<■2270行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> 米下院小委、新型コロナは「武漢の研究所起源」と最終報告 中国は反発 2024/12/4 7:37 https://www.sankei.com/article/20241204-NHKG7KDZ55OQZPU4TR5SGSJNZY/ 新型コロナウイルス流行に関する米下院特別小委員会は2024年12月3日までに、ウイルスは中国・武漢の研究所に関連した事故によって出現したとみられるとの最終報告書を公表した。 多数派の共和党議員が委員長を務め、意見聴取や調査の結果をまとめた。 中国外務省の林剣副報道局長は2024年12月3日の記者会見で 「実質的な証拠が何もない中、中国を陥れる政治的な操作だ」 「信頼性はない」 と強く反発した。 流行の起源は、武漢市内の海鮮市場にいた動物との説や、研究所からのウイルス流出説があり、今も確定できていない。 報告書では、昨年2023年2月からの聞き取り調査などで 「情報機関幹部や政治家、科学誌の編集者、科学者らが益々研究所起源説を支持していた」 と指摘した。 林氏は、世界保健機関(WHO)などによる現地調査で武漢の研究所から漏洩した可能性は 「非常に低い」 との結論が出ていると主張した。 ただWHOで新型コロナの技術責任者を務めるバンケルコフ氏は昨年2023年、中国のデータ共有が不十分だと不満を示している。(共同)新型コロナ【武漢研究所起源】【人工合成】ついに動かぬ証拠! 4年に渡る論争に決着ーもう”陰謀論”とは言わせない WiLL2024年4月号 筑波大学システム情報系准教授 掛谷英紀 ■殺人の告白メモ 新型コロナウイルスが武漢研究所起源の可能性が高いことは、科学的根拠を基に『WiLL』で筆者は繰り返し紹介してきた。 ただ、これまで紹介した証拠は決定的と言えるレベルではなかった。 その事態を急変させる出来事が2023年12月から2024年1月にかけて起きた。 新型コロナウイルスの人工合成を裏付ける新証拠が立て続けに見つかり、これまで慎重な物言いをしてきた研究者たちの中にも、これで武漢研究所起源は確定したと言い始める人が出てきたのである。 ラトガーズ大学の分子生物学者リチャード・エブライト教授は、これまで武漢研究所起源の可能性は高いが、まだ断言できないという立場を取ってきた。 だが、今回の証拠を見て 「エコヘルス・アライアンス(武漢ウイルス研究所に米国の研究費を流していたNGO)とその仲間がこのパンデミックを起こしたことを疑う余地はゼロになった」 とX(旧ツイッター)にポストした。 彼は新型コロナの起源を追う国際的研究者集団 「パリグループ」(筆者はその唯一の日本人メンバーである) の中心人物の1人である。 メッセンジャーRNAワクチンへのDNA混入(残留)問題で日本でも注目された分子生物学者のフィリップ・バックホルツ教授(サウスカロライナ大学)と分子遺伝学者のケビン・マッカーナンも、それぞれ 「事件は解決した」 「これは動かぬ証拠であるだけでなく、殺人の告白メモである」 とXにポストした(尚、DNA混入問題については、筆者は彼らと見解を異にしている)。 更に、2021年に分子生物学者のアリーナ・チャンと新型コロナの起源に関する共著書『Viral』を書いたサイエンス・ライターのマット・リドレーも 「ゲームオーバーだ」 とXにポストしている。 これだけ多くの人の見解を動かした決定的証拠とは何か。 実はこれを説明するには専門的な知識が必要である。 本稿ではそれを一般の人にも分かるように、できるだけ易しく解説したい。 ■流出した実験計画 新型コロナウイルス武漢研究所起源説を示唆する状況証拠として挙げられたものは多くあるが、そのうち主要と思われるものは次の4つである。 @スパイク蛋白が最初からヒトのACE2受容体に最も結合しやすい(感染しやすい)ようになっていた。 A他のSARS系ウイルスには全くない、細胞内に侵入しやすくする配列(フーリン切断部位)がスパイク蛋白に挿入されている。 B8万以上のサンプルを調査しても中間宿主(ヒトに感染させた動物)が見つかっていない(SARSやMERSでは数カ月のうちに見つかっている)。 C制限酵素切断部位というウイルス人工合成に必要な部位が、合成に都合のいい箇所に配置されている。 この4つはそれぞれ独立な事象なので、それぞれが偶然100分の1の確率で起きるとしても、それらが同時に起きる確率は1億分の1になる。 そのため、確率的に考えると今回の新証拠が出る前から、新型コロナウイルスは武漢研究所起源であることがほぼ確実であった。 にもかかわらず、私を含む多くの研究者が断定を避けてきたのは、科学者特有の慎重さゆえである。 これらの証拠のうち、最初の3つは2020年の段階で既に注目されていた。 それでも、2020年時点で武漢研究所起源説を公に論じる科学者の数は非常に限られていた。 実際、日本では筆者のみであった。 それが大きく転換したのが2021年9月である。 エコヘルス・アライアンスとノースカロライナ大学、中国の武漢ウイルス研究所を含む研究グループがDARPA(米国防高等研究計画局)に提出していた研究予算申請書(DEFUSEプロジェクト)が流出したのである。 この申請書の研究計画に、フーリン切断部位を人工的に挿入する実験計画が書かれていた。 これが明るみになったことで、欧米の生命科学者の多くが武漢研究所起源説に傾いた。 これに対して天然説を主張するウイルス学者たちは、DEFUSEの実験はノースカロライナ大学で行われる予定だったのだから武漢ウイルス研究所とは関係ない、フーリン切断部位の入れ方は色々あり、新型コロナウイルスのようにスパイク蛋白のS1部位とS2部位の間に入れるとはDEFUSEには書かれていないと反論し、武漢ウイルス研究所起源説を必死に退けようとした。 ■人工合成に好条件 それから約1年後の2022年10月になって、新たに提示されたのがCの証拠である。 日本語に訳すと 『エンドヌクレアーゼの指紋はSARS-CoV-2の人工合成を示唆する』 という題目のプレプリント(査読前論文)が公開されたのである。 エンドヌクレアーゼとはDNAを切断する酵素、SARS-CoV-2は新型コロナウイルスの正式名称である。 この論文の著者はドイツ人免疫学者のバレンティン・ブルッテル(パリグループのメンバー)、米国の数理生物学者アレックス・ウォッシュバーン、米国の脳神経学者のアントニウス・ヴァンドンゲン(デューク大学准教授)である。 この論文の主なアイデアはウォッシュバーンによるところが大きいと思われる。 ウォッシュバーンはプリンストン大学で博士号を取った若手研究者で、自らベンチャー企業を立ち上げている。 彼は生物学の世界には珍しく、数理的能力が非常に高い人物である。 実際、その能力を生かし、投資のアドバイスなども行っている。 反感を買うかもしれないが、事実として述べておくと、生物学者には数学が苦手な人が多い。 生物学者は大まかに2種類に分けられる。 元々生物が好きで生物学者になった人と、科学者になりたいと思ったが数学が苦手なので、数学が不要な生物化学の道を選んだ人である。 であるから、生物学者には数理的思考能力に欠ける人が多い。 その中で、ウォッシュバーンのような研究者は希少価値が高い。 ウォッシュバーンらは新型コロナウイルスの制限酵素切断部位配置に注目した。 制限酵素は、DNAの特定の配列を認識して、その部分あるいはそれに続く部分を特異的に切断する機能を持つ。 彼らは武漢ウイルス研究所などが使っている制限酵素によって切断される部位が、等間隔に近い形で並んでいることに気付いた。 新型コロナウイルスのRNAは約3万塩基からなり、RNAウイルスの中では非常に長い。 そのため、いくつかの部品に分けて、それを繋ぎ合わせて作ることがある。 その際、それぞれの部品が長過ぎないことが望ましい。 新型コロナウイルスの制限酵素切断部位の配置は、その人工合成に好都合な条件を満たしていたのである。 ウォッシュバーンらは、新型コロナウイルスは 「BsaI」 と 「BsmBI」 という2種類の酵素を使って、6つのピースを繋ぎ合わせて作られているとの仮説を論文で披露した。 これに対して、科学誌『ネイチャ・メディスン』に掲載された新型コロナ天然起源論文の筆頭著者であるクリスチャン・アンダーセンは 「幼稚園レベルの分子生物学だ」 と揶揄した。 ■「実験は武漢で行われる」 前置きが長くなったが、新証拠の中身について説明しよう。 この証拠は 「U.S.Right to kown(USRTK)」 という米国の団体が米政府研究機関の米国地質調査所に情報公開請求をかけて入手した書類である。 USRTKはこれまで多くの情報公開請求をしてきたことで知られる。 しかしながら、多くの政府組織は公開に応じてもその多くを黒塗りにするなど、極めて非協力的な態度を示してきた。 そこでUSRTKが注目したのが地質調査所だった。 この組織は、先述したDEFUSEプロジェクトの研究費申請の共同研究者として名を連ねていた。 この組織ならば情報機関や保険行政機関と違い、情報を隠す動機がないと目を付けたのである。 結果として、その目論見は当たった。 地質調査所はDEFUSEプロジェクトに関する詳細な資料の公開に応じたのである。 公開された資料の中には、マイクロソフト・ワードの校閲機能を使った研究費申請書の編集履歴が残されており、そこに重要な情報が多数含まれていた。 前述の通り、武漢研究所起源を否定するウイルス学者たちは、実験はノースカロライナ大学で実施する予定だったので、武漢研究所は関係ないと主張してきた。 ところが、研究計画書の当該箇所には、エコヘルス・アライアンスのピーター・ダシャックがワードのコメント機能を使い、こう記していた。 「DARPAが心配しないように、全ての仕事はラルフ(ノースカロライナ大学教授)によって行われることにしておいて、予算を獲得したらどこでどの仕事をするか割り振ろう」 「実際には多くの分析は【武漢】で行われることになると私は思っている」 それに対して、ラルフ・バリック教授は書いている。 「米国では、ヒトの細胞に結合して増える組み換えSARSウイルスの研究はBSL2(安全性の低い研究施設)ではなくBSL3(安全性の高い研究施設)の実験室で行われる」 「【武漢】ではBSL2で行われるだろう」 「米国の研究者はそれを知ったら驚くぞ」 彼らは元々、SARSウイルスの危険な組み換え実験を、安全性の低い中国の研究施設で実施する意図があったのである。 フーリン切断部位の挿入箇所についても、新型コロナウイルスと同じスパイク蛋白のS1とS2の間に入れる計画が明記されていた。 更に決定的だったのは、ウォッシュバーンらが論文で予想した通り、全長のウイルスの塩基配列を合成するのに、6つのピースを制限酵素で繋ぎ合わせるという計画が明記されていたことである。 加えて、使われる制限酵素として、ウォッシュバーンが予想したものの発注履歴が含まれていた。 これを見た分子遺伝学者ブライス・ニクルズ教授(ラトガーズ大学)は 「これがSARS-CoV-2の設計図であることは疑う余地がない」 とXにポストしている。 ■もはや陰謀論ではない この文書をUSRTKが2023年12月に入手してから、2024年1月18日にその詳細な分析結果が公表されるまでの間に、米国内では1つの大きな動きがあった。 米国で新型コロナ対策を指揮してきたアンソニー・ファウチ(米国立アレルギー・感染症研究所前所長)が2日間の米下院特別小委員会(非公開)で証言し、新型コロナ武漢研究所起源説は陰謀論ではないこと、6フィート(約1.8メートル)のソーシャル・ディスタンスによる感染予防に科学的根拠はないことを認めたのである。 その直後、前米国立衛生研究所(NIH)所長のフランシス・コリンズも同委員会でファウチの証言を追認したことが明らかになった。 その一方で、ウイルス学者たちは頑なに新型コロナ武漢研究所起源を否定し続けている。 2024年1月3日には、78人のウイルス学者たちが連名で武漢研究所起源を否定し、危険なウイルスを人工合成する研究に対する規制強化に反対する声明を学術誌上で発表した。 彼らがそこまで危険な研究を続けたいのは、多額の研究費を貰い続けるためである。 こうした危険な研究に多額の予算が付くのは、生物兵器に転用できるからである。 それを禁止されてしまうことは、彼らにとって死活問題である。 多額の研究予算を貰うという政治目的のため、新型コロナウイルスが人工合成されたという説は、それがたとえ事実であっても彼らは否定しなければならない。 今の学者の目的は真理の探究ではない。 カネである。 自分の都合のために偽の 「事実」 を作り出す彼らの行動様式は、左翼活動家のそれと全く同じである。 ファウチとコリンズが共に根拠がないと認めたソーシャル・ディスタンスが長期間に渡って有効と喧伝されたのも、実はカネと関係がある。 新型コロナウイルスの感染経路は接触感染と飛沫感染であると政府機関や医療関係者は公式に述べてきた。 であるから消毒やソーシャル・ディスタンス、マスク着用やアクリル板設置などの対策が推奨されてきた。 ところが、実際には空気感染(エアロゾル感染)が主な感染経路だったのである。 このことは、筆者が参加した2023年の日本ウイルス学会学術集会のシンポジウム 「エアロゾルのダイナミズムと空気感染」 で、多くの学者が様々な観点から検証していた。 このシンポジウムを主催したのは仙台医療センターの西村秀一医師で、早期からこの問題に取り組み、一般向けの著書も執筆している。 ■カネしか頭にないのか 私はウイルス感染については全くの素人なので、このシンポジウムに参加するまでこの問題をよく知らなかったのであるが、専門家の間ではダイヤモンドプリンセス号の感染の様子から、空気感染が主な感染経路であることは分かっていたそうである。 にもかかわらず、なぜ空気感染が長期間に渡って否定されてきたのか。 その理由を示す証拠が医学と公衆衛生に関する学術情報誌『モダンメディア』(栄研化学)の2022年1月号に含まれている。 その号には、松本哲哉教授(国際医療福祉大学)と惣那賢志教授(大阪大学)を含む5名の教授の座談会(2021年11月26日収録)が掲載されている。 そこで松本教授が注目すべき発言を行っている。 「飛沫感染と空気感染の部分ですが、惣那先生にも協力してもらって、今回、日本環境感染学会の対応ガイドを改訂しました」 「そこで、議論した結果、コロナは空気感染の対象にはしないと判断しました」 「即ち入院患者を全て空気感染扱いとして、陰圧個室に入れる必要はないことを示さないと医療機関側が混乱するので、空気感染の対象から外しました」 つまり、空気感染がないことにされたのには何の科学的根拠もなく、単に医療機関の都合でそうされたのである。 その政治的都合に合わせるため、我々はマスク着用や手洗い消毒、アクリル板設置といった非科学的な感染対策をやらされ続けたのである。 実際、多くの病院で院内感染は起きているが、科学的な対策をしなかったのだから当然である。 なぜ空気感染を否定したかと言うと、陰圧室を作るお金を渋ったからである。 医療機関はワクチン接種や病床確保による補助金で莫大な利益を上げていたのに、陰圧室を作る投資はしなかった。 自分の手元により多くのカネを残すことしか彼らの頭の中にはなかったとしか考えられない。 尚、陰圧室を設置しなくても、防御力の高いN95マスクの着用や感染経路となる空気の通り道で紫外線照射によりウイルスを死滅させるなど、空気感染を防止する工夫の余地は色々あったそうである。 これらはウイルス学会のシンポジウムに参加して筆者も学んだことである。 尚、2023年のウイルス学会学術集会は仙台で開催された。 Xで13万7000人のフォロワーを有し、新型コロナ関係の情報を積極的に発信して大きな影響力を行使した福家良太医師は仙台の病院で働いている。 筆者はせっかく地元で行われる学会なのでと参加を呼び掛けたが、残念ながら彼はそれに応じなかった。 そして、彼は今もマスク着用がコロナ感染予防に効果があるかのような発信を続けている。 福家良太医師は新型コロナ起源問題でも早期から人工説を陰謀論と決め付け、その後、武漢研究所起源を示す証拠が多数出てきても何の訂正もしていない。 積極的に情報発信するなら、その前に勉強すべきである。 でなければ、医師の肩書を使って間違った情報を一般の人々に信じさせる結果になる。 ■腐り切った学者・医者 新型コロナ騒動の4年間で明らかになったのは、カネのことばかり考えて人命を救うことなど一切考えない医師が非常に多いという事実である。 それで思いだされたのが、筆者が高校生・大学生の頃のことである。 筆者は生徒の約3分の1が医学部志望という進学校に通っていたが、ほとんどの生徒の志望動機はお金が儲かるから、安定しているから、親に言われたから(親が医者だから)といったものだった。 人の命を救いたいといった志を持っている人はほとんどいなかった。 それが理由で医学部だけには行きたくないという思いを強くした。 そのことは長い間忘れていたが、今回のコロナ騒動の医師たちの振る舞いを見て、当時の記憶がしばしば蘇った。 ただし、最近は新型コロナ対策が間違っていたのではないかと声を上げる医師たちも増えてきた。 さすがにワクチンの副反応被害の実態が顕在化するにつれ、良心的な医師たちは黙っていられなくなったのであろう。 ただ、そういう医師たちはあくまでも少数派である。 医学の世界には、金儲けではなく、人の命を救いたい人が集まるようにしなくてはいけない。 そこで私が提案したいのが、国公立大学医学部卒業生に対して、卒業後一定期間、予備自衛官(医官)として奉職することを義務化することである。 いざという時に自らが危険に晒されても人命を救いたいと思う人こそ医師に相応しい。 実際、軍出身の医師には志が高い人が多い。 米国で早くから新型コロナウイルスは武漢研究所起源の可能性が高いと声を上げた米国疾病予防センター(CDC)元長官のロバート・レッドフィールドは元軍医である。 危険なウイルスを人工的に作る機能獲得研究に反対の声を上げる日本で希少な存在の1人は四ノ宮成祥防衛医科大学校長である。 尚、筆者自身も予備自衛官を10年務めている。 新型コロナ流行下では、コロナに感染した妊婦は有無を言わさず帝王切開にする、発熱のある患者は大火傷で命の危険があっても入院させないといった医師が出現したが、患者の命よりも自分の安全を優先するような人間に医療を任せてはいけない。 予備自衛官としての奉職を義務化すれば、そういう人間は排除することができるだろう。 新型コロナのパンデミックは、学術界・医療業界の腐った実態を露わにした。 人命を救う仕事をするはずの人たちが、何よりもカネを優先して、人命を危険に晒している。 新型コロナ武漢研究所起源は、生命科学研究が世界で700万人以上を殺したことを意味する。 更に、間違った感染対策はその被害を拡大させた。 それを2度と繰り返さないための抜本的改革が急務である。 武漢研究所起源説はもう陰謀論ではない 月刊誌『正論』2021年7月号 掛谷英紀 筑波大学システム情報系准教授 ■4つの科学的根拠 ウイルスの起源は、政治的動機に左右されず、あくまで科学に基づいて検証されねばならない。 政治によって事実を歪めるのでは中国と同じである。 そこで、本稿ではウェイドの記事に沿って、SARS2ウイルスが研究所から漏洩した可能性が高いことを示す科学的根拠を紹介することにする。 ウェイドは、その根拠として次の4つを挙げている。 第1に、パンデミックが最初に起きた場所である。 SARS2ウイルスはベータコロナウイルスの一種だが、それらの宿主として知られるコウモリの生息地は雲南省であり、武漢から1500キロメートル離れている。 と同時に、武漢はコロナウイルスを遺伝子組み換え技術で改変して人間への攻撃力を増す研究の中心地であり、そこでの安全管理が不十分であることも周知の事実であった。 第2に、SARS2ウイルスのスパイク蛋白質が、流行初期からほとんど変異していないことである。 ウイルスが人を含む動物に感染するには、まず動物の細胞の表面にある受容体に結合する必要がある。 (SARS2ウイルスの場合はACE2受容体) この受容体に結合するのが、スパイク蛋白質の受容体結合部位である。 