http://www.the-journal.jp/contents/futami/2011/02/post_34.html
選挙の予想ほど難しいものはない。名古屋市長選のことである。全国屈指の「民主党王国」の愛知・名古屋で、民主党と連合が推薦し、自民党も支援している石田候補は、いくら知名度が高いとはいえ、組織を持たない河村候補にかなりの差をつけて、優位に戦いの駒を進めているだろうと思っていた。なにしろ、仙谷代表代行、岡田幹事長始め、党幹部、閣僚級が現地に乗り込み、党本部選対が全国会議員に「一人500件の電話をせよ」と檄を飛ばしているのだから、常識的には石田が圧勝して当然なのだ。ところが、である。朝日、読売、毎日、中日など新聞各社の情勢分析では河村優勢である。民主党支持者の70%は河村支持だという報道もある。また、投票日の2月6日には市議会の解散の是非を問う住民投票も行われ、河村が主導した「解散」が世論調査では50%を超えているとのことである。
私は河村たかしとは新進党時代、同じ釜の飯を食った仲間である。彼は、1998年に施行された民間の非営利団体に法人格を与えるNPO 法制定の中心的役割を果たしたが、どちらかといえば、目立ちたがり屋で、奇抜な発想・政策提言をする政治家だった。税金で補てんする国会議員の議員年金を廃止するよう働きかけたのも河村で、今では、国会議員年金制度は廃止され、地方議員の年金制度も廃止される運命にある。私も議員年金制度の廃止の影響を受けた一人だが、無名の庶民の感覚で問題点を浮き彫りにする能力は抜群といえるだろう。
石田候補は民主党衆議院議員であり、河村も元民主党衆議院議員である。事実上の一騎討ちになっている二人の違いは何か。それは「税」だろう。石田を全面的に支援している菅民主党と自民党は「まず消費税増税ありき」の増税路線である。一方、河村は市民税10%減税を実践した「減税路線」である。
熱烈な民主党支持者で名古屋在住の私の友人は「菅は政権交代の民意を裏切って『官』に屈し、旧勢力に操を売った。平気で増税しようとする菅民主党は応援できない。『毒を以って毒を制する』のだ」という。「国民の生活が第一」に共鳴して政権交代させた民主党支持者は石田と河村のどちらが政権交代の民意に近いのか、草の根において判断を求められている。
地方主権にとって河村が投じた一石は大きい。国の指導監督から独立しようということだ。国に抵抗して実施した「減税」は市民の可処分所得を増やし、生活レベルからの景気対策にもなるが、そのための恒久財源を生み出すためには議員歳費の削減だけでは不十分で、不要不急の事業の休廃止、市職員の給与体系の見直しなど徹底した行財政改革が必要である。これを国の指導ではなく、彼自身の能力、裁量と腕力でやり遂げなければならないのだ。同じ課題は、石田が当選しても避けて通れないことではある。
私は地方主権を妨害する最後の強固な岸壁は、一部を除く首長と地方議員だと「確信」している。地方自治体の仕事の大半は国の下請けである。首長は国の下請け事業を無難にこなし、議員はオール与党というぬるま湯に漬かっているようでは、本音では、地方主権は嫌だろう。しかし、地方主権=我々が住む街づくりのためには、高い見識と能力をもった首長とそれを監視し、場合によっては励まし或いは批判する質の高い議会が不可欠なのである。市民のレベルもあわせて試されている。
名古屋の市長選は特殊なものではない。「増税路線」か「国民の生活第一路線」かの選択だけでなく、結果の如何を問わず、地方主権、議会のあり方に貴重な教材を提供してくれるだろう。
http://www.asyura2.com/11/senkyo106/msg/375.html