<■2336行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> 移民に好かれる日本になれってか! 今だけ金だけ自分だけー事実上の移民政策を隠れて進める卑怯者たち WiLL2024年8月号 麗澤大学客員教授・イスラム思想研究家 飯山陽 ■”大量移民時代”に突入した 日本という国が音を立てて崩壊しています。 今国会で可決、成立した改正入管難民法がそれを象徴している。 これにより、 「技能実習」 が廃止され、代わりに 「育成就労」 を創設することが決まりました。 「技能実習」 は”国際協力”という美名の下、外国人実習生に”日本で働かせてあげる”という制度でした。 実習生に認められた滞在期間は最長5年。 帰国を前提としたものです。 ところが、 「技能実習」 は人権侵害の温床とも指摘されていた。 外国人を低賃金で酷使する経営者に耐えかねて、行方を眩ます実習生もいたほどです。 悪名高い 「技能実習」 を改めて、新たに 「育成就労」 制度を創設する。 それが法改正の目的ですが、これがなぜ問題なのか。 「育成就労」 は、外国人が日本で働き続けることを前提としているからです。 新制度は大きく分けて、3段階のプロセスから成ります。 3年間を目途に、外国人が一定の技能水準に到達するよう育成する。 その後、最長5年の就労が可能な 「特定技能1号」 への移行を促す。 最終的に、家族帯同や永住権も申請できる 「特定技能2号」 に格上げするー。 事実上の移民政策と言える。 いや、移民政策そのものです。 岸田総理は法案審議で詭弁を連発。 移民政策を 「一定規模の外国人や家族を制限なく受け入れる」 政策と定義した上で、 「いわゆる移民政策を採る考えはない」 と言うのです。 「育成就労」 は最終的に家族帯同、永住権を申請できるシステムになっている。 ところが、岸田政権は頑として認めない。 「LGBT法は理念法だから」 と言い逃れを繰り返したのとソックリです。 日本国民を欺きながら、移民政策を推進しているのが岸田政権に他なりません。 「育成就労」 創設により、日本は”大量移民時代”に突入しました。 ■財界の代弁者 移民政策の推進により、一体誰が得をするのか。 経団連をはじめとする財界です。 経団連の十倉雅和会長は過去、 「(外国人に)ずっと働いてもらえる社会を作ることが大事」 などと訴えている。 財界に要請されて、政府は”ずっと働いてもらえる”ことを前提とする 「育成就労」 を推進した。 そんな構図が浮かび上がります。 財界の”親中”はかねて指摘されてきました。 日本企業は中国に生産拠点を作り、現地の安い労働力を使う。 人件費のコストカットにより、日本企業は利益を上げてきました。 その結果、日本国内の産業空洞化を招いてしまった。 日本企業が日本人の代わりに中国人を雇うというのは、日本人が受け取るべき給与が中国人に渡ることを意味している。 日本の富が中国に流出してしまったのです。 日本企業はバブル崩壊後、1990年代から中国進出に熱を入れるようになった。 ”失われた30年”と重なるのは偶然なのでしょうか。 トランプ政権の登場などにより、 「脱・中国」 が世界の潮流になりつつある。 日本の財界が移民受け入れを声高に叫ぶ背景には 「脱・中国」 の影が垣間見えます。 中国への事業展開により、現地の中国人を労働力として使っていた。 それが難しくなったから、代わりに日本国内へ大量の移民を招き入れるという”頭の切り替え”があったのかもしれない。 いずれにせよ、一般の日本人労働者が犠牲になることに変わりはありません。 日本企業が移民を雇用すれば、その分だけ日本人の雇用は奪われる。 日本人の賃金上昇も鈍化します。 政府は 「育成就労」 創設の理由に人手不足を挙げている。 しかし、日本には200万人もの失業者がいます。 彼らに職を与えずして、移民をなぜ受け入れるのか。 完全に優先順位を誤っています。 ■日本人の視点はゼロ 岸田総理は国会で、 「外国人にとって魅力ある制度を構築し、選ばれる国になることが必要不可欠だ」 と答弁している。 ”選ばれる国”というのは、外国人に媚びへつらうような物言いですが、これも財界の代弁に他ならない。 経済同友会の新浪剛史代表幹事は 「(外国人に)日本での生活に馴染んでもらうために、どうすべきかを考えるべきだと思う」 と発言しています。 政府と財界がタッグを組んで推進する移民政策。 そこに欠けているのは日本人の視点です。 本来であれば、野党やメディアが日本人の立場を代弁しなければならない。 しかし、野党もメディアも思考停止=機能停止状態です。 「育成就労」 創設に反対したのは立憲民主党、共産党、れいわ新選組などですが、反対の理由は 「外国人の権利が守られないから」 というもの。 外国人への配慮が足りないと批判していたのです。 朝日新聞の社説には、改正案に対する苦言が呈されていました(2024年5月10日付)。 <理解し難いのは、税や社会保障などの支払いを故意に怠った永住者の在留資格を取り消せるようにする規定を、法案が含んでいることだ> <在留が長く、既に社会に溶け込んだ人々の生活に直結する問題で、有識者会議にも諮られていないのに唐突に入った> 朝日新聞が野党の代弁者なら、読売新聞は与党と財界の代弁者と言える。 読売新聞は以下のような社説を掲載(2024年4月26日付)。 <政府は、育成就労と特定技能を「車の両輪」として、労働力を補っていく> <他国も受け入れを進めており、獲得競争を勝ち抜くには「選ばれる国」にならなければならない> 政治家、官僚、財界、メディア・・・。 「育成就労」 を巡り、彼らが議論していたのは外国人の権利を如何に守るかだけ。 移民を受け入れることで、日本社会が被るデメリットは全く論じられない。 日本国民の視点が一切ありません。 日本にやって来る外国人は善人、彼らをこき使う日本人は悪人ー。 ”外国人性善説”と”日本人性悪説”を前提に議論しているのです。 外国人が善人ばかりでないことは徐々に明らかになっている。 例えば、埼玉県川口市のクルド人問題が挙げられます。 川口市に住む約60万人のうち、外国人は約3万9000人。 人口の6.5%を占めます。 日本人の住民たちが、クルド人の犯罪や迷惑行為に怯えながら生活している現状がある。 円安がオーバーツーリズムを加速させていますが、外国人観光客が迷惑行為に手を染めるケースも多い。 日本の伝統や文化に敬意を払わない外国人からも”選ばれる国”を目指すのか。 ■バイデン「2つの嘘」 バイデン大統領の演説が物議を醸しました。 <アメリカ経済が成長している理由の1つは、移民を受け入れているからだ> <日本はなぜ問題を抱えているのか> <彼らが外国人嫌いで、移民を望んでいないからだ> バイデン大統領の発言には2つの誤りがあります。 第1に、 「移民を受け入れると経済が成長する」 という証拠はない。 移民を受け入れるほど、成長率はむしろ下がるというデータがあります。 日本政府は労働力不足を解消するために移民受け入れを推奨している。 他方、政府は彼らに家族の帯同を認めています。 移民の給料は安く、日本に連れて来た家族を養うのは難しい。 働く意欲を失ったり、病気になったりする外国人労働者も出てくるでしょう。 彼らが社会保障制度の世話になるのは火を見るより明らかです。 外国人により、その国の社会保障制度が食い潰されてしまいます。 これは欧米で実際に発生している問題なのです。 第2に、 「外国嫌いの日本人は移民を望んでいない」 というのも嘘です。 「育成就労」 がそれを証明しました。 アメリカでは党派を超えて、移民の入国制限を訴えています。 共和党のトランプ前大統領が不法移民策に力を入れていたのは有名です。 バイデン大統領も現在、トランプ氏に対抗するかのように、取り締まりを厳格化している。 民主党は移民に寛容なイメージが強い。 実際にオバマ政権は合法・不法を問わず、移民を歓迎していました。 ところが、民主党も慎重なスタンスを取るようになった。 アメリカ国民がそれを望んでいるからです。 「アメリカが抱える最重要課題は何か?」 を問う世論調査では、 「移民」 が1位でした。 アメリカでは 「多様性」 「共生社会」 という幻想は完全に打ち砕かれています。 ■日本が”サンクチュアリ”に 移民にオープンな岸田政権の姿は、かつてのアメリカ民主党と重なります。 2024年11月の大統領選でトランプ氏が勝利すれば、アメリカに殺到している移民たちは日本を目指すことになる。 バイデン氏が勝利しても同じです。 日本は”サンクチュアリ(聖域)”になりかねない。 ”サンクチュアリとは何かー。 アメリカでは州ごとに移民へのスタンスが異なります。 メキシコと国境を接するテキサス州は、不法移民を厳しく取り締まっている。 メキシコからの移民流入を防ぐために、貨物列車を止めたり、国境を流れる川にブイを置いたり、川岸にワイヤーを設置したりしてきた。 極め付きは、テキサス州にやって来た大量の不法移民を”サンクチュアリ・シティ”に送り付けたのです。 ”サンクチュアリ・シティ”というのは、移民を歓迎する都市のこと。 その代表がニューヨーク市です。 リベラルが幅を利かせるニューヨーク市は、たとえ不法移民であっても歓迎するという姿勢でした。 ところが2022年、ニューヨーク市は非常事態を宣言。 財政破綻の危険を訴えたのです。 ニューヨーク市のみならず、不法移民を受け入れた州や都市は財政悪化に苦しんでいます。 地元住民の反移民感情も高まっている。 保守リベラルを問わず、アメリカ全体が移民政策を見直しつつある。 にもかかわらず、日本のメディアはアメリカの”変化”を報じません。 国民が世界の潮流に疎いのをいいことに、岸田政権は国民を騙すような形で移民政策を推進しているのです。 ■”極右”というレッテル貼り 移民を巡り、欧州の政治地図は激変しています。 欧州議会選では保守勢力が立て続けに勝利を収めました。 最も注目されているのがフランスに他ならない。 マリーヌ・ルペン氏率いる 「国民連合」 が、マクロン大統領の与党連合にダブルスコアを付けて圧勝したからです。 欧州議会選はフランスのみならず、各国で右派の勝利に終わりました。 スペインは保守派の国民党、オーストリアは右派の自由党が勝利。 ベルギーは首相が率いる左派政党が敗北しています。 欧州はリベラルに代わり、保守が大きな支持を集めるようになったのです。 大変化は数年前から既に起こっていました。 イタリアではメローニ首相が誕生。 オランダでは2024年、ウィルダース氏率いる自由党が第1党になった。 ドイツでは 「ドイツのための選択肢」、 イギリスでは 「リフォームUK」、 スウェーデンでは 「スウェーデン民主党」、 ポルトガルでは 「シェーガ」 が支持を急速に拡大している。 共通しているのは、自国第1主義、反移民、反環境を掲げていること。 一言で言えば”愛国保守”です。 ところが、日本の大手メディアは彼らを”極右”呼ばわりしている。 自国の利益を第1に考え、自国民の幸せを最優先にする政党は”極右”扱いされます。 メディアの定義に従えば、私は立派な”極右言論人”です。 『WiLL』も”極右雑誌”といったところでしょうか。 いずれにせよ、愛国保守=危険というイメージを刷り込もうとしています。 メディアはなぜ自国第1主義を危険視するのか。 答えはシンプルです。 彼らは日本ではなく外国、日本人ではなく外国人の利益を代弁してきた。 それにより利益を得てきたからこそ、自国第1主義や反移民、反環境を唱える政党を貶めようと必死なのでしょう。 保守政党が勢力を拡大すれば、メディアがついてきた嘘は暴かれ、影響力と信用は失墜するー。 危機感を覚えているのかもしれない。 ■全ての”卑怯者”に告ぐ 政治家が自国を第1に考えるのは当たり前です。 急増する移民・難民、非現実的な環境政策のせいで、これまでの生活や社会が崩壊した。 イスラム移民によるヨーロッパの退廃を、イギリス人ジャーナリストのダグラス・マレーは”西洋の自死”と呼びました。 滅びゆく国家や社会の姿を目の当たりにしたからこそ、欧州の人々はメディアの洗脳から解放され、保守に目覚めたのです。 欧州議会選挙の結果はその延長線上にある。 メディアが自国第1主義を唱える政党に極右のレッテルを貼ったところで、この流れは止まりません。 翻って日本はどうか。 欧米の失敗を教訓にするどころか、欧米の轍を踏もうとしています。 政治家、官僚、財界、メディア、アカデミズム・・・。 社会的に影響力を有する人たちが、日本を誤った方向に誘導しようと企んでいる。 嘘や誤魔化しを用いる彼らの手口は”卑怯”そのもの。 その悪行をどうにか暴けないか。 そんな思いから、『卑怯者!』(ワック)を上梓しました。 日本は今、猛スピードで”自死”に向かっている。 ”時既に遅し”となる前に、1人でも多くの日本人に危機感を覚えてほしい。 飯山陽、日本のために闘い続けます!メディアがダメだから国会議論もダメ 正論2024年7月号 政策シンクタンク代表 原英史 10年後、20年後に、 「あの法改正がその後の日本社会の破壊に繋がった」 と振り返ることになるのではなかろうか。 この通常国会で成立に向けて審議が進む、技能実習制度の見直しなどに関する法案のことだ。 ■国会での意見陳述 技能実習制度は、劣悪な労働環境や失踪などが生じ、外国政府からも人権侵害との批判を受け、見直しの検討がなされてきた。 法務省の有識者会議での検討(2023年11月に最終報告)を経て、2024年の通常国会に法案が提出された。 2024年4月16日に審議入りし、2024年4月26日には衆議院法務委員会で参考人質疑が行われ、私も参考人として意見陳述を行った。 概略こんな事を述べた。 第1に、 「外国人に選ばれる国に」 という標語は再考すべきだ。 政府やマスコミは最近揃って、 「このままでは日本は外国人に選ばれなくなってしまう」 「外国人に選ばれる国にならないといけない」 などと唱えているが、違和感を感じる。 外国人の中には、日本文化を愛し、地域に溶け込み、経済成長に貢献する 「居て欲しい外国人」 もいれば、一方で、経済社会に貢献せず、犯罪を起こし、脱税や社会保障制度の悪用などを行う 「居て欲しくない外国人」 もいる。 まず、 「日本国が外国人を選ぶ」 ことが決定的に重要だ。 これを欠いたまま 「外国人に選ばれる国」 を目指しても、 「居て欲しくない外国人」 ばかりが日本を選ぶことになりかねず、これは害悪でしかない。 第2に、これまで日本政府が行ってきた事は、 「なし崩しの移民受け入れ」 だ。 政府は建前では 「移民政策は採らない」 と言い続けてきた。 第2次安倍政権の初期に 「年20万人の移民受け入れ」 の試算を示して猛反発を受けて以降、決まり文句として唱えることになり、菅内閣・岸田内閣にも引き継がれた。 しかし、現実には外国人労働者の数は、2012年に68万人から2023年には205万人になった。 この10年ほどの間、毎年12万人の移民受け入れを行ってきたのが実態だ。 また、政府のもう1つの建前は、 「高度な人材は積極的に受け入れるが、単純労働は受け入れない」 だが、これも現実と乖離している。 この10年ほどの移民受け入れの相当部分は、技能実習と資格外活動(主に留学生のアルバイト)だった。 言うまでもなく、どちらも技能水準のごく低い労働者だ。 一方で、 「積極的」 に受けれいているはずの高度人材は、2012年に高度人材ポイント制を創設したものの、技能実習などとは桁が異なり、外国人労働者総数の1%程度に留まって来た。 ★表 外国人労働者データ(@2012年A2023年)、単位:人 ・外国人労働者総数*1:@682,450A2,048,675 ・技能実習*1:@134,228A412,501 ・資格外活動*1:@108,492A352,581 ・高度人材*2:@313A23,958 (出典) *1:厚生労働省「外国人雇用状況」(各年10月末) *2:出入国在留管理庁「在留外国人数」(各年末) (【表】)要するに、日本政府が行ってきたことは、建前とは全く裏腹に、単純労働に重きを置く移民の受け入れだ。 これは、安価な労働力を求める一部産業界に引きずられた結果として生じて来た。 第3に、技能実習制度の問題の根源は、 「安価な労働力」 を求める一部産業界による悪用だ。 もちろん全てが悪用ではなく、好事例もある。 しかし、生産性の低い業界や企業が、高い賃金を払えないため人手不足に陥り、生産性を高めて賃金を上げる努力をする代わりに 「安価な労働力としての外国人」 に頼るケースが少なからずあった。 