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ZDNN 2003年10月9日 10:53 PM 更新
坂村教授の講演は「ユビキタス」よりまずは「反論」【zdnet 記事】
http://www.zdnet.co.jp/news/0310/09/nj00_sakamura.html
講演のテーマは「ユビキタスコンピューティング環境の実現に向けて」と
題されていたが、まずは、先日のT-Engineフォーラムにマイクロソフトが
参加した件に対する報道への反論から始まった。
CEATEC JAPAN 2003の初日に行われた特別講演。トップの出井氏に続い
て登場したのは「ユビキタス」東京大学大学院の坂村健教授だ。
「マイクロソフトからストップオプションをもらったのか」から始まっ
て「共通の敵であるLinuxに対抗するための協力か」「ソフトがすべてタ
ダなんて資本主義の国を崩壊させる行為だ、と言ったのですか」などなど、
かなりきわどい報道まで、一枚一枚スライドを用意してていねいに反論を
する坂村教授。いつも熱烈な講演を行う教授だが、この反論講演はいつに
もましてエキサイティングな語り口調で進んでいった。
当然ながら、これらの報道を否定していくわけだがとくに強く反論して
いたのが「どうしてTRONが敵を作らなければならないのか」。
いきなり「見ぬもの清し」とだけ書かれたスライドから始まった講演。
「私が言っていないことが、記者の感想と交じって報道されていくうちに、
私が言ったことになっている」と口調はどんどんヒートアップ。「見なけ
れば気にすることもないのでしょうが」
ひとしきり反論したところで水を飲んでクールダウン。「スタッフに“あ
まり興奮するな”と言われておりまして」
マイクロソフトとの提携だけが大きく取り上げられているが、坂村教授
が代表を務めるT-Engineフォーラムは、共通の敵と報じられているLinux
のモンタビスタともT-Engineに対応した組み込みLinuxの開発で提携を結
んでいる。
T-Engineと提携しているOS陣営はLinuxだけでない。このほかにも組み
込みjavaでサンマイクロシステムズやアプリックスなどと提携している。
この輪の中に今回Windows CE.NETが新たに加わっただけ。
そもそも、OSとしての性質がTRONとWindowsとでは違う、というのがOS
開発者の坂村教授の考えでもある。このことは、マイクロソフトと提携を
結んだときの会見でも述べているが、今回の講演でも「機械相手のOSであ
るTRONと、人間相手の情報処理OSであるWindowsやLinuxが争うことは技術
的に言ってもありえない」と主張している。
その理由として坂村教授は、「OSの講義のように」リアルタイムカーネ
ルのスケジューリングの違いに焦点をあてて、イベントの発生を常に監視
し、発生したイベントの優先順位で処理のスケジュールを行うイベントド
リブン方式のハードリアルタイムOS、イベントの発生と関係なく一定時間
ごとにイベント処理のスケジュールを行うラウンドロビン方式のソフトリ
アルタイムOS、といった技術的相違から解説を行ってる。
ソフトリアルタイムの情報処理系OSはユーザーインタフェースを中心に
処理を行うもので、数ミリ程度の応答を扱い、機械制御や通信制御で必要
となるマイクロ秒を扱うには技術的な限界がある、というのが坂村教授の
考え。マイクロ秒単位の処理を行うにはハードリアルタイムで動作する組
み込み系のOSが必須になるのだ。
「昔は組み込んだリアルタイムOSしか動かすことができなかったが、最
近では、携帯電話でRFの制御は組み込み型OS、個人情報の管理はPCと同じ
ような情報処理系OSでという考え方がユビキタスの進化のなかで出てきて
いる。目的に応じてどちらかを選ぶということになるわけだ」と坂村教授
は述べ、「TRONとWindowsが戦うとか、TRONとLinuxが戦うとかというのは
技術的におかしい」と主張している。
「なんか授業みたいになってしまいますが。私、大学院でOSの講義をして
いますから」と言いながら、タスク割り当ての仕組みからTRONとWindows、
Linuxの相違を説明する坂村教授
Windows、LinuxとTRONの一連の反論の中で示された、TRONと「ゲストOS」
の関係。WindowsもLinuxもハードリアルタイムを要求される組み込みOSに、
情報系処理を提供するために実装される「ゲストOS」という立場になる。
