思議です。「解散するぞ」と言っても、誰も驚きません。野党としてはむしろ、解散してくれるならば、なおさら法案を通さないほうがいい、ということになるんです。
−−解散・総選挙があるとすれば、野田首相が代わったときということですか。
このまま野田首相が辞めざるを得ない状況になるかもしれませんが、そこで首相が代わっても、結局、選挙管理内閣ですね。「夏までに選挙します」とか約束して交代する以外ないんじゃないでしょうか。
−−その場合、選挙の争点は何になりますか。
恐らく消費増税法案は通らない。それで野田首相が代われば、民主党全体が消費増税反対ということになる(笑い)。やはり、これはわからないですね。政界再編の動きになるかもしれないし......。
いま解散して選挙になっても、民主党も自民党も過半数を取れません。票はほかに行ってしまう。
世論調査では、みんなの党の支持率が上がっていますし、橋下徹大阪市長の「大阪維新の会」が出てくれば、関西は維新の会に取られてしまう。地方では何だかんだ言っても自民党が強いし、浮動票がこなければ、民主党は勝てません。
民主党はとにかく、マニフェストの原点に戻らなければ、何を言っても、何をやっても、国民に信用されません。民主党に限らず、既成政党のすべてが信用されなくなっている。だから、まだ世間で中身がよく知られていない、みんなの党や維新の会に浮動票が行ってしまうんです。
−−どうするんですか。
僕は、みんながのほほんとしているのが不思議でならない。ヒステリックなくらい本気にならないといけないはずなんですが......。
このままでは、国民は政党不信、民主主義不信になってしまう。それがいちばん怖い。どこも過半数を取れないとなると、もう何も決められません。政権すら決まらない。悲劇ですよ。
現時点では、僕は民主党でやり直したいと思っています。ただ、いまのような体質、態勢で本当にやり直しがきくか、ということです。すべては、そこのところですね......。
−−小沢さんは1月3日に、地元・岩手の被災地に入りました。昨年3月に県庁を訪れましたが、被災地入りは震災後初めてでした。どのような印象でしたか。
予想どおりひどいものです。僕がかつて街頭演説したり戸別訪問したりした場所が、みんななくなっちゃっているんだもの。
今回は、岩手県の達増拓也知事が「正月は被災地の激励かたがた一緒に回ろう」というので行きました。僕が帰るなんて誰も予想していなかったから、みんなびっくりしていましたよ。地元は「帰ってくるわけねえ」と思っていますからね(笑い)。みんな僕の立場も、裁判を抱えていることもわかっていますから、お互い激励し合いました。「オレもがんばっから、みんなもがんばれい!」ってね。
震災直後から達増知事と打ち合わせながら手を打ってきましたが、現地の見舞いなどは若い人たちに任せて、僕は当面の応急手当てと制度を整えることに専念してきました。
今回、被災地を回って改めて強く感じたのは、やはり基本の制度を改革しないと、この国はダメだということです。一つは危機管理制度の確立。もう一つは中央集権から地域主権への転換です。財源と権限を地方に移すことです。そして、福島原発事故への対応ですね。やはり小手先ではダメです。根本から変えないとどうしようもない。
確かに、被災地には復興関連で多額のカネが入ってきていますが、基本的ビジョンが何もないままです。復興景気で恩恵を受けている人もいますが、被災地全体の、国民全体の暮らしをどうするか、という視点がありません。
◆世界経済の危機、僕なら対策ある
−−本来は国がしっかりやるべき話ですよね。
そりゃそうですよ。だからまず、この国の旧体制を打破しなくてはならない。まるで橋下市長みたいな主張になっちゃいますが(笑い)。実は彼とは、旧体制をぶっ壊さなきゃ新しい国民のためのシステムはできない、という考えでは共通しています。これは僕が20年近く前に『日本改造計画』を出したころから掲げている主張で、僕が言い出しっぺだと思っているんですけれどね。
本当は、大震災後の今が官僚の旧体制をぶっ壊すのにいい機会なんです。旧態依然の官僚機構をつぶして、官僚の能力をちゃんと発揮させる仕組みを作らないといけない。政治家がきちっとした理念を示し、具体策を示せば、官僚は絶対についてくる。僕は確信を持っています。だからこそ、政治家が官僚を納得させるだけの見識と能力をもっていなきゃいけないんです。
日本はもうおかしくなってしまっている。それなのに、官邸が能天気なのが不思議です。自民党政権時代の末期も首相が1年ごとに代わりましたが、それでも当時の首相たちは日本のことを一生懸命考えていたと思います。だけれども、民主党はなんか能天気なんですね。権力を楽しむのはいいけれど、実態は官僚任せになってしまっているのが問題です。
−−ユーロ危機を持ち出すまでもなく、世界経済は深刻な状況です。今のような政治の混沌は、この国の致命傷になりかねません。
本当にそう思います。致命傷だと思いますよ。だから、そのときに日本人が、民意がどう動くかですね。
ユーロ危機は、どうしようもないところまできています。米国だってどうなるかわからない。この3〜4月あたりは、大変なことになっているんじゃないか。そんな気がします。世界経済が混乱し、中国経済が減速して落ち込んでいったら、日本経済も大きなダメージを受ける。そんななかで政治が機能しないのでは、どうにもなりません。
−−対策はないんですか。
僕はいま、何かできる立場じゃないですから。
−−立場だったとすれば?
その立場になれば別ですよ。それは、いくらでも方法があります。日本には能力もお金もあるんですからね。思い切ってやれば、やりようはいくらでもありますよ。
(構成 本誌・鈴木毅)
※本文は内閣改造後に一部追加しました。