政府はこうした一部業界の要望に応えて対象業種を追加し、悪用を黙認してきた。 結果として、以下の問題が生じた。 @安価な労働力を求める企業が利用するので、自ずと劣悪な労働環境など人権侵害が生じがちになり、失踪などの事案も生じた。 A安価な労働力を受け入れるので、犯罪や社会的トラブルなど、社会への悪影響も生じがちになった。 B受け入れた企業は、生産性を高めて賃金を上げる代わりに、外国人労働力を受け入れて生き延びる道が与えられ、このため、賃金は低迷し、経済成長が阻害された。 日本は今、相対的に賃金の低い、貧しい国へと転落しつつあるが、大きな要因の1つが技能実習制度の悪用だった。 こうした経過を考えれば、問題解決には外国人政策を根本から見直す必要がある。 審議中の改正案のような小手先の手直し(技能実習の名称を改める、転籍を認めるなど)ではなく、何のためにどのような外国人を受け入れるのか、基本戦略を定めなければならない。 個別制度見直しの前にまず 「外国人基本法」 を制定すべきだ。 こういった事を国会で述べた。 実は、私は直前に骨折して入院中だったが、何としても国会議員の方々に問題を認識して、本来あるべき議論をして頂きたいと考えたので、無理に外出許可を貰って車椅子で出席した。 だが、残念ながら、徒労だったようだ。 私の提起した課題はほぼ議論されることなく、法案審議は粛々と進み、2024年5月17日に衆議院法務委員会で可決された。 参議院での審議が残されているものの、恐らくこのまま成立に向かう可能性が高そうだ。 ■産業界に阿る与党 政府の改正案について、少し詳しく説明しておこう。 全くダメなわけではなく、評価できる部分もある。 技能実習関連以外で 「永住資格の取り消し」(永住者が税や社会保険料の支払いを故意に怠る場合や一定の犯罪を犯した場合に資格を取り消す規定) の追加も提案されている。 これは望ましい改正だ。 本来そんな外国人には永住資格を与えるべきではなく、取り消し規定がなかったことがおかしかった。 早急に規定を追加し、厳正に執行すべきだ。 一方、 「技能実習制度の見直し」 は全く評価できない。 政府案では、技能実習制度を廃止し、代わりに 「育成就労制度」 を設ける。 報道では、 「育成就労では、技能実習と異なり、転籍が一部認められている」 といった事ばかり強調されているが、そんな事は枝葉の話でしかない。 事の本質は、従来の 「なし崩しの移民受け入れ」 を正面から制度化するものなのだ。 従来の仕組みは、 ▽国際貢献(母国で働く人材を育てる)を目的とする技能実習制度に基づき、脱法的に低技能労働者を受け入れ、 ▽更に、2018年改正で創設した特定技能制度と事実上接続して、長期在留を可能にし(ただし、あくまで事実上の接続であり、本来の制度趣旨には反するので、政府の説明資料では少し隙間が空いている)、なし崩しで 「低技能労働者を受け入れ、長期在留させる」 ものだった。 今回の改正では、 ▽技能実習制度の代わりに、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度を設けて、制度上堂々と低技能労働者を受け入れられるようにし、 ▽更に、特定技能制度と正式に接続し(政府の説明資料では、隙間がなくなる)、制度的に 「低技能労働者を受け入れ、長期在留させる」 仕組みにするものだ。 看板の掛け替えに過ぎないという以上にこれまでコソコソと行ってきた事を堂々と看板に書いてしまうような改正と言って良い。 これではもちろん、先に述べた技能実習のもたらしてきた問題(人権侵害、犯罪・社会的トラブル、賃上げと経済成長の阻害)は何ら解消しない。 それどころか、今後は堂々と低技能労働者の受け入れを拡大できることになるから、益々増幅することになるだろう。 こうした改正の方向と軌を一にして、政府は2024年3月末、特定技能の受け入れ見込み数として 「今後5年で82万人」 との方針を決定した。 制度発足時の2018年からこれまでの5年間は34万人だったから、倍増以上だ。 また、対象業種として、バスやトラック運転手などの自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野を追加する方針も併せて決定している。 特定技能の入り口である育成就労も、自ずと拡大していくことになろう。 より長期的な見通しも示されている。 2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所が示した将来人口推計だ。 「外国人が毎年16万人入って来る」 との前提の下、人口に占める外国人比率が2020年の2%から2070年に11%にまで増えるとの推計を示した。 「移民政策は採らない」 などという空虚の説明をしながら、政府は現実には 「なし崩しの移民受け入れ」 を着実に前進させ、本格的な拡大へと向かっている。 ちなみに私は、外国人雇用協議会という一般社団法人の代表理事も務めている。 この団体には、安価な労働力の受け入れとは一線を画し、 「日本の経済社会で活躍できる質の高い人材の受け入れ」 という理念を共有する外国人材関連企業の業界団体だ。 団体の会員企業にとっては、単に短期的な利益拡大だけを考えれば、今回の法改正で外国人の受け入れ規模が拡大するのはビジネスチャンスかもしれない。 しかし、日本社会には取り返しの付かない損失をもたらしかねない。 結果として、長期的に外国人材ビジネスの基盤も損なわれる。 だから、私個人はこの法案には反対であり、参考人質疑でもそう明言した。 正直なところ、政府・与党がこんな法案を国会に提出したことには甚だ失望した。 欧米諸国の多くでは、移民問題が深刻な社会混乱をもたらしている。 日本の政治家も官僚もその状況は十分認識しているはずだ。 それなのに何故、諸外国の失敗の道を辿るように、 「なし崩しの移民受け入れ」 を平然と制度化しようとするのか。 特に自民党の保守派の議員たちは一体何をしているのか。 結局、政府・与党は、人手不足を訴える一部産業界に阿って、国の未来を危うくする危険性に目を瞑っている。 本当に情けないことだが、これが今の政府・与党の現実だ。 「政治とカネ」 を巡る自民党の対応が問題になっているが、こちらの方が余程深刻だと思う。 ■より低レベル人材を求める立憲 立憲民主党は対案として 「外国人労働者安心就労法案」 を提出した。 立憲民主党の説明によれば、政府案では外国人の人権侵害の要因が除去されなていないのに対し、対案は外国人の人権を守る内容だという。 しかし、中身を見ると、 「外国人の人権を守る」 とは逆行している。 まず、技能実習と特殊技能を一本化して 「一般労働」 という制度に改め、受け入れのハードルをこれまでより引き下げる。 技能講習でも政府・与党案の育成就労でも最低限の日本語能力が求められるが、これを不要にするという。 とんでもない話だ。 日本語のできない低技能労働者を受け入れれば、職場でも地域社会でもこれまで以上にトラブルが生じる。 周囲の日本人に迷惑を及ぼすだけでなく、外国人自身にとっても人権侵害や差別を受ける可能性が高まるだろう。 更に 「永住資格の取り消し」(永住者が税や社会保険料の支払いを故意に怠る場合や一定の犯罪を犯した場合に資格を取り消す規定) には反対し、規定を削除している。 これもおかしなことだ。 ルールを守らない外国人を野放しにすれば、外国人への反感が高まり、ルールを守る外国人までその対象にされかねない。 むしろ外国人への人権侵害を増幅しかねない。 何故こんな逆行した対案を出すのか。 結局、本当に人権を守りたいわけではないのだと思う。 本当に人権を守りたければ、低技能労働者を受け入れるのをやめ、安価な労働力として悪用される道を断てば良い。 「可哀相な外国人」 を作らないよう未然防止するのが最善の解決策だ。 ところが、立憲民主党の対案は、政府・与党案以上にもっとレベルの低い低技能労働者を受け入れ、問題を起こす外国人も在留させ続けようという。 「可哀相な外国人」 をもっとたくさん作って、その上で 「可哀相な外国人」 を守ろうという話だ。 マッチポンプそのものだが、これが 「人権を守る」 と称する人たちの求めていることだ。 参考人質疑の際、共産党の本村伸子議員から、諸外国での移民受け入れの状況について問われ、私はこう答えた。 多くの国には、安価な労働力を求める産業界がある。 一方で、可哀相な外国人を受け入れたい、守りたいという人たちもいる。 これらは全く異質なようだが、実は同じ方性を向いて、一緒になって社会を悪くしてきた。 これが欧米諸国の多くで起きてきたことだ。 現在の国会状況を見れば、日本でも同様に、産業界と人権左翼の結託が起きている。 自民党は、産業界の要望に応えて安価な労働力の受け入れを制度化しようとする。 立憲民主党は、可哀相な外国人を守ると称し、更に低レベル人材を受け入れようとする。 与野党どちらも、安価な労働力を受け入れる方針では合致して、どちらがより社会を悪くできるかを競い合っている状況だ。 そして、基本的な方向は合致しているから、こんな劣悪な政府・与党案に対して、野党は徹底抗戦しようとしない。 粛々と法案は成立に向かっているのだ。 しかも、採決に際しては、 「永住資格の取り消し」(永住者が税や社会保険料の支払いを故意に怠る場合や一定の犯罪を犯した場合に資格を取り消す規定) に関して立憲民主党の主張を一部受け入れ、 「外国人の状況に配慮して行う」、 即ち資格取り消しは抑制的にしか行わない旨の修正が施された。 せっかく的確な改正がなされようとしていたのに規定の実効性を損なったわけだ。 最早、与野党で手を握って、社会を危機に向かわせようとしているとしか思えない。 ■一刻も早く国民的議論を 残念ながら、こうした惨状をマスコミは全く報じない。 私は、これまでも技能実習の見直しについて、マスコミの報道がおよそ的外れであることを繰り返し指摘してきた。 2023年5月に法務省の有識者会議が中間報告を出した段階で本誌2023年7月号に 「弱者を作る朝日 移民を歓迎する産経」、 本誌2023年11月号に最終報告が出た段階で産経新聞にコラム 「『外国人に選ばれる国』という美名の下に…」(2023年12月10日付) を寄稿し、新聞各紙は 「人権を守れ」 「選ばれる国に」 などと唱えるばかりで、 「安価な労働力」 に偏った外国人受け入れなどの根本問題に触れていないことを指摘してきた。 国会での法案審議の段階になっても状況は全く変わらない。 ▼読売新聞は、 「外国人の就労環境を改善せよ」 「『選ばれる日本』にしていくことが大切だ」 と説いている(2024年2月10日付社説)。 ▼産経新聞は、 「労働環境の是非を着実に」 と唱え、取って付けたように 「移民に対し安易に道を開くことにならにように」 と付け加えるだけだ(2024年3月21日付主張)。 ▼朝日新聞は、 「労働者の権利を重んじる態勢に生まれ変われるのか疑問」 と指摘し、永住資格の取り消しについては 「筋違いで、共生の理念を否定するメッセージ」 と厳しく批判している(2024年5月10日付社説)。 いずれも、これまで本稿で述べてきたような外国人政策の根本問題には全く目を向けていない。 更に、ルールを守らない外国人との 「共生」 を求める朝日新聞に至っては、論外と言う他ない。 マスコミがダメだから、国会でもダメな議論しかなされない。 本来、外国人政策は、国の未来の姿、国民1人1人の生活に重大な影響を与える。 国民が議論に参画し、選挙などを通じ選択すべき課題だ。 一刻も早く、国民的議論の土台を整える必要がある。 そのため、 「移民政策は採らない」 などの意味不明な言葉で誤魔化すのでなく、明確な選択肢を示して議論がなされるべきだ。 第1の道は、従来の延長、即ち 「低技能労働者を中心とした移民受け入れ」 の拡大だ。 これは、欧米の多くが辿って来た道だ。 「深刻な人手不足への対応」 「人口減少する地方の活力維持」 「外国人の人権を守る」 などともっともらしい説明がよくなされるが、行き着く先は大概同じだ。 第2の道は、 「外国人排斥」 だ。 欧米各国では、第1の道で深刻な社会問題が生じ、反作用として極端な排外主義を唱える勢力が力を強めた。 第1と第2の道の対立で、社会の分断も招いた。 日本でも今後、こうした声が高まる可能性は高い。 第3の道は、そのいずれでもなく、冒頭でも触れた 「外国人を選ぶ」 道だ。 経済社会を豊かにすることに貢献する高度人材は積極的に招き、低技能労働者は受け入れない。 表向きの説明としては、日本政府はずっとそう言い続けてきたのだから、本当にその通り実行したらよい。 私は、欧米諸国の失敗を踏まえれば、これが進むべき道だと考えている。 いずれにせよ、このまま漠然と 「なし崩しの移民受け入れ」 を延長・拡大し、社会が大混乱に陥ってからでは手遅れだ。 1度立ち止まって、国の進む道を冷静に議論するには、今が最後のチャンスだ。 育成就労法案、衆院通過へ 労働力不足に外国人材確保 職場変更「転籍」も可能 2024/5/21 7:11 https://www.sankei.com/article/20240521-PBYN6RJRE5MVXCKDP3TIJGYTHM/ 技能実習に代わる外国人材受け入れの新制度 「育成就労」 を創設する入管難民法と技能実習適正化法の改正案が2024年5月21日、衆院本会議で可決され、衆院を通過する。 参院に送付され、今国会で成立する見通し。 人手不足の分野で労働力を確保し、即戦力とされる特定技能水準の人材を育て、長期就労を促す。 公布から3年以内に施行する。 育成就労の在留期間は原則3年で、技能実習では原則禁止されていた同じ業務分野で職場を変える 「転籍」 を一定の条件で認める。 転籍手続きなどで悪質なブローカーを排除するため、民間業者の関与を禁じる。 技能実習で受け入れ仲介を担う監理団体は 「監理支援機関」 と名称を変え、外部監査人を設置して中立性を高める。 今後は永住者の増加も見込まれるとして、納税などを故意に怠った場合は永住許可を取り消し、別の在留資格に切り替える規定も盛り込んだ。 衆院審議では与野党が修正を協議し、永住者の生活状況に配慮することなどを付則に追加した。 国貧しくする外国人政策 政策シンクタンク代表 原英史 2024/4/28 8:00 https://www.sankei.com/article/20240428-7IRYKFFZSFP2TFLRAJTQM47IVE/ 外国人の技能実習制度の見直しなどを内容とする出入国管理法等改正案の国会審議が始まった。 2024年4月26日、衆院法務委員会で参考人質疑が行われ、私も参考人の1人として陳述を行った。 私の述べた意見は、技能実習など個別制度の手直しの前に、まず 「外国人基本法」 を制定し、受け入れの戦略を明確にすべきだということだ。 政府は従来、なし崩しで外国人政策を進めてきた。 表向きは 「移民は受け入れない」 と言いつつ、実態は安価な外国人労働力の受け入れが拡大した。 日本人に十分な賃金を払って人材確保できない企業や業界が、安易に外国人労働者に頼り、入管行政も要望に応えた。 「国際協力」 が目的の技能実習制度などの悪用を政府が容認してきたのだ。 この結果、劣悪な労働環境や失踪などの問題が生じ、外国人による犯罪、社会的トラブルなども広がりつつある。 業界・企業が賃上げせず事業継続する道が用意され、賃金水準低迷の一因となった。 今回の改正案はこうした根本問題を解決するものではない。 「技能実習制度の廃止」 を掲げ、実態とかけ離れた国際協力の名目を人材育成などに改めてはいるが、実質大きく変わった点と言えば、転職を認めた程度だ。 看板の掛け替えに近い。 今後、人手不足が拡大する中で外国人受け入れの規模は拡大するから、これまでの戦略なき受け入れの負の側面は、更に大きく広がりかねない。 政府が今、行うべきことは戦略なき状態の解消だ。 国民的な議論も経て、 「外国人基本法」 を制定することが不可欠だ。 基本法ではまず、何のために外国人を受け入れるのかを明確にする必要がある。 「人手不足の解消」 を目的とするのは危うい。 業界要望に安易に応え続けることになり、日本人も含めた賃金引き上げを阻害し、日本をより貧しい国にしかねない。 安易な労働力の受け入れは社会的軋轢も生みやすい。 目的は 「日本を豊かにすること」 とすべきだ。 生産性を高めて経済社会を発展させるため、貢献できる質の高い外国人を戦略的に受け入れていく必要がある。 併せて、外交・安保政策の観点で人的交流を強化すべき国から重点的に受け入れるよう戦略性も求められる。 日本に限らず、移民を巡る議論は、賛否が大きく分かれ、イデオロギー・感情的対立にも陥りがちだ。 