クローズアップ2011:東電株主総会「脱原発」否決 「高リスク」認識広がる
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110629ddm003020075000c.html
毎日新聞 2011年6月29日 東京朝刊
28日開かれた東京電力の6時間超のロングラン株主総会では、脱原発を訴える株主提案は否決されたものの、福島第1原発が立地する福島県内の2自治体が株主として脱原発議案に賛成するなど、原発見直しの動きが広がりつつあることが浮き彫りになった。また、事故が起きると巨額の費用負担が発生する「原発リスク」への懸念を表明する株主も多く、「国策民営」で進められてきた原子力政策の見直しにつながる可能性もある。
「今回の事態を引き起こして申し訳なく思うが、法令に定める安全運営にあたってきた」(勝俣恒久会長)。経営責任の回避に懸命な東電経営陣の声は、「津波の問題は過去にも指摘してきたじゃないか」と追及する株主の怒声にかき消された。
株主総会では、福島第1原発事故問題に質問が集中。402人の株主から出された(1)古い原発から順に停止・廃炉とする(2)原発の新増設は行わない−−との「脱原発」提案がどれだけ賛成を集めるかが最大の焦点だった。これまでの総会でも同様の提案や質問はあったが、賛成は5%程度にとどまっていた。
しかし今回は、福島第1原発の地元・福島県の南相馬市と白河市が賛成に回るなどして、賛成比率は約8%と小幅ながら増えた。東電の株式の6割超は法人が保有しており、「当面は原発に頼らざるを得ないのが現実」とする大株主から東電は委任状を集めていた。賛成票の大部分は個人株主と見られ、しがらみの無い一般株主の間に「脱原発」の動きが広がりつつあることが裏付けられた。
株主提案を主導した市民団体「脱原発・東電株主運動」は総会後、「(議案が否決され)不十分だったが、いろいろな意見を出せて、大勢の人が賛同してくれて一歩前進した」と評価。東電幹部も「事故を目の当たりにした株主の考えが変化した」と目を見張る。
一方、原発事故発生後初という節目の総会で、会社側の対応に不満を示す株主も。大阪府からバスで駆けつけたという女性(65)は「ガス抜きをされているように感じた。原発事故に関しての説明にも納得がいかなかった」。東京都清瀬市の無職、田村欽司さん(65)は「勝俣会長は過半数の委任状を盾に強気の議事進行をし、形だけ出席者に発言を求めた」と話す。
また、国が主導する原子力政策を民間の電力会社が実行する「国策民営」の限界を指摘する声が相次いだのも今回の総会の特徴だ。ある議決権行使助言機関は「原発は民間企業が事業として取り組むにはリスクが大きすぎる」として、総会前に脱原発議案への賛成を投資家に提案。東電の総会では「当局の指示の下で原発をやってきた立場を主張すべきだ」との意見が株主から出されたほか、同日の九州電力の総会でも「原発は高い代償を払わないといけない。株主にとって大変迷惑だ」、浜岡原発を全基停止した中部電力の総会では「(事故の)損害賠償で会社がつぶれかねない高リスク事業だ」などの意見が出された。
スタンダード&プアーズの柴田宏樹上席アナリストは「民間企業が原発リスクをすべて負うのは厳しい。エネルギー基本計画の見直しの中で、政府の原発に対する役割をしっかりと議論すべきだ」と指摘する。株主から「リスクの高い原発事業はやめるべきだ」として、“原発国有化”も視野に入れた議論が強まれば、国策民営を前提としてきた従来の原子力政策は根本的な見直しを迫られることになる。【立山清也、袴田貴行、喜浦遊】
◇「無配あと何年続く」 不安強まる株主、役員に怒声も
「今の株価を知っているのか」「無配はあと何年続くのか」。福島第1原発事故での巨額の賠償負担や火力発電への切り替えによる燃料費負担を抱えながら、東電は本当に再生できるのか。経営の先行きに不安を募らせる株主のいら立ちの声が役員に浴びせられた。
配当と株価が安定していた東電株は安定株の代表銘柄とされ、「配当を年金代わりに」と退職金などをつぎこんで購入した投資家が多かった。しかし、原発事故前に2000円台で推移していた株価は300円台に急落。事故の賠償負担の規模が見えない上、国から資金支援を受ける枠組みを定めた「原子力損害賠償支援機構法案」の審議入りが国会の混乱で遅れており、株主の不安は強まっている。
格付け会社が東電の格付けを下げる動きも相次ぎ、勝俣恒久会長は株主総会で「非常に気にしている。低い評価になっているのは申し訳ない」と陳謝。今後の経営については支援機構法案の早期成立という国頼みの答弁を繰り返すしかなかった。
同法案が成立しても、東電は毎年の利益の大部分は賠償支払いに充てる「生かさず、殺さず」(出席した株主)の状態で、早期の復配や株価回復のめどはない。政治の混乱で同法案が廃案などになれば、法的整理に追い込まれる可能性すら残っている。株主からは「(法的整理に追い込まれて株が)紙くずになるのではないか」と心配する声もあった。
総会終盤には、男性株主が「我々株主には希望が欲しい。希望を述べてください」と迫る場面も。しかし勝俣会長は「残念ながら今ははっきりとした希望が見えていない」としか言えなかった。総会後、株主の東京都内の主婦(61)は「一時国有化でもしてまっさらからスタートした方がいい」と話していた。【三沢耕平、和田憲二】
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