一般に、動物によって受容体は異なるので、ある動物には感染するが、別の動物には感染しないことが多い。 コウモリのコロナウイルスも、そのほんどは人間に感染しない。 受容体結合部位が、コウモリの受容体には結合するが、人間の受容体には結合しないからである。 よって、コウモリのウイルスが人間に感染するためには何度も変異を繰り返さなければならない。 実際、SARSウイルスではコウモリからジャコウネコに感染した後、スパイク蛋白質に6つの変異が生じ、その後、14の変異を経て人間に適応し、その後さらに4つの変異があって流行が始まった。 このように、元々コウモリに適応したウイルスであり、人間に適応したウイルスでない以上、人間の間で感染が広がるには初期に多数の変異が必要なのである。 ところが、SARS2ウイルスは、流行の初期から人間に既に適応しており、ほとんど変異が見られなかった。 これが、SARS2ウイルスが天然由来ではなく、人間に適応するように人工的に改変されたウイルスが研究所から漏れたと疑われる理由である。 この事実を最初に指摘したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の共同機関であるブロード・インスティチュートのアリーナ・チャン博士研究員らの研究グループである。 第3に、 「フーリン切断部位」 の存在がある。 受容体に結合したウイルスは、次に人間の細胞の中に入り込むことが感染に必要である。 そこで役割を果たすのがフーリン切断部位である。 これがあると、ウイルスが細胞の中に入りやすくなる。 SARSウイルスにはフーリン切断部位がないが、SARS2ウイルスには存在する。 実は、ウイルスの遺伝子を組み替えて、人間に感染しやすくする研究(機能獲得研究)は過去に多数行われている。 2015年には、武漢ウイルス研究所の石正麗とノースカロライナ大学のラルフ・バリックを含む研究グループが、コウモリのウイルスの受容体結合部位に人工的に手を入れて、人間に感染しやすくする成果をネイチャー・メディスン誌に報告している。 一方、SARSウイルスにフーリン切断部位を人工的に入れる研究は、中国だけでなく日米欧の多数の研究グループが行っている。 スティーブン・クウェイ博士によると、その成果を公開した論文数は最低11本あり、その中には石正麗を著者とするものも含まれる。 それらの研究で人工的に挿入されたフーリン切断部位と同じ特徴がSARS2ウイルスに見られることが、研究所からの漏洩を強く疑わせる状況証拠となっている。 第4に、フーリン切断部位の遺伝子配列の特徴である。 生物の構造を作り上げる蛋白質は多数のアミノ酸から構成されるが、3つの塩基(遺伝子)配列が1つのアミノ酸に対応する。 塩基は4種類あるため、3つの塩基の列は64種類あることになるが、アミノ酸は20種類しかない。 よって、1つのアミノ酸に対して複数の塩基配列が対応する。 SARS2ウイルスのフーリン切断部位はPRRA(プロリン・アルギニン・アルギニン・アラニン)の4つのアミノ酸の挿入で生じている。 このうち、アルギニンのコードには6種類の塩基配列があり得るが、SARS2ウイルスのフーリン切断部位には、同種のウイルスで最も稀なCGG(シトシン・グアニン・グアニン)という配列が連続して使われているのである。 ウェイドの記事中で、この配列を見たノーベル賞学者ボルティモアが、 「これはウイルスの起源の動かぬ証拠だ」 「SARS2ウイルス自然発生説の強力な反論になる」 と妻に語ったとのエピソードが挿入されている。 ■無理がある「天然由来説」 これに対して、SARS2ウイルス天然由来説を唱えていた学者たちはどう反論したか。 2020年3月に 「ネイチャー・メディスン誌」 で天然説を唱えていたクリスチャン・アンダーセンは、上海科技大の趙素文の研究グループの論文を引用し、フーリン切断部位は天然でも起き得るとツイッター上で反論した。 そこで用いられたのが図1だが、これが逆にSARS2ウイルスの特異性を示している。 図1に示す通り、確かに自然の突然変異でフーリン切断部位は生じうる。 だが、最も起きやすい突然変異は、遺伝子の塩基が入れ替わることで、アミノ酸配列が変化することである。 これは比較的頻繁に起こる。 一方、塩基が脱落したり、余分な塩基が挿入されることは、偶に起きるが確率は低い。 図1の左側の樹形図は遺伝的距離を表しており、枝分かれが遠いほど遺伝的距離が遠い(遠い過去に分かれた)ことを表している。 遺伝的距離が近いもの同士では大きな挿入や脱落は起きていない。 ところが、SARS2ウイルス(一番上)とそれに遺伝的距離が近いウイルスの間では、フーリン切断部位だけ綺麗に挿入が行われているのである。 これが自然発生的に起きることは、確率的には極めて低い。 WHOの報告書でも、人工ウイルス説を退ける根拠として、フーリン切断部位が天然に挿入されているウイルス(RmYN02)は見つかっているという別の論文に言及している。 しかし、この論文にも大きな欠点がある。 そもそも報告されているウイルスのアミノ酸配列はフーリン切断部位に類似するだけであり、フーリン切断部位ではない。 加えて、アミノ酸配列を見る限り、フーリン切断部位に類似する配列が挿入されたのではなく、従来のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換わった変異と解釈するのが自然なのである。 ところが、この論文ではわざわざ図を細工して、脱落と挿入という非常に確率の低いことが遺伝子配列の一部で連続して起きていると解釈している。 このように、SARS2ウイルスが天然由来であるという 「科学的」 主張は、整合性の低い論理を無理やり通そうとしている跡が如実に見られるのである。 いよいよ濃厚 新型コロナ 武漢ウイルス研究所流出説 それでも権威に従順な学者たちは真実から目を背けてしまう 月刊誌『WILL』2021年12月号 筑波大学システム情報系准教授 掛谷英紀 ■疑惑の「申請書」 2019年夏、中国の湖北省でPCR検査機器が大量発注されていたことを日本経済新聞が報じた(2021年10月5日)。 豪州に拠点を置くサイバーセキュリティー企業 「インターネット2・0」 が主体となった調査チームが突き止めた情報で、既に海外で報じられていた内容である。 この情報は、新型コロナウイルスが2019年冬より前の段階で流行し始めていたことを示唆するものである。 しかし現在、新型コロナウイルスの起源解明に繋がる情報として海外で注目されているのは、より直接的かつショッキングなものである。 それは、米国の非営利機関 「エコヘルス・アライアンス(以下EHA)」 が武漢ウイルス研究所などと共同で、2018年にDARPA(米国防高等研究計画局)へ提出していた研究費申請書である。 この研究費申請は結果的に不採択になったが、そこにはSARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を人工的に挿入する実験計画が具体的に書かれていたのである。 「フーリン切断部位」 は、新型コロナウイルス(SRAS2)が属するサルベコウイルスにはない不自然なアミノ酸配列として注目されていた。 新型コロナウイルスがヒトに感染するには2つのステップがある。 最初のステップはヒトの細胞表面に結合すること、次のステップはヒトの細胞内に入ることである。 2つ目のステップで重要になるのが 「フーリン切断部位」 である。 SRASウイルスの場合、ヒトの細胞内に入るのに 「TMPRSS2」 という酵素を利用していた。 加えて、フーリンによる切断を利用すると、ウイルスは細胞内に劇的に入りやすくなる。 この 「フーリン切断部位」 の存在が、新型コロナウイルスの感染力の異常な強さに繋がっている。 SARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を遺伝子組み換え技術で人工的に挿入する研究は、これまでも世界各国の研究グループによって行われてきた歴史がある。 新型コロナウイルスの 「フーリン切断部位」 が人工的に挿入されたものである可能性が疑われたのは、それが理由である。 しかし、これまでは武漢ウイルス研究所がその種の研究に取り組んだ形跡はなかった。 今回明るみになったEHAの研究計画は、その穴を埋めたという意味で極めて重要な意味を持つ。 ■討論会で真実が証明された この研究費申請書を公開したのは、 「DRASTIC」 と呼ばれる世界から自主的に集まったインターネット上の新型コロナウイルス起源調査集団である。 DRASTICが公開した書類は内部リークで入手されたもので、当初はその真偽が疑われていた。 そのため、米国ネットメディア 「インターセプト」 など、ごく一部でしか報じられなかった。 2021年9月6日、 インターセプトはFOIA(情報公開法)によって、EHAからNIH(米国立衛生研究所)に提出された書類を入手し公開した。 この書類には、EHAの研究報告書も含まれており、そこにはSARSウイルスの 「機能獲得研究」(ウイルスの毒性や感染力を強める研究) が行われていたことを示す動かぬ証拠があったため、大きな話題になっていた。 その流れで、同社はこの件を報じたものと思われる。 DRASTICが公開した書類が本物だと判明したのは、2021年9月30日に学術誌 『サイエンス』が企画した新型コロナウイルス起源に関する公開討論会である。 この討論会には4名の科学者 (アリーナ・チャン、ジェシー・ブルーム、マイケル・ウォロベイ、リンファ・ワン) が参加した。 前者2名は新型コロナウイルス研究所起源の可能性は十分あるという立場、後者2名はあり得ないという立場である。 リンファ・ワンはシンガポールのデュークNUSメディカルスクールの教授だが、もともと中国人で武漢ウイルス研究所の石正麗とも親しい関係にある。 DRASTICが公開した研究費申請書にも、研究グループの一員として名を連ねていたため、討論会の前からリンファ・ワンが何を語るかが注目されていた。 この討論会のクライマックスは後半にやってきた。 アリーナ・チャンがリンファ・ワンに、 「研究費申請書にはフーリン切断部位を人工的に入れる研究計画が書かれているが、これは誰の提案だったのか」 と聞いたのである。 それに対して、リンファ・ワンは躊躇しながらも 「ノースカロライナ大学だ」 と答えた。 ノースカロライナ大学には、痕跡が残らないように遺伝子の塩基配列を組み換える技術を開発し、その技術を石正麗に教えたことで知られるラルフ・バリックがおり、彼もこの研究計画の一員として名を連ねていた。 リンファ・ワンのこの回答によって、DRASTICが公開した書類が本物であることが証明されたわけである。 これを受けて、世界の大手メディアがこの研究計画について一斉に報じ始めた。 武漢ウイルス研究所がSARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を入れる研究計画をしていたことをもって、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所起源であると断定することはできない。 だが、偶然にしては出来過ぎである。 研究計画で作ろうとしていたものが、その研究所がある場所でたまたま自然に発生する確率は、ゼロではないが天文学的に低い数字である。 ■ウソを繰り返す張本人 万が一、新型コロナウイルスが自然発生したものであっても、それと同じ危険なウイルスを人工的に作成する計画をしていたこと自体、その倫理的責任は追及されて当然である。 DARPAはその研究費申請書を採択していないが、研究者が大型予算を申請する場合、研究計画の内容に含まれている事項については事前に予備的な実験を行い、それが上手くいくことを確認しておくことが多い。 大型予算を取得したのに何の成果も出ないと責任を問われるかもしれないという理由である。 また、計画した研究があるグラント(科学研究補助金)で不採択になっても、別のグラントに通れば、それで実施するのが普通である。 したがって、SARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を人工的に挿入する研究が、武漢ウイルス研究所で実際に行われていたことは、ほぼ間違いない。 そもそも、こういう研究計画で予算申請をしていた事実があるのに、それをずっと隠していたことについても倫理的に大きな問題がある。 前出のEHAの代表であるピーター・ダシャックは、これまでも多くの偽情報を繰り返し発信してきた。 彼は、武漢ウイルス研究所ではコウモリは飼育されていないと発言していたが、その後同研究所でコウモリが飼育されている様子を撮影した動画が見つかっている。 2020年2月に学術誌『ランセット』に掲載された 「新型コロナウイルスが自然発生でないことを示唆する陰謀論を断固として批判する」 と主張する27人連盟のレター作成で中心的な役割を果たしたのも彼である。 そこで彼は武漢ウイルス研究所と共同研究をしていたにもかかわらず、利益相反はないと宣言していた。 2021年9月30日、DRASTICの4名を含む世界の10名の研究者が、EHAの理事会宛にダシャックを代表から解任することを求めるオープンレターを公表した。 実は筆者自身もこの10名のうちの1人に含まれている。 このレターは、2021年10月6日に『ニューズウィーク』誌もその内容を報じるなど、海外では話題となっている。 2021年10月10日の英国「デイリーメール」の記事において、フランス・パスツール研究所のウイルス学者サイモン・ウェイン・ホブソン教授は、 「機能獲得研究」(ウイルスの毒性や感染力を強める研究) に内在する甚大な危険性を考えると、国際的で法的拘束力のある基準が設定されるまで、 「機能獲得研究」(ウイルスの毒性や感染力を強める研究) の実施とそれに対する資金提供を世界的に禁止する必要があると書いている。 筆者もこの見解に強く賛同する。 ■権威に従順な学者たち 海外では大々的にニュースになっているエコヘルス・アライアンス(以下EHA)の研究計画であるが、なぜか日本では全く報じられていない。 最大の理由は、日本の生命科学者や医師に、新型コロナウイルス研究所起源の可能性について解説しようとする人がいないことだろう。 それゆえ、日本経済新聞が報じたPCR検査機器のように、素人にも理解しやすいことは記事にできても、 「フーリン切断部位」 のように科学リテラシーを要する内容は、日本のメディアは記事にできないのではないか。 現在、日本で新型コロナウイルスの起源が武漢ウイルス研究所である可能性を論じているのは、神田外国語大学興梠一郎教授、明海大学の小谷哲男教授など、中国や安全保障の専門家だけで、科学的観点から論じているのは筆者しかいない。 筆者は科学者ではあるが、分子生物学を専攻していたのは遠い昔のことであり、現在の専門は電子情報工学である。 本来ならば、生命科学を専門とする人がこの問題を論じるべきだが、日本にこれだけ大量の生命科学者がいながら、その役割を果たす人が誰一人いないというのはあまりに異常である。 逆に、新型コロナウイルスは研究所起源では絶対ないと断言した医師も少なくない。 ツイッターで多数のフォロワーを抱える峰宗太郎氏やEARLの医学ツイートはその代表例である。 木下喬弘医師は新型コロナウイルス研究所起源を論じるのは下品だと断じた。 彼にはウイルス起源の討論会を企画・実施した『サイエンス』誌を 「下品だ」 と罵ってほしいところだが、その勇気はないだろう。 権威には従順なのが日本の学歴エリートの習性である。 もちろん、権威に従順な学者が多いのは日本に限ったことではない。 しかし、海外にはそうした権威に負けずに真理を追い求める医学者も少なくない。 米スタンフォード大学のデイビッド・レルマン教授や豪フリンダース大学のニコライ・ペトロフスキー教授がその代表例である。 日本にも新型コロナウイルスについて詳しい医学者がいないわけではない。 広島大学の坂口剛正教授はその1人である。 ユーチューブで公開されている彼の新型コロナウイルス解説動画は10万回再生を越えている。 だが、その動画の中で、新型コロナウイルスが細胞内に入る機構として解説されているのは 「TMPRSS2」 という酵素だけで、 「フーリン切断部位」 には触れられていない。 アルファ株やデルタ株の感染力の強さも、 「フーリン切断部位」 の変異で説明できるほど重要な部分であるのに、それに敢えて触れなかったのはなぜか。 「フーリン切断部位」 について積極的に論じる海外の生命科学者とはあまりに対照的である。 ■ならば専門家など必要ない ウイルス起源の問題に限らず、新型コロナウイルスについて、日本の医学者たちがこれまで発信してきた情報には問題があまりに多い。 ワクチン推進の医師たちは、日本でもワクチン忌避が起きると煽っていた。 私は 「心配しなくても日本の接種率は8割近くになるだろう」 と言って猛反発に遭ったが、結果として私の方が正しかった。 京都大学の西浦博教授は、五輪開催で気の緩みが出るからと、五輪中止とロックダウンを推奨した。 私はそれにツイッター上で反論して彼からブロックされた。 しかし、実際には五輪開催中に人流は減ったことが確認されており、その後ロックダウンをせずとも感染者数が激減したのはご承知の通りである。 ところが、医師というのは仲間意識が強いようで、未だに西浦氏を擁護する人が少なくない。 例えば 「あれは予測はなくシミュレーションだ」 という言い訳をよく見る。 だが、西浦氏は 「対策の効果が出て人流が減るなどし、増加のペースが前の週の1.2倍に抑えられた場合でも、2021年8月21日には7000人を超える」 と発言していた。 確かに、各種政策による人流減の効果がどの程度かは感染症の専門家には分からない。 その意味で、五輪での気の緩みという発言は感染症学者として不適切である。 よって、複数のシナリオによるシミュレーションは必要だ。 しかし、人流の数値から実効再生産数を予測するのは感染症学者の領分ではないか。 人流が減っても実効再生産数が1.2にしか抑制されないと見積もっていた彼のモデルに何らかの欠陥があるのは明らかだ。 その点を追及しないのは、学術的に見て異常である。 実効再生産数が1.2なら7000人を超えるという計算は高校生でもできる。 それをもって自分は正しいことを言っているというなら、専門家など必要ない。 日本に真理を探究する医学者がいないとするなら、海外から呼び寄せるしかない。 日本の学術界の人材不足はそれほど深刻である。 米情報長官室、コロナ起源で武漢研究所からの流出を否定せず 2023/6/24 16:39 https://www.sankei.com/article/20230624-HRZOVWCCDJMAFBWGMV3PLGNCGM/ 米国家情報長官室は2023年6月23日、新型コロナウイルスの世界的流行の起源に関する報告書を発表した。 同室が統括する各情報機関はいずれも、最初に人への感染が起きたのは自然界でウイルスを保有していた動物への接触だとする説と、中国・武漢ウイルス研究所に関連しているとの説は 「両方あり得る」 とし、研究所から流出した可能性を否定しなかった。 各機関の見方には濃淡があり、国家情報会議などは自然起源の可能性が高いとした一方、エネルギー省や連邦捜査局(FBI)は研究所起源とみられるとした。 中央情報局(CIA)などは判定不能とした。 人工的に操作されたウイルスや生物兵器ではないとの見方では、ほぼ一致した。 バイデン大統領は2023年3月、流行の起源に関してできるだけ多くの情報を公表するとの法律に署名、今回の報告書に繋がった。 科学者の間では、生きた動物を扱っていた武漢市内の海鮮市場が起点との見方が強い。(共同) 元中国機関トップ「武漢研究所漏洩説」否定せず 新型コロナ 2023/5/31 8:21 https://www.sankei.com/article/20230531-OCEQ3NZVJBN4XAUDVF6Y5HGL7E/ 昨年まで中国疾病予防コントロールセンターのトップを務めた高福氏が2023年5月31日までに英BBC放送のインタビューに応じ、新型コロナウイルスが中国科学院武漢ウイルス研究所から漏洩したとの説について 「全てを疑うのが科学だ」 「何事も排除すべきではない」 として、否定しなかった。 