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By Paul Festa
2003年10月6日
もう一つのブラウザ戦争、IEついに破れたり。IEを守るために休戦するライバルたち。【CNET Japan記事】
http://japan.cnet.com/news/special/story/0,2000047679,20061226,00.htm
IEがついに訴訟に破れた。マイクロソフトのライバル会社は一瞬喜んだも
のの、今度は同社の味方につきだした。
先日、サンフランシスコのMacromedia本社にシリコンバレーの企業家た
ちが集まり、いつものように「Microsoft問題」を話しあった。
もっとも、W3C(World Wide Web Consortium)主催のこの戦略会合は、
普段の会合とはかなり趣を異にするものだった。いつもなら参加者のつる
しあげを食うMicrosoftが、今回は主賓だったのである。
「もちろん、どんな理由でもMicrosoftがやりこめられるならハッピー
だという人間はいるだろう。しかし、ウェブをビジネスにしている当社の
ような企業にとって、すべてのコンピュータにブラウザがインストールさ
れていることは大切なことだ。それがMicrosoftのブラウザだというなら、
それでも構わない」とコンピュータメディア企業O'Reilly & Associates
のバイスプレジデント、Dale Doughertyはいう。
ひとつの特許訴訟を機に、IEをめぐる状況はがらりと変わった。シカゴ
の連邦裁判所が下した衝撃的な有罪判決のおかげで、Microsoftはソフト
ウェア業界の大半から支持を勝ちとったのである。それは同情からきてい
るのかもしれないが、標準化団体からライバル企業までが、Microsoftの
ブラウザInternet Explorer(IE)を守ろうと立ち上がっている。
長年Microsoftの支配を苦々しく思ってきた競合企業やパートナーは、
個人経営のソフトウェア会社Eolasが特許権侵害訴訟でMicrosoftに勝訴し
たというニュースを、最初は悲願の成就と受け取っただろう。反トラスト
法裁判で米司法省や裁判所がなしえなかったことが、ついに達成されたと
いうわけだ。
ところが、ウェブの中核言語であるHTMLに大幅な変更が迫られる恐れが
出てくると、この判決はウェブに対する深刻な脅威と受け取られるように
なった。Microsoftの競合企業は、Eolasの弁護士が今度は自分たちを標的
にするのではないかと戦々恐々としている。一方、MacromediaやSun
Microsystemsといったパートナー企業は、技術を変更しない限り、IE上で
自分たちのプラグインを実行できなくなるのではないかと心穏やかでない。
一連の騒ぎで、業界の力関係は複雑に変化した。従来の同盟関係やライ
バル関係はひっくり返り、長年ブラウザ市場で劣勢を強いられてきたライ
バルたちが、天敵だったはずのMicrosoftに味方しはじめたのだ。一方、
訴訟が進むにつれて、Eolasの創立者で唯一の社員でもあるMike Doyleは
「日和見主義者」と批判されるようになった。Doyle自身は訴訟の目的を、
Microsoftの強欲からウェブを守るためだと説明している。
「この訴訟が私利私欲のためでないというなら、本当の目的を具体的に
説明してもらいたい」とIEの競合企業に勤める技術者はいう。「Doyle氏
の弁護士は、ブラウザ業界にライセンス契約をもちかけているではないか。
いずれは妥協策が出てくると思うが、不愉快な決着であることに変わりは
ない」
自分の目的はMicrosoftの悪行を正し、人々をBill Gates帝国の圧政か
ら開放することだとDoyleは反論している。「今回の法的勝利は、ソフト
ウェア開発に競争の原理を取り戻すものになるだろう。いずれは開発者や
Microsoftのライバル企業も、われわれが脅威ではなく友人であることに
気づくはずだ」(Doyle)
もっとも、Microsoftは上訴審で勝利を勝ち取るかもしれない。万一敗
れたとしても、すでに業界標準となっているIEの開発をソフトウェア業界
が放棄する可能性はきわめて低い。企業はこぞってMicrosoftの次善策に
協力するだろう。
EolasがMicrosoftを提訴したのは1999年のことだ。先月、米国の地方裁
