台湾はシンガポールになれず−中国移転で製造業空洞化、英語力も壁 [11/07/04]
台湾で暮らすウ・ウェンナンさんは10年前、電子機器の受託生産を手掛ける富士康(フォ
ックスコン)の台湾工場に勤め、1カ月に726米ドル(約5万9000円)を稼いでいた。今は
雑誌を売り歩き、慈善団体から施しをもらう日々だ。
ウさん(47)は台北の地下鉄駅近くで、ホームレスが販売する雑誌「ビッグイシュー」
を手に、「会社が中国に製造ラインを移してから無職になった。自分には大きな変化に必要
な技能がないんだ」と話す。
ウさんは、台湾が製造拠点として成功を収めた時代を生きてきた。1960年代はバービー
人形や衣料品、最近30年間はコンピューターや携帯電話端末の生産の中心地だった。だが、
政策当局が投資規制緩和や金融、輸送、観光へのてこ入れを実施するのが遅かったことから
、台湾の雇用創出は阻害され、所得も伸び悩んだ。
政治的に対立してきた台湾と中国との関係改善を受け、台湾メーカーはコストの安い中国
本土に次々と工場を移転。台湾は新たな成長産業を育てることができず、シンガポールと
香港に後れを取った。台湾の野党は、馬英九総統が推進した中国との経済関係強化が労働者
に打撃を与えたとの批判を強めている。馬総統は来年1月の総統選に向け、野党・民主進歩
党の蔡英文主席と接戦を展開している。
台湾の最高学術研究機関、中央研究院の研究員で台湾経済に関する著作がある瞿宛文氏は
、「台湾がしてきたことは少な過ぎる上に遅過ぎた」と指摘、「台湾のサービス部門の能力
は極めて限られている。この部門の開放があまりに遅れたことが原因だ」と述べた。
■構造的
内需関連の台湾企業、例えば食品供給で台湾最大手の統一企業は、2010年に売上高が18%
増加にとどまったが、台湾系の企業グループ、富士康の中心企業、鴻海精密工業は中国本土
での低コストでの生産の恩恵を受け、53%の増収率となった。富士康は現在、米アップルの
スマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」やタブレット型コン
ピューター「iPad(アイパッド)」を受託生産している。
台湾が中国本土への投資を解禁したのは1991年。当局のデータによると、それ以降に認可
されたプロジェクト数は3万8685件で、本土では少なくとも合計およそ770万人分の雇用が
創出されている。一方、台湾製造業の雇用者数は今年5月時点で290万人。台湾の失業率は
4.4%と米国の半分未満だが、シンガポールに比べると倍以上で、香港と韓国の水準も上回る。
キャピタル・エコノミクスのエコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏(ロンドン在勤)は
、「これは景気循環的なものでなく構造的な問題だ。大手企業の多くが台湾海峡を渡り、
それを埋め合わせるだけの新たな雇用は生まれていない」と述べた。
ソース:Bloomberg.co.jp
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=arpGUXc48dZk