中国政府は研究所からの漏洩説を否定している。 感染拡大の対応や起源に関する調査で、政府の専門家として役割を果たした高氏の発言は異例だ。 ウイルスの起源は諸説あるが特定されていない。 高氏は起源について 「疑問はまだある」 と指摘。 研究所については 「(中国の)専門家による二重の調査を受けている」 とも述べた。 新型コロナの集団感染は、湖北省武漢の 「華南海鮮卸売市場」 で、世界で初めて確認された。 中国疾病予防コントロールセンターは市場で集めた試料を分析。 動物が感染していたかどうかは特定できず、ウイルスの起源は不明だと2023年4月に論文報告した。 一方、米情報機関の幹部は、コウモリのコロナウイルスを扱っていた研究所からの流出を疑う発言をしている。(共同) 主張 緊急事態が終了 WHOの責任を問い直せ 2023/5/9 5:00 https://www.sankei.com/article/20230509-LISM2HFHURMQHIIAURJQB54YKM/ 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、長きに渡った新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言を終了すると発表した。 ワクチンの普及などにより新規感染者数や死者数が減少したためだ。 あらゆる国・地域に甚大な影響を及ぼした新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の終息に向けた重要な節目と言えるだろう。 だからといって見過ごせないことがある。 2019年12月に中国の武漢市で感染が確認された後にWHOが取った対応のまずさである。 テドロス氏はかねて中国の影響下にあると批判されてきた。 それが中国発の感染症に対するWHOの対応を不十分なものとしたのではないか。 この点の検証を行わず、有耶無耶に幕引きを図ることは許されない。 WHOは2020年1月22、23両日に緊急委員会を開いたが、宣言を見送った。 事態は悪化の一途を辿っていたのに、テドロス氏は2020年1月28日、北京で 「中国政府が迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する」 と絶賛した。 ようやく宣言が出たのは2020年1月30日だ。 テドロス氏は宣言について、中国側から慎重な判断を求められていた。 ウイルスの起源解明を巡り、WHOの国際調査団が武漢入りしたのは発生から約1年後の2021年1月だった。 中国側が同意した場所に限られた調査は中国の主張にお墨付きを与えただけと指摘された。 こうした対応が中国による事実関係の隠蔽を助長したのではないか。 そうであるならWHOの一連の対中姿勢が世界に惨禍をもたらしたと言っても過言ではない。 致命的なミスは他にもある。 日米など多くの国がWHO年次総会への台湾のオブザーバー参加を求めていたにもかかわらず、これを認めなかったことだ。 ここでも中国への配慮があったのだろう。 感染症対応で台湾という空白域を作ったのは国際社会への背信行為である。 しかも初期の感染封じ込めに成功した台湾の知見も生かせなかった。 これでは国際機関の役割を果たせたとは言えまい。 テドロス氏の責任も含めてWHOの判断の妥当性が問われるべきは当然だ。 そのために第三者による検証作業を行ってはどうか。 2023年5月13、14両日には長崎市で先進7カ国(G7)保健相会合が開かれる。 日本はWHOの検証と改革の必要性を訴えるべきである。 コロナ対応節目も起源は未解明 中国への協力要求課題 2023/5/8 19:59 https://www.sankei.com/article/20230508-FU7U4V74HVOXZDZX77ZVDANVOI/ 新型コロナウイルス感染症への対応は、世界保健機関(WHO)による緊急事態宣言の終了と日本での感染症法上の 「5類」 移行によって、大きな節目を迎えた。 だが、新たな変異株への警戒が続く中で、再発防止に重要なウイルスの起源解明は残されたままだ。 その実現のためには、中国側に積極的な協力を求めていくことが国際社会の課題となる。 新型コロナの起源を巡っては、動物から人間に感染して広がったとする 「動物由来説」 の他、中国湖北省の中国科学院武漢ウイルス研究所から流出した可能性も完全には否定されていない状況が続いている。 米国では連邦捜査局(FBI)のレイ長官が2023年2月、ウイルス研究所から流出した可能性が 「最も高いと分析している」 とメディアで強調。 米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、米エネルギー省の機密報告書も起源について同様に結論付けた。 ただ、大統領の諮問機関の国家情報会議(NIC)など5機関は動物由来説を支持し、中央情報局(CIA)は 「不明」 との立場を取る。 バイデン大統領は2023年3月、起源に関する機密情報の開示を求める法案に署名し、今後の開示が注目されるが、決定的な情報が出てくるか不透明だ。 WHOのテドロス事務局長は緊急事態の終了に先立つ2023年4月6日の記者会見で、 「大勢の人が苦しんでいることから(WHOに)道義的な責務がある」 と述べ、起源解明への努力を続ける姿勢を強調している。 WHOは2021年初めに国際調査団を武漢に派遣し、研究所流出説の可能性を 「極めて低い」 とする報告書をまとめた。 だが、中国側のデータ提出は不十分とし、起源調査に関する諮問団を新設。 テドロス氏は中国が情報を共有すれば、 「何が起きたのか、どのように始まったのかが分かる」 と協力を求めている。 これに対し、中国疾病予防コントロールセンターの沈洪兵主任は2023年4月8日の記者会見で、WHOの姿勢を 「起源調査の政治化だ」 「中国の科学界は容認しない」 と反発。 センター関係者も 「武漢に注目し続けるべきではない」 と主張した。 コロナ対応批判で実刑判決 武漢の市民記者、秘密裁判 2023/4/20 9:33 産経新聞 新型コロナウイルスの大規模感染が初めて確認された中国湖北省武漢で、流行初期の実態を発信した市民記者、方斌氏が秘密裁判により実刑判決を受けていたことが分かった。 懲役3年程度とみられる。 当局に連行され、消息不明となっていた。 近く刑期を終えて出所するという。 罪名は不明。 米政府系のラジオ自由アジア(RFA)が2023年4月20日までに伝えた。 方氏は2020年2月、都市封鎖(ロックダウン)された武漢で医療現場の混乱や死者が急増する様子を取材し、動画で発信。 政府の対応を 「人災」 と批判していた。 RFAによると家族が最近、2023年4月30日に出所するとの通知を当局から受けた。 家族は現在も方氏が何の罪に問われ、どういった判決を受けたのか知らないという。(共同) コロナ起源「武漢研究所の可能性高い」 米FBI長官が言及 2023/3/1 12:07 https://www.sankei.com/article/20230301-DQJMWJIF6BKVJGEMRFDMLPHGQ4/ 米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は2023年2月28日放映のFOXニュースで、新型コロナウイルスの起源について、中国湖北省武漢のウイルス研究所から流出した可能性が高いと述べた。 米エネルギー省も確度は不十分としながら同様の分析結果をまとめたと報じられている。 FBIは、これまでも研究所流出説を唱えていた。 ただ米政府内では自然界の動物から人間に感染した説を支持する機関もあり、現時点で統一した見解は出ていない。 レイ氏は 「パンデミック(世界的大流行)は、武漢の研究所から始まった可能性が最も高いと分析している」 と語った。 中国が、新型コロナの起源を巡る調査を妨害してきたと批判。 「米国や友好国の取り組みを混乱させようと躍起になっている」 「全ての人々にとって不幸なことだ」 とした。(共同) コロナ起源、武漢のウイルス研究所と分析 米エネ省、政府内で相違も 2023/2/27 9:51 https://www.sankei.com/article/20230227-C325QWDQXVJCLDN5Y5HUMS4VNE/ 米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は2023年2月26日、エネルギー省が新型コロナウイルスの起源について、確度は不十分ながら中国湖北省武漢のウイルス研究所から流出した 「可能性が高い」 との分析結果を出したと報じた。 米政府内では、自然界の動物から人間に感染した説を支持する機関も複数あり、判断に相違が生じている。 研究所流出説は連邦捜査局(FBI)も唱えている一方、分析結果を確定させていない情報機関も存在。 同紙は 「新型コロナの起源に関し、米情報コミュニティー内で如何に異なる判断が存在するかを浮き彫りにしている」 と指摘した。 ただ、いずれの情報機関も、新型コロナが中国による生物兵器開発の結果ではないとの意見では一致しているという。 同紙は機密扱いの報告書の内容として報道。 エネルギー省は 「低い確信」 に基づく判断としつつ、ウイルス研究所で意図しない形での流出が起きた可能性が高いと結論付け、ホワイトハウスにも伝達した。(共同) コロナ起源調査で協力要請 WHO、中国高官に書簡 2023/2/16 9:33 https://www.sankei.com/article/20230216-SPNDVNMJZVJR3JD7DJ73DRZIKE/ 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は2023年2月15日の記者会見で、新型コロナウイルスの起源解明に向け 「7週間前に中国の高官に書簡を送り、協力を求めた」 と明らかにした。 起源が判明するまで調査を続けていく意向も示した。 コロナの起源調査を巡っては、最初に大規模流行が起きた中国からの情報提供の不足が指摘されている。 テドロス氏は 「次のパンデミック(世界的大流行)に備えるためにも、どのように始まったかを知る必要がある」 と強調した。(共同) あのテドロスも大物学者も、新型コロナ=武漢研究所流出説を認定 潮目が変わった! それでも日本のアカデミズムはダンマリ 月刊誌『WiLL』2022年9月号 筑波大学システム情報系准教授 掛谷英紀 ■大物の気付き 安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。 ただただ残念である。 悪夢の民主党政権の3年間、私は日本が隣の全体主義国家・中国に呑み込まれるのを覚悟した。 それを救ったのが再登板した安倍首相の外交だった。 アジア太平洋地域の自由と民主主義を守るために奔走した。 感謝しかない。 だが、中国伸張の危機はまだ去っていない。 中国と世界各国との今後の関係を大きく左右するのが、新型コロナウイルスの起源問題である。 海外では2022年5月から6月にかけて、大きな動きが2つあった。 1つは、PNAS(米国科学アカデミー起要)に掲載されたニール・ハリソンとジェフリー・サックスの共著論文である。 サックスはコロンビア大学の経済学の教授で、有名医学雑誌『ランセット』のCOVID19委員会座長も務める大物である。 ハリソンは同じコロンビア大学の分子薬理学者である。 この論文は、新型コロナウイルスがその塩基配列の特徴から武漢ウイルス研究所が起源であることを強く疑われることの解説と、起源調査の必要性に関する論述からなる。 サックスはこれまで、新型コロナウイルス研究所起源説は陰謀論であるという立場だった。 今になって、彼はなぜ見解を変えたのか。 私は本人から直接話を聞く機会があったが、FOIA(米国の情報公開制度)で明らかになったNIAID(米国立アレルギー感染症研究所)のアンソニー・ファウチ所長とウイルス学者たちの間の私信(電子メール)、及び米国の非営利機関・エコヘルス・アライアンス(EHA)が武漢ウイルス研究所などと共同で2018年にDARPA(米国防高等計画局)へ提出していた研究費申請書のリークの影響が大きかったようである。 前者において、ファウチ周辺のウイルス学者たちは、表での主張とは裏腹に、仲間内では新型コロナウイルスは研究所起源の可能性が高いと言っていたことが明らかになっている。 つまり、新型コロナウイルスは武漢ウイルス研究所を含む研究グループが実際に作ることを予定していたウイルスということになる。 サックスは民主党支持者で、その基本スタンスは国際協調路線である。 ウクライナ戦争については、NATOの東方拡大がロシアを刺激したことが原因との立場を取っている。 新型コロナウイルスの起源についても、彼の追及の矛先は中国ではなく、武漢ウイルス研究所の石正麗らに技術や研究費を供与した米国内の機関や研究者に向いている。 2022年6月にスペインのゲイトセンターが主催した講演会でも、サックスは 「新型コロナウイルスは天然起源ではなく、米国の研究所のバイオテクノロジーによって作られたと私は確信している」 と発言した。 ■WHOテドロスの変節 もう1つの大きな動きはWHO(世界保健機関)を舞台としている。 2022年6月9日、WHOのSAGO(新病原体の起源に関する助言グループ)は、新型コロナウイルスの起源について、研究所流出の可能性を排除できないとの報告を出した。 更に2022年6月18日、英紙『デイリーメール』はWHOのテドロス事務局長が欧州の有力政治家に 「私は新型コロナウイルスの研究所起源を確信している」 と打ち明けていたと報じた。 2021年3月、WHOの調査団は 「新型コロナウイルスが研究所流出を起源とする可能性は極めて低い」 とする調査報告書を公開している。 しかしながら、この調査団には利益相反のあるEHAのピーター・ダシャクが含まれていたこと、冷凍食品からの感染という科学的にあり得ない説が真面目に取り上げられていたことなどから、その信憑性が疑われていた。 更に、同調査団のピーター・ベンエンバレク団長は、報告書は中国の圧力で書かされたものであったことをテレビ番組内で認めるに至った。 この1次調査が不十分であることをWHOは認め、SAGOが結成されたという経緯がある。 欧米でも、2021年の初旬までは新型コロナウイルス研究所起源説は 「陰謀論」 扱いされていた。 しかし2021年5月、原子力科学者会報にニコラス・ウェイドがノーベル賞受賞者のエイビッド・ボルティモアの発言を引用しながら研究所流出説を強く示唆する記事を書いて以降、研究所起源を論ずることがタブーではなくなった。 前述のベンエンバレクの発言も、WHOのSAGO結成も、その流れを受けてのものである。 今や米国の世論調査では、新型コロナウイルスは研究所起源と考える人が大多数を占めるに至っている。 ■オミクロン株も研究所起源か 新型コロナウイルスの起源問題は、なぜ、絶対に放置してはならないのか。 天然であれ研究所であれ、起源が分からなければ、次にパンデミックが起きることを防止するための適切な対策が打てない。 更に、研究所起源であるのに発生源に何の責任追及も行われなければ、悪意の人に誤ったメッセージを与えることになる。 私は新型コロナウイルスは事故で流出したもので、意図的な拡散だとは思っていない。 しかし、発生源を曖昧に出来ると分かれば、次は悪意で拡散を企図する人が出てきても何ら不思議ではない。 恐れていた事態は意外に早く訪れた。 オミクロン株の流行である。 オミクロン株のスパイク蛋白が、それまでの変異株と大きく異なることについては、しばしば語られるので聞いたことがある人も多いだろう。 だが、単に変異が多いだけでなく、変異の中身も非常に不自然なのである。 つまり、武漢で発生した新型コロナウイルスの原株だけでなく、オミクロン株も研究所起源が疑われるのである。 オミクロン株のスパイク蛋白には、1つの塩基が他の塩基に入れ替わる変異が29個あるが、そのうち同義置換(塩基は変化するがアミノ酸は変化しない変異)は1つしかなく、残りの28個は全て非同義置換(塩基もアミノ酸も変化する変異)である。 ランダムに変異が起きると、同義置換と非同義置換の比は約1対3となる。 モデルを立てて検証を行ったところ、オミクロン株の変異の偏りが自然発生する確率は1000分の1.6以下であるという結果が得られた。 この分析については、、東京工業大学の松本義久教授と共著でプレプリント(査読前論文)を公開している。 オミクロン株の研究所起源を疑っているのは我々だけではない。 イタリア分子腫瘍学研究所の荒川央博士は、オミクロン株だけでなく他の主要な変異株も自然発生する確率は低いとの分析結果をプレプリントで発表している。 また、ドイツの分子生物学者バレンティン・ブラッテルは自身のウェブサイトで、オミクロン株のスパイク蛋白変異のほとんどは、既存の研究や変異株においてその機能が知られているものであり、それらを寄せ集めて人工的に作られたウイルスである可能性が高いと主張している。 彼は、あらゆる変異に対応する 「パンバリアント」 ワクチンの研究開発過程で人工的に作られた変異株が外に漏れたのがオミクロン株の正体ではないかとの仮説を述べている。 オミクロン株が研究所起源だったとすると、その前にウイルス機能獲得研究をしている世界中の研究所を総点検して監視を強化していれば、オミクロン株による世界的な大被害は防げたことになる。 研究所起源説に対して陰謀論とレッテルを貼り、そうした調査点検作業を妨害してきた人々の責任は重い。 テクノロジーの進歩により、遺伝子操作で危険な病原体を人工的に作り出すことは容易になっている。 そのため、病原体の感染力や毒性を人工的に高める機能獲得研究は世界中で行われている。 それらの研究は、しばしば今後流行する病気を予測するため、そしてその治療法を開発するために必要であるとウイルス学者たちは主張する。 しかし、マサチューセッツ工科大学のケビン・エズベルトが指摘するように、病原性を増す変異の可能性は無数にあり、今後自然発生する人間の感染症を正確に予測することは不可能である。 よって、機能獲得研究は疫病の予防や治療には繋がらない。 実際、新型コロナウイルスのパンデミックにおいても、機能獲得研究はその発生を予測・予防することにも、治療法を確立することにも全く役に立たなかった。 ■日本のアカデミズムは動かず 2022年2月、ドイツのハンブルグ大学の物理学者ローランド・ビーゼンダンガーを中心とする世界の50人が、パンデミックを引き起こし得る病原体に関する高リスク機能獲得研究を全世界で中止することを要求するハンブルグ宣言を発表した。 日本人は筆者の他に、前述の荒川央博士と防衛医科大学の四ノ宮祥学校長が署名した。 生命科学において、危険な研究に対する警鐘が発せられたのはこれが初めてではない。 2012年、生命科学界を震撼させる研究が行われた。 鳥インフルエンザウイルスを人工的に哺乳類に感染できるようにする機能獲得研究である。 それを実施したのは河岡義裕教授の研究チームである。 この種の危険な研究に対しては、生命科学者からも批判の声が上がった。 2014年、研究者有志(ケンブリッジ・ワーキング・グループ)が、危険な研究の制限を求める声明を出した。 この声明には約400の学者が署名しているが、日本人は1人も含まれていない。 その意味で、ハンブルグ宣言に3人もの日本人が署名したのは大きな進歩と言えるだろう。 しかしながら、日本の生命科学界全体の体質は、2014年当時とほとんど変わっていないように思われる。 海外では新型コロナウイルスの起源を追究する勇気ある生命科学者が複数現れたが、日本には約2年間で1人もいなかったのである。 私は研究倫理に関する複数の団体に属しており、そこでの活動を通じて生命科学者たちにアプローチしたが、無視され続けた。 多数の学会を束ねた団体の論理部門の委員として、その団体に属する生物系の学会にアプローチしたが、学会の会長も副会長も聞き取り調査にすら応じなかった。 研究倫理教材を作る団体の生命科学系の理事にも何度か連絡したが、ずっと無視され続けた。 