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※紙面抜粋
※2024年7月22日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
先週末の株価は3日続落…(C)日刊ゲンダイ
株価が史上最高値を更新と言われても、どこの国の話かと思うほど好景気の実感がない。
今月11日に日経平均株価が初めて4万2000円を突破。このところバブル経済絶頂期につけた3万8915円を大きく上回る水準で推移している。だが、猫も杓子も好況感でイケイケだったバブル期の世相を知っている身からすると、いまの株高はどうにも奇異に感じてしまう。庶民生活は苦しくなる一方で、日本経済が上り調子とはとても思えないのだ。
毎日新聞が20、21日に実施した世論調査でも、日経平均株価が史上最高値を更新したことを受けて、景気が良くなっている実感があるかを聞いていたが、「実感はない」が85%に上った。「実感がある」と答えたのはわずか5%だ。
「株価が上がる一方で、賃金が物価上昇に追いつかない状況が続いています。実質賃金は26カ月連続のマイナスと過去最長を更新している。厚労省の発表によれば、今年4月の生活保護の申請件数も前年同月から5.9%も増えています。株高で儲けた日本人はごく一部で、9割がたの庶民は物価高で生活が苦しい。株高に浮かれて、物価高を放置している日銀と政府は無責任極まりない。円安で輸出企業を儲けさせ、株高による見せかけの好景気を演出して、物価高の負担を庶民に押し付けているのです」(経済評論家・斎藤満氏)
「デフレ脱却」は誰のため?
「資産所得倍増」を掲げる岸田政権は、今年から拡充した少額投資非課税制度(NISA)でも株高を後押ししてきた。新NISAなどともて囃して、庶民にも株式投資を推奨し、その上前は大企業や資産家、海外投資家がかっさらっていく構図だ。大企業は株高の含み益で潤い、富裕層は所有株や不動産で資産が膨らむ一方なのに、マジメに働く庶民は物価高と重税に苦しんでいる。そういう歪な状態を放置して、日経平均の史上最高値を自分たちの手柄のように喧伝するのが自民党政治なのである。つくづく無責任で罪深い連中ではないか。
朝日新聞(20日付)のコラム「多事奏論」でも、編集委員の原真人氏がこう書いていた。
<史上最高値といえどもドル換算で考える海外投資家の目から見れば日本株は安売り状態に見えている。東京証券取引所の上場株式の時価総額は6月末に1004兆円と大台に乗っているものの、ドル換算(約6.2兆ドル)だと、1月末の931兆円(約6.3兆ドル)よりむしろ安い。ハリボテの史上最高値というのが実態だろう>
<円は対ドルだけでなく、ユーロや英ポンド、韓国ウォン、タイバーツなどあらゆる通貨に対して安い。その低下傾向は5年以上続いており、一時的でもない>
<円安誘導を狙った異次元金融緩和がもたらしたもの、と考えるのが自然だろう>
<なぜ岸田政権は今も「デフレ完全脱却」を目標に掲げ続けるのか。いったい誰のために。
デフレとは物価が下がって景気が悪くなること。目の前では逆に、望まぬ物価高に国民が2年以上も苦しんでいる。いくらなんでもトンチンカンではないか。
日銀はいまだに円を安くして物価を上げるために超低金利政策を長引かせている。それはこの政権方針があるからだ>
物価上昇を抑制するには、利上げがセオリーだ。しかし、日銀が緩和策をやめて、利上げすれば円高に振れる可能性が高い。しょせんは異次元緩和で底上げした株価だから暴落するリスクもある。株価暴落は政権の体力をますます奪う。それで政策転換できずに立ち往生している間に、新たな波乱要素が東証株価に迫りつつある。「トランプ・リスク」だ。ハリボテの株価は脆く、危うい。
米国史上では早くも「トランプ・トレード」が過熱
あさましさ露呈、自分ファースト(C)日刊ゲンダイ
いま米国も株高に沸いている。米大統領選は、13日に銃撃されたトランプが優勢とみられ、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は17日に初めて4万1000ドル台に乗せて過去最高値を3日連続で更新。トランプが大統領に返り咲いたら何をするかを織り込んだ「トランプ・トレード」が過熱しているのだ。
自国ファーストのトランプは、伝統的な輸出企業を支援するためのドル安志向で知られる。17日には「円安や人民元安が甚だしい」と、ドル高是正の意向を表明。たちまち外国為替市場で1ドル=155円台に一気に2円以上も円高が進む場面もあった。
トランプの経済・金融政策はドル安誘導、利下げが基本だ。さらに大型減税や景気刺激策で財政出動し、株高にするのが「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン」の眼目である。
「ただ、トランプ氏の政策は、どう転ぶか分からないところがある。財政支出が膨らめば、インフレが加速して、かえって金利が上昇する可能性もあります。それで日米金利差がまた広がり、ドル高・円安の流れが加速するかもしれない。株価変動の不安度を表す恐怖指数(VIX指数)はしばらく安定していたのに、トランプ大統領復帰のリスクをマーケットが意識し始めて、ここ数日で指数が跳ね上がっている。米国の利下げを織り込んだ日本の株式市場も、ハシゴを外されるリスクに備えておく必要があるでしょう」(斎藤満氏=前出)
世界経済は早くもトランプ中心に動き始めているのか。20日に新潟県を訪問した自民党の茂木幹事長も、さっそくトランプにスリ寄るような発言をしていた。講演でこう話したのだ。
「(米大統領選は)『ほぼトラ』から『確トラ』に近くなってきている。トランプさんになったら日本は大丈夫なのかと聞かれますが、うまくマネージできると思います」
「トランプさんが何に関心を持っているか理解したうえで、ウィンウィンな関係をつくっていく」
外交上あり得ない無礼な発言
“ポスト岸田”への野心を隠さない茂木だから、日米貿易交渉の時に担当閣僚としてトランプと向き合った経験をひけらかし、自分ならうまく渡り合えると、9月に行われる自民党総裁選に向けてアピールする意図だろうが、2016年の米大統領選でまさかのトランプ勝利に慌てた当時の安倍首相が、押っ取り刀よろしく金ピカのゴルフクラブを抱えてスッ飛んで行ったことを思い出してしまう。
「茂木幹事長の発言には驚きました」と、高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)がこう言う。
「11月の大統領選までまだ3カ月以上あるのに、民主党候補が負けると言っているわけで、あまりに軽率で無礼な発言でしょう。政権交代を視野に入れた野党ならともかく、与党の幹事長がそんなことを言うのは外交上あり得ない。そもそも、近年の米大統領選は、僅差で決することが多く、民主党政権が続く可能性もあるわけです。そうなったら、どのツラ下げて会うというのでしょうか。それに、トランプ氏が大統領に復帰すれば、中国に対する最恵国待遇を取り消すだけでなく、輸入品に一律10%の関税を課すとも言っている。それは先般、共和党が採択した綱領にもはっきり書かれていて、日本の輸出企業への影響は深刻です。そういう懸念より自分のアピールが先行するのは情けないし、とても外相経験者とは思えません」
米大統領選に口出しする前に、幹事長なら裏金事件をはじめとする自党の問題にきっちり後始末をつけるべきだし、トランプに媚びる暇があったら、物価高対策を何とかしてもらいたいものだ。国民生活そっちのけで自分のことばかり。自民党は“ポスト岸田”も、そういう浅ましいヤツらしかいないのか。
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