解決の道は、安易な受け入れでも全面的排除でもなく、日本国にとって有用な外国人材を選び抜いて受け入れることだと考える。 だが、今回の改正案はなし崩しの延長で、安易な外国人受け入れの道を広げ、社会の混乱を招き、日本をより貧しくしかねない。 必要なのは、なし崩し的な移民から戦略的政策への転換だ。 「外国人に選ばれる国」という美名の下に… 政策シンクタンク代表・原英史 2023/12/10 8:00 https://www.sankei.com/article/20231210-K3VBLS7WBBPVZFO3Y4EMXZC6VA/ 外国人が働きながら技能を学ぶ技能実習制度の抜本見直しに向けて、政府の有識者会議の最終報告書がまとまった。 国内外から指摘されてきた劣悪な労働環境などの問題を解消し、日本が 「外国人に選ばれる国」 になって、人手不足への対応を目指そうという。 具体的には ▽技能実習制度は廃止して新たに「育成就労」制度を設ける ▽人権侵害を防ぐべく、働く企業を変える「転籍」を認める などの内容だ。 だが、欠落しているのは、 「外国人に選ばれる国」 になる前に 「日本国が外国人を選ぶ」 ことの重要性だ。 日本文化を愛し、地域に溶け込み、経済成長に大いに貢献する 「日本にいてほしい外国人」 もいれば、経済社会に貢献せず、犯罪を起こし、社会保障制度を悪用するなど 「いてほしくない外国人」 もいる。 後者が日本を選んでくれても害悪でしかない。 技能実習制度を巡る諸問題の根源は、この視点を欠いていたことだ。 「国際貢献」 という建前のもと、一部産業界の求める 「安価な労働力」 としての外国人受け入れに悪用されてきた。 欲しいのは 「安価な労働力」 だから、技能のない外国人を 「選ぶ」 ことなく受け入れ、余程の事がない限り在留し続けられる仕組みだった。 だから、劣悪な労働環境など人権侵害が生じ、一方、外国人犯罪なども起きがちになった。 本来必要な見直しは 「外国人を選ぶ」 制度への転換だ。 ところが、政府の有識者会議の最終報告書は小手先の見直しばかりで、問題の根源に手を付けていない。 新制度の目的は 「国際貢献」 から 「人材育成と人材確保」 に変えると言うが、 看板の掛け替えどころか、正面玄関から 「安価な労働力」 を受け入れることにも繋がりかねない。 一部産業界の要望に応え続けている限り、人権侵害の問題も解消しない。 結局、 「いてほしい外国人」 ほど日本を避け、選択肢の乏しい 「いてほしくない外国人」 ばかりが日本を選ぶ。 更に外国人受け入れの規模が拡大すれば、欧米諸国以上に深刻な移民問題に直面しかねなない。 これが 「外国人に選ばれる国」 という標語の行き着く先だ。 深刻な状況を前に主要新聞各紙の社説はおよそ的外れだ。 「(外国人に)選んでもらえる社会を作っていきたい」(朝日新聞) 「日本を『選ばれる国』に変えていくことが大切だ」(読売新聞) 「外国人にそっぽを向かれることになりかねない。政府は正念場」(日本経済新聞) などと声を揃える。 せいぜい産経新聞が 「社会に様々な問題を生みかねない移民に対し、この改革が安易に道を開くことがあってはならない」 と一言指摘しているだけだ。 これでは、外国人政策はおかしな方向に向かうばかりである。 正論2024年2月号 政策シンクタンク代表 原英史 ■人権左翼と一部産業界の結託? 政治とカネの騒動の陰で重要な政策転換も進んでいる。 その1つが技能実習制度の見直しだ。 技能実習を巡っては、劣悪な労働環境などの人権侵害、それに伴う失踪などが長らく国内外で指摘されてきた。 法務省の研究会でなされていた検討が2023年11月末にまとまり、2024年通常国会での法改正に向けて準備を進めることになった。 内容は、技能実習制度は廃止し、新たに 「育成就労」 制度を設けるという。 結論から言えば、看板の掛け替えどころか、むしろ更におかしな方向に向かっている。 そもそも技能実習制度の根本問題は、 「国際貢献」(途上国への支援) という建前の下、 「安価な労働力」 として外国人受け入れの道を開いてきたことだった。 もちろん制度を有効利用する好事例もあり、全てを否定するわけではない。 だが、生産性の低い一部産業界が、賃金引き上げや設備投資の代わりに 「安価な労働力」 を要望し、政府が応えて対象業種を追加してきた面があった。 そんな事業者が利用しているから外国人への人権侵害が起きがちになった。 「安価な労働力」 を求める事業者は外国人を選ばず受け入れるので、犯罪なども起きがちになった。 生産性を高めない事業者を温存し、経済成長の阻害要因にもなった。 今回の報告書は根本問題に全く踏み込んでいない。 それどころか、 「就労育成」 制度は 「人材育成と人材確保」 が目的だという。 つまり、これまでのように 「国際貢献」 と建前を述べるのはやめて、堂々と 「人材育成」 と称する。 つまり、これまで通り、 「安価な労働力を」、 しかも正面玄関から受け入れようということだ。 その上で、人権侵害を防ぐため、別の企業などに移る 「転籍」 を認めるなどと言うが、小手先の見直しでしかない。 今、本当に求められるのは、 「日本国としてこれから、どんな外国人を(高度人材、安価な労働力など)、どのような方式で(短期か長期かなど)、どの程度の規模で受け入れるのか」 という国民的議論だ。 外国人の中には、日本の経済社会の成長や活性化に大いに貢献する 「日本に居て欲しい外国人」 もいれば、経済社会に貢献せず、罪を犯し、社会保険を悪用するなど 「日本に居て欲しくない外国人」 もいる。 これをどう選び、どう受け入れていくかが肝心なのだ。 政府はいつもこうした本来の議論から逃げ、技能実習の見直しなどの各論に突如入り込む。 基本戦略を定めていないので、結局、一部産業界などに引きずられ、なし崩しの移民受け入れに向かってしまうのだ。 これに対し、主要新聞各紙は的外れだ。 いずれも 「安価な労働力」 路線の継続を批判しようとはしない。 朝日新聞も毎日新聞も日経新聞も揃って 「これで外国人に選ばれる国になれるか」 と憂え、 「転籍」 をもっと拡大せよなどと論じている。 メディアがこんな状況では、外国人政策はおかしな方向に向かうばかりだ。 安価な労働力路線を続け、多くの 「日本に居て欲しくない外国人」 から 「選ばれる国」 になったところで、社会にとって害悪でしかないのは明らかだろう。 こんな状況から想起されるのは、欧米諸国でも生じてきた、人権左翼と一部産業界の暗黙の結託だ。 難民申請者などの幅広い受け入れに対し、人権を重視する勢力と、安価な労働力を求める一部産業界は、一見すると水と油のようだが、実は利益が一致している。 暗黙の結託を背景に、過剰な難民受け入れなどがなされてきた面が否めない。 今後、日本でも同様の事態が起きかねない。 事態は深刻だ。 弱者を作る朝日新聞 移民を歓迎する産経新聞 正論2023年7月号 政策シンクタンク代表 原英史 物事を見る時は、個々の事象の表層だけでなく、全体像や背後の構造まで見極めることが肝要だ。 例えば重大事故が生じた時、まず悲惨な被害状況などに向き合うことは欠かせないが、それだけでは不十分だ。 更に踏み込み、事故が何故生じたのか、製品の欠陥がなかったか、法規制や監督体制に問題はなかったかといった検証を行ってこそ、再発防止に繋がる。 報道機関にはそうした姿勢が求められる。 ■入管法改正を巡る報道 しかるに2023年国会で焦点になっている入管難民法改正について、残念ながら新聞各紙の報道は実に底が浅い。 目立つのは、 「難民申請3回以降は送還可能」 について、在留外国人らの反対意見を紹介して批判的に報じるものだ。 毎日新聞(電子版)は 「ウィシュマさん妹『外国人の人権無視』入管法改正案の衆院委可決で」 (2023年4月29日) で、今回の改正は 「不法滞在中の外国人の強制送還を進める狙いがあるが、日本で暮らす外国人の『排除』に繋がりかねないとの懸念も示されている」 とし、2021年に死亡したウィシュマさんの遺族の 「外国人の人権を無視し、尊重していない」 との意見を紹介している。 東京新聞は 「『国を分断する法案を許すな』『国家によるいじめだ』 入管法改正案への抗議デモ、国会前に4千人超」 (2023年5月13日) で、仮放免中の外国籍の夫と暮らす女性のデモ参加者の声として 「夫は4回目の難民申請中」 「結婚したら収容はあり得ないと思っていたが、理由なく収容されて現実を受け止められず、弟に泣きながら電話したこともある」 「入管は厳正な判断をしているとは思えない」 「国を分断する法案を許してはいけない」 と報じる。 朝日新聞は社説 「入管法改正案 課題に背を向けた国会」(2023年4月28日) でこう主張している。 「非正規滞在の外国人に対する入管当局の適正な処遇をどう確保するか」 「議論は大きな世論のうねりを生んだ」 「国会が拙速に封じるのは許されない」 (中略) 「入管施設での長期収容を防ぐ対策が問われたにもかかわらず、政府提出の法案は、収容をめぐる手続きに裁判所など第三者のチェックを入れることを避け、入管当局の強い裁量下にとどめる」 「難民申請中でも強制送還できる例外も設けた」 「保護を求めてきた人を迫害のおそれのある国に帰すリスクは高まる」 気になる点は色々ある。 「外国人の人権」 はもちろん尊重しなければならないが、外国人であっても日本にいる時は日本の法令を守らないといけない。 法令に違反したら収容や送還の対象になり得るのは当たり前だ。 東京新聞記事で紹介される女性は 「理由なく収容された」 と言うが、在留資格が切れているのに滞在していたので収容されたはずだ。 収容で引き裂かれて辛いだろうが、決して 「理由なく」 ではない。 だが、そうしたこと以上に根本的な問題は、不法滞在外国人に関わる不幸な事象の表層しか見ていないことだ。 ■「弱者の味方」が弱者を作る なぜ不幸な事象が生じてきたのか。 問題の根源は、不明瞭でどっちつかずで曖昧な入管行政だ。 確かに、難民認定はなかなか受け入れられない。 だが、申請を繰り返して長年日本に居続けることができる。 2010年以降は申請中の就労も法的に認められた。 在留資格が切れれば、収容されることもあるが、収容されないこともあり、何年も経ってから突然収容されることもある。 基準は不明確で運次第のようなものだ。 更に、在留特別許可という制度があり、日本人との結婚や、日本社会に定着しているなどの理由で特別に在留が認められることもある。 特に2000年代半ばには随分と許可がなされた。 こうした曖昧な入管行政が、 「日本にいれば何とかなる」 との期待をもたらしてきた。 難民認定申請者は、2000年頃は200〜300人程度だったが、2010年代後半には年間1万人以上に激増した(2018年に就労が制限されて2000〜4000人程度に減少した)。 政治的迫害など難民要件にはおよそ当てはまらず、経済目的で在留を望む外国人も相当程度含まれていたはずだ。 だが、期待と言っても、不確かな期待に過ぎない。 結果として、首尾よく在留できた人もいれば、収容や家族分断などの不幸な事態に陥る外国人も数多く生じたわけだ。 こうしてみれば、解決策は明らかだ。 認定基準を明確にすることだ。 保護すべき外国人は、何度も申請しなくても、迅速に難民や準難民として受け入れる。 認められない場合は、早期に退去してもらう。 曖昧な行政による不確かな期待を断ち切ることこそ肝要だ。 ところが、これに対し朝日新聞などは、 「申請を何度も繰り返す外国人が在留し続けられるようにせよ」 と唱える。 あやふやな期待を持たせ続けろというのだ。 「弱者の味方」 のつもりなのかもしれないが、実際には不幸な事態を更に引き起こすことになってしまう。 報じている記者らの気持ちは分からないでもない。 在留外国人などを取材するうちについ 「期待を持たせてあげたい」 と思うのだろう。 だが、不確かな期待を持たせてあげることで問題が解決するわけではない。 これも善意でやっていたことだろうが、不確かな助言で曖昧な入管行政が増幅した一部の支援者たちも、結果的には不幸を作り上げた一端だ。 朝日新聞などは自らの報道・主張が結局、新たな弱者を作りかねないことを自覚すべきだ。 ■難民受け入れを進めた安倍内閣 外国人政策は全般に、建前と実態の乖離が深刻だ。 技能実習を巡る建前(国際貢献)の乖離はよく指摘されるが、もっと根本的な乖離もある。 まず 「移民は受け入れない」 という建前がある。 これについては、安倍晋三内閣の初期、経済財政諮問会議で 「年20万人の移民受け入れ」 が検討されたことがあった。 当時、諸方面から猛反発を受けて検討は中止され、その後は 「移民政策は採らない」 と言い続けることになった。 菅義偉内閣・岸田文雄内閣にも方針が引き継がれている。 だが、実態としてその間に何が起きたか。 「移民政策を採らない」 はずだった安倍内閣の間、外国人労働者総数は68万人(2012年末)から172万人(2020年末)と2.5倍に急拡大した。 その後コロナ禍で一旦鈍化したが、再び拡大しつつある。 「高度な外国人は受け入れるが、単純労働は受け入れない」 との建前もある。 だが、現実には100万人超の外国人労働者増のうち、半分は技能実習と留学生、即ち最も技能水準の低い労働者だ。 結局、実質的には 「単純労働を中心に毎年10万人以上の移民を受け入れてきた」 というのが現実なのだ。 何故こんなことになっているかというと、 「安価な労働力として外国人を利用したい」 という産業界の一部の要望に引きずられてきたためだ。 古くは1990年代から始まった日系移民の受け入れもそうだった。 その後は、技能実習や留学生アルバイトが広がった。 「移民は受け入れない」 「高度な外国人しか受け入れない」 との建前を守るため、名目上は 「日系だから」 「国際貢献(人材育成)のため」 といった理屈を付けてきたが、実態は 「安価な労働力としての外国人受け入れ」 そのものだった。 産業界の要望に引きずられるのは米国も欧州も同様だ。 メディアが 「日本と桁違いの認定率」 と称する難民受け入れも、実は 「安価な労働力を求める産業界」 と 「人権左派」 の意図せざる結託で過剰な受け入れがなされてきた面は否めない。 結果として過剰に 「安価な労働力としての外国人」 を受け入れ、移民に関わる深刻な社会問題をもたらした。 日本はこれまで受け入れ規模が小さかったが、今後、国内での人手不足の広がる中で 「安価な労働力受け入れ」 路線を拡大していけば、確実に欧米の轍を踏むのではないか。 ■各社とも全体像度外視 技能実習については本来、こうした外国人政策の全体像を踏まえた見直しが求められるはずだ。 ところがメディアの報道では、劣悪な労働環境、失踪トラブル、海外からの「人権侵害」との指摘、といったことばかりが注目されがちだ。 法務省の有識者会議で2023年5月に公表された中間報告では、技能実習の廃止(人材育成を制度目的とする現行制度は廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新制度に)、転籍制限の緩和などを柱とする見直しの方向が示された。 これに対しても新聞各紙の報道は、 「外国人の人権を守れるか」 という視点での報道・主張ばかりだ。 朝日新聞は社説 「技能実習制度決別の意思を明確に」(2023年4月1日) で、 「立場の弱い外国人の労働搾取だと指摘されてきた制度と、本当に決別できるのだろうか」 と危惧を示す。 日経新聞の社説 「技能実習制度の看板掛け替えでは困る」(2023年4月12日) も、より抜本的な改革を求める内容だが、視点は 「日本が国際的な信用を取り戻すためには、技能実習制度の禍根を断ち、政策の転換を明確に示すことが欠かせない」 ということだ。 確かに 「外国人の人権」 は重要だが、課題はそれに止まらない。 「安価な労働力としての受け入れ」 を今後も維持・拡大するのか。 その場合に人材供給源はどう考えるのか(かつては中国、近年はベトナムだったが、経済水準が上がったので今後は難しい)。 諸外国で起きてきた移民問題にどう対処していくのか。 産経新聞くらいはまともな議論をしていないかと思って見てみたら、更にダメだった。 主張 「技能実習制度の廃止 人権を守る労働環境整えよ」(2023年4月25日) では、人権問題を解決する観点から以下のように主張している。 