研究倫理の教材には、データを隠さず共有すること、利益相反を明らかにすることを指導する内容が含まれている。 新型コロナウイルスの起源をめぐっては、その原則に反するような行動が相次いだ。 中国は2019年9月以降、それまで公開していたウイルスのデータベースを非公開のままにしている。 新型コロナウイルスの起源を調べる上で重要なデータを、パンデミック発生後も隠蔽しているのである。 これは明らかに研究倫理に反する行為である。 現実の研究不正を目の当たりにしても、研究倫理を推進する立場の人々が何の声も上げないのを見ると、研究倫理の議論自体に意味がなかったのではないかと思う。 日本学術会議の存在意義も疑われる。 米国では日本の学術会議に相当する科学アカデミーとの共同声明で、中国に新型コロナウイルス起源調査の透明性確保のため、データ公開に協力するよう要請している。 しかし、日本学術会議は何もしていない。 尚、前述の鳥インフルエンザ機能獲得研究で世界を震撼させた河岡氏は日本学術会議の現会員である。 ■「神様」が作ったウイルス 日本では新型コロナウイルスの起源は話題にすら上らない。 ほとんどの人が自然発生であると今も信じているものと思われる。 欧米では研究所起源説が陰謀論と言われていた2020年においても、その可能性を指摘する科学者は少数ではあるが存在していた。 しかしながら、日本でそれを公言していた科学者は、私の知る限り私1人であった。 逆に、新型コロナウイルスは研究所起源では絶対ないと断言した学者や医師は少なくない。 ツイッターで多数のフォロワーを有する医師たちが、研究所起源説を陰謀論と断定したため、私も長らく陰謀論者扱いを受けることになった。 大事なのは起源を追究することより目の前のパンデミックを収束させることだとも言われた。 しかし、デルタ株の流行が収まって小康状態を迎えても尚、起源に関心を寄せる日本人はいなかった。 日本の生命科学者のほぼ全員が沈黙を守り続ける中、2022年6月に大きな動きがあった。 ベストセラー『ウイルス学者の責任』(PHP新書)で知られ、メディア露出も多い京都大学の宮沢孝幸准教授が、ラジオ番組とインターネット番組で、新型コロナウイルスが研究所起源である可能性に言及し始めたのである。 宮沢氏は長い間、新型コロナウイルス研究所起源説を陰謀論として批判してきた。 今になって意見を変えたのは、前述のオミクロン株の変異の異常を見てのことだという。 「神様」 あるいは 「宇宙人」 が作ったとしか思えないという独特な表現で、その変異が人為的なものである可能性が極めて高いことを示唆している。 オミクロン株の異常を見せられると、武漢原株の研究所起源も否定できなくなったようだ。 右の発言後、宮沢氏とツイッターでやり取りをした。 宮沢氏は新型コロナウイルスに見られる不自然な配列(前述のフーリン切断部位)には当然気付いていたようである。 だが、性善説を信じたかったことと、国内のBSL(バイオセーフティレベル)4の施設の運用に影響が出る心配があったことを、研究所起源説を退けた理由に挙げている。 このうち後者については、研究者の利便を公衆の安全に優先させるもので看過できない。 ■安倍晋三の功績 ウイルス学者に対する追及と並行して我々が行うべきは、中国に対する責任追及である。 中国当局は2019年末の段階でこのウイルスがヒト・ヒト感染することを把握していたのに、それを隠して感染者を世界中に旅行させてパンデミックを起こしたことは証拠のある事実である。 これだけでも人道に対する大罪だが、ウイルスの起源が武漢の研究所だとすれば、その罪の重みは測り知れない。 2022年7月8日、『ワシントンポスト』のコラムで、記者のジョシュ・ロギンは安倍元首相を以下のように称えた。 「世界の他の指導者たちが中国政府と協力的な関係を続けることにまだ固執していた時、力で世界の秩序を破壊するという中国の決意を見抜き、それに備えることを始めた指導者である」 新型コロナウイルスの起源を追う国際的研究者集団「パリグループ」メンバーでもあるジェイミー・メッツルは、2022年7月10日のCNNのインタビューでこう語っている。 「日本(安倍政権)は中国との友好関係はあり得ないと気付いて、米国、韓国、オーストラリア、インドなどと関係を強化した」 「安倍首相が表明したのは、日本は普通の軍隊を持つ普通の国になる権利があり、人道支援と世界中の弱者救済活動で世界を先導した日本の過去70数年の功績は誇るに値するということだ」 「安倍首相は今後もそれを継続するために尽力したのであり、私は日本の明るい未来を信じている」 メッツルはクリントン政権で働いた民主党員である。 米国のリベラルからこの発言を引き出した安倍元首相の功績は果てしなく大きい。 新型コロナウイルス疫病で中国が世界に対して取った行動は、同国の世界秩序に対する挑戦である。 世界がその責任を追及しようとする中、日本がそれに関与しないのは、安倍元首相が作り上げた世界の日本に対する期待を裏切ることになる。 残念ながら、その期待に応えようとする日本の生命科学者は皆無だが、少なくとも私はその役割を全うするつもりだ。 2022年11月には米国で中間選挙が行われる。 共和党の優勢が伝えられるが、同党にはウイルスの起源問題を徹底追及する構えの議員が多数いる。 今は上下院とも民主党が多数派で、ファウチを徹底的に守っている。 だが、選挙で共和党が勝てば状況は大きく変わる。 実際、ランド・ポール上院議員は共和党が過半数を取れば、議会の召喚権限を使ってファウチや武漢ウイルス研究所と関係のある米国内の学者たちを強制捜査すると言っている。 そこでウイルスの起源を示す決定的証拠が出ることを期待したい。 暴かれる武漢ウイルスの全て 世界の科学者や専門家、ジャーナリストの間でももはや「人工説」を疑う者はいない 月刊誌『WiLL』2021年10月号 ノンフィクション作家 河添恵子フェイスブック(FB)やツイッターなどのSNS(会員制交流サイト)で、中国関係者とみられる偽アカウントが政治的な投稿を行うケースが後を絶たない。 実在しない欧米などの民間人を装い、新型コロナウイルスの起源や新疆ウイグル自治区の人権問題について、中国政府の意向に沿った主張を投稿。 中国では規制されて使えない欧米のSNSを用い、国際世論の風向きを変えようと情報工作を展開している。 ■実在しないスイス人生物学者 米メタ社は2021年11月、運営するFBやインスタグラム上から、偽情報の拡散を目的にしたアカウント約850個を削除したと発表した。 パレスチナ自治区やポーランド、ベラルーシに関連するものも含まれていたが、全体の7割を超える600個以上が中国に関係するアカウントだった。 調査の結果、これらは2021年夏以降、中国本土から発信され、米英の英語話者や台湾、香港、チベット自治区の中国語話者を標的にしていたことが判明。 主にコロナに関する偽情報を投稿していたという。 メタ社が調査する契機となったのが、 「スイス人生物学者のウィルソン・エドワード」 を名乗るFBの偽アカウントだった。 世界保健機関(WHO)が求める中国でのコロナ起源調査に関し、 「米国がWHOに圧力をかけ、中国に責任を押し付けようとしている」 と主張し、調査に疑義を呈する投稿を行っていた。 投稿は、中国国営中央テレビの国際放送CGTNや中国共産党機関紙、人民日報といった中国メディアが引用。 だが、在中国スイス大使館は2021年8月、自国に住民登録がない人物だとして、 「架空の学者を引用しフェイク(偽)ニュースを流している」 と削除を求める声明を発表していた。 ■発信地特定しづらく 偽アカウントは中国内外の個人と繋がっており、20カ国超にある中国国営インフラ企業の従業員が投稿を拡散。 中国の公安や軍のIT支援を行う情報セキュリティー企業 「四川無声信息技術有限公司」 の社員も含まれていたという。 また、通信にVPN(仮想私設網)を使うなど、発信地を特定しづらくする工夫も施されていた。 メタ社は一連の目論見が 「失敗に終わった」 としたが、中国による情報工作の実態が表面化した一件となった。 一方、ツイッター社も2021年12月、中国政府の関与が疑われるアカウントなど計2160個を閉鎖したと発表した。 多くが偽アカウントとみられ、政府を支持するウイグル人の映像作成を当局から委託されているという新疆の中国企業のアカウントも含まれていた。 研究パートナーを務めたオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の報告書によると、投稿は早いもので2019年春から開始。 総ツイート数は6万件を超えた。 多くが元々はポルノ動画の配信などに利用され、今は使われていない休眠アカウントを乗っ取り再利用したものだったという。 一部は中国の外交官や当局者も引用してツイート、拡散しており、ASPIは 「中国共産党による巧妙な偽情報工作だ」 と指摘した。 ■偽情報拡散「事実無根」 中国最高指導部の元メンバーに性的関係を迫られたと暴露したテニス選手、彭帥(ほう・すい)さんの問題でも、 「彼女は無事だ」 との情報を広めるため、偽アカウントが暗躍した可能性がある。 米ニューヨーク・タイムズ紙と調査報道機関・プロパブリカの共同分析によると、所在不明だった彭帥さんの元気そうな姿などを投稿した中国国営メディアの記者のツイートを拡散したアカウントの大半が、フォロー、フォロワー数ともにゼロだったという。 ツイートをシェアした数百の投稿が1カ月も経たずになぜか消去されていたことも指摘。 同紙は 「特定のアカウントを増幅させるためだけに作られた偽アカウントだ」 と断定、 「自分たちの好むシナリオを広めるための組織的キャンペーンの一環だ」 と分析した。 中国外務省は 「友好関係を深め、事実に基づく交流を促進する目的で他国と同様にSNSを利用している」 とし、偽情報の拡散などは 「全くの事実無根だ」 と反論している。 際限ない中国偽アカウント 欧米SNSで情報工作 2022/1/7 1:00 https://www.sankei.com/article/20220107-MADZRQC45NIDJKRDSAHGHF7LBM/?856450 中国が関係していたとされる欧米人風の偽アカウントの一例。 スイス人生物学者を名乗る別の偽アカウントの投稿に「いいね」を押していた(米メタ社の報告書から) https://www.sankei.com/article/20220107-MADZRQC45NIDJKRDSAHGHF7LBM/photo/U6JMISTUKJMYNDN36QVY5MTTFI/ ■「架空の学者」でデマ マッコール米下院議員らが公表した、今回の 「新型コロナウイルス」 に関する報告書は、2020年6月と9月に続く共和党が手掛けた第3弾であり、人工説に一歩も二歩も踏み込んだ内容となっている。 ただ、この報告書に否定も肯定もできないのが、民主党ではないだろうか。 ”オバマ・ゲート”との別称が囁かれるように、民主党内にはバイデン・ファミリーをはじめ、武漢ウイルス研究所に関与する”大物”がいる。 また、ウイルス人工説をタブー視したがるワクチン推進派のフェイスブックやツイッターなどの大手IT企業や、製薬会社、DS関連企業からの献金で潤っている面もあり、彼らは総じて 「反トランプ」 で結束している。 『WiLL』(2021年8月号)に詳細を記述したので省略するが、国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士は、前述の 「エコヘルス・アライアンス」 を通じて、オバマ政権時代からの5年間で、少なくとも60万ドル(約6600万円)、おそらく340万ドル(約3億7000万円/「ウォールストリート・ジャーナル」)、米国民の血税を武漢ウイルス研究所に助成しているのだ。 しかも、バイデン大統領の次男ハンター氏が投資会社ロズモント・セネカ・テクノロジー・パートナーズは、パンデミックの追跡と対処が専門であり、 「エコヘルス・アライアンス」 と、武漢ウイルス研究所と長期にわたり協力関係にあるメタビオタグループの主要投資企業である。 いずれにせよ、米英仏、そして世界の 「正義と良識を持った」 科学者や専門家、ジャーナリストで、もはや 「人工説」 を疑う者はいない。 習近平政権も 「自然発生説」 で押し切れないからこそ、官製メディアやSNSを使って意図的にデマ論説を垂れ流し、抵抗を続けている。 例えば、2021年8月、スイス人生物学者 「ウィルソン・エドワーズ」 なる人物が、SNSで 「武漢ウイルス研究所から漏れ出た可能性は極めて低い、などとするWHO調査結果を支持した人たちが、米国やメディアからの圧力や脅迫にあった」 など、中共政府寄りの主張を展開し、それが中共系メディアに次々と転載されたことがあった。 ところが、スイスの駐中国大使館は2021年8月10日、ツイッターや中国のSNS(微博・ウェイボー)で、理路整然と 「ウィルソン・エドワーズというスイス国民は存在しない」 「生物学の世界に、この名前が署名された学術文書は存在しない」 などのカウンター声明を発表。 習近平政権の取れる手段が、 「隠蔽」 以外は、もはや 「捏造」 しかないことが暴かれた格好だ。 こういった事実が明るみに出ても、日本政府、そしてマスメディアは、ウイルス人工説(生物兵器説)を 「陰謀論」 で片付けたいのだろうか。 いよいよ濃厚 新型コロナ 武漢ウイルス研究所流出説 それでも権威に従順な学者たちは真実から目を背けてしまう 月刊誌『WILL』2021年12月号 筑波大学システム情報系准教授 掛谷英紀 ■疑惑の「申請書」 2019年夏、中国の湖北省でPCR検査機器が大量発注されていたことを日本経済新聞が報じた(2021年10月5日)。 豪州に拠点を置くサイバーセキュリティー企業 「インターネット2・0」 が主体となった調査チームが突き止めた情報で、既に海外で報じられていた内容である。 この情報は、新型コロナウイルスが2019年冬より前の段階で流行し始めていたことを示唆するものである。 しかし現在、新型コロナウイルスの起源解明に繋がる情報として海外で注目されているのは、より直接的かつショッキングなものである。 それは、米国の非営利機関 「エコヘルス・アライアンス(以下EHA)」 が武漢ウイルス研究所などと共同で、2018年にDARPA(米国防高等研究計画局)へ提出していた研究費申請書である。 この研究費申請は結果的に不採択になったが、そこにはSARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を人工的に挿入する実験計画が具体的に書かれていたのである。 「フーリン切断部位」 は、新型コロナウイルス(SRAS2)が属するサルベコウイルスにはない不自然なアミノ酸配列として注目されていた。 新型コロナウイルスがヒトに感染するには2つのステップがある。 最初のステップはヒトの細胞表面に結合すること、次のステップはヒトの細胞内に入ることである。 2つ目のステップで重要になるのが 「フーリン切断部位」 である。 SRASウイルスの場合、ヒトの細胞内に入るのに 「TMPRSS2」 という酵素を利用していた。 加えて、フーリンによる切断を利用すると、ウイルスは細胞内に劇的に入りやすくなる。 この 「フーリン切断部位」 の存在が、新型コロナウイルスの感染力の異常な強さに繋がっている。 SARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を遺伝子組み換え技術で人工的に挿入する研究は、これまでも世界各国の研究グループによって行われてきた歴史がある。 新型コロナウイルスの 「フーリン切断部位」 が人工的に挿入されたものである可能性が疑われたのは、それが理由である。 しかし、これまでは武漢ウイルス研究所がその種の研究に取り組んだ形跡はなかった。 今回明るみになったEHAの研究計画は、その穴を埋めたという意味で極めて重要な意味を持つ。 ■討論会で真実が証明された この研究費申請書を公開したのは、 「DRASTIC」 と呼ばれる世界から自主的に集まったインターネット上の新型コロナウイルス起源調査集団である。 DRASTICが公開した書類は内部リークで入手されたもので、当初はその真偽が疑われていた。 そのため、米国ネットメディア 「インターセプト」 など、ごく一部でしか報じられなかった。 2021年9月6日、 インターセプトはFOIA(情報公開法)によって、EHAからNIH(米国立衛生研究所)に提出された書類を入手し公開した。 この書類には、EHAの研究報告書も含まれており、そこにはSARSウイルスの 「機能獲得研究」(ウイルスの毒性や感染力を強める研究) が行われていたことを示す動かぬ証拠があったため、大きな話題になっていた。 その流れで、同社はこの件を報じたものと思われる。 DRASTICが公開した書類が本物だと判明したのは、2021年9月30日に学術誌 『サイエンス』が企画した新型コロナウイルス起源に関する公開討論会である。 この討論会には4名の科学者 (アリーナ・チャン、ジェシー・ブルーム、マイケル・ウォロベイ、リンファ・ワン) が参加した。 前者2名は新型コロナウイルス研究所起源の可能性は十分あるという立場、後者2名はあり得ないという立場である。 リンファ・ワンはシンガポールのデュークNUSメディカルスクールの教授だが、もともと中国人で武漢ウイルス研究所の石正麗とも親しい関係にある。 DRASTICが公開した研究費申請書にも、研究グループの一員として名を連ねていたため、討論会の前からリンファ・ワンが何を語るかが注目されていた。 この討論会のクライマックスは後半にやってきた。 アリーナ・チャンがリンファ・ワンに、 「研究費申請書にはフーリン切断部位を人工的に入れる研究計画が書かれているが、これは誰の提案だったのか」 と聞いたのである。 それに対して、リンファ・ワンは躊躇しながらも 「ノースカロライナ大学だ」 と答えた。 ノースカロライナ大学には、痕跡が残らないように遺伝子の塩基配列を組み換える技術を開発し、その技術を石正麗に教えたことで知られるラルフ・バリックがおり、彼もこの研究計画の一員として名を連ねていた。 リンファ・ワンのこの回答によって、DRASTICが公開した書類が本物であることが証明されたわけである。 これを受けて、世界の大手メディアがこの研究計画について一斉に報じ始めた。 武漢ウイルス研究所がSARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を入れる研究計画をしていたことをもって、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所起源であると断定することはできない。 だが、偶然にしては出来過ぎである。 研究計画で作ろうとしていたものが、その研究所がある場所でたまたま自然に発生する確率は、ゼロではないが天文学的に低い数字である。 ■ウソを繰り返す張本人 万が一、新型コロナウイルスが自然発生したものであっても、それと同じ危険なウイルスを人工的に作成する計画をしていたこと自体、その倫理的責任は追及されて当然である。 DARPAはその研究費申請書を採択していないが、研究者が大型予算を申請する場合、研究計画の内容に含まれている事項については事前に予備的な実験を行い、それが上手くいくことを確認しておくことが多い。 大型予算を取得したのに何の成果も出ないと責任を問われるかもしれないという理由である。 また、計画した研究があるグラント(科学研究補助金)で不採択になっても、別のグラントに通れば、それで実施するのが普通である。 したがって、SARSウイルスに 「フーリン切断部位」 を人工的に挿入する研究が、武漢ウイルス研究所で実際に行われていたことは、ほぼ間違いない。 そもそも、こういう研究計画で予算申請をしていた事実があるのに、それをずっと隠していたことについても倫理的に大きな問題がある。 前出のEHAの代表であるピーター・ダシャックは、これまでも多くの偽情報を繰り返し発信してきた。 彼は、武漢ウイルス研究所ではコウモリは飼育されていないと発言していたが、その後同研究所でコウモリが飼育されている様子を撮影した動画が見つかっている。 