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日本経済に明るさが見え始めているとはいえ、その陰では「不良債権処理」の名のもとに、金融機関、特に大手行による「貸しはがし」が絶えない。一方で、地域金融機関が苦境に陥った中小企業を支え、再生に歩み出す事例も目立ち始めている。中小企業を巡る金融の現場を見た。【経済部中小企業チーム】
「整理回収機構(RCC)に送ります」
東京都内の化学メーカー、Z社の社長(49)にA都銀の支店担当者から通告があったのは昨年6月。Z社への融資債権をRCCに売却するという典型的な不良債権処理だ。新事業が軌道に乗ろうとした矢先だった。
バブル崩壊後、長期景気低迷と取引先工場の海外移転などで業績が悪化、ピーク時16億円台だった売り上げは14億〜15億円に低迷、黒字と赤字を繰り返す不安定な経営が続いた。
苦境からの脱出を図るべく、90年代半ばから、環境対応型の新製品の研究開発に取り組み、日本を代表する企業も採用するなど実績を重ねていた。新たな製品開発にも大手建設会社と共同で取り組み、実用化の段階にきていた。「本格的に採用されれば急成長できる」(社長)と、事業拡大の意欲に燃えていた。
そこにA都銀の通告。懸命に食い下がったが、不調に終わり、昨年末、A都銀の債権はRCCに売却された。ちなみに融資の約半分は保証(回収不能時に信用保証協会が金融機関に代位弁済)がついていた。
Z社はこの間、社員をピーク時の55人から約10人減らしたほか、A都銀の執ような求めに応じて本社の売却(2億円)などのリストラに取り組み、01年、02年4月期と経常利益も計上した。だが、主取引金融機関のB信金や政府系金融機関からも計数億円を借りており、新製品の開発に約2億円を投じた結果、負債が資産を上回っている。
債務超過の企業への融資は、金融機関にとっては金融庁の基準に従って「不良債権」になる。融資を続けるなら損失に備え多額の引当金を積む必要がある。加えて、大手行に「05年3月期までに不良債権比率を半減させる」という金融庁の厳しい方針が最後に、A都銀の背中を押したとみられる。
社長はB信金、政府系金融機関に事情を説明し、協力を要請。B信金は「長年取引があり、新事業の見込みもある。A都銀が扱っていた手形割引は引き受けましょう」と協力。政府系金融機関も出来る限り支えると言ってくれた。が、B信金も「それ以上の融資はできない」(幹部)。A都銀が去った後でリスクを一手に引き受けるわけにはいかないのだ。
年が明けて今年2月。短期の資金繰りがどうしてもつかなくなり、つてを頼ってC信金に支援を要請。C信金にすれば「融資した最初の時点から不良債権」という常識的には応じられないケースだが、Z社の技術の将来性を見込み、翌3月にかけて計6000万円の融資に応じた。
倒産の危機を回避したZ社の新製品は国や地方自治体にも採用され、効果を実証。最近は証券会社数社から「3年後の株式上場を目指しましょう」といった声もかかり、上場に向け動き出している。社長は「経営がうまくいっていなかったのは私の責任だが、良いものをつかみかけているから、A都銀にもちょっと助けてほしい、ということだったのに……。正直に実態を説明した結果、B信金、C信金はリスクを取って助けてくれた」と語る。
A都銀は「個別案件についてコメントできないが、RCCに送るに当たっては意を尽くして十分に説明し、ご納得いただいているつもりです」と話している。
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ゴムや大気などの各種計測装置開発・販売の日本アプライドテクノロジ(東京都国立市)の佐藤親弘社長(61)も昨年春、メーンバンクのD都銀から「あなたの会社をグレー(不良債権と正常債権の中間)と判断した。もう貸し出しはできない」と、融資の引き揚げを宣告された。担保にしていた預金も自由に引き出せず、急速に資金繰りが悪化した。
当時、金融機関からの借り入れは長期、短期合わせて約6億円。3割程度はバブル時代に「銀行に踊らされて」株やゴルフ会員権などを購入した際の融資だが、返済は一度も滞ったことはなく、77年の創業以来、赤字決算は1期だけ。直前の01年11月期の年商は約8億5000万円で増収傾向。佐藤社長は「本業は堅調なのに、まさか自分のところが貸しはがしに遭うとは考えもしなかった」と振り返る。
知人を介して相談した西武信用金庫(本店・東京都中野区)は約2カ月間、同社の資産や経営状況を精査。大企業と継続的に取引するなど技術力は業界でも評価が高く、社長も経営に熱心だったことから、D都銀などの融資肩代わりに応じ、救われた。
佐藤社長は「都銀は合理化で支店の法人担当を減らし、会社に来られなくなり、決算の数字に表れない会社の技術力や受注動向が分からない。不十分な分析で経営を左右されては困る」と憤る。
今春、D都銀の新しい法人担当者が訪れて言った。「融資引き揚げは間違いだった。無担保で希望額を融資させてほしい」。佐藤社長は都銀の変わり身の早さに複雑な表情だ。
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大手行の不良債権比率半減政策を受けて、昨年から大手銀行の貸しはがしが加速している。その一方、信金など地域金融機関は大手行ほど厳しく数値目標で縛られないこともあって、中小企業の苦境を助けるケースが目立つと、中小企業関係者は口をそろえる。
そもそも地域金融機関は「都銀のようにその土地から逃げ出すわけにはいかず、地域経済を担う中小企業を支え、育てなければ自分たちも生きていけない」(信金幹部)という宿命を背負っている。
中小企業の金融問題に詳しい立教大学の山口義行教授(金融論)は「RCCに送れば、送った銀行の不良債権は減るが、日本全体の不良債権が減るわけではない。地銀、信金の中で『企業の経営を改善して再生させる』という動きが始まっているが、それ以外に日本経済の再生はない。だが、企業再生には時間的猶予が必要であり、大手行に短期間で不良債権比率半減を強制する政策は現実と矛盾する。この間に大手行は中小企業の信頼を失った。これを取り返すのは容易ではないだろう」と話している。
[毎日新聞10月5日] ( 2003-10-05-01:56 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/keizai/20031005k0000m020112000c.html