「中間報告のたたき台案は、制度の目的を人材育成としたまま実習生を労働者として受け入れるのは『望ましくない』として制度廃止を求めた」 「その上で、人材育成だけでなく人材確保も目的とする新制度創設を提言したのは理に適う」 「ただしこれは移民問題とは別である」 「社会を変質させる恐れのある移民受け入れへと安易に道を開かないようにすべきだ」 率直に言って、これを書いた人は中間報告の意味が分かっていないのだと思う。 精度目的を 「人材育成」 から 「人材確保と人材育成」 に切り替えるとはどういうことか。 これまで表向き 「安価な労働力としての受け入れ」 とは言わずにこそこそとやってきたが、これからは正面から堂々とそう言ってしまおうということだ。 「人材育成」 も目的に残すことで技能水準の低い人材を受け入れ続けられる。 産経新聞はこの方針を 「理に適う」 として歓迎しているわけだ。 一方で 「移民問題は別」 とも言っているが、私の理解では、 「安価な労働力としての受け入れ」 は 「移民の受け入れ」 に他ならない。 政府の言い分では、 「在留期間の制限などがあるので移民には当たらない」 らしいが、どこの国でも単純労働者に最初から永住資格を与えることはあまりない。 今回の中間報告は、外国人政策の根本の転換だ。 だが、産経新聞までこの体たらくでは、国民の多くが気付かないうちに大転換がなされることになりかねない。 ここまで、私は外国人受け入れに否定的な主張ばかりしているように見えたかもしれないが、実は外国人雇用協議会という推進側の民間団体の代表理事も務めている。 本稿で述べたことはあくまで私個人の見解だが、この協議会も私も、能力水準が高く日本の経済社会に貢献できる外国人はもっと受け入れるべきとの考えだ。 高度人材に占める外国人の割合は、日本は欧米諸国などに比べて圧倒的に低い。 ★高度人材に占める外国生まれの割合 OECDの資料を基に2010年11月経済産業省作成 ◆15歳以上の高度人材の人口に占める外国生まれの割合 ・英国 23% ・米国 16% ・フランス 13% ・ドイツ 13% ・日本 1% これでは、グローバルな国際競争で日本が取り残され、日本の競争力は下がる一方だ。 日本の相対的な給与水準は急速に低下している。 2022年経済産業省が公表した 「未来人材ビジョン」 では、タイと日本の企業を比較し 「タイの方が部長に昇進する年齢が平均的に10歳若く、しかも年収が高い」 という衝撃的なデータも示された。 それなら能力に自信のあるアジアの若者は日本よりタイに行った方が良いわけだ。 このまま推移すれば、日本にやって来る外国人の水準はどんどん低下する。 経済社会への貢献度合いは小さくなり、半面で犯罪やトラブルは増えかねない。 そうした中で、 「安価な労働力としての外国人受け入れ」 路線を本当に更に進めるのか。 それで日本の競争力は上がるのか。 日本社会はどうなるのか。 産経新聞は 「社会を変質させる恐れ」 を本当に危惧するなら、真面目に考え直してもらいたい。 ■「報道の能力」の欠如 毎年のことだが、 「国境なき記者団」 による 「報道の自由度ランキング」 が公表された。 朝日新聞ではこう報じられている。 朝日新聞 「報道の自由、日本は68位 主要7カ国で最下位」(2023年5月4日) 「国際NGO『国境なき記者団』(本部・パリ)は3日、2023年の『報道の自由度ランキング』を発表した」 「調査対象の180カ国・地域のうち日本は68位(昨年71位)で、昨年よりは順位を上げたものの、主要7カ国(G7)の中で依然、最下位だった」 「日本の状況について、『メディアの自由と多元主義の原則を支持している』としたものの、政治的圧力やジェンダー不平等などにより、『ジャーナリストは政府に説明責任を負わせるという役割を十分に発揮できていない』と批判した」 この記事は、重要な部分を報じていない。 本誌の読者ならば知っているだろうが、 「国境なき記者団」 のレポートでは例年、日本に関して 「記者クラブの問題」 「新聞・テレビのクロスオーナーシップ規制がないことにも起因する、メディアの極度の集中」 が指摘されている。 2023年も同様だ。 これらは 「政治的圧力」 などとは異なり、朝日新聞自らの問題だ。 少なくとも、このランキングを報じるならば、これらの点も報じないとおかしいだろう。 同時に、朝日新聞の報道の通り、 「政治的圧力」 などの指摘もある。 「2012年から右翼国家主義者(nationalist right)が政権について、ジャーナリストが敵視されている」 とか 「秘密保護法制で福島原発へのアクセスが制限された」 とか、私から見ると 「一体どこの国の話なのか?」 と思う内容だが、それこそ 「メディアの極度の集中」 の結果、朝日新聞など一部のメディアの特異な世界観や社会認識が世界にも広まっているのだろう。 私が思うに、日本のメディアに欠けているのは 「報道の自由」 ではなく 「報道の能力」 だ。 せっかく自由に報道できる環境があるのに、まともな報道ができていない。 今回取り上げた難民や技能講習に関しても、問題の本質に触れず、政府の方針に対する批判的検証もできていない。 決して政治的圧力で封じられているわけでなく、能力が欠けているからだ。 「政治的圧力」 云々と言うが、もし的確な取材に基づき自信を持って記事を出しているなら、圧力がかかっても、覚悟を持って抗したら良い。 実際には、能力不足で筋違いの記事を出しているためにしばしば抗議を受け、それに対し 「圧力だ」 と逆切れしているだけではないのか。 私自身、以前安倍政権で国家戦略特区ワーキンググループの座長代理を務めていた際、獣医学部の件をはじめ、いくつもの虚偽報道がなされ、その度に抗議していた。 朝日新聞本社に出向いて、そう間違っているのか詳細に説明したこともある。 担当の部長が何の反論もなく 「なるほど、なるほど」 と聞いているが、訂正記事が出ることはなかった。 毎日新聞にはデタラメな誹謗中傷記事まで掲載され、提訴して係争中だが、毎日新聞の言い分は 「そんなことは書いていない」 だった。 ひょっとすると朝日新聞や毎日新聞は、こうした抗議や提訴も 「政権の手先が圧力をかけてきた」 などと思い違いをしているのかもしれないが、まず自らの報道を省み、責任を持てる報道をしてほしい。 「ジェンダー不平等」 も同様だ。 取材対象に差別的な人物がいて、不当な扱いやセクハラを受けたなら、それを記事にして追い詰めれば良い。 能力不足でそれもできず、政治や社会のせいにしている様は、実に見苦しい。 国民を富ませない移民の経済効果 正論2024年7月号 青山学院大学教授 福井義高 政府が進める外国人の受け入れ策は事実上、移民社会へと舵を切ることにならないか。 その是非を巡って推進、制限論者とも自分たちの主張に拘泥し、感情論になりがちで、建設的な議論が進まぬ中、なし崩しに外国人労働者の受け入れは進んでいく。 筆者は2023年の本誌7月号で主にジョージ・ボーハス教授(米ハーバード大)による研究を基に、移民の経済効果を検討した。 建設的議論の一助とすべく移民を 「感情」 でなく 「勘定」 の問題として考えてみたのである。 その結果分かったのが、移民の受け入れは、受け入れ国のGDP(国民総生産)を増加させるけれど、移民の受け取る賃金相当分を除いた自国民に帰属するGDPはほとんど変わらないことである。 2015年の時点で移民労働者が全労働者の16%を占める米国でも、元からいる米国民分のGDPへの効果は全GDPの0.3%しかなかった。 ただし、移民の効果は企業と労働者で大きく異なる。 移民受け入れで賃金は下がり、企業利益(資本所得)は12%増加したのに対し、賃金は5%減少と推計された。 更に、自国労働者のうち移民労働者と競合する職種の賃金が下がる一方、移民と競合しない自国労働者は移民が従事するサービスの価格低下の恩恵を受ける。 こうした移民の経済効果は、米国に限らない。 2003年にオランダ中央計画局(CPB)が公表した報告書 「移民とオランダ経済」(Immigration and the Dutch Economy) によれば、移民により労働者が5%増えると、資本(投資)財価格が一定で、移民が全て単純労働者だった場合、オランダの自国民全体への効果はほとんどない一方(GDPが0.06%増)、企業利益は4%増、非単純労働者賃金2%増に対し、単純労働者賃金は6%減少する。 米国とオランダの例から明らかなように、移民受け入れは、自国民の所得増を伴わない、格差を拡大する所得再分配政策なのである。 勝者は企業とエリート、敗者は一般国民である。 ■不都合な結果 たとえ格差が拡大しても、高齢化が加速する中、外国人労働者に頼ることなしに日本経済は回らないのだから、受け入れざるを得ないという主張もあろう。 しかし、移民推進は、高齢化により益々厳しくなる国の財政状態を多少とも改善するどころか、更に悪化させるのである。 2023年に前述の 「移民とオランダ経済」 のアップデート版とも言うべき移民が財政に与える影響に焦点を当てた報告書 「国境なき福祉国家」(Borderless Welfare State) の最終版が公表された。 (https://demo-demo.nl/wp-content/uploads/2023/06/Borderless_Welfare_State-2.pdf) ただし、 「移民とオランダ経済」 が明らかにした移民の経済効果は、多文化共生を是とし移民受け入れを推進する政府にとって都合が悪いものだったこともあり、今回の報告は民間プロジェクトとして行われた。 オランダは2023年現在、人口が1800万人で日本の7分の1程度、65歳以上人口の割合は20%で日本の29%より低いものの高齢化が進んでおり、2021年のGDP比国民負担率(税金と社会保険料の合計がGDPに占める割合)は39%で日本の34%より高い。 日本同様、高齢化が財政に与えるマイナスの影響が深刻な問題と考えられている。 ただし、移民流入により人口は増加している。 例えば2022は前年に比べ、《native》即ち土着のオランダ人の人口は0.1%(2万人)減少したものの、移民とその子供は3.1%(13万人)増加し、全体では0.7%(12万人)増加した。 こうした中、報告書 「国境なき福祉国家」 は、通常アクセスできないオランダ全人口1720万人(2016年初人口+年間出生児数)の個人データを使い、オランダ人と移民、後者は出身地地域別にそれぞれどれだけ財政に貢献し、また支出を伴ったかを推計している。 まず、全人口がオランダ人1340万人と移民385万人に大別される。 移民は他国で出生しオランダにやって来た1世(第1世代)とその子供である2世(第2世代)からなり、全体の22%を占める。 尚、当初から帰国する予定の外国人労働者とその家族も含まれている。 移民は欧米(western)出身と非欧米(non-western)出身に大別され、更に42地域にグループ分けされている。 欧米に含まれるのは、ロシアを含む欧州諸国、北米(米国とカナダ)、大洋州(オーストラリアとカナダ)、インドネシア(旧オランダ領)そして日本である。 調査の基準となる2016年のデータを基に、オランダ人と移民に分けて財政への単年度ベースの影響を示したのが表1だ。 ★表1 オランダ人・移民別財政への影響(単年度ベース、2023年価格、1ユーロ=160円換算) (注)「国境なき福祉国家」に基づき筆者推計/日本は欧米に分類 「@人口(百万人)A人口(全体比)B貢献額(兆円)C支出額(兆円)D純貢献額(兆円)E純貢献額(GDP比)F1人当たり純貢献額(万円)」 ・合計:@17.2AーB60.2C60.5D-0.2E-0.2%Fー ・オランダ人:@13.4A78%B49.5C46.3D3.2E2.3%F20 ・移民全体:@3.8A22%B10.7C14.2D-3.5E-2.4%F-90 ・移民欧米:@1.7A10%B5.9C5.7D0.2E0.1%F10 ・移民非欧米:@2.1A12%B4.8C8.5D-3.7E-2.6%F-170 単年度ベースというのは、この1年間の収支に基づく、筆者たちの表現を借りれば 「静的」 な推計である。 尚、 「国境なき福祉国家」 のデータは全て2016年価格のユーロで表示され、その後のインフレが考慮されていない。 ここでは、オランダの2023年消費者物価指数が2016年比26%上昇したことを反映させ1ユーロを160円で換算して、2023年価格で表す。 以下、同様である。 全体の78%を占めるオランダ人の財政への貢献は49兆円5000億円だったのに対し、46兆3000億円が支出されたので、差し引き純貢献額はプラス3兆2000億円、GDP比プラス2.3%の貢献となった。 一方、全体の22%を占める移民は貢献額10兆7000億円に対し支出14兆2000億円で純貢献額マイナス3兆5000億円、GDP比2.4%の負担(-2.4%)をかけたことになる。 ただし、欧米出身と非欧米出身で大きく異なる。 全体の10%を占める欧米出身移民は貢献額5兆9000億円に対し支出額5兆7000億円で純貢献額プラス2000億円、GDP比プラス0.1%でほぼ収支トントンであった。 ところが、全体の12%を占める非欧米出身移民は、貢献額4兆8000億円に対し支出額8兆5000億円でGDP比2.6%の負担(-2.6%)をかけたことになる。 これは、1.6%と推計されているオランダにおける高齢化がもたらすマイナスの影響を上回っている。 1人当たりで見ると、非欧米出身移民は170万円の負担(マイナス170万円)となっている。 欧米出身移民は貢献額と支出額が釣り合っているので、移民の財政負担はほぼ全てオランダ人の肩にのしかかることになる。 ■資本ストックで見る重要さ しかしながら、単年度ベースの数値は、移民受け入れの効果を判断する上で、必ずしも適切な指標とは言えない。 移民受け入れは(マイナス価値のある場合も含め)一種の投資であり、永住せず出国(remigration)する移民もいるけれど、長期に渡って財政に影響を与えることは間違いない。 移民を受け入れることに伴い、学校教育や医療、その他行政サービスを追加的に提供する必要が生じ、財政負担が増す。 従って、将来に渡る移民のストック(複数年度ベース)価値を推計する必要がある。 実際、 「国境なき福祉国家」 では、単年度ベースの静的アプローチでなく、経済学で 「世代会計」 と呼ばれる手法を用いたストックベースの動的アプローチが必須であることは移民に限らない。 政府がある年に長期に渡る支出にコミットしても、その年の支出として計上されるのは実際に支払った額だけである。 例えば、日本政府が10年間毎年1兆円合計10兆円の新規道路建設を決定しても、最初の年には1兆円しか支出計上されない。 しかし、財政への影響を考える場合に重要なのは、長期に渡って必要となる10兆円という金額であることは自明だろう。 さて、投資即ちストックとしての移民を考える場合、移って来た本人のみならず、その子供たちの分も考慮する必要がある。 また、移民全てが永住するわけではないので、受け入れ国にとってのストック価値を推計するには、出国する可能性も考慮し、その分を控除する必要がある。 「国境なき福祉国家」 は、この2点を考慮に入れた推計をメインの数値としてしている。 移民1人当たりの子供の数については、出身地域別で出生率が違うことも考慮されている。 まず、欧米出身移民に関しては、ストック価値はほぼゼロと推計された。 つまりオランダ財政に貢献もしないけれど、負担にもならないということである。 ★表2 非欧米出身移民の財政への影響(ストックベース、2023年価格、1ユーロ160円換算) @2016年A2015〜2019年平均B1995〜2019年平均 ・純貢献額(兆円):@-6.4A-5.4B-3.4 ・2016年GDP比:@-4.5%A-3.8%B-2.4% 一方、表2に示したように、非欧米出身移民は、1995〜2019年の25年間で見ると、財政への純貢献額は年平均マイナス3兆4000億円、GDP比2.4の負担(-2.4%)であった。 2015〜2019年の直近5年間だと、純貢献額はマイナス5兆4000億円、GDP比3.8%の負担(-3.8%)、2016年は難民が大量に入国したため、純貢献額はマイナス6兆5000億円、GDP比4.5%の負担(-4.5%)であった。 要するに、非欧米出身移民はマイナスの資本ストックであり、オランダ人にとって移民受け入れは、ただでさえ高齢化によって厳しくなる一方の財政状況を更に悪化させる負の投資ということになる。 「今年いくらかかったか」 というフローで見るよりもストックで見た方が、貢献額がプラスの場合は小さく、マイナスの場合は更にマイナス幅が大きくなる。 