2020年2月に学術誌『ランセット』に掲載された 「新型コロナウイルスが自然発生でないことを示唆する陰謀論を断固として批判する」 と主張する27人連盟のレター作成で中心的な役割を果たしたのも彼である。 そこで彼は武漢ウイルス研究所と共同研究をしていたにもかかわらず、利益相反はないと宣言していた。 2021年9月30日、DRASTICの4名を含む世界の10名の研究者が、EHAの理事会宛にダシャックを代表から解任することを求めるオープンレターを公表した。 実は筆者自身もこの10名のうちの1人に含まれている。 このレターは、2021年10月6日に『ニューズウィーク』誌もその内容を報じるなど、海外では話題となっている。 2021年10月10日の英国「デイリーメール」の記事において、フランス・パスツール研究所のウイルス学者サイモン・ウェイン・ホブソン教授は、 「機能獲得研究」(ウイルスの毒性や感染力を強める研究) に内在する甚大な危険性を考えると、国際的で法的拘束力のある基準が設定されるまで、 「機能獲得研究」(ウイルスの毒性や感染力を強める研究) の実施とそれに対する資金提供を世界的に禁止する必要があると書いている。 筆者もこの見解に強く賛同する。 中国「発生時期」議論再燃も PCR機器、2019年5月に急増 新型コロナ 2021年10月5日 22:00 (2021年10月6日 5:26更新) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0518U0V01C21A0000000/ 米NPO、武漢研究所と密かにウイルス開発 最新の流出文書で明らかに 2021年9月27日 Tweet Facebook Telegram Line Email https://www.epochtimes.jp/p/2021/09/79502.html ■権威に従順な学者たち 海外では大々的にニュースになっているエコヘルス・アライアンス(以下EHA)の研究計画であるが、なぜか日本では全く報じられていない。 最大の理由は、日本の生命科学者や医師に、新型コロナウイルス研究所起源の可能性について解説しようとする人がいないことだろう。 それゆえ、日本経済新聞が報じたPCR検査機器のように、素人にも理解しやすいことは記事にできても、 「フーリン切断部位」 のように科学リテラシーを要する内容は、日本のメディアは記事にできないのではないか。 現在、日本で新型コロナウイルスの起源が武漢ウイルス研究所である可能性を論じているのは、神田外国語大学興梠一郎教授、明海大学の小谷哲男教授など、中国や安全保障の専門家だけで、科学的観点から論じているのは筆者しかいない。 筆者は科学者ではあるが、分子生物学を専攻していたのは遠い昔のことであり、現在の専門は電子情報工学である。 本来ならば、生命科学を専門とする人がこの問題を論じるべきだが、日本にこれだけ大量の生命科学者がいながら、その役割を果たす人が誰一人いないというのはあまりに異常である。 逆に、新型コロナウイルスは研究所起源では絶対ないと断言した医師も少なくない。 ツイッターで多数のフォロワーを抱える峰宗太郎氏やEARLの医学ツイートはその代表例である。 木下喬弘医師は新型コロナウイルス研究所起源を論じるのは下品だと断じた。 彼にはウイルス起源の討論会を企画・実施した『サイエンス』誌を 「下品だ」 と罵ってほしいところだが、その勇気はないだろう。 権威には従順なのが日本の学歴エリートの習性である。 もちろん、権威に従順な学者が多いのは日本に限ったことではない。 しかし、海外にはそうした権威に負けずに真理を追い求める医学者も少なくない。 米スタンフォード大学のデイビッド・レルマン教授や豪フリンダース大学のニコライ・ペトロフスキー教授がその代表例である。 日本にも新型コロナウイルスについて詳しい医学者がいないわけではない。 広島大学の坂口剛正教授はその1人である。 ユーチューブで公開されている彼の新型コロナウイルス解説動画は10万回再生を越えている。 だが、その動画の中で、新型コロナウイルスが細胞内に入る機構として解説されているのは 「TMPRSS2」 という酵素だけで、 「フーリン切断部位」 には触れられていない。 アルファ株やデルタ株の感染力の強さも、 「フーリン切断部位」 の変異で説明できるほど重要な部分であるのに、それに敢えて触れなかったのはなぜか。 「フーリン切断部位」 について積極的に論じる海外の生命科学者とはあまりに対照的である。 ■ならば専門家など必要ない ウイルス起源の問題に限らず、新型コロナウイルスについて、日本の医学者たちがこれまで発信してきた情報には問題があまりに多い。 ワクチン推進の医師たちは、日本でもワクチン忌避が起きると煽っていた。 私は 「心配しなくても日本の接種率は8割近くになるだろう」 と言って猛反発に遭ったが、結果として私の方が正しかった。 京都大学の西浦博教授は、五輪開催で気の緩みが出るからと、五輪中止とロックダウンを推奨した。 私はそれにツイッター上で反論して彼からブロックされた。 しかし、実際には五輪開催中に人流は減ったことが確認されており、その後ロックダウンをせずとも感染者数が激減したのはご承知の通りである。 ところが、医師というのは仲間意識が強いようで、未だに西浦氏を擁護する人が少なくない。 例えば 「あれは予測はなくシミュレーションだ」 という言い訳をよく見る。 だが、西浦氏は 「対策の効果が出て人流が減るなどし、増加のペースが前の週の1.2倍に抑えられた場合でも、2021年8月21日には7000人を超える」 と発言していた。 確かに、各種政策による人流減の効果がどの程度かは感染症の専門家には分からない。 その意味で、五輪での気の緩みという発言は感染症学者として不適切である。 よって、複数のシナリオによるシミュレーションは必要だ。 しかし、人流の数値から実効再生産数を予測するのは感染症学者の領分ではないか。 人流が減っても実効再生産数が1.2にしか抑制されないと見積もっていた彼のモデルに何らかの欠陥があるのは明らかだ。 その点を追及しないのは、学術的に見て異常である。 実効再生産数が1.2なら7000人を超えるという計算は高校生でもできる。 それをもって自分は正しいことを言っているというなら、専門家など必要ない。 日本に真理を探究する医学者がいないとするなら、海外から呼び寄せるしかない。 日本の学術界の人材不足はそれほど深刻である。 2021年8月27日、バイデン大統領が情報機関に命じた新型コロナウイルスの発生源に関する調査報告書が公開された。 文書は2ページも埋まらない分量で、その内容も驚くほど薄いものであった。 4つの情報機関は低い確信度で自然発生、1つの情報機関は中程度の確信度で研究所起源、残りの情報機関は中立、と意見が分かれたことを報告するのみで、各機関の判断の根拠は全く示されなかった。 2021年8月2日、連邦議会下院外交委員会の共和党メンバーが公開した報告書は83ページに及ぶもので、研究所起源を示唆する新たな状況証拠も提示していたが、それとは対照的であった。 ただし、共和党の報告書も、研究所流出の可能性が高いと述べているだけで、断定はしていない。 状況証拠しかないからである。 決定的な証拠を得る最も確実な方法は、武漢でコウモリのコロナウイルスを研究していた全ての研究所に立ち入り検査して、研究履歴を調べ上げることである。 しかし、中国政府がこれを許すとは考えられない。 実際、2021年1月から2月にかけての世界保健機関(WHO)の調査団も、研究所内部を調べることはできなかった。 現地調査以外に、決定的な証拠を得る方法が全くないわけではない。 1つが、武漢ウイルス研究所が2019年9月12日まで公開していた22,000以上にのぼるウイルスのデータベースを入手することである。 これが手に入れば、新型コロナウイルスが研究所を起源とする決定的証拠を掴める可能性がある。 2021年8月5日、米CNNテレビは米国の情報機関がこのデータベースをハッキングにより入手したと報道した。 その記事には、データベースの解析には相当の時間を要するとも書かれていた。 米国情報機関の報告書が明確な結論を出すとすれば、情報機関がデータベースを入手したことが事実で、かつ解析が急ピッチで進んだ場合に限られていた。 よって、報告書が研究所起源を断定できないことは予想できた。 ただし、その内容の薄さは、事前の予想を大きく裏切るものであったことは間違いない。 一方、起源が天然であった場合、それを結論付けるには感染経路の特定が必要である。 しかし、それが全く見つかっていない。 よって、今回の報告書が天然起源と断定する可能性は最初から無かった。 ■中国がひた隠す廃銅山 一部に、人間への感染を仲介した動物(中間宿主)の特定は難しいとの報道がある。 しかし、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)は流行開始から4カ月、2012年のMERS(中東呼吸器症候群)では9カ月のうちに中間宿主が見つかっている。 疫病発生から20カ月以上が経過し、80,000以上もの動物の検体を調べても感染源が見つかっていないことは、過去の例と比較すると異常である。 (他にも、新型コロナウイルスには不審な点が多数あるが、詳細は拙著『学者の暴走』の第1章を参照されたい) それよりも異常なのは、天然起源を主張する生命科学者が非常に多いにもかかわらず、彼らのほぼ全員が感染経路の特定に全く関心が無いことである。 次のパンデミック防止には、感染源を明らかにすることは必要不可欠である。 にもかかわらず、多くの生命科学者は研究所流出を否定することだけに熱心で、肝心の感染経路を調べようという意志が見られないのである。 前述のウイルスデータベースと同様に、中国が必死に隠しているものに、雲南省墨江にある廃銅山がある。 2012年、ここに出入りしていた人から、SARSによく似た症状を持つ6人の患者が見つかり、そのうち3人は死亡している。 中国はこの症例を菌類からの感染としているが、新型コロナウイルスの起源を調べているネット調査集団 「DRASTIC」 のメンバーが、この6人の患者の治療履歴などの中国語資料をネット上から見つけ出し、これらが間違いなくSARSに類似するウイルス感染の症例であることを突き止めている。 国際保健規則では、SARSを含む新たな感染症例が出た場合にはWHOに報告することを義務付けている。 中国はこの規則に明確に違反したことになる。 さらに、武漢ウイルス研究所は、その後この廃銅山に何度もウイルスの採取に出向いており、それを研究所内に持ち帰って研究していたことが明らかになっている。 新型コロナウイルスに最も遺伝子が近い 「RaTG13」 という名のコウモリのウイルスも、この廃銅山より採取されたものである。 よって、ここからウイルスのサンプルを多数採取して分析すれば、起源が天然であれ研究所であれ、感染経路について大きなヒントが得られる可能性がある。 ところが、中国はこの廃銅山の公開を頑なに拒否しているのである。 天然起源を信じている生命科学者も、ここを調べれば自説の正しさを証明できるかもしれないのに、立ち入り調査を全く求めていないのである。 1度、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの記者が、マウンテンバイクでこの廃銅山に近づこうとしたが、地元の警察に足止めされたという事件があった。 それと同じ気概を持つ学者は誰一人いない。 ■天然説にファウチ氏の圧力? では、なぜ生命科学者たちは調査に消極的なのか。 実は、表では天然起源を主張しているウイルス学者の中にも、本音では人工説を強く疑っている人が多いことが、様々な情報源から明らかになっている。 新型コロナウイルス起源天然説が広く信じられるのに最も大きく寄与した文献の1つは、2020年3月に学術誌 「ネイチャー・メディスン」 に掲載されたクリスチャン・アンダーセン氏らによる論文(コレスポンダンス)である。 この論文が掲載される前の2020年1月31日、アンダーセン氏が 「米国立アレルギー感染症研究所長」 のアンソニー・ファウチ氏に送った電子メールが、情報公開法(FOIA)で公開された資料の中に含まれていた。 そこで、アンダーセン氏はウイルスに人工的改変があるように見えると書いていたのである。 この後、2020年2月4日には、ネイチャー・メディスンの論文の草稿と思われるものが、同論文の共著者の1人であるエドワード・ホームズ氏からジェレミー・ファラー氏を経由してファウチ氏宛に転送されている。 このファラー氏は英財団 「ウェルカム・トラスト」 代表で、生命科学の研究を金銭的に支援してきた人物である。 ファラー氏は2021年7月に 「スパイク」 と題する今回のパンデミックを題材にした著書を出版した。 その本において、当初アンダーセン氏は60〜70%、ホームズ氏は80%の確率でウイルスは研究所起源であると考えていたとファラー氏は書いている。 2020年1月31日の時点で新型コロナウイルスに人工的改変が含まれると思っていたアンダーセン氏やホームズ氏が、ほんの数日のうちになぜ意見を変えて天然説を主張する論文を書いたのか。 この点について、ファラー氏は十分な説明を与えていない。 2020年2月1日にファウチ、ファラー、アンダーセン、ホームズの4氏らの間で電話会議が行われたことが明らかになっているが、その会議においてファウチ氏から何らかの圧力が加えられたものと想像される。 ご存じの通り、ファウチ氏は米国の新型コロナウイルス対策を指揮する立場にある。 ファウチ氏は1984年より 「米国立アレルギー感染症研究所長」 の座に君臨し続けており、米国の生命科学界におけるファウチ氏の影響力は非常に大きい。 「アメリカ国立衛生研究所(NIH)」 からの研究費配分に大きな決定権を持つからである。 ファウチ氏は危険な研究であるとの批難を浴びても 「機能獲得研究」 (ウイルスの遺伝子を組み換えて、感染力や毒性を強める研究) を養護し続けてきた歴史がある。 ファウチ氏はこの点をランド・ポール上院議員から議会で激しく追及されている。 「アメリカ国立衛生研究所(NIH)」 の資金は 「エコヘルス・アライアンス」 という組織を通じて 「武漢ウイルス研究所」 に流れており、ファウチ氏はその決定に深く関わっていた。 このプロジェクトで、アメリカでは禁止されている 「機能獲得研究」 が 「武漢ウイルス研究所」 で行われてきたのではないかという疑惑が浮上しているのである。 ファウチ氏はポール議員の追及に対し、 「アメリカ国立衛生研究所(NIH)」 の資金で 「機能獲得研究」 は行われていないと議会で繰り返し証言してきた。 しかし、米ネットメディア 「インターセプト」 が情報公開で得た 「エコヘルス・アライアンス」 から 「アメリカ国立衛生研究所(NIH)」 に提出された書類で、 「機能獲得研究」 が行われていたことを示す動かぬ証拠が見つかった。 今後、ファウチ氏は偽証罪に問われる可能性がある。 (共和党の議員は追及に積極的だが、民主党の議員は今のところ消極的である) ■中国の研究者との実績作り 本音では研究所起源の可能性が高いと思っていたのに、表で天然起源説を強硬に主張していたウイルス学者は、アンダーセン氏やホームズ氏だけではない。 例えば、ペンシルバニア大学のスーザン・ワイス氏とオハイオ州立大学のシャンリー・リウ氏が、ウイルスの塩基配列の特徴から、新型コロナウイルスに人工的改変がある可能性を本気で心配していたことを示す文面が、両者の間でやり取りされた電子メールから見つかっている。 このメールも情報公開制度により得られたものである。 では、なぜ彼らは本音ではウイルス人工改変の可能性が高いと考えていたのに、外向きにはウイルスの起源が天然であると言い張る必要があったのか。 1つはファウチ氏に逆らえないという側面があっただろう。 だが、理由はそれだけではない。 この点について、カリフォルニア大学バークレー校のリチャード・ムラー名誉教授が、2021年6月29日に開催された米連邦議会下院の公聴会で次のような証言を行っている。 ムラー氏の専門は天体物理学であるが、新型コロナウイルスの起源に興味を持ち、論文を読むために生物学の専門家に助けを求めた。 しかし、その1人は協力を拒否した。 研究室のボスは忙しいからだと思い、協力してくれる部下を誰か1人紹介してくれとムラー氏は頼んだ。 すると、そのボスは 「うちの研究室には誰一人協力する者はいない」 「もし研究所起源説を調べていると分かったら、中国の研究者と共同研究ができなくなる」 「そんなリスクを冒す研究者はいない」 と答えたそうである。 結局、ウイルス学者にとって大事なことは、 「アメリカ国立衛生研究所(NIH)」 から予算を受け続けること、中国の研究者と共同で論文を書くこと、それによって研究者としての実績を積むことだけであって、それ以外のことには全く関心がないのである。 ラトガー大学のリチャード・エブライト教授は、2021年8月10日に公開された 「ディスインフォメーション・クロニクル」 のインタビュー記事において、次のように語っている。 「機能獲得研究はパンデミックを予防したり、それに対処するのには全く役立たない」 「こうした研究が行われるのは、研究者の出世のためだ」 「機能獲得研究は実験がしやすい」 「論文が書きやすく、研究予算が取りやすいのだ」 「抗ウイルス薬の開発は、通常20年もの長い年月がかかり、成功確率も20分の1程度だ」 「一方、機能獲得研究は6カ月しか要しないし、成功確率は100%に近い」 「機能獲得研究なら、すぐに結果が得られ、論文が書け、次の研究予算にありつけるというわけだ」 新型コロナウイルスが研究所起源となると、機能獲得研究は大幅に制限され、予算も削られ、ウイルス学者たちは出世の道を閉ざされることになる。 だから、彼らは全力で研究所起源説を否定したというのがエブライト氏の見解である。 それを裏付けるウイルス学者の具体的動きもある。 2021年7月15日、米国微生物学会が他のいくつかの学会と共同で、パンデミックの起源を理由とする規制強化に反対するレターを連邦下院歳出委員会に提出している。 彼らは自分の研究利権を守るのに必死なのである。 ■ソ連風邪の二の舞!? 実は、生命科学者には重大な情報隠蔽の前科がある。 それは1977年のソ連風邪(H1N1型インフルエンザ)と1979年のソ連スヴェルドロフスク炭疽菌漏出事故である。 ソ連風邪については50歳前後以上の人はよく覚えているのではないだろうか。 世界で大流行し、約100万人の死者が出た。 私も当時のことを微かに記憶している。 実は、この疾病は研究の事故を起源にしていたというのが、ほぼ全ての研究者の一致した見解である。 生命科学界で、ソ連風邪の起源が研究事故との意見が大勢になったのは約10年前であった。 2009年のインフルエンザ流行がきっかけになった。 そこで1977年の流行の再評価がなされたのである。 ただ、これが研究の事故であることは1977年の流行当時から疑われていた。 不自然だったのは、20代前半以下の人だけが重症化したことだった。 なぜ、そのような不思議なことが起きたのか。 このウイルスが1950年頃に流行ったインフルエンザとほぼ同一だったからである。 よって、20代後半以上の人には抗体があった。 今回のパンデミックでも分かる通り、ウイルスは頻繁に変異を繰り返す。 ウイルスの遺伝子配列が20年も同じままであることはあり得ない。 最も有力な説の1つは、ソ連と中国が1950年頃に流行していたウイルスを冷凍保存していたものを弱毒化してワクチンとして治験したが、弱毒化が不十分で感染が広まってしまったというものである。 1979年のスヴェルドロフスク炭疽菌漏出事故の詳細が明らかになったのもソ連崩壊後の1993年である。 これらの事故の長期にわたる隠蔽は、中国、ソ連という独裁国家の危険を象徴する。 ただ、特筆すべきは、いずれの事例においても西側の生命科学者たちの多数が、研究の事故の可能性を否定する側に立ったことである。 研究事故が発生すれば、その場所が独裁国家であっても、自らの研究に対する監視の目が厳しくなる。 