判所がMicrosoftのIEはEolasの特許(米国特許番号5838906)を侵害して
いると認めたことで、Eolasの訴訟は国際的な注目を集めることになった。
この特許はEolasが1994年10月17日に申請し、1998年11月17日に取得した
もので、ウェブ上でアプリケーションを起動するための技術を対象として
いる。
特許の侵害にあたると判断されたのはIEのActiveXに関わる部分だった。
ActiveXとはJava アプレットやAdobeのAcrobat文書、MacromediaのFlash
ムービーといったプラグインアプリケーションをウェブサイトで起動、実
行するために利用されるMicrosoftの技術だ。ActiveXの使用が禁止された
場合、IEはインターネットや企業イントラネット上のページの相当部分を
完全な形で表示することができなくなる。
Doyleが今回の訴訟のことを、新興のブラウザ企業Netscape
CommunicationsをたたきつぶすためにMicrosoftが行った数々の悪事を正
すものと主張しているのはこのためだ。1994年に設立されたNetscapeは、
ブラウザがWindowsの絶対支配をかわすツールになると考えていた。
Netscapeとその投資家たちは、今後はWindowsではなく、ウェブというオ
ープンスタンダードに合わせてアプリケーションを開発できるようになる
と考えたのである。そうなれば、OSはMicrosoftのドル箱ではなく、ひと
つの部品にすぎなくなるはずだった。
しかし、数年にわたるMicrosoftの猛追によって、Netscapeは市場の80
%以上を握る標準ブラウザから、AOL Time Warnerのとるにたらない一部
門に転落した。AOL Time Warnerは最近、ブラウザ部門を非営利財団とし
て分離独立させている。業界の古株たちは、Microsoftは今回も必ず苦境
を切り抜けるだろうとみている。
どんなに勝算が少なくても、Doyleはこの訴訟が価値のあるものだと確
信している。Eolasの勝訴は聖書の中にある巨人戦士ゴリアテを倒したダ
ビデにたとえられることが多い。しかしDoyleは、自分たちの闘いはもっ
と壮大で苦しいものだと主張する。Doyleにとって、この訴訟は「ブラウ
ザ戦争」におけるMicrosoftの勝利を覆し、デジタル業界の大半を
Microsoftの支配から開放するものなのだ。
「ダビデ対ゴリアテという表現はわれわれの試みを過小評価している。
Microsoftは当社の技術を利用してあまたの企業を廃業に追いやり、ウェ
ブの可能性を大幅にせばめてきた。また、テクノロジーの保有者である当
社がしかるべき報酬を得る機会も奪っている」とDoyleは主張する。
Microsoftがブラウザ戦争の1プレーヤーにすぎなかった数年前なら、多
くのソフトウェアメーカーがEolasの主張を支持しただろう。しかし、
Doyleの挑戦は遅すぎたというのが業界の一般的な見方だ。すでにIE はブ
ラウザ市場を支配しており、多くのソフトウェアメーカーがIEのプラグイ
ンを開発することで、ビジネスを成立させるようになっている。
「われわれはMicrosoftの大ファンではない。しかし、ウェブの大ファ
ンではある。問題はこの訴訟が、ウェブの特許権侵害が認められた最初の
ケースであることだ。企業は同様の訴訟が次々と起こされるのではないか
と不安を感じている」と、今回の特許訴訟でMicrosoft側の証人をつとめ
たO'Reillyのオンラインパブリッシング部門責任者、Doughertyはいう。
一部のブラウザ用アプリケーションは、回避策を比較的容易に見つけら
れるだろう。たとえば、Adobeはすでにウェブ上のPDFファイルを閲覧する
方法を2種類用意している。ひとつはIEの技術を使ってブラウザ内部でPDF
を開くものだが、もうひとつのやり方は自社ソフトのAcrobat Readerを使
ってファイルの内容を表示するため、特許問題を回避することができると
みられている。
しかし、現実にIE用プラグインの使用が禁止されれば、多くの企業が壊
滅的なダメージをこうむることになるだろう。著名なセキュリティ専門家
で、今回の特許問題におけるW3Cのオンライン討論参加者でもあるRichard