これは、移民1世は大人になってから入国するので、オランダ人にも共通する、子供時代の財政上のマイナス要因(公教育コストなど)がかからないためである。 ■移民1人当たりはどうか 移民全体でなく、移民1人当たりで見た場合、オランダで生まれる子供や出国の可能性を考慮した、ストックとしての財政への影響はどのくらいなのか示したのが表3である。 ★表3 出身地別1人当たり移民の財政への影響(ストックベース、2023年価格、1ユーロ=160円換算) (注)「国境なき福祉国家」に基づき筆者推計 @出国の可能性を考慮した場合(基本推計)A出国の可能性を考慮した場合(最小推計)B出国の可能性を考慮した場合(最大推計)C永住した場合 (単位:億円) ・仮想オランダ人:@プラス0.2AーBーCプラス0.4 ・移民平均:@マイナス0.3AーBーCマイナス0.5 ・移民欧米:@0.0AーBーCプラス0.1 ・移民日本:@プラス0.4Aプラス0.3Bプラス0.5Cプラス1.0 ・移民非欧米:@マイナス0.6AーBーCマイナス1.0 ・移民中国:@マイナス0.1Aマイナス0.2B0.0Cマイナス0.2 ・移民トルコ:@マイナス0.7Aマイナス1.0Bマイナス0.6Cマイナス1.1 ・難民平均:@マイナス1.0AーBーCー ・難民欧米:@マイナス0.6AーBーCー ・難民非欧米:@マイナス1.1AーBーCー ・難民トルコ:@1.0AーBーCー 推計に際して、当然ながら多くの仮定が置かれており、仮定を変更すると数値が大きく変動するようでは信頼が置けない。 その懸念に対応し、仮定をもっともらしい範囲内で変えた推計がいくつか試みられている。 結果的に、最小推計と最大推計の差はさほど大きくなく、基本推計の数値はかなり信頼度が高いと思われる。 まず、比較の基準として、オランダ人と同じ属性の人間が移民として訪れた場合を考える。 入国する年齢や出国の可能性も考慮した、この 「仮想オランダ人」 のストック価値はプラス2000万円である。 移民は平均でマイナス3000万円と推計される。 ただし、出身地域別の違いは大きい。 欧米出身移民は全体ではほぼ財政に中立的ながら、日本出身移民はプラス4000万円の 「優良資産」 となっている。 日本以外では北米、大洋州、北欧、そして西欧の一部からの移民のストック価値が高い。 皮肉なことに、途上国の移民が行きたいと願う国からの移民こそ、オランダにとって 「資産」 価値があるということだ。 一方、欧米系でも東欧の一部からの移民のストック価値はマイナスである。 非欧米出身は平均でマイナス6000万円の 「負債」 となる。 ただし、やはり出身地別のバラツキは大きく、中国がマイナス1000万円であるのに対し、トルコはマイナス7000万円となっている。 移民は更に入国理由別に推計されており、オランダに限らず受入国にとって最も負担となる難民の場合、欧米出身(旧ユーゴスラビアなど)がマイナス6000万円、非欧米出身はマイナス1億1000万円だった。 その多くがクルド系と思われるトルコからの難民はマイナス1億円である。 更に、移民が永住した場合の推計も行われている。 財政貢献がプラスにせよマイナスにせよ、永住を仮定しない基本推計よりも、絶対値(プラス幅あるいはマイナス幅)は大きくなる。 とりわけ、例外的に日本出身移民は2世になってもオランダ人より純貢献額が大きいので、ストック価値はプラス1億円となる。 一方、トルコ出身移民はマイナス1億1000万円である。 トルコ出身のうち難民の数値は未公表なものの、恐らく1億5000万円前後と思われる。 日本出身移民が例外的というのは、日本以外でストック価値が高い欧米出身移民の場合、2世になるとほぼ財政に中立的なオランダ人(2016年生まれの場合、ストック価値マイナス60万円」)にほとんど同化するのに対し、日本出身2世はストック価値がプラス2000万円と推計されるからである。 ■福祉国家が終わる オランダ財政に貢献する移民と負担となる移民を分けるものは何か。 学力(教育レベル)と共に重要なのが文化的距離(宗教や慣習などの隔たりの大きさ)である。 学力が高いほど、出身地とオランダの文化的距離が近いほど貢献額は大きく(負担額は小さく)なる。 実は、日本出身移民はオランダ人より学力が高く、日本は米国よりも文化的距離がオランダに近いとされている。 その結果、日本出身移民の財政から見た同化度はオランダ人(定義上100%)を上回る134%となっている。 一方、貢献額がマイナス即ちオランダ財政の負担となっているのが、学力や文化的距離で隔たりがある 「アフリカ・イスラム・クラスター」 である。 推計では2世までしか考慮されていないけれども、こうした地域からの移民は、3世以降もオランダ社会への同化が進んでいないため、財政上の重荷である状態が続くと考えられる。 従って非欧米出身移民による財政への負の影響は、推計値よりもっと大きい可能性が高い。 尚 「アフリカ・イスラム・クラスター」 の移民2世にかかる治安維持コストは他地域の2世の2.3倍と推計されている。 日本同様、オランダでも少子高齢化が進んでいる。 推計時の出生率はオランダ人女性1.7、欧米移民女性1.4、非欧米移民女性2.0であった。 コロナ禍前2019年には更に低下し、オランダ人女性1.6、欧米移民女性1.3、非欧米移民女性1.9だった。 少子高齢化による年金財政悪化、経済成長率低下に対処するには、移民を必要とする意見がある。 しかし、 「国境なき福祉国家」 が示したのは、途上国からの移民流入は、財政を更に悪化させ、そのマイナスの影響は高齢化の影響を上回るという現実である。 途上国出身の場合、難民だけでなく、労働移民であっても財政には負担となる。 「働くならば移民は問題ない」 という主張は正しくないのだ。 財政問題を度外視するとして、オランダが現実の年齢人口バランスを維持するために移民受け入れを進めた結果、21世紀終わりには人口は1億人に達する。 ただしオランダ人は僅か1割の少数派になってしまう。 「国境なき福祉国家」 が指摘するように、移民で少子高齢化を抑制する試みは必ず行き詰まる 「ネズミ講」 のようなものである。 今回の推計に含まれていないけれど、オランダのように既に人口密度が高い国の場合、人口増が社会・自然環境にもたらす非財政的コストや、自国民の心理的コストを無視することができない。 可住地面積当たり人口密度がオランダの倍近く、同質性の高い社会を長年に渡って構築してきた日本の場合、こうしたコストは更に大きなものとなるのは確実である。 オランダ政府は、ほぼ無条件に受け入れている 「難民」 と称する移民の多くが制度を悪用していることを認めている。 にもかかわらず、有効な対策を取ろうとしない。 労働移民についても、選り好みせず途上国から受け入れている。 <報告書は 「政府の移民政策」 が長期的に何を意味するかについて以下のことを疑いなく示した> <財政への増大するプレッシャー、そして最終的には我々が知る福祉国家の終わりである> <従って、現在の法的枠組みを続けるという選択は、明示することなく福祉国家に反対する選択なのだ> ■議論に欠けるもの 本稿ではオランダを例に、移民を財政的観点から分析する見方を紹介した。 多文化共生あるいは人権の観点に基づく移民推進論者は、移民の是非を金銭価値のみで判断するのはけしからんと主張するであろう。 しかし、移民を巡って、どのような美辞麗句で飾り立てようと、途上国からの大量移民は、一般国民からエリートへの所得再分配をもたらす上、財政を圧迫し、自国民に対する行政サービス水準を低下させる。 とりわけ弱者に対するセーフティーネットを劣化させる可能性が高い。 如何なる政治信条の持ち主であろうと、政治家が第1に考えねばならないのは、まず自国民、とりわけ弱い立場にある国民の福利であるはず。 ここで指摘した移民の経済財政効果を十分考慮せず、なし崩しに外国人労働者を受け入れることは、自国民への裏切りと言っても過言ではない。 【付記】本稿作成に当たり、「国境なき福祉国家」の筆頭著者ヤン・ファンデベーク博士より貴重な助言を賜った。 人手不足論はまやかしの市場重視 正論2023年7月号 青山学院大学教授 福井義高 海外からの移民を積極的に受け入れるべきという意見には2つのタイプがある。 まず、昨今流行りのダイバーシティ、多文化共生の観点からのもの。 一方、こうした移民による多様化推進論に対しては、日本社会の独自性を保つため、移民は受け入れるにしても限定的にすべきという主張も有力である。 もう1つの移民推進論は、人口が減少する中、経済成長を実現するには、移民による労働力確保が不可欠という、経済的要請によるものである。 実際、様々な分野で、なし崩しに外国人労働者受け入れが進んでいる。 多様性か独自性かという、特定の価値観に基づく主張は、お互い自分が正しいことを前提に相手を非難する感情論になりがちで、言いっ放しに終わってしまう。 それに対し、経済的観点からの是非は、生前、経済倫理学を提唱された竹内靖雄元成蹊大教授に倣って、感情ではなく勘定、つまり損得の問題として、検討することが可能である。 「感情」 ではなく 「勘定」、 つまり損得の問題として、検討することが可能である。 というわけで、ここでは高邁な文化論は避け、対象を移民(外国人労働者)の経済効果に絞って考えてみたい。 ■もし国境を撤廃したら 第二大戦後、米国主導で進められた貿易自由化によって経済成長が促進され、日本のみならず各国国民の生活水準は大きく向上した。 貿易自由化とは、モノの移動に関して国境を撤廃するということなので、ヒトの移動に関しても国境を撤廃すれば、更に経済成長が促進されると考えても不思議ではない。 実際、グローバル経済推進論者は、そのように主張している。 もし世界中で移民制限を撤廃し、ヒトの移動を完全自由化すれば、その経済効果は如何ほどなのか。 幸い、移民の経済研究の第一人者であるジョージ・ボーハス教授(ハーバード大)がシミュレーションを行っているので、その結果(一部筆者推計)を紹介しよう。 ここでは、途上国の労働者は祖国を離れることに特別なコストは伴わないケースを取り上げる。 まず、世界銀行の推計に基づき、世界を人口11億人うち労働者6億人の先進国と、人口59億人うち労働者27億人の発展途上国に大別する。 現実のデータに即して、先進国・途上国共に、企業が利益を人件費に回す割合を示す 「労働分配率」 を70%、先進国と途上国の賃金格差を4対1と仮定する。 移民自由化の賃金格差は、労働力の質ではなく、社会の仕組みを反映したもので、先進国の高賃金は、途上国に比べて、より効率的な経済活動を可能とするものになっているからと考える。 従って、移民を完全自由化すれば、自由貿易によって同じモノの値段が世界中で等しくなるように、ヒトの値段即ち賃金も世界中で同じなる。 また、移民を完全自由化すると、先進国と途上国の人口と賃金はそれぞれどうなるのか、2つの場合を考える。 まず、移民を受け入れても、それまで効率的な経済活動を可能にしてきた先進国の社会体制が変わらない場合、そして、途上国からの大量移民で、先進国の社会が半ば途上国化する場合である。 先進国社会不変の場合、世界全体の国内総生産(GDP)は57%増加する。 ただし、先進国経済に対する移民の経済効果を見るには、移民自身が得る経済効果(賃金)を除外し、土着の自国労働者賃金と自国資本に帰属する所得の合計を、移民自由化前後で比較する必要がある。 移民賃金を除外しても先進国のGDPは39%増加するので、モノの自由貿易同様、ヒトの移動自由化は自国民に帰属する経済のパイを大きくする。 しかし、移民自由化がもたらすGDP増加は、大規模な移民と表裏一体である。 国境撤廃によって、労働者の家族も含めて、途上国人口の95%に当たる56億人が先進国に移住することになるのだ。 その結果、国民・移民共通の先進国賃金は39%減少する。 ただし、途上国からの移民から見れば143%の増加である。 一方、先進国の資本所得(企業利益)は、労働者増・賃下げの恩恵で、220%増加する。 大量の移民が流入すれば、受け入れる側の先進国の社会体制が、その経済効率性も含めて、大きく変化すると考える方がもっともらしい。 やって来るのは、働くロボットではなく、人間なのだから。 途上国からの大量移民で先進国社会が半ば途上国化する場合、移民自由化前より低下するとはいえ、それでも途上国より高い生産性が維持される先進国に、途上国人口の84%に当たる50億人がやって来る。 その結果、世界全体のGDPは13%増加するものの、社会の途上国化で、移民に支払われる賃金を除外した先進国のGDPは7%減少すると共に、自国民・移民共通の先進国賃金は56%減少する。 それでも移民から見れば74%の賃上げである。 一方、先進国の資本所得(企業利益)は、社会の途上国化によるマイナス効果にもかかわらず、労働者増・賃下げ効果がそれ以上に 「貢献」 し、108%増加する。 移民自由化の勝ち組は、言うまでもなく、まず先進国で働くことで賃金が大幅に上昇する途上国からの移民である。 そして、途上国から安い労働力を 「輸入」 することで、利益を大幅に増やすことができる企業である。 一方、負け組は、移民労働者による 「賃金ダンピング」 で、大幅な賃下げを余儀なくされる先進国の自国労働者である。 先進国における移民推進とは、グローバル化とか多様性とかいった美辞麗句を取り去って、その経済効果を直視すれば、労働者から資本家・経営者への所得再分配政策である。 ボーハス教授が指摘するように、 「先進国の労働者が、国境撤廃論者に従うことを拒否するのは、人種差別や外国人排斥とはほとんど関係ない」 「単に新世界秩序(New World Order)から恩恵を受けないからなのだ」。 移民推進は、先進国の国民大多数から見ると、勘定の問題として割に合わないのである。 ■移民大国、米国の場合 国境完全撤廃によって途上国民の大半が移民するケースなど非現実的過ぎて、今後の日本の移民政策の参考にならないという批判があろう。 確かにそうかもしれない。 そこで、移民大国である米国の実例を、ボーハス教授の推計(一部筆者推計)に依りながら、見てみよう。 結論から先に言ってしまえば、移民推進が所得再分配政策であるという、その本質は変わらない。 2015年のデータによると、全労働者のGDPに対する貢献分は12%を占める。 しかし、移民流入で増加したGDPから移民の取り分を除くと、移民が自国民にもたらす経済効果はGDPの0.3%でしかない。 ただし、GDPの内訳を見ると、自国労働者の取り分が3%減少したのに対し、企業の取り分は3%増えている。 国境完全撤廃でほとんどの途上国民が先進国に殺到する場合と異なり、移民労働者が全体に占める割合が 「僅か」 16%であっても、移民労働者がいない場合に比べ、賃金は5%低下し、企業利益は13%も増加するのである。 更に、移民に対して提供される公的サービスの財政負担増が移民の納税額を上回る、つまり財政純負担増は確実であり、移民流入のネットのGDP貢献分0.3%は、その純負担増で帳消しになるか、マイナスになっている可能性が高い。 ここまでは労働者を一括して扱ってきたけれども、労働者といっても、大企業経営幹部から非正規雇用の単純労働者まで様々である。 実際に、移民労働者との競争を強いられ、賃金低下圧力に晒されるのは、元から低賃金の職種に従事する自国労働者である。 ボーハス教授の推計によれば、移民流入で競合する職種の労働者が10%増えると、その賃金が少なくとも3%、場合によっては10%程度低下する。 一方、移民労働者と競合しないエリートたちは、むしろ移民労働の恩恵を受ける側である。 移民推進は労働から資本への所得移転のみならず、低賃金労働者から高賃金労働者への所得移転をもたらす。 そもそも、アメリカは移民の国とされるけれども、これまで常に大量の移民を受け入れてきたわけではない。 日本では 「排日移民法」 と呼ばれる1924年に成立した改正移民法により、北・西欧系を除く移民が大幅に制限され、1920年代半ば以降、移民が激減する。 それから約40年経った1965年に移民法改正が行われた際、法案を提出した国会議員も政府も、この改正は移民送出国の構成が若干変わるだけで、移民数自体が増加することはないと 「確約」 したにもかかわらず、移民数は激増、しかも、改正前と異なり、欧州ではなく、途上国からの移民が大多数を占めるようになった。 20世紀半ばの移民制限期に所得格差が縮小したのに対し、大量移民が始まった1970年代以降、所得格差が拡がり、今日に至っている。 