その意味では、WindowsもLinuxもjavaもT-Kernelからみればまったく同じ
関係なのだ
情報系OSを組み込みOSのゲストにしてリアルタイム化するには、(1)完
全に並列にして別々に動かす、(2)並列にするがデータは共有する、(3)
完全に組み込みOSの上に実装してしまう、の方法が選択できる。求められ
る応答速度の問題から「情報系のOSをベースにしてリアルタイムシステム
を構築するのは不可能」(坂村教授)
そこでT-Engineでは、並列にしながらも、プロセス通信を行う「T-Bus」
を使ってデータを共有する方法を採用している。T-Engineから入ってくる
イベントの割り込みはT-Kernelが取得し、割り込みスケジューリングやデ
ータの同期通信をT-Bus経由で行う。そのうえでWindows CEが処理するス
レッドはWindows CE.NETのカーネルが、T-Kernelが処理するタスクは
T-Kernelがそれぞれ担当することになる
坂村教授が激しく反応したもう一つの「報道」が「GPLは知的財産権を
放棄する考え方だ、などと言ったのですか」「Linuxのモデルは国を滅ぼ
すなどと(マイクロソフトの)古川さんと意見が一致したのですか」「ソ
フトがすべてタダなんて資本主義の国を崩壊させる行為だ、などといった
のですか」という、ソフトウェアのライセンスと「価格」に関する発言。
坂村教授は「そのような発言は言っていない」と報道を否定(ただし、
資本主義の国を崩壊させる云々、については「フリーの意味は“タダ”で
はなく“自由”。価格をつけるのもタダで配るのも自由であるということ。
みんなが全部タダにしたらソフト産業が成り立たなくなる、という意味で
言ったと説明)。
坂村教授は「オープンな組み込みプラットフォームを作る」という
T-Engineの戦略の説明のなかで、「組み込みOSのカーネルでお金をもらう
のは難しくなっている。そのため、どこの部分をタダにしてどこの部分を
タダにしないのかが、産業として重要になってきている。そして共通にし
たほうがいいところと、標準にしなくてもいいところを分けるのが、世界
的な流れになっている」と述べている。
この標準を決めるのは、昔は政府や国際機関であり、今は「勝ったもの
が標準を決める」(坂村教授)とも言うべきデファクトスタンダード方式。
しかし「PCと比べて膨大な数がでる組み込みOSの世界で、特定の企業にロ
イヤリティーが集中するのは問題である」ということで「今、注目されて
いるのがアソシエーション方式、言い換えればフォーラム方式」が、坂村
教授が述べる世界の流れとなっている。
フォーラム形式では、グループによるディスカッションで「戦うところ
と戦わないところを線引きして」(坂村教授)出てきたものをデファクト
として世の中に出していくという。坂村教授によると「ボランティア的に
やらないとインフラは作れないだろう」
この一連の説明の中に、T-Engineが果たそうとしている役割「フォーラ
ム方式の組み込みOS標準団体で、カーネルはフリーで配布する。それが世
界の流れである」が盛り込まれているわけだ。
ライセンスについても、T-Engineフォーラムは組み込みシステムを対象
としている特殊な事情から「カーネルの変更した場合でもソースを秘密に
することは認めている。バイナリ配布だけでもかまわない」と組み込みOS
に特化したライセンスの考え方をしており、これがPCで使うことを想定し
たGPLとの大きな違いであると坂村教授は説明する。
このように、WindowsやLinuxとの対決姿勢や、ライセンスに関する一連
の報道は、情報系OSと組み込み型OSの技術的相違や、組み込み型OSの特殊
な事情から発生したT-Engineフォーラムのライセンスを考えれば、ありえ
ない。というのが、特別講演のほとんどの時間を費やして反論した、坂村
教授の真意ということになるのだろう。
反論にほとんどの時間を費やしてしまった教授。メインテーマである「ユ
ビキタス」については駆け足の講演をなってしまった。これまでの講演で
繰り返し述べてきた「時間をかけて導入しなければならない」と、最近の
ユビキタスブームに警告する内容であったが、壇上では動作状態の小型ユ
ビキタスコミュニケータも披露。「12月のTRON SHOWでは会場いっぱいに
展示する」(坂村教授)
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関連リンク
CEATEC2003公式ページ
[長浜和也, ZDNet/JAPAN]