Smithは、もっともダメージを受けるのはMacromediaだと指摘する。
「ウェブに組み込まれたコンテンツ、つまりプラグインの数でいえば、
Flashは群を抜いている。特許の内容を見る限り、Macromediaの手法や製
品はEolasの特許に抵触する可能性が高い」(Smith)
一方、Macromediaはプラグインに依存したテクノロジーを開発している
のは自社だけではないと主張している。同社によれば、Sunのプログラミ
ング言語Javaで書かれたアプレットも、今回の判決から同程度の影響を受
けることになるという。
これまでに提案された対策案ではEolasの特許を回避することはできな
いというDoyleに、Microsoftはこれまで自らが浴びせられてきた非難をそ
のまま返している。つまり、Doyleは裁判所の判決をたてに、業界に恐れ
や不安、疑念をまき散らしているというのだ。
「Doyle氏が利己的な理由で特許の適用範囲をあいまいにし、業界を不
安におとしいれていることは明らかだ」とMicrosoftの広報担当者Jim
Deslerは述べている。「特許の内容を読み、法廷でEolasが主張したこと
を振り返れば、われわれが検討している小幅な変更で特許侵害は十分に回
避できることが分かるはずだ」
Doyleとカリフォルニア大学バークレー校が共同で保有するこの特許が、
具体的にどのような技術に適用されるのかは分からない。確実なのは、
Doyleには理論上、Macromedia、Adobe、Sunといったプラグインの開発元
に、特許侵害を避けるための選択肢を与える権利があるということだ。そ
れはEolas製ブラウザを使うことかもしれないし、Eolasに妥当なライセン
ス料を支払うことかもしれない。
プラグインの実行という重大な機能がEolasの思いつきで使えなくなる
という不安は、業界をパニック寸前の状態におとしいれた。特にオープン
ソースブラウザの開発グループやW3Cのように、特許で保護された技術の
利用を制限ないし禁止している組織が受けた衝撃は大きい。
オープンソースソフトウェアの推進団体によると、彼らのオープンソー
スライセンスは特許で保護された技術の利用を禁止しているという。また
W3Cは今年3月、長い公開議論を経て、ライセンス料を伴う技術をソフトウ
ェア開発に利用することを基本的に禁止するという結論に達している。
「過去の経験からいって、ライセンス料の不安は標準の発展を阻むもの
になる。たとえ確実ではなくても、ライセンス料を請求されるのではない
かという恐れ、不安、疑念がわずかにあるだけで、開発者はその技術を利
用しなくなるものだ」とW3CのJanet Dalyは指摘する。
ゲームの行方はどうなるか
MicrosoftとEolasの闘いは、今や特許支持派と、ソフトウェアに特許は
不要だと主張する特許否定派の闘いに拡大している(Microsoftが膨大な
特許を保有していることを考えると、今回の訴訟でMicrosoftがとってい
る立場はある意味皮肉である)。
Doyleは最近、Microsoftとの和解に応じる姿勢をみせたが、特許を否定
するライセンスやポリシー、態度は衰退をもたらすものだという主張に変
化はない。
「テクノロジーを生みだした人間は、特許によって自分の知的財産を守
る権利がある。標準化団体は、どんな標準を推進するにしろ、このような
権利があることを認識すべきだ」とDoyleはいう。「標準化団体が今回の
ケースに反対しているのは、単に組織的な理由にすぎない」
Doyleが特許制度をこれほど信頼しているのは、その血筋のためかもし
れない。彼の祖父は自らが発明した60を超える製紙技術を特許によって守
っていた。1918年の「Paper-Machine」、1949年の「Pulp Drainer」、
1965年の「Apparatus for Draining Fibrous Material」などは、いずれ
も彼の祖父の特許である。
「私は1人の発明家であり、Eolasは発明をミッションとする企業だ」と
Doyleはいう。「発明で生計をたて、発明をビジネスにしたいと考えてい
る。なぜそれほどこだわるのかというと、発明家だった祖父は、今なお利
用されている製紙技術を発明し、その対価で生活を営んでいたからだ」
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