この間、米国非管理職労働者のインフレ分を除いた実質賃金はほぼ横ばいだったのに対し、大企業社長(CEO)報酬は労働者賃金の20倍程度だったのが、300倍を超える水準となっている。 ■誰のための移民推進なのか まず、移民の経済的メリット・デメリットを検討するに当たり、何を基準とするのか、はっきりさせる必要がある。 移民自身から見れば、日本の移民受け入れはプラスに決まっている。 そうでなければ、そもそも日本にやって来ない。 しかし、デモクラシーにおける政策の判断基準は、まず主権者たる国民の幸福や豊かさであり、今いる日本人にとって新たな移民受け入れがどのような経済効果をもたらすかが、移民政策の是非を巡る判断基準となるべきであろう。 出生率の低下で人口が減少する中、新たな労働力として大量の移民を受け入れれば、日本のGDPが押し上げられることは間違いない。 ただし、経済成長政策として有効か否かを判断するには、移民を受け入れなかった場合のGDPと、受け入れた場合のGDPから移民賃金と移民受け入れに起因する純財政負担を引いた額を比較しなければならない。 米国の実例でも分かる通り、移民推進は自国民の経済成長にはほとんど影響しない、ほぼ純粋な所得再分配政策である。 社会の途上国化による生産性の低下、純財政負担を考慮すれば、経済成長への効果はむしろ全体としてマイナスの可能性が高い。 移民推進は、労働から資本への所得移転に加え、低賃金労働者から高賃金労働者への所得移転を引き起こす、弱肉強食の格差拡大政策なのだ。 企業経営者をはじめ社会のエリートたちに移民推進論者が多いのは、要するに自分にとって得だからである。 多様化推進の観点からの移民推進論も、こうした主張を行う人が概して高学歴エリートであることを鑑みれば、正義感溢れる 「感情」 論でカムフラージュされた 「勘定」 論と見ることもできる。 一方、欧米では弱者の味方のはずの左翼・リベラルが移民受け入れを推進しているけれども、これは比較的最近の現象である。 元々、左翼・リベラルの間では、支持基盤だった労働者の利益を守るため、移民受け入れに慎重な意見が有力であった。 冷戦時代、 「移民の継続は深刻な問題をもたらす」 「合法、不法とも移民をストップせねばならない」 と主張したのは、極右どころか欧州左翼の大立者ジョルジュ・マルシュ仏共産党書記長である。 米国のある有力な大統領候補もこう語っていた。 「不法移民流入を阻止せねばならない」 「この目的を達するため、国境警備要員を増やさねばならない」 「合法移民に関する法律も、合衆国が移民の数と質をもっとコントロールできるよう改正せねばならない」 「移民受け入れに関しては、まず、合衆国は、無責任な他国干渉への干渉ーこうした干渉はほぼ確実に政治難民を生み出すーによって難民が生じることだ」 「もっと用心しなければならない」 「本当に難民かどうか、より確実に難民申請を審査せねばならない」。 発言の主はドナルド・トランプ前大統領ではなく、ベトナム反戦で名を馳せたリベラルの雄、ユージン・マッカシー民主党元上院議員である。 要するに、今日の労働者は左翼・リベラル主流派に見捨てられたのである。 ただし、新たな動きも見られる。 ドイツで急進左翼の代表格とみなされてきた旧東独出身のザーラ・ヴァーゲンクネヒト左派党連邦議会議員が、大量移民は自国労働者の経済的利益を損なうという 「勘定」 論を前面に出した移民反対論を唱え、左翼・リベラル主流派から非難される一方、 「極右」 正統とされるAfD支持者の間で大人気となっている。 ■低賃金は企業の敗北宣言 豊かな社会では、必要であったも自国労働者がやりたがらない仕事が増え、移民なしにはやっていけないという主張をよく聞く。 しかし、先進国で移民が従事するのは、自国労働者がやらない仕事ではなく、現在の賃金水準ではやりたくない仕事である。 不法移民を一掃した米国のある地域で現実に起こったように、外国人労働者がいなければ、自国労働者がやりたくなる水準まで賃金は上昇する。 また、企業は技術革新で乗り切ろうとする。 実際、それは高度成長期の日本で起こったことである。 「人手不足」 にもかかわらず、移民を入れなかったことで、製造現場ではロボットが普及して省力化が進み、高学歴エリートと大衆の賃金格差が縮小し、戦前の大企業大卒社員の家庭では当たり前だった 「女中」 が賃金高騰でほとんど姿を消した。 一方、我々がどうしても生活に必要と考える財サービスであれば、十分に生産性を上げることができないため賃金上昇を価格に転嫁せざるを得ず高価格となっても、需要は残る。 一例として、生産性向上が困難な理美容業の料金は、高度成長前に比べ一般物価水準を超えて大きく上昇したけれども、今も需要は健在である。 低賃金でないと事業を継続できないというのは、高い価格を支払ってまで買う価値のある財サービスを提供できないという、企業としての敗北宣言に過ぎない。 低賃金の外国人労働者への依存は企業にとって麻薬のようなものであり、自国民の所得格差を拡げるのみならず、生産性向上努力を妨げ、結果的に、企業の衰退をもたらす。 経済的観点からの移民推進論者は、ほとんどの場合、自称市場重視論者でもある。 しかし、現在、 「人手不足」 が叫ばれている仕事の多くは、財サービス価格が低過ぎて超過需要が生じているのであって、価格を上げて需要を減少させるのが、本来の市場重視であろう。 その典型例が貨物輸送である。 人手不足対策に議論は不要である。 市場のシグナルに耳を傾け、トラック運転手の賃金を上げればよいのだ。 現在の価格で現時点の需要に応じようとする需要充足主義は、計画経済的・社会主義的発想であり、市場重視とは無縁である。 人手不足論者にみられる、こういう財サービスの価格あるいは職種の賃金は低くて当然という発想は、単なる思い込みに過ぎない。 理美容サービス料金に見られるように、社会の変化に伴い、財サービスの相対価格は劇的に変化してきた。 戦後、相対賃金が大きく変化したことは、先に述べた通りである。 人手不足を理由とした移民推進論は、国民経済の観点からは到底正当化できない。 市場のダイナミズムを無視したまやかしの市場重視、その実、反至上主義なのだ。 国境完全撤廃のシミュレーションはともかく、米国の実例は、EBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)を標榜する日本政府にとって、移民政策を検討する際に、大いに参考になるはずである。 ともあれ、移民問題は感情ではなく、冷静な議論が可能な勘定の問題という認識が求められる。 EBPM(証拠に基づく政策立案)とは? EBPMとは、Evidence-based Policy Makingの略称であり、日本においては内閣官房が以下のように定義している。 (1)政策目的を明確化させ、 (2)その目的のため本当に効果が上がる行政手段は何かなど、当該政策の拠って立つ論理を明確にし、これに即してデータ等の証拠を可能な限り求め、「政策の基本的な枠組み」を明確にする取組。 つまり、たまたま見聞きした事例や経験(エピソード)のみに基づいて政策を企画するのではなく、データを活用し、合理的根拠(エビデンス)に基づいて企画すること。 人手不足解消のカギは外国人労働者を受け入れないこと Hanada2024年7月号 小西美術工藝社社長 D・アトキンソン ■衝撃的なアンケート結果 岸田政権は2024年3月29日、人手不足の分野で一定の技能がある外国人労働者を受け入れる在留資格 「特定技能」 について、2024年度から5年間の受け入れ枠を82万人とすることを閣議決定しました。 2023年度までの5年間で設定していた人数の2.4倍となり、外国人労働者の受け入れが加速することになります。 とんでもない話だと憤っていたら、最近、更に衝撃的なニュースが飛び込んできました。 「外国人労働者受け入れ『賛成』62%、高齢層で大幅増 朝日世論調査」(朝日デジタル) <朝日新聞社が全国世論調査(郵送)のテーマ「人手不足社会」に関連して、人手不足の業種を対象に外国人労働者の受け入れを拡大する政府方針への賛否を尋ねたところ、「賛成」62%が「反対」28%を大きく上回り、賛否が拮抗した5年余り前の調査から大きく変化した> もちろん、日本のマスコミの世論調査なので、どういう業種の人を対象にしたか、経営者だけにアンケートしたのかなど詳細が出ておらず、留意は必要ですが、6割もの人が外国人労働者受け入れに賛成というのは、驚きました。 人手不足に悩まされているのは、ほとんどが中小企業です。 人口減少の下、中小企業は生産性が低い。 有給休暇の取得率などを見ると、労働環境が大企業より厳しいので、労働者が不足すると、まず中小企業が人手不足になる。 日本の中小企業は社員数が非常に少ないので、すぐに大きなダメージを受けます。 日本企業の平均従業員数は9人。 85%の日本企業は、平均従業員数がたった3.4人。 仮に従業員数3人の職場から1人辞めると、労働力が3分の1減り、たちまち 「人手不足」 に陥ってしまうのです。 ■努力したくない中小企業 私から言わせれば、中小企業は人手不足を解消する努力が進んでいません。 私は以前から、中小企業は統合して、次第に規模を大きくしていかなければいけないと主張しています。 合併統合することで、経営陣などの管理職や経理はこれまでの半分で済み、その分、人手不足の部署に人手を回すことができる。 統合まではいかなくても、会社間でお互いに人手が足りない時には融通し合うことができるよう連携はするべきです。 もう1つは、機械化など設備投資による作業の効率化。 ただ、経営者としては、日本人は低賃金でも仕事を真面目にこなしてくれるので、コストを掛けて設備投資を行う動機が生まれません。 機械化などをするより、低賃金で人間に働いてもらう方が安上がりなのです。 ここは肝心なポイントで、人口減少によって生じている人手不足は、本来、企業がそれに合わせてビジネスモデルを変えるチャンスであり、変えなければならないのです。 しかし、連携も合併もしたくない、設備投資で生産性向上もしない・・・中小企業がビジネスモデルを変える何の努力をすることもなく現状維持をするため、唯一残された方法が、減っていく日本人労働者の代わりに外国人労働者を受け入れることなのです。 現時点で、200万人の外国人労働者が日本に来ています。 2060年には生産年齢人口が3000万人減るので、低賃金労働者依存症の中小企業経営者を満足させるためには、1000万人単位で外国人労働者を受け入れなければならないでしょう。 主に最低賃金で働く外国人労働者が大量に入って来ると、日本人の賃金も上がらなくなります。 経営者は楽でしょうが、社会保障の負担が増える一方の日本で、財政も労働者も大きな打撃を受けます。 こんなふざけた話があるでしょうか。 ■これまで以上に増える軋轢 2023年、2500万人の外国人観光客が日本を訪れました。 一方、 「オーバーツーリズムだ」 (ある地域を訪れる人が急増したことにより、その地に暮らす人々や自然環境、生態系、景観などに悪影響を及ぼしている状況) と批判する声もあります。 満員でバスに乗れないとか、ホテルが満室で取れないとか、マスコミなどで 「オーバーツーリズム」 と批判されていることは、日本側の受け入れ体制の未整備によって起こっていることで、 「オーバーツーリズム」 などではありません。 1カ月当たり200万人来ているインバウンドは海外旅行できるレベルの層で、日本におカネを落として、欧米人などの場合、2〜3週間したら国に帰っていきます。 一方、外国人労働者は全く逆です。 中小企業が求めているのは、最低賃金で働いていくれる人材。 日本の最低賃金は世界23位で、ハンガリーやイランよりも低く、後進国レベル。 そんな低賃金であっても働きに来る外国人労働者は、言い方は悪いですが、どういう教育水準の人か分かりません。 そういう外国人が1000万人単位で日本に来て、定住するのです。 しかも最低賃金で働く外国人労働者は、経営者たちが住むようなエリアではなく、一般庶民が住むエリアで生活するようになる。 欧州などでは、低賃金の移民などは大変な問題を引き起こしています。 そもそも、イギリスがBrexit(イギリスが欧州連合 (EU) から離脱すること、離脱したこと)に踏み込んだ最大の原因は、庶民が強いられた移民の問題でした。 インバウンドは一時的にしかいないから、発生するトラブル、軋轢などたかが知れていますが、定住する外国人労働者は違います。 既にして、日本に住むイスラム教徒が 「土葬できる墓を作ってほしい」 と要請していたり、神社の賽銭箱を破壊したりする事態も起こっている。 1000万人単位で外国人が入ってきたら、これまで以上に様々な軋轢が生まれるでしょう。 なぜ経営者が低賃金で人をコキ使いたいがために、日本全体が迷惑を被らなければいけないのか。 「オーバーツーリズムだ!」 と騒いでいる人たちは、今すぐ外国人労働者受け入れに反対した方がいい。 どこの国でもそうですが、教育水準の低い移民を大量に入れれば、犯罪やトラブルが増えます。 移民政策で成功しているのは、高学歴かつポテンシャル(潜在的な力。可能性としての力)の高い人材を受け入れて、イノベーション(新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の形成などによって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念)をどんどん起こしているアメリカくらい。 ■中小企業延命という愚策 私が日本に来た1990年代前半は、高学歴・高所得の外国人でないと就労ビザが下りませんでした。 「日本人にできる仕事は外国人にやってもらう必要がない」 という考え方で、よほどの特殊技能を持った外国人でなければ、日本で働くことができなかった。 自分で言うのも何ですが、イギリスでトップの大学であるオックスフォードを卒業していても、なかなか申請が通らなかったほどです。 人手不足が叫ばれたているのは、飲食宿泊や運送業など、労働環境が悪く、生産性も低い業種です。 高学歴の人材などを必要としていません。 少子化によって競争率が下がり、今の若者は名門大学、大企業に入れる確率が昔よりも飛躍的に上がっています。 そんな中で、若者が最低賃金でしか雇えないような会社を選ぶはずがない。 若い優秀な人材を確保したければ、先述したように、合併するなり設備投資するなりして、生産性を向上させ、若者にとっても魅力的な 「中堅企業」 になるしかありません。 ところが、政府は外国人労働者を受け入れて、中小企業を延命させようとしています。 これほどの愚策はありません。 成功例がほとんどないのに、なぜ政府は外国人労働者受け入れを拡大しているのか。 もちろん、中小企業経営者側からの要請もあるでしょうが、一番大きいのは、今の社会保障を維持するためでしょう。 先述したように、ピークから既に1300万人も減っている生産年齢人口は、2060年まで更に3000万人減ります。 そうなれば、今のビジネスモデルを維持して高齢化に伴う負担に応えるために、労働している人間の数を最低でも維持しないと、今の社会保障制度を維持することができなくなる。 だから低賃金の外国人労働者を入れようということなのでしょう。 しかし、この考え方は余りにも短絡的過ぎます。 ■日本人労働者は増やせる 政府には、外国人労働者を受け入れる前にやるべき事がたくさんある。 まず、日本人労働者の供給量を増やすべきです。 そのためには、扶養控除の廃止。 これだけ人手不足が騒がれる中で、フルに働かないことで税制優遇するなど、あり得ない制度です。 もう1つは、専業主婦(主夫)への年金制度の廃止。 サラリーマン(第2号被保険者)に扶養されている専業主婦(第3号被保険者)は保険料を自ら負担することなく、将来的に老齢基礎年金が受給できるのです。 自分は払っていないのに年金を受け取れるというのは、社会保障の原則に反しているだけでなく、女性の働く動機を奪っています。 海外によくあるやり方を導入して、既に貰っている人は仕方ないですが、例えば平成何年生まれ以降の人の場合、第3号非被保険者を廃止すると決めればいい。 低賃金の外国人労働者を受け入れる前に、優秀な日本人女性にフルに活躍してもらう仕組みを徹底的に実施するべきです。 女性活躍を訴えるなら、まずこの2つの廃止は必須でしょう。 それに中小企業改革。 これまで何度も書いてきたように、規模が小さいというだけで日本の中小企業は優遇されています。 弱者扱いされて、期待もされません。 商工会議所などの中小企業の団体も、改善を要求されると、すぐに 「中小企業潰し!」 