それを嫌って独裁国家の情報隠蔽に加担する道を選んだのであろう。 その目論見は見事に成功しているのが恐ろしい。 ソ連風邪が研究の事故を起源とするという事実も、スヴェルドロフスク炭疽菌漏出事故も、一般にはほとんど知られていない。 本来ならば、いずれもチェルノブイリや福島第一原発の事故と同様に、歴史の教科書に載せるべき内容である。 ところが、人々の関心が失われるまで情報を隠蔽することによって、学者の世界以外でほとんど知られない状態を維持することに成功したのである。 生命科学者たちは、新型コロナウイルスの起源についても、この成功体験を繰り返すことを目論んでいるのではないか。 ■機能獲得研究の危険性 生命科学者にも、良識のある人が全くいないわけではない。 その代表例が、スタンフォード大学のデイビッド・レルマン教授である。 2021年5月14日に学術誌 「サイエンス」 において、新型コロナウイルスの起源について武漢ウイルス研究所流出説を排除しない公正な調査を求める、18人の研究者を共著とするレターが掲載されたが、レルマン氏はその署名者の1人である。 18人の中でレルマン氏が注目されるのは、実績十分な微生物学者だからである。 レルマン氏は、従前から 「機能獲得研究」 の危険性について言及している人物である。 2021年8月22日には、英国のチャンネル4で新型コロナ起源に関するドキュメンタリー番組が放送された。 そこには前述の民間のアマチュア研究者グループ 「DRASTIC」 や 「パリグループ」 (筆者も属する新型コロナウイルスの起源を調査する学者集団) のメンバーが多数登場した。 だが、最も発言が多く取り上げられたのはレルマン氏であった。 番組の最後も、 「これ以上危険なことはやらないというレッドラインを決めることが必要だ」 というレルマン氏の言葉で締めくくられていた。 レルマン氏の提案を実現するには、国際原子力機関(IAEA)のような組織を危険な遺伝子組み換え技術に対しても作る必要がある。 原子力の場合、施設そのものの安全対策を徹底した上で、それでも事故の可能性を考えて施設を人里離れた場所に作る。 本来なら、 「機能獲得研究」 についても同様のことをすべきである。 ところが当の生命科学者は非常に消極的である。 例えば、コロンビア大学のダニエル・グリフィン博士は、スティーブン・クエイ博士との討論において、危険な研究の拠点を過疎地に移すと研究者の子息が良い学校に行けないという、信じられないほど身勝手な主張を恥ずかしげもなくしていた。 彼らは、公衆の安全については全く関心が無いのである。 この発言1つとっても、生命科学者の自律性に任せることの危険が分かるだろう。 民主主義のスキームを使って、国民の声の力で生命科学者に対する監視強化を実現することが急務である。 でなければ、第2のソ連風邪はいつ起きても不思議ではない。 最初の人工パンデミック 1977年H1N1 ソ連風邪 SARS-CoV-2起源情報局 2021年8月23日 21:42 https://note.com/lab_leak_japan/n/n8083cd059da5 学者の暴走 米国コロナ対策の最高責任者A・ファウチはジキルかハイドか 出世とカネと「反トランプ」に目が眩んで真実をねじ曲げる科学者たち 月刊誌『WiLL』2021年10月号 筑波大学システム情報系准教授 掛谷英紀 ■もはや「陰謀論」ではない 新型コロナウイルスの起源追究をめぐる動きが激しさを増している。 2021年7月15日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が、研究所の事故はよく起きることであり、中国はこれまで研究所の情報を十分公開していないとして、WHOの第2次調査に協力するよう中国に求めた。 それを受けて、2021年8月12日、WHOは継続調査に関する声明を出した。 さらに同日、WHOの第1次調査を指揮したデンマーク人学者のピーター・ベンエンバレクは、 「ウイルスが研究所流出を起源とする可能性は限りなく低いとする調査報告 は中国の圧力で書かされたものであり、研究所員の感染を起源とする可能性はある」 と、デンマーク国内のテレビ番組のインタビュー(2021年6月収録)で答えたことが明らかになった。 米国でも2021年8月2日、連邦議会下院外交委員会(共和党)が、新型コロナウイルスの起源は武漢ウイルス研究所からの流出であるとする報告書を発表した。 2021年8月24日には、バイデン大統領が情報機関に指示したウイルスの発生源解明に向けた90日間の追加調査の結果報告期限を迎える。 本誌2021年6月号で筆者がこの問題を取り上げた時点では、新型コロナウイルスの起源が武漢ウイルス研究所からの流出であるという説は、まだ陰謀論扱いに近かった。 しかしながら、ウイルスが武漢ウイルス研究所起源ではないかという科学に基づく議論は、2020年前半から既に一部の学者の間でなされていた。 筆者自身、2020年5月時点でそれらの情報(ウイルスの塩基配列や過去の研究履歴)をキャッチし、ウイルスの起源が武漢ウイルス研究所である可能性は高いと判断しており、当時からその見解をツイッターやユーチューブなどで開示していた。 世論の趨勢が筆者らの見方に近づいたのは、2021年5月5日付で原子力科学者会報に掲載されたニコラス・ウェイドの記事の影響が大きい。 ウェイドは、長年ニューヨーク・タイムズで科学記者を務めた著名なジャーナリストである。 その彼が、武漢ウイルス研究所流出説を強く示唆する記事を書いた。 そこには、ノーベル医学・生理学賞受賞者のデイビッド・ボルティモアが人工説を支持していることも書かれていた。 2021年5月14日には、学術誌『サイエンス』において、新型コロナウイルスの起源について武漢ウイルス研究所流出説を排除しない公正な調査を求める、18人の研究者を共著とするレターが掲載された。 この署名者には、デイビッド・レルマンなどの大物生物学者も含まれていた。 新型コロナウイルスのパンデミック発生から、2021年5月の『サイエンス』のレター掲載に至るまでのウイルス起源追究をめぐる動きについては、拙著『学者の暴走』(扶桑社新書)の第1章で詳述している。 ■真実を葬ったファウチ 2021年6月に入ると、新型コロナウイルス武漢ウイルス研究所起源説を補強する情報が飛び込んできた。 米国立アレルギー感染症研究所所長で、米国の新型コロナウイルス対策を指揮するアンソニー・ファウチの電子メールを、情報公開法(FOIA)に基づいて米国メディア各社が入手して公開したのである。 ウイルス天然起源説が広く信じられるのに最も大きく寄与した文献の1つは、2020年3月に学術誌『ネイチャー・メディスン』に掲載されたクリスチャン・アンダーセンらによる論文(コレスポンダンス)である。 この論文が掲載される約1ヶ月半前の2020年1月31日、アンダーセンがファウチに送った電子メールが、FOIAで公開された資料の中に含まれていた。 そこで、アンダーセンはウイルスに人工的改変がある可能性に言及していたのである。 2020年2月4日には、『ネイチャー・メディスン』掲載論文の草稿と思われるものが、同論文の共著者の1人であるエドワード・ホームズからジェレミー・ファラーを経由してファウチ宛に転送されている。 ファラーは英財団ウェルカム・トラスト代表で、生命科学の研究を金銭的に支援してきた人物である。 ファラーは2021年7月に 「スパイク」 と題する今回のパンデミックを題材にした著書を出版した。 その本において、当初アンダーセンが60〜70%、ホームズは80%の確率でウイルスは武漢ウイルス研究所起源であると考えていたとファラーは書いている。 問題の核心は、2020年1月31日の時点で新型コロナウイルスに人工的改変が含まれると思っていた彼らが、ほんの数日のうちになぜ天然説を主張する論文を書いたのかということだ。 この点について、ファラーは十分な説明を与えていない。 時系列に考えて、2020年2月1日にファウチ、ファラー、アンダーセン、ホームズらが参加した電話会議において、ファウチがアンダーセンとホームズに対して何らかの圧力をかけたものと想像される。 ■知っていながら ファウチはなぜ、圧力をかけてまで新型コロナウイルス武漢ウイルス研究所起源説を打ち消す必要があったのか。 危険な研究であるとの批判を浴びても 「機能獲得研究」 (ウイルスの遺伝子を組み替えて、感染力や毒性を強める研究) を擁護し続け、武漢ウイルス研究所の資金源となったエコヘルス・アライアンスにNIH(アメリカ国立衛生研究所)の資金を流す決定をしていた中心人物が、ファウチ自身だったからである。 実際、現在米国連邦会議上院において、ファウチはこの点をランド・ポール議員から激しく追及されている。 ウイルスの起源が武漢ウイルス研究所であると確定すれば、ファウチは窮地に追い込まれる。 だから、武漢ウイルス研究所起源説をどんな手を使ってでも葬り去りたかったのだと推測される。 武漢ウイルス研究所起源説を葬り去るのに協力したのは、ファウチとその周辺人物だけではない。 ウイルス学に携わる世界の研究者のほとんどが、新型コロナウイルスの起源が武漢ウイルス研究所であることはあり得ないと口を揃えていた。 しかし、アンダーセンやホームズだけでなく、表で天然起源説を強硬に主張していたウイルス学者たちが、裏では武漢ウイルス研究所起源の可能性が高いと思っていたことが情報公開により次々と明らかになっている。 例えば、ペンシルバニア大学のスーザン・ワイスとオハイオ州立大学のシャンリー・リウが、ウイルスの塩基配列の特徴から、ウイルスに人工的改変がある可能性を本気で心配していたことを示す文面が、両者の間でやり取りされた電子メールから見つかっている。 ■真実より党派性 なぜ彼らは、本音では新型コロナウイルスが遺伝子の人工改変により作られたものである可能性が高いと考えていたのに、外向きにはウイルスの起源が天然であると言い張る必要があったのか。 その理由を考えるヒントになる貴重な情報を、カリフォルニア大学バークレー校のリチャード・ムラー名誉教授が提供している。 彼は、2021年6月29日に開催された米連邦議会下院の公聴会で次のような証言を行っている。 同教授の専門は天体物理学であるが、新型コロナウイルスの起源に興味を持ち、自ら関連する論文を読み始めたそうである。 専門知識がないため、誰かの助けが必要である。 そこで、自分の人脈を使って、研究室のボスを務める生物学の専門家に助けを求めた。 しかし、その1人は協力を拒否した。 忙しいからだと思い、協力してくれる部下を誰か1人紹介してくれないかとムラー教授は頼んだ。 すると、そのボスはこう答えた。 「うちの研究室には誰1人協力する者はいない」 「もし武漢ウイルス研究所起源説を調べていると分かったら、中国の研究者と共同研究ができなくなる」 「そんなリスクを冒す研究者はいない」 ムラー教授はその言葉を聞いて、自由主義国であるはずの米国の研究の自由が、中国という独裁国家によってコントロールされていることに強い恐怖を覚えたと語っている。 ムラー教授は、次に別の生命科学者に同じことを頼んだ。 すると、その協力者は次のように答えたという。 「武漢ウイルス研究所起源説と言えば、トランプ大統領(当時)が言っていることと同じではないか」 「もしトランプの言っていることが正しいと証明されれば、トランプが大統領選に勝ってしまう」 「そんなことに協力できるわけがない」 この科学者にとっては、科学的真理が何かよりも、大統領選の結果の方が大事だったというわけである。 さらに、ムラー教授が下院の公聴会に出席することになった時、彼の仲間の科学者たちは一斉にそれに反対したと公聴会で語っている。 その公聴会が共和党主催であることが理由だった。 科学的真理を語るのに、相手がどの政党の議員かは一切関係ないはずである。 米国の科学者はその程度のことも理解できないほど、本来の科学を忘れ、政争に自らを埋没させてしまっているのである。 ■「出世の道が閉ざされる」 一方、機能獲得研究の危険について長年警鐘を鳴らし続けてきたラトガーズ大学のリチャード・エブライト教授は、2021年8月10日に公開された 『ディスインフォメーション・クリニクル』 のインタビュー記事において、次のように語っている。 「(外部向けの宣伝文句とは違い)機能獲得研究はパンデミックを予防したり、それに対処するのには全く役立たない」 「こうした研究が行われるのは、研究者の出世のためだ」 「機能獲得研究は実験がしやすい」 「論文が書きやすく、研究予算が取りやすいのだ」 「抗ウイルス薬の開発は通常、20年もの長い年月がかかり、成功確率も20分の1程度だ」 「一方、機能獲得研究は6カ月しか要しないし、成功確率は100%に近い」 「機能獲得研究ならすぐに結果が得られ、論文が書け、次の研究予算にありつけるというわけだ」 新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所起源となると、機能獲得研究は大幅に制限され、予算も削られ、ウイルス学者たちは出世の道を閉ざされることになる。 だから、彼らは全力で武漢ウイルス研究所起源説を否定し、それに学術誌や科学ジャーナリストたちも協力したというのがエブライト教授の見解である。 実際、その見解を裏付ける動きもある。 2021年7月15日、米国微生物学会が他のいくつかの学会と共同で、パンデミックの起源を理由とする規制強化に反対するレターを連邦下院歳出委員会に提出したのである。 米国の生物学者たちの必死さは伝わるが、第三者から見ると、彼らがいかに金だけに関心を持っているかを理解するのに十分な文書となった。 ■アイヒマン化する学者たち 以上のことから分かるように、現代の科学者は真理を最優先する求道者のイメージとは程遠い存在である。 彼らにとっては、中国との共同研究を維持すること、自分の応援する候補者が選挙に勝つこと、自らが研究者として出世すること、研究費を確保することの方が、科学的真理の探究よりも遙かに重要なのである。 これは、科学者も人間である以上、仕方ないことなのかもしれない。 残念なのは、日本で戦略研究家やインテリジェンスの専門家を名乗る人たちが、ウイルス学者たちの表向きの言い分を丸っきり信じ続けていることである。 戦略研究やインテリジェンスの分野では 「ヒューマン・ネイチャー(人間の性)」 を考慮に入れることの重要性がしばしば言われるが、学者のヒューマン・ネイチャーを理解できないならば、今すぐ戦略研究やインテリジェンスの専門家を名乗るのを止めるべきだろう。 ただ、人間の性とは言え、情報を隠蔽したウイルス学者たちの罪は余りに重い。 アンダーセンやホームズ、ワイスやリウらが新型コロナウイルスの塩基配列の異常に気付いていたのは2020年1月から2月の時点である。 当時は、まだ世界的なパンデミックにはなっていなかった。 その時点で、このウイルスが人工的に人間への感染力を向上させたものである可能性が高いと世界に向けて警告していれば、国境を越えた人の移動の制限などをより早期に断行でき、結果としてパンデミックを防げた可能性は高い。 しかし、ウイルス学者たちは、人命よりも自分の研究や地位を守ることを優先した。 その結果、世界で400万人以上の命が失われたのである。 筆者が同じ立場なら、さすがに罪悪感に苦しむと思うが、ウイルス学者たちにはその様子は全くない。 筆者には、そうしたウイルス学者たちの姿が、ヒトラーの命令に盲目的に従い、何の罪の意識も感じずに数百万人のユダヤ人を強制収容所に移送したアイヒマンに重なって見える。 30年近く前に4年間、分子生物学を学んだだけの筆者でも、新型コロナウイルスの異常性に気づくことができたのである。 ウイルス学者をはじめとする日本の生命科学者の多くも当然、同じことに気づいていたはずである。 しかし、日本の生命科学者で、新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所起源説に言及する人は今もほぼゼロである。 この問題が海外でこれだけ注目されている中で、日本のこの状況は異常と言わざるを得ない。 これを打破するため、まずは新型コロナウイルスの起源について、国立感染症研究所の幹部を国会に証人喚問することを筆者は提案したい。 同時に、生命科学者の行っている研究活動について、監視を強化することも急務である。 現在も、アイヒマンと同じレベルの倫理観しか持たない人間たちが、国内外で危険な試料を扱い続けている。 第2、第3のパンデミックの種は、今も世界中の研究所に多数存在する。 それをこのまま放置するわけにはいかない。 武漢ウイルス研究所ー流出説・生物兵器テロ説最新レポート 月刊誌『WiLL』2021年8月号 掛谷英紀 筑波大学システム情報系准教授 「研究所漏洩説=陰謀論」は完全崩壊 ウイルス流出説を「陰謀論」扱いする者は大手メディアが垂れ流す情報をそのまま信じているだけ ■破られたタブー この1カ月、新型コロナウイルスの起源をめぐり、武漢ウイルス研究所からの漏洩である可能性が高いことが各種メディアで報じられるようになった。 筆者は本誌2021年6月号で、新型コロナウイルスの遺伝子に人工的改変の可能性があることについて述べた。 当時、ウイルスの起源が武漢の研究所であるとの説に言及することは、まだ勇気の要ることであった。 日本では完全に”陰謀論”扱いであったためである。 英語圏では、すでに大手メディアでも徐々に議論され始めていたが、それでも2021年3月にCNNのインタビューで研究所流出説に対する支持を公表したCDC(米疾病予防管理センター)前局長のロバート・レッドフィールドは、その後に殺人予告などの脅迫を受けたと明かしている。 驚くべきは、脅迫したのが政治家ではなく仲間の研究者たちだったということだ。 ところが、この2カ月の間に世界の空気は大きく変わった。 そのきっかけを与えたのが、2021年5月5日付で原子力科学者会報に掲載されたニコラス・ウェイドの記事である。 彼は、長年ニューヨーク・タイムズで科学記者を務めた大物である。 そのウェイドが、研究所流出説を強く示唆する記事を書いたのである。 記事中には、ノーベル賞受賞者のデイビッド・ボルティモアが人工説を支持していることも記されていた。 これにより、新型コロナウイルスが研究所を起源とするとの説を語ることがタブーではなくなった。 2021年5月14日には科学誌サイエンスに、新型コロナウイルスの起源について武漢研究所流出説を排除しない公正な調査を求める、18人の研究者を共著とするレターが掲載された。 さらに2021年5月23日には、ウォール・ストリートジャーナルが、2019年11月に武漢研究所の研究者3人が新型コロナウイルス感染に似た症状で入院していたと報道した(この情報自体は、2021年1月に米国務省がすでに発表していたもので、それをWHO総会のタイミングに合わせて報じたものと思われる)。 これらを受け、バイデン大統領は2021年5月26日に新型コロナウイルスの発生源の解明に向けた追加調査を行い、その結果を90日以内に報告するよう情報機関に指示したのである。 ■癒着を物語るメール 2021年6月になると、新型コロナウイルス研究所流出説をさらに補強する情報が飛び込んできた。 米国立アレルギー感染症研究所所長で、米国の新型コロナウイルス対策を指揮するアンソニー・ファウチの電子メールを、メディアが情報公開法に基づいて入手して公開したのである。 その中には、研究者たちの間の癒着を雄弁に物語る数々のやり取りが含まれていた。 新型コロナウイルスは自然界の動物を起源としているという説が、科学者を含む世界の人々に受け入れられるようになった背景には、有名学術誌に登場した2つの文献がある。 1つは、2020年2月にランセット誌に掲載された27人の研究者によるレターである。 その内容は、 「新型コロナウイルスが自然発生でないことを示唆する陰謀論を断固として批判する」 「陰謀論の拡散は恐怖心や流言、偏見を煽るだけで、疾病に立ち向かうための国際連携を危うくする」 と主張するものであった。 このレター掲載実現のために中心的な役割を果たしたのが、著者の1人でもあるピーター・ダシャックである。 