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2024年8月7日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/345696
戦後79年の原爆の日を迎えた6日、岸田文雄首相は広島市の平和記念式典で「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組む姿勢を重ねて強調したが、その決意とは裏腹に米国の「核の傘」への依存を深める矛盾が浮き彫りとなった。多くの被爆者が参加を切望する核兵器禁止条約にも背を向け続け、被爆国として国際社会を核廃絶へ導くという理想には程遠い状況だ。
◆「私自身が先頭に立つ」と強調
「核兵器のない世界への道のりがいかに厳しくても、その歩みを止めるわけにはいかない」。首相は式典のあいさつで力を込めた。兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の実現に向けて立ち上げた友好国会合に触れ、「私自身が先頭に立って関与していく」と述べた。
任期最後の広島原爆忌を迎えた首相は核問題をライフワークとし、昨年の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で核軍縮に関する初の共同文書「広島ビジョン」をまとめた。だが、この文書が肯定したように、核兵器による報復を恐れさせることで相手の攻撃をとどまらせる理論「核抑止」を強化する方向に動いている。
◆「核抑止論」転換の声にゼロ回答
ウクライナへの核使用をちらつかせるロシアや、核戦力を増強する中国や北朝鮮を念頭に、先月末には拡大抑止に関する初の日米閣僚会合を開催。松井一実市長はこの日の平和宣言で核抑止政策からの転換を呼びかけたが、首相は式典後の会見で「日米で信頼関係を高めていく重要な取り組みだ」と取り合わなかった。
冷淡なのは、核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約に対しても同じだ。
「政府が条約に背を向ける状況で、私たち被爆者は海外へ出て活動することに悔しい、恥ずかしい思いをしている」。市内で開かれた被爆者団体と首相との面会で、広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長(80)はこう吐露し、条約への参加を求めた。
◆核兵器国と交渉でも成果は見えず
首相は「核兵器国を動かさないと現実は動かない」と従来の考えを繰り返し、オブザーバー参加にも言及しなかった。
被爆地選出の首相の下で、核兵器のない世界に近づいたのか。田中氏は面会後、「核抑止は私たちの思いとは程遠く、危険な道に進んでいる」と危機感を口にした。広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長(79)も首相の回答に失望をあらわにし、「被爆者が被爆の実相を訴えているのに、この声をなぜ聞かないのか」と批判した。
核兵器国に核軍縮交渉を義務付ける核不拡散条約(NPT)も停滞する中、首相は目立った成果を示せていない。(近藤統義)
◇ ◇
◆規制に踏み込まず、掛け声倒れ
<広島市立大広島平和研究所の梅原季哉(としや)教授(国際関係論)の話>
米ロ間の核軍縮条約が機能不全となり、イスラエルの閣僚がパレスチナ自治区ガザへの核使用を示唆するなど、核を巡る国際情勢は楽観できない。その中で岸田首相が核問題に熱心なのは分かるが、「核使用は例外なく認められない」とは踏み込まず、かけ声倒れと言わざるを得ない。拡大抑止を強化するなら核兵器に依存しない形を目指すべきであり、日米同盟を核同盟化していく動きに被爆者が心を痛めるのは当然だ。
日本政府は核廃絶をうたっても、核兵器禁止条約など核の使用を具体的に規制することには腰が引けている。唯一の戦争被爆国として存在感を発揮するには、米国に先行不使用を促し、そこを糸口に中国との対話の場を提案するなど方策はある。米中間で核使用のリスクを低減することは、日本の安全保障にとってもプラスになるはずだ。
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