「中小企業淘汰論者!」 「中小企業は下請けいじめを受けている!」 などと煽ります。 それによって、中小企業は成長するインセンティブ( やる気を起こさせるような刺激。動機付け)が削がれています。 そうではなく、きちんと足腰の強い中堅企業に成長した企業をバックアップしていく。 規模が大きくなることで、人手不足にも強くなる。 ■逆説的な人手不足解消方法 経済合理性を歪ませる中小企業優遇の最たる例が、 「交際費」 です。 今は日本では中小企業というだけで、取引先との接待などに使う交際費を800万円まで損金扱いできます。 私の経験則でしかありませんが、私の周囲の中小企業経営者で、会社のためにこの800万円を使っている人はほとんどいません。 仕事に関係なく、高級寿司屋で食事をしたり、夜の店に行ったりと 「”社長自身”への接待」 に使われており、全く実態を伴っていない。 要するに、公私混同です。 この制度をフルに使うことができる企業はほぼ小規模事業者です。 成長して中堅企業になろうとすれば、この制度のメリットは次第に減ります。 更に、サラリーマンをやって何の経費も使えないよりは、公私混同が許されている小規模事業者になった方が圧倒的に有利になる。 経済合理性より、経営者優遇を狙って起業するインセンティブが働いていしまうのです。 これは考え過ぎではありません。 日本企業の場合、6割以上の企業が赤字企業です。 この比率は、1960年代から景気と関係なくずっと上がっています。 諸外国の例を分析すると、企業数の赤字比率は2割で、日本では如何に経済合理性の低い小規模事業者が多いか分かります。 実は、中小企業が2017年度に支出した交際費は約3兆円。 もし、この3兆円に法人税(23%)を掛ければ、6900億円もの税金を取ることができます。 政府の肩を持つわけではありませんが、日本は何か物事を動かそうと思えば、とにかく批判・反対の風です。 中小企業はもっと頑張れと言えば 「中小企業いじめだ」 と批判され、扶養控除廃止を言えば 「専業主婦いじめだ」 と批判される。 日本は本当に疲れる国です。 中小企業問題について、商工会議所前会頭の三村明夫氏は、未だに私を批判しています。 日経新聞(2024年4月27日)の 「私の履歴書」 で、三村氏はこう語っていました。 <中小企業はサボっているのではない> <統計の数字だけを見た 「生産性の低い中小企業は淘汰されるべきだ」 といった極論が罷り通れば、日本経済は本来の強さを失うだろう> 「統計の数字」 以外に、一体何を根拠にすればいいのでしょうか。 教育水準の高い日本人を低賃金で働かせている 「統計的事実」 について、三村氏はどう思っているのか、逆に訊きたいくらいです。 三村氏は、最低賃金を引き上げると大量に中小企業が倒産する、失業者は大量に増えるというような主張をよくしていました。 1990年代に比べて、最低賃金は2倍に上がっています。 安倍政権以降も1.3倍にもなっている。 三村氏の主張と真逆に、企業数は大幅に増えて、就業者数も史上最高水準になっている。 三村氏が主張していた 「大量の倒産」 も 「大量の失業者」 も、統計に表れていません。 だから、 「統計ではない」 と言うのでしょう。 政府も、強烈な反対に遭うことは目に見えているから、 「じゃあ、現状維持のために外国人労働者を入れるしかない」 と半ば諦めており、場当たり的な対応しか取れないのではないか。 この人手不足を解消するために、政府はどうすればいいか。 逆説的ですが、 「これ以上、外国人労働者を受け入れないこと」 です。 外国人労働者を受け入れないことで、中小企業はにっちもさっちもいかなくなり、自動的に中小企業間の提携・統合、設備投資による生産性向上が進みます。 それは、中小企業改革の前進にもなる。 先述したように、中小企業を延命させるために外国人労働者を受け入れるなど、百害あって一利なしの愚策中の愚策。 冒頭の世論調査で、外国人労働者受け入れに賛成した人には目を覚まして頂きたい。 政府は 「経営努力をしたくない」 「現状維持をしたい」 という経営者の甘え、自己中心的な考えなど一顧だにせず、毅然と対応してほしいと思います。 外国人受け入れ「特定技能制度」に4分野を追加、5年で82万人見込み 政府が閣議決定 2024/3/29 10:10 https://www.sankei.com/article/20240329-QQTAPVAO7JLS3PHI6X4N4G3SQQ/ 政府は2024年3月29日、外国人を中長期的に受け入れる 「特定技能制度」 の対象にトラック運転手などの自動車運送業や鉄道、林業、木材産業の4分野を追加し、対象分野を現在の12から16に広げる方針を閣議決定した。 令和6年度から5年間の受け入れ見込み数は最大で82万人とした。 パブリックコメント(意見公募)を経て省令を改正する。 受け入れ見込み数は、国内の雇用拡大や生産性向上だけでは不足する労働力を業界ごとに算出したもの。 5年間で約34万人としていた制度開始時から2倍超となった。 人口減少や時間外労働規制強化によって物流分野での人手不足が深刻化する 「2024年問題」 などが反映された。 追加4分野のうち、利用客と会話の機会が多いタクシーの運転手や鉄道の車掌などは、必要な日本語試験の基準を他の分野よりも高いレベルとする。 既に特定技能の対象となっている製造業分野でも繊維や鉄鋼、印刷業務などを中に加える。 特定技能は平成31年4月に創設。 最長5年間働ける1号と、家族が帯同できて事実上永住できる2号がある。 政府は、外国人の研修を目的とする技能実習制度を廃止し、外国人材の確保と育成を目的として将来的に特定技能制度に移行できる 「育成就労制度」 創設を柱とする関連法案を通常国会に提出している。 祖国にいながら外国人に怯えて暮らすのか 「受け入れろと」と他人の国で暴走する移民たち WiLL2024年7月号 イスラム思想研究家・麗澤大学客員教授 飯山陽 ■クルド人がまた犯罪 先の衆議院東京15区の補欠選挙は、たくさんの応援を頂きましたが力及ばず落選してしまいました。 皆さんのお陰で、最後までマイクを握ることが出来ました。 今回、選挙に出馬した理由の1つが、日本の移民国家への道にストップをかけるためです。 しかし現状は厳しく、またクルド人による犯罪が起きました。 しかも今度の被害者は何と女子中学生です。 産経新聞オンラインの記事(2024年4月5日付)です。 「女子中学生に性的暴行をしたとして埼玉県警川口署は2024年3月7日、不同意性交等の疑いで、トルコ国籍でさいたま市南区大谷口の自称解体工、ハスギュル・アッバス容疑者(20歳)を逮捕した」 「『日本人女性と遊んだが暴行はしていません』と容疑を否認しているという」 再度確認してみると、この記事は削除されており、追加の記事では容疑者は匿名にされていました。 実名は 「デイリー新潮」 やまとめサイトのみで閲覧できます。 容疑者の居住地はさいたま市ですが、川口署が逮捕したということは、川口市で活動するクルド人の居住地が近隣の市にも広がっているということでしょう。 トルコ国籍のクルド人の多くはイスラム教徒ですが、一般的にそれほど信仰に熱心ではありません。 しかし、クルド人文化は、イスラム教文化と共通する所が多く、その1つが女性や性に関する文化です。 イスラム教では、異教徒の女性は二重の意味で卑しい存在とされており、尊厳を持つ人間として扱われません。 更にイスラム教には、性行為や結婚をしても許される最低年齢という概念がありません。 イスラム教徒の男性の中には、本件のような 「異教徒の女子中学生」 というのは、性的に何をしてもいい存在だと思っている人がいる可能性があるのです。 イスラム教徒の移民による、現地の女性たちに対する性暴力事件がヨーロッパで多発している背景には、このようなイスラム教の女性観、異教徒観があります。 イスラム教徒の男性は、異教徒の女性には何をしても構わない、髪や肌を露出させているのは尊厳がないことの証であり、むしろレイプされたがっているのだと、そう理解してしまうことがあるのです。 私はイスラム教の研究者ですから、イスラム教が如何に土着文化を侵食する力を持っているかを知識としてだけでなく、実感としても知っています。 世界にはこうした文化や価値観を当然とする人々が多く存在するため、理想の多文化共生・異文化共生を現実のものにするのは困難です。 実現したいのならば、外国人に対し、 「あなたの常識は日本では受け入れられない」 「日本では日本のルールを守ってもらわねば困る」 と、ハッキリと徹底的に主張するしかありません。 更に、外国人の子供には出来るだけ早いうちから、日本のルール、文化に馴染んでもらう必要があります。 フランスでは、2019年から義務教育が始まる年齢を6歳から3歳に引き下げました。 その背景には、自国の文化や風俗を守るために移民を教育する意図もあります。 一方で日本には、こうした対策は一切なく、多文化共生・異文化共生は素晴らしい、日本人は外国人の文化を理解し、受け入れろと主張するだけです。 このまま何の対策もしなければ、先述のような事件は今後更に増えるでしょう。 ■何が、権力の監視役か にもかかわらず、政府や自治体、企業、そしてメディアも、日本社会に対して影響力(インフルエンシャル)な発言権を持つ”権力者の皆さん”はこぞって、 「活力維持に外国人が必要だ!」 と声高に言います。 読売新聞オンライン版でも 「外国人・高齢者 活力維持へ重要『育成就労』『特定技能』着実に・・・人口減抑制」 と題して、次のような記事が掲載されました。 <人口が減って生産年齢人口(15〜64歳)が先細っていく中、社会の活力を維持するためには、労働力の確保が欠かせない> <政府は今年(2024年)、外国人技能実習制度に代わる新制度「育成就労」の創設を決めた> <掲げたのは「人材の確保と育成」> <帰国を前提としていた技能実習制度から大きな転換を図った> (中略) <外国人の受け入れは、主に出入国在留管理庁が担っているが、労働者を巡る政策は多くの省庁にまたがる> (中略) <業種ごとに必要な人数や求める人材を呼び込むには、一元的に誘致していく必要がある> <その司令塔として、政府に「誘致戦略本部」を創設すべきだ> <制度を着実に進めていくため、自治体や地域住民にも配慮しながら、外国人との共生に向けた戦略を策定する> (2024年4月26日付) 日本社会が人口減を抑制し、活力を維持するためには、外国人をどんどん日本に受け入れることが必須だとして、読売新聞がわざわざ提言しているわけです。 読売新聞だけでなく、既に国から企業まで皆揃って同じ事を言う有り様です。 外国人が必要だ、というのは、つまり”移民推進”です。 多様性の奨励はそのための地均しです。 多様性のある社会は 「活力を維持する」 と盛んに宣伝し、多様性を促進するために移民を受け入れる必要があるとして事を進める。 そもそも自民党は2016年3月15日の 「労働力の確保に関する特命委員会」 の初会合時に、政調会長の稲田朋美議員が 「日本は移民政策は採らない」 と明言した上で、議論を開始しています。 ところが、その8年後の2024年、岸田政権が在留資格 「特定技能」 について2024年度から5年間の受け入れ枠をこれまでの2倍を超える82万人とすると閣議決定しました。 8年前・2016年の方針を平気で変え、国民に嘘を付く、これが自民党政権です。 そしてこの嘘を嘘だと指摘せず、政府方針に同調しているのがメディアです。 何が 「権力の監視役」 でしょう。 「笑わせるな、愚か者!」 と言いたくもなります。 ■7つの大罪である理由 読売新聞が提言した、 「日本社会の人口減を抑制し活力を維持し、成長を続けるためには外国人移民が必要だ」 という主張は完全に間違っています。 理由は7つー。 第1に、人口減の埋め合わせをするために移民を受け入れるなら、考えられないほど多くの移民を受け入れなければならないため、この政策自体が非現実的であることは、国連の調査でも明らかになっています。 第2に、人口減を埋め合わせするために移民を受け入れても、日本人でない人が増えるだけなので、日本で外国人による人口の置き換え(人口が増加も減少もしない均衡した状態になる)が進むだけです。 これを 「人口減の抑制」 だと言う人は、日本が日本でなくなることを積極的に推進する人たちです。 第3に、不足する労働力を補うために移民を受け入れても、移民もいずれ年を取って働けなくなります。 日本は今、永住を認めるという条件で移民を受け入れようとしていますが、労働力だったはずの移民は遠からず、日本の福祉によってその生活を支えなければならなくなります。 ■移民と社会の暴走 第4に、不足する労働力を補うために移民を受け入れると言いながら、日本政府は彼らに家族の帯同を認めています。 5人、10人の家族を帯同すれば、移民の安い賃金では家族全員を養えなくなり、その分を補うのは、私たちの福祉、つまり税金です。 労働力が必要だと言って外国人を受け入れたのに、彼らの生活を我々の福祉で支えなければならないという事態が生じます。 労働力として受け入れた移民が、働く意欲を失ったり、病気になったり、失職すれば移民の家族の生活は、私たちの税金、私たちの福祉で支えなければならない。 これは移民を多く受け入れた欧米で実際に発生している問題です。 第5に、労働力として移民を受け入れれば、日本人の賃金が下がります。 政府が推進するインフレを上回る程度まで賃上げをする方針とは、正反対のベクトルに進みます。 サウジアラビアは移民を多く受け入れている国の1つですが、企業に一定数の自国民の雇用を義務付け、給与体系も外国人とは異なる水準を義務付けています。 しかし日本にはこうした規制はありません。 安い移民労働力を受け入れれば、企業と経営者が得をするだけで、日本人の労働者は専ら損をします。 これでは日本社会を弱体化させるばかりで、 「活力の維持」 どころではありません。 第6に、世界の文化の中には、日本の文化、伝統、常識、法律とは相容れない、矛盾するものが大量にあるため、全て受け入れれば、社会が混乱し、秩序が乱れます。 第7に、移民が増えれば間違いなく治安が悪化します。 現在、警察は外国人の犯罪を見逃し、仮に逮捕しても検察が不起訴にして犯罪者を無罪放免にします。 警察を恐れない”無敵の外国人”が、日本社会で暴走し、好き放題に犯罪に手を染めているのは、こうした背景があるからです。 外国人が増えれば、この状況は更に悪化するでしょう。 日本人は祖国にいながら、外国人に怯えて暮らさなければならなくなり、警察に守ってもらえなければ、自衛せざるを得なくなります。 犯罪の被害者となっても、誰も助けてくれない、そんな世の中にしたいですか? ■”聖域”という名の移民都市 2024年5月1日、バイデン大統領はワシントンでの集会で、日本経済が低迷している理由として 「外国人嫌いで移民を望んでいないからだ」 と述べました。 そんなアメリカでは現在、不法移民が急増しています。 米南西部の国境を越えて拘束・保護された不法移民は2023年度(2022年10月〜2023年9月)に247万人と3年連続で過去最多を更新。 かつてはメキシコや南米各国からの流入がほとんどでしたが、今は、中国などから中南米を経由してアメリカを目指す不法移民も増えています。 バイデンの 「外国人好きで移民を望む」 政策が、世界中から不法移民を引き寄せているのです。 アメリカ内で移民に寛容な都市、いわゆるサンクチュアリ・シティ(聖域地域)の代表がニューヨーク市です。 ニューヨーク市では移民を10万人ほど受け入れ、日々増え続ける移民の数に悲鳴を上げ、2022年10月に民主党のエリック・アダムス市長がとうとう非常事態を宣言しました。 「移民はニューヨークのストーリー(歴史)の一部で、アメリカの一部でもある」 「しかし移民政策は崩壊している」 「国家的危機だ」 「もう限界だ」 「市単位の予算には限りがあり、思いやりだけではどうにもならない所まで来ている」 アダムス市長は移民の受け入れの危機的状況を踏まえ、度々このように訴えてきました。 ニューヨーク市の移民関連の予算は2024年度が約42億ドル、2025年度が約49億ドルと巨額です。 その後、アダムス市長は法律違反の疑いのある移民を保護してきた政策を転換する考えを示しています。 つまり不法移民を矢継ぎ早に受け入れる政策を採った結果、市が財政破綻しかかっているのです。 ニューヨーク市に限らず、不法移民を受け入れた州や都市は軒並み財政や治安が悪化し、地元住民の不法移民に対する感情も悪化しています。 