彼は非営利組織エコヘルス・アライアンスのトップであるが、同組織はNIH(アメリカ国立衛生研究所)から、機能獲得研究(ウイルスの遺伝子を組み替えて、感染力や毒性を強める研究)について大量の研究費を受け取り、それを中国の武漢ウイルス研究所に流していたことが明らかになっている。 またダシャックは、2021年はじめに武漢に派遣されたWHO調査団に米国から参加した唯一のメンバーである。 当然ながら、これらの行動については、利益相反の問題が各所から何度も指摘されている。 新型コロナウイルス天然説が信じられることに大きく寄与したもう1つの文献が、2020年3月に学術誌ネイチャー・メディスンに掲載されたクリスチャン・アンダーセンらによる論文(コレスポンダンス)である。 日本の医師で天然説を信じている人たちも、この論文を根拠にする者が多かった。 ■ファウチ「すぐ電話する」 私が新型コロナウイルス天然説に疑いを持ち始めたのは2020年5月だが、当時この論文を読んで、その内容の貧弱さに愕然としたのを覚えている。 天然由来でありながらも、その論拠として挙げられていることが、科学的にとても十分とは言えないものだったのである。 なぜ、このような 「屑論文」 が有名雑誌に掲載されるか不思議でならなかった。 公開されたファウチのメールを見て、その謎がようやく解けた。 この論文が掲載される約1ヶ月半前の2021年1月31日、アンダーセンがファウチに送った電子メールが、公開された資料の中に含まれていた。 そこで、アンダーセンは 「人工的に見える遺伝子配列の特徴を見出すには全ての配列を非常に注意深く見なければならない」 「今日終えた議論で、エディー、ボブ、マイク(3名のうちの2名はネイチャー・メディスンの論文の共著者とみられる)と私は皆、この遺伝子配列は自然進化説とは整合性がとれないとの見解で一致した」 と書いているのである。 これに対し、ファウチは 「すぐ電話する」 と返信している。 2021年2月4日には、ネイチャー・メディスンの論文の草稿と思われるものが、著者の1人であるエドワード・ホームズからジェレミー・ファラーを経由してファウチ宛に転送されている。 エドワード・ホームズのメールには、 「頭がおかしいと思われないように、他の異常な点については言及しないように」 との記述がある。 2021年1月31日の時点で新型コロナウイルスに人工的改変が含まれていると思っていた彼らが、ほんの数日のうちになぜ意見を変えて天然説を主張する論文を書いたのか。 ファウチとアンダーセンの間の電話でどのようなやり取りがあったのか。 ここはあくまで私の推測だが、次のような会話が行われたものと想像される。 ★ファウチ(以下、F) クリスチャン、俺だ。 ★アンダーセン(以下、A) ファウチ先生、どういうご用件でしょう? ★F 人工という結論では困る。 ★A どうしてですか? ★F 俺が機能獲得研究を推進してきたのは知っているだろう。 その研究の試料が漏れた結果、疾病で多数の死者が出たと分かったらどうなる? ★A そう言われましても。 私にはどうすることもできませんが。 ★F このウイルスが自然界由来だと主張する論文を書け。 ★A そんな論文を書いても、科学的に説得力がないので掲載されないでしょう。 ★F ネイチャー・メディスンに投稿しろ。 編集者にお前の論文を通すよう、裏で手配しておく。 ★A そんなことをして大丈夫でしょうか。 気が進みません。 ★F 断ったらどうなるか分かっているだろうな。 従わなければ、今後お前には研究費は一切配らん。 この世界で生きていけなくなると思え。 ★A 分かりました。 言われた通りにします。 ■アカウント閉鎖の謎 私が抱いたような疑念は当然、他の多くの人々も持ったようである。 アンダーセンはツイッターのヘビー・ユーザーであることが知られていた。 多くの者が、なぜ意見を変えたのかと、一斉にツイッターでアンダーセンを問い詰め始めた。 それに対するアンダーセンの返答は、RaTG13の遺伝子配列を見たからだというものだった。 RaTG13は、コウモリを宿主とするウイルスで、新型コロナウイルスに遺伝子配列が最も近いことで知られる。 このウイルスは2021年2月3日に刊行された武漢ウイルス研究所の石正麗の研究グループの論文で初めて公表された。 だが、最近は論文が正式に発表になる前にデータが公表されることが多い。 RaTG13の遺伝子配列も2021年1月23日には公表されていた。 その後、アンダーセンが2021年1月24日時点でRaTG13に関するツイートをしていたことが発掘された。 これで追い詰められたアンダーセンは、過去のツイートを次々に消し始めた。 そして、ついにはアカウント自体が閉鎖されてしまった(彼自身の意思によるものか、外部の意思によるものかは不明である)。 一方、ダシャックとファウチの間ではどのようなやり取りが行われたか。 ダシャックからファウチに送られた2020年4月18日のメールも注目に値する。 その日ホワイトハウスで行われた記者会見において、ファウチは新型コロナウイルスの起源を武漢の研究所とする説は陰謀論であると述べた。 その直後、ダシャックはファウチに感謝のメールを送っているのである。 ここにも深刻な癒着が見られる。 ■もはや”陰謀論”では済まない この世の中には、陰謀論もあれば本当の陰謀もある。 それを区別するには、一次資料を詳細に分析しなければならない。 私は米大統領選の陰謀論には極めて批判的な立場だったが、その立場をとるまでに一次資料の確認を行っている。 米国の選挙は、過去の選挙の投票結果がカウンティ(郡)単位でウェブ上に公開されている。 そういうものを見れば、巷で噂されていた陰謀論の信憑性を確かめることができた。 もちろん、投票用紙にGPSやブロックチェーンが埋め込まれているといった科学的にあり得ない荒唐無稽な論も多くあり、それらは確認の必要すらなかった。 新型コロナウイルス研究所流出説についても、それが陰謀論かどうかを確かめるには一次資料にあたる必要があった。 この案件で一次資料に相当するのは、新型コロナウイルスやそれに類似するウイルスの遺伝子配列、コロナウイルスに関連する過去の研究論文、及びここで紹介したファウチのメールである。 前述の2019年11月に武漢研究所の職員が入院したという米国務省の情報については、その真偽の判断は難しい。 それをもって、これはイラクに大量破壊兵器があるとの偽情報を米国が発信した時と同じだと言う人がいる。 しかし、それは明らかに間違いだ。 イラクのケースは、米国の発表以外にそれを裏付ける情報が全くなかった。 新型コロナについては、右に述べたように大量の一次資料がある。 ファウチのメールを読めば、科学者の間で何らかの口裏合わせがあったことは明らかである。 未だに新型コロナウイルス研究所流出説を陰謀論扱いしている人は、そうした一次資料を読むことなく、大手メディアが垂れ流す情報をそのまま信じているだけなのだろう。 そもそも、大手メディアを追っているだけでも、英語圏のメディアをウォッチしてさえいれば、新型コロナウイルスの研究所流出説はもはや陰謀論扱いできないことは明らかである。 ■真実を追うのは誰か 2021年6月2日、ニューズウィークは、大手メディアは否定していた新型コロナウイルス研究所流出説の信憑性がいかに回復されたかを解説したローワン・ジェイコブソンの記事を掲載した。 (2021年6月4日には和訳が日本語版ウェイブ・サイトに掲載されている) 2021年6月3日、ヴァニティ・フェアも、同じテーマでキャサリン・イーバンによるさらに詳しい記事を掲載した。 こちらは40人以上に取材し、米国政府の資料を数百ページ読み込んで書かれた大作である。 ヴァニティ・フェアの記事では、新型コロナウイルスの研究所流出説を追った人物として、政府関係者の他に、DRASTICとパリ・グループという2つの在野集団を紹介している。 この記事で、パリ・グループは 「30人以上の懐疑的な専門家からなる集団で、月に1度Zoomで集まって、新たな証拠について何時間も議論を行っている」 と説明されている。 他のメンバーも名乗り始めているので告白するが、私もこのパリ・グループの一員である。 本誌2021年6月号で紹介しWHOの武漢調査団に対する公開質問状の署名者も、このパリ・グループのメンバーが中心となっている。 パリ・グループの一員で、WHOのアドバイザーも務める米国人のジェイミー・メッツルは、新型コロナウイルスの起源が武漢研究所であることを初期から疑っていた人物の1人である。 彼は民主党支持者であるが、最近はリベラル系のメディア、FOXのような保守系メディア両方に出演している。 彼はウイルス研究所流出説を語ったことで、仲間の民主党支持者から非難されたという。 その彼がFOXのタッカー・カールソン・トゥナイトで語った次の言葉が印象的である。 「私はトランプの発言の95%に賛同できないが、新型コロナウイルスの起源については彼の言うことが利に適っていると思った」 「どの政党の支持者であっても、それを誰が言っているのか忘れ、データと証拠に集中して、ウイルスの起源という困難な問いに立ち向かう必要があると感じた」 米国のリベラルは極左化が進み、党派性のために真実を犠牲にする人ばかりと思っていたが、そうではない人物がまだいたことに感動を覚えた。 私も米大統領選で間違った事実を指摘した時は、日本の保守派から激しい攻撃を受けた。 だが、メッツルのように、どんなに攻撃を受けようとも、それに屈せず常に真実を追う人間であり続けたい。 武漢研究所起源説はもう陰謀論ではない 月刊誌『正論』2021年7月号 掛谷英紀 筑波大学システム情報系准教授 2021年5月5日、ニューヨーク・タイムズ紙で長年科学記者を務めたニコラス・ウェイドが、 「Bulletin of the Atomic Scientists(原子力科学者会報)」 に1万語を越える長編の記事を掲載した。 記事のタイトルは ”The origin of COVID: Did people or nature open Pandora's box at Wuhan?" (COVIDの起源:武漢でパンドラの箱を開けたのは人間かそれとも自然か?) である。 タイトル自体は中立であるが、その中身は人間がパンドラの箱を開けた可能性が非常に強いことを示唆するものとなっている。 実は、この記事の大部分は、私を含む一部の科学者には既に知られた内容であった。 しかしながら、その名を広く知られた大物記者による記事ということに加え、ノーベル医学生理学賞受賞者でカリフォルニア工科大学の学長も務めたデイビッド・ボルティモアから新型コロナウイルス人工説への肯定的コメントを取り付けたこともあり、世論の反応はこれまでとは全く違ったものとなった。 誰もがウイルスが研究所からの漏洩を起源とする可能性を躊躇なく語ることができるようになったのである。 これまで、多くのウイルス学者によって、新型コロナウイルス(学名:SARS_ CoV_2' 以後SARS2ウイルスとも表記)は天然由来であるという主張が繰り返され、研究所からの漏洩を示唆する議論は全て陰謀論とのレッテルを貼られ続けてきた。 2021年3月30日に世界保健機関(WHO)の調査団の報告書が公表されたが、そこには自然界の動物から中間宿主を介した人間への感染を起源とする可能性が最も高く、研究所からの漏洩事故による感染の可能性は極端に低いと結論付けられている。 しかし、それを裏付ける有力な証拠は何も記されていない。 SARS2ウイルスに類似した2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)は流行開始から4カ月、2012年の中東呼吸器症候群(MERS)では9カ月のうちに感染を仲介した動物が見つかっている。 15カ月以上が経過し、8万以上もの動物の検体を調べても感染源が見つかっていないことは、過去の例と比較すると異常と言わざるを得ない。 にもかかわらず、なぜこれまで研究所からのウイルス漏洩は陰謀論扱いされてきたのか。 そこには、米国の政治とメディアの事情がある。 日本と同様、米国のメディアも全体的に左傾化している。 テレビもFOXなどごく一部を除き、民主党支持でトランプ政権を強く批判する立場であった。 トランプ大統領は、新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼ぶなど、中国に対して強硬姿勢を貫いていた。 民主党を応援する米メディアとしては、トランプ政権下での米中対立激化は避けたかった。 米国民が対中国で一致団結すれば、政権への支持が強固になり、トランプ再選の可能性が増す。 それを回避するため、新型コロナウイルスについて中国の責任を追及するような報道は、大統領選が終わるまでFOXを除いてはほとんど見ることはできなかった。 (この分析は私の独断によるものではなく、米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」上級研究員のジェイミー・メッツルも、コメディアンのジョー・ローガンの動画番組で同様の見解を示している) ところが、大統領選が終わり、民主党のバイデン候補が当選すると、その流れは一気に変わった。 左寄りの大手メディアも、一斉に新型コロナウイルスに関する責任追及の報道を始めたのである。 2021年1月には米国務省が2019年秋の時点で武漢ウイルス研究所の職員に新型コロナウイルス感染を疑われる症状があった証拠を掴んでいると発表し、任期切れ間際のポンペイオ国務長官もこれに直接言及する発言を行った。 これを批判的に報じるメディアはなく、政権交代後もこの発表は撤回されていない。 民主党の議員も、中国の隠蔽に対して厳しい姿勢に転じ始めており、追及の動きは超党派になりつつある。 その一方で、日本ではこの動きが全く報じられていない。 もちろん、2020年から論壇においては中国の研究所からの漏洩を起源とする可能性について言及する言論もあった。 しかし、その中には生物兵器を意図的に撒いたというような信憑性の低いものもあった。 Origins of COVID-19: Who Opened Pandora’s Box at Wuhan – People or Nature? COVID-19の起源:武漢でパンドラの箱を開いたのは誰か – 人と自然? 10/05/2021 https://science.thewire.in/the-sciences/origins-of-covid-19-who-opened-pandoras-box-at-wuhan-people-or-nature/#:~:text=As%20many%20people%20know%2C%20there%20are%20two%20main,study%20in%20a%20lab%2C%20from%20which%20it%20escaped. ■4つの科学的根拠 ウイルスの起源は、政治的動機に左右されず、あくまで科学に基づいて検証されねばならない。 政治によって事実を歪めるのでは中国と同じである。 そこで、本稿ではウェイドの記事に沿って、SARS2ウイルスが研究所から漏洩した可能性が高いことを示す科学的根拠を紹介することにする。 ウェイドは、その根拠として次の4つを挙げている。 第1に、パンデミックが最初に起きた場所である。 SARS2ウイルスはベータコロナウイルスの一種だが、それらの宿主として知られるコウモリの生息地は雲南省であり、武漢から1500キロメートル離れている。 と同時に、武漢はコロナウイルスを遺伝子組み換え技術で改変して人間への攻撃力を増す研究の中心地であり、そこでの安全管理が不十分であることも周知の事実であった。 第2に、SARS2ウイルスのスパイク蛋白質が、流行初期からほとんど変異していないことである。 ウイルスが人を含む動物に感染するには、まず動物の細胞の表面にある受容体に結合する必要がある。 (SARS2ウイルスの場合はACE2受容体) この受容体に結合するのが、スパイク蛋白質の受容体結合部位である。 一般に、動物によって受容体は異なるので、ある動物には感染するが、別の動物には感染しないことが多い。 コウモリのコロナウイルスも、そのほんどは人間に感染しない。 受容体結合部位が、コウモリの受容体には結合するが、人間の受容体には結合しないからである。 よって、コウモリのウイルスが人間に感染するためには何度も変異を繰り返さなければならない。 実際、SARSウイルスではコウモリからジャコウネコに感染した後、スパイク蛋白質に6つの変異が生じ、その後、14の変異を経て人間に適応し、その後さらに4つの変異があって流行が始まった。 このように、元々コウモリに適応したウイルスであり、人間に適応したウイルスでない以上、人間の間で感染が広がるには初期に多数の変異が必要なのである。 ところが、SARS2ウイルスは、流行の初期から人間に既に適応しており、ほとんど変異が見られなかった。 これが、SARS2ウイルスが天然由来ではなく、人間に適応するように人工的に改変されたウイルスが研究所から漏れたと疑われる理由である。 この事実を最初に指摘したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の共同機関であるブロード・インスティチュートのアリーナ・チャン博士研究員らの研究グループである。 第3に、 「フーリン切断部位」 の存在がある。 受容体に結合したウイルスは、次に人間の細胞の中に入り込むことが感染に必要である。 そこで役割を果たすのがフーリン切断部位である。 これがあると、ウイルスが細胞の中に入りやすくなる。 SARSウイルスにはフーリン切断部位がないが、SARS2ウイルスには存在する。 実は、ウイルスの遺伝子を組み替えて、人間に感染しやすくする研究(機能獲得研究)は過去に多数行われている。 2015年には、武漢ウイルス研究所の石正麗とノースカロライナ大学のラルフ・バリックを含む研究グループが、コウモリのウイルスの受容体結合部位に人工的に手を入れて、人間に感染しやすくする成果をネイチャー・メディスン誌に報告している。 一方、SARSウイルスにフーリン切断部位を人工的に入れる研究は、中国だけでなく日米欧の多数の研究グループが行っている。 スティーブン・クウェイ博士によると、その成果を公開した論文数は最低11本あり、その中には石正麗を著者とするものも含まれる。 それらの研究で人工的に挿入されたフーリン切断部位と同じ特徴がSARS2ウイルスに見られることが、研究所からの漏洩を強く疑わせる状況証拠となっている。 第4に、フーリン切断部位の遺伝子配列の特徴である。 生物の構造を作り上げる蛋白質は多数のアミノ酸から構成されるが、3つの塩基(遺伝子)配列が1つのアミノ酸に対応する。 塩基は4種類あるため、3つの塩基の列は64種類あることになるが、アミノ酸は20種類しかない。 よって、1つのアミノ酸に対して複数の塩基配列が対応する。 SARS2ウイルスのフーリン切断部位はPRRA(プロリン・アルギニン・アルギニン・アラニン)の4つのアミノ酸の挿入で生じている。 このうち、アルギニンのコードには6種類の塩基配列があり得るが、SARS2ウイルスのフーリン切断部位には、同種のウイルスで最も稀なCGG(シトシン・グアニン・グアニン)という配列が連続して使われているのである。 ウェイドの記事中で、この配列を見たノーベル賞学者ボルティモアが、 「これはウイルスの起源の動かぬ証拠だ」 「SARS2ウイルス自然発生説の強力な反論になる」 と妻に語ったとのエピソードが挿入されている。 ■無理がある「天然由来説」 これに対して、SARS2ウイルス天然由来説を唱えていた学者たちはどう反論したか。 2020年3月に 「ネイチャー・メディスン誌」 で天然説を唱えていたクリスチャン・アンダーセンは、上海科技大の趙素文の研究グループの論文を引用し、フーリン切断部位は天然でも起き得るとツイッター上で反論した。 そこで用いられたのが図1だが、これが逆にSARS2ウイルスの特異性を示している。 図1に示す通り、確かに自然の突然変異でフーリン切断部位は生じうる。 だが、最も起きやすい突然変異は、遺伝子の塩基が入れ替わることで、アミノ酸配列が変化することである。 これは比較的頻繁に起こる。 一方、塩基が脱落したり、余分な塩基が挿入されることは、偶に起きるが確率は低い。 