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※2024年11月30日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
もう詰んでいる(C)共同通信社
連日、斎藤兵庫県知事の話題一色だが、自分は逃げ回り、弁護士に釈明させている時点で政治家失格だ。PR会社社長は沈黙し、黒を白と言い張る“苦しい弁明”を見ていると、息を吐くように嘘をついてきた元首相に学んだのか、と言いたくなる。
◇ ◇ ◇
SNSがオールドメディアに勝った──と騒がれ、時代変化に対応できていない公職選挙法や公平公正を言い訳に選挙期間中は画一的な報道になる大メディアなど、さまざまな問題が浮き彫りになった兵庫県知事選挙だったが、投開票から2週間。失職からの再選を果たした斎藤元彦知事に公選法違反疑惑が浮上し、騒ぎは大きくなるばかりだ。
テレビのワイドショーも連日、この話題一色。火に油を注いでいるのが、弁護士任せで逃げ回る斎藤の対応だ。
疑惑を簡単に整理すると……。斎藤陣営の選挙に関わったPR会社「merchu」の折田楓社長が今月20日、知事選での「戦略的広報」を斎藤に提案する様子や、公式SNSの「監修者」として「運用した」などとブログに投稿。選挙運動は登録された運動員ら以外は、無報酬が原則のため、PR会社が広報戦略を主体的に企画し、斎藤側が報酬を支払っていたら、公選法違反の「買収」になるのではと大炎上した。
25日、報道陣に囲まれると斎藤は、「(SNS運用の)主体は私や斎藤後援会」「PR会社へお願いしたのはポスター制作などで費用は約70万円」「折田さんはボランティアとして個人で参加した」と答え、「公選法に違反するような事実はないと認識している」と繰り返した。
しかし、疑惑は晴れず、27日の定例会見でもこの件に記者の質問が殺到。斎藤は25日と同じ話を繰り返して詳しい経緯や違法ではない根拠については答えず、「代理人弁護士に対応を一任している」と逃げ続けたのだ。
その代理人弁護士は折田氏が「広報全般を任せてもらった」とブログに書いていたことについて「事実ではない」と否定。「(話を)盛っている」とまで言ってのけ、PR会社からの請求書を公開したが、公選法違反疑惑を打ち消すまでには至っていない。「買収」だけでなく、違法な「寄付」や「事前収賄」に問われる可能性を指摘する専門家もいて、疑惑は深まるばかりなのである。
手のひら返しで切り捨て
一連の騒動で、533万県民を抱える兵庫県政トップが自ら答えないで、弁護士に釈明させている時点で政治家失格だろう。
現地で取材を続けてきたジャーナリストの横田一氏はこう言う。
「斎藤知事は説明責任を果たしていません。以前は3時間でも記者会見を続けていたが、再選後は公務があるからと1時間ちょっとで打ち切ってしまった。代理人弁護士が折田社長は『盛っている』と言いましたが、折田氏のブログ投稿が虚偽だと主張するのなら、斎藤知事が自らの会見で『嘘八百』とはっきり言うべきですよ。亡くなった元県民局長の告発文書を『嘘八百』と非難したようにです。事実を曖昧にしたまま弁護士に丸投げ。政治家として最低です」
県民が再び斎藤を選んだという民意は尊重するが、そもそも斎藤がどういう知事だったか。
斎藤が失職したのは、県議会が全会一致で不信任決議案を可決したからで、知事としての資質に問題があったからだ。斎藤のパワハラなどの疑惑を告発した文書を作成した元県民局長を「公益通報者」として保護せず、内部調査で懲戒処分。その後、元県民局長は死亡。百条委員会で調査が始まったが、斎藤は自身に非はないとして、知事職にしがみついた。
今回も同じことを繰り返すのか。渦中のPR会社社長は沈黙。ANNの取材(21日)に対し、「『答えるな』と言われています」とコメントを避けたという。これは何を意味するのか。
前出の横田一氏が言う。
「選挙で世話になり、当選に貢献したPR会社社長を、自分に都合が悪くなったら手のひら返しで切り捨てる。政治家以前に人としてどうなのかと思います。斎藤知事は県議会で不信任となっても、自分はいわれなき誹謗中傷を受けている、自分ははめられた、という意識が発言に出ていました。自分は絶対に悪くない、自分がすべて正しい、という人です。そうして責任を周りになすりつける。公選法違反疑惑については、元検事の郷原信郎弁護士や神戸学院大の上脇博之教授ら同法に詳しい専門家が『もう詰んでいる』と言っています」
虚偽答弁118回認定、モラルハザード蔓延
私が最高責任者(代表撮影)
黒を白と言い張る“苦しい弁明”。斎藤は不信任可決後も「仕事を続けることが責任の取り方」と言い張った。
この鉄面皮。あの元首相に学んだのか、と言いたくなる。息を吐くように嘘をついてきた安倍晋三元首相のことだ。首相在任で歴代最長を誇った安倍も「モリ・カケ・桜」に代表されるようにさまざまな疑惑があったが、すべてやり過ごし、嘘を重ねることで説明責任から逃れてきた。「私が責任を取ればいいというものではありません」などと言って地位に居座り続けた。
「私や妻が関係していたら総理大臣も議員も辞める」との国会答弁で、財務省の公文書改ざんが始まったとみられる森友学園問題では、斎藤がPR会社社長を切り捨てたように、安倍も籠池泰典理事長(当時)を手のひら返しで切り捨てたことを思い出す。
国会で森友学園への国有地売却が問題になり始めると、安倍は当初、「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしいという話を聞いております」と答弁していたのに、次第に籠池氏のことを「教育者としていかがなものか」と批判するようになったのだ。
「桜を見る会」を巡っては、安倍は国会で118回もの虚偽答弁をしたことが認定されている。秘書が政治資金規正法違反(不記載)で立件されて初めて記者会見を開き、謝罪したが、「私の政治責任は重い」と言いながらも、議員辞職することなく、「初心に立ち返って、研鑽を重ね、責任を果たしていきたい」と強弁した。
鯛は頭から腐る
安倍を熟知する政治評論家の野上忠興氏が言う。
「『私が最高責任者』『私が立法府の長』という発言が安倍元首相の思考を物語っています。根底には『選挙で多数を獲得し、国民の負託を受けた最高責任者である自分が決めたことなのだから、何か文句あるのか』という考えなのです。非常に極端な面がありましたね」
「鯛は頭から腐る」だ。平気で嘘を重ねるような人物がトップに居座り続けてきたことで、リーダーが責任を取らない姿が当たり前になり、モラルハザードが政界に蔓延した。
安倍政権末期の2020年以降、元職を含む国会議員が14人起訴されているが、そのうちの13人が自民党出身者である。今年も違法な香典を配った公選法違反や秘書給与搾取などで議員が起訴されている。
「安倍政権以降の悪い流れが脈々とつながっているように思います。国会であれだけ嘘をついても『何が悪いんだ』という総理大臣が歴代最長なのですから、政治家が劣化していくのは当然でしょう。かつては上に立つ者は、その言動で下に手本を示し、下の者は無言のうちに感じ取る、というものでした。今は政治家になるのもその地位に就きたいだけの“就職”という意識。もはや政治家ではなく、政治屋と言った方がいいのかもしれません」(野上忠興氏=前出)
斎藤も同じ穴のムジナか。兵庫県議会の百条委員会での調査は今も続いている。公選法違反などの疑惑もこれから議会で取り上げられ、捜査機関も動くだろう。逃げの一手は通用しない。
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