図1の左側の樹形図は遺伝的距離を表しており、枝分かれが遠いほど遺伝的距離が遠い(遠い過去に分かれた)ことを表している。 遺伝的距離が近いもの同士では大きな挿入や脱落は起きていない。 ところが、SARS2ウイルス(一番上)とそれに遺伝的距離が近いウイルスの間では、フーリン切断部位だけ綺麗に挿入が行われているのである。 これが自然発生的に起きることは、確率的には極めて低い。 WHOの報告書でも、人工ウイルス説を退ける根拠として、フーリン切断部位が天然に挿入されているウイルス(RmYN02)は見つかっているという別の論文に言及している。 しかし、この論文にも大きな欠点がある。 そもそも報告されているウイルスのアミノ酸配列はフーリン切断部位に類似するだけであり、フーリン切断部位ではない。 加えて、アミノ酸配列を見る限り、フーリン切断部位に類似する配列が挿入されたのではなく、従来のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換わった変異と解釈するのが自然なのである。 ところが、この論文ではわざわざ図を細工して、脱落と挿入という非常に確率の低いことが遺伝子配列の一部で連続して起きていると解釈している。 このように、SARS2ウイルスが天然由来であるという 「科学的」 主張は、整合性の低い論理を無理やり通そうとしている跡が如実に見られるのである。 ■人の命より論文重視の科学者 ウェイドの記事が公表されたのは2021年5月に入ってからだが、トランプが大統領の座を去った2021年1月以降、SARS2ウイルス人工説を追究する科学者たちの活動は活発化しており、一部のメディアはそれを報じ始めていた。 2021年1月末、ウェイドの記事にも登場したクウェイ博士が、新型コロナウイルスは実験室からの漏洩の可能性が高いとする193ページにわたる大論文を発表した。 続いて2021年3月に入ると、ハンブルク大学のローランド・ヴィーゼンダンガー教授も同様の趣旨の論文を発表した。 また、2021年3月4日には、WHOが武漢に派遣した調査団に対して、26名の研究者が公正な調査を求める公開質問状を出した。 署名した研究者の中には、アリーナ・チャン博士、クウェイ博士、ヴィーゼンダンガー教授の他、パンデミック発生前から機能獲得研究の危険性を指摘し続けてきたラトガーズ大学のリチャード・エブライト教授も含まれている。 この公開質問状はニューヨーク・タイムズの公式サイトでも報じられた。 この研究者グループの中心人物の1人でもあるジェイミー・メッツルは、米国3大キー局の1つであるCBSの看板ドキュメンタリー番組 「60ミニッツ」 に出演し、インタビューを受けている。 さらに、2021年3月26日放送のCNNのインタビューで、トランプ政権下でCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の所長を務めたロバート・レッドフィールドは、新型コロナウイルスは武漢の研究所を起源とし、2019年9月頃には感染が始まっていたとの見解を示した。 2021年3月30日のWHOの調査団の報告書公表を受けて、2021年3月4日に公開質問状を出した研究者のグループは、2021年4月7日に再度公開質問状を出した。 これもニューヨーク・タイムズの公式サイト上で公開され、ロイターなどの主要メディアでも報じられた。 この公開質問状には日本から私ともう1人の研究者(情報工学)が署名した。 それにより、ニュース記事でも 「欧州、米国、オーストリア、日本の研究者による公開質問状」 との表現が使われた。 その後、このグループは2021年4月30日にも追加の公開質問状を出した。 そこには私の提案した質問も1つ採用されている。 ここで日本の存在感をアピールすることに貢献できたことを誇りに思う半面、日本から生命科学者が誰一人参加していないことを誠に遺憾に思う。 2021年5月14日には、権威のある学術誌として知られるサイエンス誌で、新型コロナウイルスの起源について研究所からの漏洩の可能性も含めた調査を求める18人の研究者連名のレターが掲載された。 この著書にはアリーナ・チャン博士や、石正麗の共同研究者であったバリック教授も含まれる。 これをきかけに、米国でも急に態度を変える研究者が続出している。 その豹変ぶりは、今の学者がいかに権威主義に毒されているかを象徴する。 日本でも、サイエンス誌のレターが出るまで、研究所からの漏洩の可能性に公の場で言及し調査を求める生命科学者は1人もいなかった。 (サイエンス誌のレターの著者に、日本人の名前が1つあるが、彼女は大学からずっと北米にいる人で、日本の研究者とは言い難い) ただし、欧米にも増して権威主義が蔓延る日本の学界である。 サイエンス誌のレターで、その空気が変わる可能性がある。 しかし、それまで日本の生命科学者は誰一人何のアクションも取らなかったことは決して忘れるべきではない。 先日、私は生命科学者を含む数人の日本人研究者で、なぜ沈黙を守っているのかという議論をした。 そこでの結論は、日本の生命科学者にとっては300万人の死よりも、自分の論文の方が大事なのだろうという悲嘆だった。 SARS2ウイルスが研究所から漏洩した人工ウイルスだとすれば、科学研究が300万人を超える人命を奪ったことになる。 これは科学史上最大の大スキャンダルである。 そのことの重大さに気づかない科学者に、危険な実験を続ける資格は断じてない。 新型コロナウイルスの起源 中国追及の手を緩めてはならない 矛盾する中国の主張にダンマリの科学者たちは倫理観が腐りきっている 月刊誌『WiLL』2021年6月号 掛谷英紀 筑波大学システム情報系准教授 ■薄弱な根拠 2021年3月30日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源について現地調査を行ったWHOの国際調査団が報告書を公表した。 そこには、起源として4つの可能性が列挙されている。 @自然界の動物から人間への直接の感染 A自然界の動物から中間宿主を介した人間への感染 B冷凍食品を経由した感染 C研究所からの漏洩事故による感染 WHOの報告書ではAの可能性が最も高く、次いで@、Bの順に可能性が低くなり、Cは極端に可能性が低いと結論付けられている。 しかしながら、120ページのレポートでCの可能性に関する分析は1ページあまりしかない。 Cの可能性が低いとする科学的根拠も非常に貧弱である。 具体的には、武漢ウイルス研究所が2019年10月以前に新型コロナウイルスあるいは組み換えれば新型コロナウイルスになる試料を保持していた記録がないこと、武漢ウイルス研究所がBSL(バイオ・セーフティ・レベル)3あるいは4という高レベルのセキュリティ対策をした施設であること、武漢ウイルス研究所職員に感染の報告がないことなどを理由として挙げている。 これらの論点については、全て有力な反論が存在する。 まず、以前は外部からアクセスできた武漢ウイルス研究所のデータベースは遮断され、現在は見られない状態になっている。 隠されているのだから、記録が見つからないのは当然である。 ところが、WHOの調査団が隠された記録を探した形跡はない。 次に、BSL3あるいは4の研究所だから安全というのもウソである。 実際、武漢ウイルス研究所を訪れた米国の外交筋は、その管理の杜撰さを報告していた。 過去には他のBSLの高い施設から危険な微生物が漏洩した事故も何度か起きている。 BSLが高いから漏洩がないという理屈は妥当性を欠く。 最後に、武漢ウイルス研究所職員の感染についてであるが、こちらは米国務省が正反対の見解を示している。 2021年1月にマイク・ポンペオ国務長官(当時)が、2019年秋に 「武漢ウイルス研究所の複数の研究員が新型コロナウイルス感染症や他の季節性の病気とよく似た症状になったと信じるに足る理由がある」 と述べている。 (ただし、具体的な証拠を開示していないので、どちらを信じるかという政治的な問題になり、科学的な観点での評価はできない) WHOの調査報告書は、薄弱な根拠で武漢ウイルス研究所から漏洩した可能性を否定する一方、他説の可能性については、説得力のある証拠がないにもかかわらず、その可能性は武漢ウイルス研究所からの漏洩よりも高いとしている。 そもそも、冷凍食品による感染は、中国政府が他国に責任をなすりつけるために突然言い出した説である。 新型コロナウイルスが世界的パンデミックを招いた後、外国の工場で働く感染した労働者からウイルスが持ち込まれても不思議はない。 しかし、最初の起源が冷凍食品であったならば、工場のある国で先に感染者が多数見つかっているはずである。 さらに、武漢だけに冷凍食品が輸出されたとは考えられず、最初に武漢だけで大規模な感染が起きたことと整合性がとれない。 自然界の動物からの感染の場合も、新型コロナウイルスに類似したウイルスの宿主であるコウモリの生息地域が武漢から1700km離れた雲南省の洞窟であり、なぜ最初に遠く離れた武漢だけで大流行したのかを説明する理屈は見つかっていない。 新型コロナウイルスに類似した過去のSARASやMERSでは、流行開始から数カ月のうちに感染源となった動物が見つかっている。 感染発覚から1年半近くが経過し8万以上もの動物の検体を調べても感染源が見つかっていないことは、過去の例と比較しても異常と言わざるを得ない。 ■完全な癒着関係 WHOの国際調査団のメンバー構成にも問題がある。 同調査団に米国から参加したピーター・ダジャックという人物である。 彼は、ウイルス学者として武漢ウイルス研究所の石正麗らと共同研究を行ってきたことで知られる。 彼には武漢ウイルス研究所を調査する上で明らかな利益相反がある。 これまで、武漢ウイルス研究所は米国のウイルス学者と多くの共同研究を行ってきた。 その理由は、米国では禁止されている危険な研究を行うことができたからである。 既存のウイルスの遺伝子を改変して、人間に感染しやすくしたり、毒性を強めたりする 「機能獲得研究」 と呼ばれる研究である。 当然ながら、生物兵器開発にも応用可能な技術である。 新型コロナウイルスの遺伝子には、人間のACE2受容体に特に結合しやすいなどの不自然な特徴がある。 これらの性質をウイルスの遺伝子の人工的改変で実現した研究は過去に多く行われており、その成果は学術論文として多数出版されている。 武漢ウイルス研究所も、そうした論文を発表してきた研究機関の1つである。 ダジャックを含む機能獲得研究を進めてきたウイルス学者の立場からすれば、ウイルスが武漢ウイルス研究所から漏れたということになれば、これまでのように中国の研究所を利用して研究を続けることができなくなる。 研究予算も取れなくなり、論文も書けなくなる。 つまり、研究者として厳しい立場に追い込まれる。 その状況で、公平な調査を行うことは全く期待できない。 ダジャックについては、これまでも科学者としての公正さを疑わせる報道が何度かなされている。 2020年2月、ダジャックを含む科学者たちは学術誌『ランセット』で、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から漏れたとする 「陰謀論」 を非難する声明を出した。 しかし、2021年1月18日のデイリー・コーラーのネット記事によると、ダジャックの広報担当はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し、 「この声明は中国の研究者を守るために出した」 と発言したことが報じられている。 完全な癒着関係にある研究者を調査団の一員として派遣するWHOは、その公正さを疑われて当然である。 ■漏洩は「陰謀論」なのか トランプ大統領の在任中、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所からの漏洩であるという説は大手メディアから 「陰謀論」 扱いされた。 中国の敵国扱いが世論に定着すると、大統領選でトランプが有利になるというリベラル系大手メディアの計算があった可能性が高い。 だが、その当時から新型コロナウイルスの起源について、中国に忖度せずに客観的な分析をしている者はいた。 MITとハーバードでポスドク(博士研究員)をしている若手生物学者のアリーナ・チャンは、歴史的に実験室からのウイルス漏洩事故は多数起きていることから、武漢ウイルス研究所から漏洩した可能性も排除しない公平な調査をツイッター上で繰り返し求め続けていた。 選挙でトランプが負けると、メディアの論調は一気に変わった。 リベラル系メディアもウイルスの武漢ウイルス研究所からの漏洩について言及を始めたのである。 これに呼応して、研究者たちの追及もさらに活発化した。 2021年1月、米国ではスティーブ・クウェイ博士が新型コロナウイルスは実験室からの漏洩の可能性が高いとする193ページにわたる大論文を発表した。 2021年2月に入ると、ドイツ・ハンブルク大学のローランド・ヴィーゼンダンガー教授が、同じように実験室からの漏洩の可能性を論ずる102ページの論文を発表した。 さらに、米国の数理生物学者ブレット・ワインシュタインや英国のサイエンス・ジャーナリストのマット・リドレーなど、著名な人物たちも武漢ウイルス研究所からの漏洩の可能性が高いとの主張をメディアのインタビューで語り始めた。 ■日本の生命科学者はゼロ 2021年3月4日には、WHOが武漢に派遣した調査団に対して、26名の研究者が公正な調査を求める公開質問状を出した。 26名のうちの過半数は生命科学者であるが、理工系や社会科学の研究者も名を連ねている。 署名した研究者の中には、右に挙げたアリーナ・チャン、クウェイ博士、ヴィーゼンダンガー教授の他、機能獲得研究の危険性を長年指摘してきたリチャード・エブライト教授も含まれている。 この公開質問状はニューヨーク・タイムズの公式サイト上で公開され、ウォール・ストリート・ジャーナル他、主要メディアでも報じられた。 この研究者グループの中心人物の1人であるジェイミー・メッツルは、米国3大ネットワークの1つであるCBSの看板ドキュメンタリー番組 「60ミニッツ」 に出演し、インタビューを受けている。 ちなみに彼はクリントン政権下で仕事をしたことのある人物で、共和党側の人間ではない。 トランプ政権下で米疾病対策センター(CDC)の所長を務めたロバート・レッドフィールドは、2021年3月26日放送のCNNのインタビューで、新型コロナウイルスは武漢ウイルス研究所を起源とし、2019年9月頃には感染が始まっていたとの見解を示した。 ご存じの通り、CNNは民主党支持のメディアとして知られる。 中国に対する厳しい声は、米国でも超党派の動きになっている。 私自身、署名した研究者のグループの議論の輪に入り、オンライン会議にも何度か参加して意見交換を重ねた。 そこで分かったのは、世界における日本の存在感が予想以上に大きいことである。 彼らは日本の新聞社名なども詳しく知っており、日本からの新たな参加者を大いに歓迎してくれた。 この活動の日本でのパブリシティを上げることについて強い関心を持っているようであった。 ■WHOから独立した調査を 2021年3月30日に公表されたWHO調査団の報告書に対して、14カ国が批判的な共同声明を出した。 新型コロナウイルスの起源に関する中国の言い分がおかしいことを、多くの国が公式に認め出したのである。 WHOの調査団の報告書を受けて、2021年3月4日に公開質問状を出した研究者のグループは、2021年4月7日に再び公開質問状を出した。 これもニューヨーク・タイムズの公式サイト上で公開され、ロイター通信などの主要メディアでも報じられた。 この公開質問状には、日本から私ともう1人の日本の研究者(情報工学)が署名した。 それにより、ニュース記事でも 「欧州、米国、オーストラリア、日本の研究者による公開質問状」 との表現が使われた。 ここで日本の存在感をアピールすることに貢献できたことを誇りに思う反面、日本から生命科学者の署名が1つもなかったことは大変残念に思っている。 2021年4月7日の公開質問状では、WHOの調査団による報告書の不公正を指摘するとともに、今後の調査の進め方についても提案している。 1つ目は、WHOと中国の間で結ばれた付託条項を見直すことである。 この付託条項により中国に拒否権が生じており、中国において独立した専門家が調査活動をすることができなくなっている。 その見直しが不可欠との提案である。 2つ目は2021年5月のWHO総会で、新型コロナウイルスの起源に関する無制限の調査を求める決議および危険な機能獲得研究に関する新たな規制などを求める決議を行うことである。 3つ目は、先に挙げた2つの提案が実現しない場合は、WHOとは別に各国の協力体制のもと新型コロナウイルスの起源に関する透明性の高い調査を求めることである。 この公開質問状では、補足としてWHOの報告書で中国側が提出した資料に含まれる矛盾点も多数指摘している。 例えば前述の通り、武漢ウイルス研究所は、それまで外部の研究者がアクセスして参照できた武漢ウイルス研究所のデータベースを閉鎖している。 新型コロナウイルスのパンデミックを契機としたハッカーの攻撃から守るため、というのが中国の言い分である。 ところが、実際にデータベースを閉鎖したのは2019年9月である。 中国側の主張には明らかな矛盾がある。 武漢ウイルス研究所の職員を調べたところ、誰一人として新型コロナウイルスの抗体が無かったという中国側の主張も非常に疑わしい。 武漢の人口の約4%に抗体があることが分かっているのに、武漢ウイルス研究所の590名の職員誰一人として抗体を持たないというのは確率的にほぼ考えられない。 ■腐りきった倫理観 中国は証拠を隠滅しているので、これから調査をしても実験室からの漏洩を証明するのは難しいという意見もある。 しかし、武漢ウイルス研究所の全職員の免疫(免疫グロブリンやT細胞)を調べることは可能である。 全職員のウイルスへの感染履歴が分かれば、漏洩ルートが特定できる可能性がある。 この証拠は職員を殺さない限り隠滅できない。 この調査に応じない中国の研究機関に属する研究者を学会や学術誌から締め出すことは、政治とは独立に科学界だけで対応可能である。 冷戦時を思い起こせば分かる通り、独裁国家が自由主義世界の学会活動に自由に出入りできることが異常なのである。 情報隠蔽が正当化される国は、学問の場として相応しくない。 真の科学者ならば、これに同意しない人はいないだろう。 中国の研究機関に属する学者の締め出しに対し、中国政府は 「差別」 という言葉を使って被害者を装うと予想される。 これについては、中国からの研究者難民(亡命)受け入れで対抗することが考えられる。 これは科学者だけで実現できる問題ではなく、政治の力が必要となる。 中国の責任を強く追及すれば、中国はより隠蔽体質を強めるのではないかと懸念する感染症の専門家もいる。 しかし、そのような理屈で390万人の死の原因を隠蔽することは全く正当化されない。 もし、中国が態度を硬化させて隠蔽体質を強めるなら、中国からの人の出入りを一切遮断すればよい。 そうすれば次の中国発の感染症は防げる。 オウム真理教は、松本サリン事件を免れたから地下鉄サリン事件を起こせた。 もし、新型コロナウイルスの起源について中国を追及できなければ、より危険な次の事件が起きる可能性がある。 我々は歴史の教訓に学ぶべきである。 新型コロナウイルスの起源を調べても、パンデミックの被害が消えるわけではなく、何の役にも立たないと言う人もいる。 しかし、起源の真相を解明し、リスク要因を正確に把握することによって、天然、実験室のいずれを起源とするウイルスであっても、次のパンデミックを防ぐ対策ができる。 まずできることとして、危険な微生物を扱う研究所に対する国際査察制度の創設、およびその種の研究所が人口密集地にある場合は、過疎地や離島に早急に移転するなどの措置が考えられるだろう。 原子力にはIAEAの査察制度があり、施設は人里離れた場所に置かれている。 それと同じ安全対策は、生命科学分野においても当然行われるべきである。 ところが、そういった議論が全くできないほど、今の科学者の倫理は腐りきっている。
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