今や28%のアメリカ人が不法移民の問題は、アメリカにとって最大の問題だと認識しています。 ■”日本”であるために 一方、日本はどうか。 岸田政権は今まさに 「移民を望む」 政策を採りつつあります。 アメリカで不法移民に厳しい共和党が政権を取れば、アメリカに殺到している世界の不法移民が、今度は日本に殺到するでしょう。 今度は日本が不法移民の”サンクチュアリ(聖域)”になろうとしています。 日本が日本であり続けること、日本が国民にとって安心して暮らせる祖国であり続けること、日本人の暮らし、豊かさ、安全が守られることが何より大事です。 移民受け入れ推進は、こうした安心・安全を全て破壊します。 しかし今の日本の国会議員に、日本国民の安全を主張する人はほとんどいません。 彼らは皆、嘘を付き、移民を受け入れることによって起こる問題に言及する人はほとんどいません。 移民によって破壊された欧米社会や、先述のクルド人による性的暴行事件が彼らには見えていないのでしょうか。 文化や価値観の違いによって生じる事件、財政や治安の悪化などが起き得る移民政策を阻止する必要があります。 日本が移民問題で苦しむ欧米のようになるのは、時間の問題です。 私たちにとって大切な日本という国を、守り抜かなければなりません。 女子中学生に性暴行の容疑者、難民申請中のクルド人 トルコ生まれ川口育ちの「移民2世」 「移民」と日本人 2024/3/8 17:25 https://www.sankei.com/article/20240308-LUTLMINZTNOZNGADECZPNB3CGY/ 女子中学生に性的暴行をしたとして埼玉県警川口署に逮捕されたトルコ国籍で自称解体工の男(20)が、難民認定申請中で仮放免中だったことが2024年3月8日、同署の調べで分かった。 男はトルコ生まれ日本育ちの在日クルド人で、事実上の 「移民2世」 という。 調べによると、男は2024年1月13日午後10時半頃、川口市内のコンビニ駐車場に止めた乗用車内で、東京都内の10代の女子生徒に性的暴行をしたとして2024年3月7日、不同意性交などの容疑で逮捕された。 同署によると、男は先に来日していた父親を頼って幼少期に来日し、地元の小中学校に通っていた。 卒業後は家業の解体業を手伝っていたと供述している。 男は父親と共に難民認定申請中で、入管施設への収容を一時的に解かれた仮放免中だった。 自宅はさいたま市内だが、川口市北部の隣接地域だった。 男は自身の運転する車で、SNS(交流サイト)を通じて知り合った都内の女子中学生らや、日本人男性らとドライブに行くことになった。 女子生徒らは横浜方面に向かうと考えていたが、車は都内から川口市内へ直行。 女子生徒らは車内でスマホを使ってやり取りして逃げ出そうとしたが、犯行現場のコンビニ近くで降ろされ、被害にあった女子生徒だけが車に残されたという。 男は 「日本人女性と遊んだが暴行はしていません」 と容疑を否認。 同署はトルコ語の通訳を介しながら調べを進めている。 川口市内では近年、一部クルド人と地域住民との軋轢が表面化。 「2世」 とみられる若者らによる車の暴走行為や煽り運転も問題となっている。 中学生に性的暴行したクルド人は難民申請中だった 地元市議は「実態を正しく直視するべき」 2024年4月5日 https://www.dailyshincho.jp/article/2024/04050558/?all=1 埼玉・川口市でクルド人男性が不同意性交容疑で逮捕された。 女子中学生に性的暴行をした疑いである。 実はこの男性、難民申請中だった。 悲劇の主人公のはずの 「難民」 が他人を悲劇に追いやる、その実態とは。 *** 報道等によると、2024年3月7日に逮捕されたのはさいたま市に住むハスギュル・アッバス容疑者。 トルコ国籍の20歳、解体工だという。 事件があったのは2024年1月13日のことだ。 アッバスは都内の女子中学生とSNSで知り合い、複数人でドライブ。 2人きりになった後、川口市内のコンビニの駐車場に停車し、車内で犯行に及んだ。 行為の時間は約6分。 粗暴極まりない事件である。 川口市とその周辺でクルド系の住民と地元住民との間に軋轢が生じているのは周知の通り。 ■市議も「不安に思う市民が増えている」 2023年7月4日は男女の揉め事で怪我をしたクルド人男性が川口市立医療センターに運び込まれ、それを巡ってクルド人が100人ほど病院に集結。 一時、救急搬送の受け入れが停止されるという大騒動が起きた。 「不安に思う市民が増えていると感じます」 とは、川口市議の奥富精一氏。 「これまでも一部のクルド人が改造車で危険運転や違法駐車をしたり、あるいは喧嘩をしたりという事例が見られてきました」 2023年6月には市議会で 「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」 が採択されている。 「そこにきて今回の事件ですから、市民の不安が益々増したとしても不思議ではありません」 ■クルド人増加の背景事情 クルド人とは、中東のトルコやイラン、イラク、シリアなどの国境地帯に住む「国を持たない民族」。 川口は彼らが集住する地域として知られ、現在、2000人以上が暮らしている。 「彼らは難民申請をしているケースが少なくない」 と言うのは、入管のさる関係者だ。 「トルコと日本は現在、短期滞在ならビザは必要ではありません」 「で、ノービザで入国し、滞在期限が切れるまでの間に難民申請を行うんです」 「すると、その審査期間中は強制送還が止められる」 「川口に来るクルド人の多くは、ある特定の地域の出身です」 「こうした仕組みで入った人たちが地元の親類縁者を呼び寄せ、数が増えていったんです」 今回の事件を起こしたアッバスも、先に日本に来た父を頼って幼少期に来日し、難民申請をした“移民2世”だという。 「実際、彼らが難民認定されることはほとんどありません」 「クルド人が母国で差別されているのは事実でしょう」 「が、難民条約が規定するように、自由が奪われたり、生活が著しく損なわれ、生命の危機が生じているかと言えば、そこまでとは認められないことが多い」 「申請期間中に日本で稼いで帰国するか、或いは子供が小中学校に長期間通うなどすれば、在留特別許可を貰えるかもしれない」 「クルド人増加にはこうした背景事情があります」 しかし、そうした入国経緯の者の中から凶悪犯が出れば、住民との摩擦が生じるのは当然の事だろう。 ■グレる2世 この地域で長年、クルド人支援に携わってきた「在日クルド人と共に」理事の松澤秀延氏は、 「彼らも日本の社会に順応したいと思っていますが、日本側の拒否反応が強く、そこで絶望を感じてしまうことも多い」 と分析するが、 「今回の事件もそうですが、2世の中には学校に行かず、いわゆる“グレて”しまうケースも少なくない」 「この問題を指摘するとすぐ差別と言われますが、まずは実態を正しく直視することが重要だと思います」 (奥富市議) 多様性尊重――そんな建前だけでは語れない現実が、この川口には横たわっているのである。 週刊新潮 2024年4月4日号掲載 外国人・高齢者 活力維持へ重要 「育成就労」「特定技能」着実に…人口減抑制[読売新聞社提言<7>] 2024/4/26 5:01 https://www.yomiuri.co.jp/national/20240425-OYT1T50222/ ■労働者に「選ばれる国」 人口が減って生産年齢人口(15〜64歳)が先細っていく中、社会の活力を維持するためには、労働力の確保が欠かせない。 政府は今年、外国人技能実習制度に代わる新制度 「育成就労」 の創設を決めた。 掲げたのは 「人材の確保と育成」。 帰国を前提としていた技能実習制度から大きな転換を図った。 外国人労働者を中期的に受け入れる在留資格 「特定技能1号」 も、自動車運送業や鉄道などの4分野を追加して16分野に広げた。 日本で暮らす外国人は増えており、約340万人に上る。 労働者は2023年10月末時点で約204万人だ。 政府は、育成就労と特定技能を 「車の両輪」 として、労働力を補っていく。 他国も受け入れを進めており、獲得競争を勝ち抜くには 「選ばれる国」 にならなければならない。 外国人の受け入れは、主に出入国在留管理庁が担っているが、労働者を巡る政策は多くの省庁にまたがる。 農業や介護、建設など職種も幅広い。 業種ごとに必要な人数や求める人材を呼び込むには、一元的に誘致していく必要がある。 その司令塔として、政府に 「誘致戦略本部」 を創設すべきだ。 制度を着実に進めていくため、自治体や地域住民にも配慮しながら、外国人との共生に向けた戦略を策定する。 育成就労では3年間働いた後、在留期間が5年の特定技能1号、永住が事実上可能な2号を段階的に取得してもらうことを目指す。 外国人の受け入れ先は主に地方の中小企業で、自力での育成には限界がある。 自治体の支援が欠かせない。 広島県は2023年、2号取得を目指す外国人を雇う企業に、最大300万円を補助する事業を始めた。 尾道市の 「因島鉄工」 はこの事業を使い、造船・舶用工業分野で全国初の合格者を出した。 その一人、ベトナム人のファン・ヴァン・マインさん(35)は 「将来は奥さんを連れてきて、ここでずっと働きたい」 と語る。 同社では試験対策として日本語講師を雇い、技能向上のための模擬試験を実施。 外国人向けの寮も整備した。 人材を繋ぎ止めるには、異国の地で働く外国人が暮らしやすく、文化に馴染める工夫も求められる。 ■フレイル対策 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、2020年に7000万人超だった生産年齢人口は、2100年に3200万人に減る。 人手不足を補うため高齢者の力も必要だ。 内閣府の調査では、仕事で収入を得ている60歳以上の9割が、「いつまでも」を含め、70歳以上になっても働きたいと回答している。 企業は、技術や経験を持つ高齢者を積極的に受け入れるべきだ。 2040年には医療・介護人材が100万人近く不足するとされ、介護が必要な高齢者を少しでも減らしたい。 要介護一歩手前の状態「フレイル」の高齢者が対策を取った場合、5年後に15%が改善し、35%が状態を維持したという調査もある。 予防には食事や運動、就労といった心身の充実がカギを握る。 「共生」ではなく「統合」が必要だ 正論2024年7月号 評論家 三浦小太郎 本稿では、まず戦後の日本における外国人の受け入れ政策の歴史を簡単に辿り、私が実際に接した外国人を巡るいくつかのケースを示した上で日本が今後、受け入れを行う場合に考えるべき 「思想的原則」 を述べる。 尚、本稿で私は 「移民」 という言葉を原則として使わない。 日本政府はこれまで、我が国の外国人労働者の受け入れについて、あくまで一定の期間に限定した、専門的、技術的分野の労働者の受け入れであって、我が国への定住を目指す 「移民政策」 は採っていないと一貫して述べてきた。 しかし現実には、一定期間就労した労働者が長期滞在や定住を継続して求める可能性は極めて高く、こうした線引き自体、外国人受け入れ策について移民政策か否かと議論することと同様余り意味がないと思えるからだ。 大東亜戦争の敗戦後、日本には約200万人に及ぶ朝鮮半島出身者が存在した。 敗戦までは 「日本国民」 だった彼らを単純に外国人問題と捉えることには無理がある。 ただ、歴史的教訓とすべきことは、在日朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)という北朝鮮に従属する組織の存在を事実上容認してしまった点で、我が国に禍根をもたらした。 これは後述する。 日本の外国人受け入れの大きな転機となったのは1970年代後半のベトナム難民の受け入れと1979年の国際人権条約、1981年の難民条約の批准である。 戦争と革命の世紀であった20世紀に、国境を越えた難民、移民の権利を守るために打ち立てられた理念の1つが、条約にある内外人平等待遇、即ち自国民に与えるものと同等の待遇を外国人にも保障するという原則である。 この原則に基づき、1948年に国連で採択された世界人権宣言では 「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身」 による差別を否定し全ての人が 「社会の一員として、社会保障を受ける権利」(第22条) を持つと見做した。 更に1966年に採択された国際人権規約には 「社会的及び文化的権利に関する国際規約」 として 「国民若しくは社会的出身による差別」 の撤廃が記されている。 難民条約にも、第23条で公的扶助を難民に対し自国民と平等待遇とするような条文が存在することは外国人受け入れにおいてまず議論の前提にならなければならない。 1989年には出入国管理法が改正される。 この法律は現在に至るまで日本政府の外国人受け入れの基準を定めたもので @不法就労、不正規滞在の取り締まり A専門・技術職の受け入れ拡大 B技能実習制度の先駆けとなった「企業研修」制度による在留資格 が特徴だ。 在留に期限と資格を設けて外国人を受け入れるという原則を掲げたものである。 当時の時代背景を説明すると、1985年のプラザ合意以後、円高によって外国人労働者が日本で働くメリットを感じ、出稼ぎ労働者として日本に流入していた。 「3K」 と言われた 「きつい」「汚い」「危険」 な職場に不法就労や資格外活動といった劣悪な労働条件の下で単純労働を課されるという実態が横行していた。 2012年には高度人材ポイント制度が導入された。 これは 「高度」 な学術研究、専門技術、経営管理などに従事している外国人に対し、学歴、職歴、年収などについてそれぞれポイントを設け、合計が70点に達した場合は優遇措置として配偶者の就労、永住許可申請に必要な居住年数の短縮など様々な優遇措置が設けられた。 2023年には更に拡充された特別高度人材制度が導入された。 高度人材として滞在する外国人の数は、2022年度の段階で1万8315人におり、うち63.9%が中国である。 次いでインド5.7%、韓国4.4%、アメリカ4.1%、台湾3.2%と続く。 (出入国在留管理庁資料より http://www.moj.go.jp/isa/content/930003527.pdf) 日本の高度先端技術の分野に迎え入れられている外国人の6割以上が中国人であるという現実は、安全保障上も注意が必要である。 2018年に行われた出入国管理法改正では、更に新たな在留資格として 「特定技能」 が設立された。 日本の産業を支える業種のうち、@介護AビルクリーニングB素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業C建設D造船・舶用工業E自動車整備F航空G宿泊H農業I漁業J飲食料品製造業K外食業など人手不足業界と列挙した上で 「特定技能1号」 「特定技能2号」 の2種類の在留資格を認める制度である。 これまでの在留資格はいずれも国際貢献を目的にしていたが、初めて明確に人手不足の中で業態維持のために外国人を受け入れると掲げた。 2024年3月29日には自動車運送、鉄道、繊維、林業などの業界が追加された。 「特定技能2号」 はより熟練した労働者で日本語にも長け、在留期限は無制限とし、家族の帯同も許可される。 本来日本が公的には認めていないはずの単純労働者の受け入れが横行していたのが、日系ブラジル人など日系人の受け入れと、1993年から始まった技能実習制度、更には不法就労者だった。 技能実習制度は外国人が最長で5年間、働きながら技能を学ぶことで 「技術移転」 を行うことが目的であったが、現実には最低賃金を下回る額で厳しい労働条件下に置かれ、また、実習生が職場から失踪するなどの問題が相次いだ。 結果、政府の有識者会議の決定として、2023年の段階で現行制度を廃止し 「育成就労制度」 に変更、基本的に3年で一定の専門性や技能を持つ水準にまで育成し、受け入れ職種を、介護や建設、農業などの分野に限定することになった。 この技能実習は、外国人受け入れにおける本質的な問題が露呈した例である。 実習生の受け入れ目的が技術移転という国際貢献であっても、実際に受け入れる企業の立場からすれば、現場で作業をする労働者とは本来雇用関係にあり、企業に利益をもたらす存在でなければならない。 国家の方針にどんな理想論が掲げられようと、それが実践されるのはあくまで現場なのだ。 実習生たちを送り出す国側も、的確な制度の下に行っている場合もあれば、国によってはブローカーまがいの組織が高額な借金を課す形で日本へ送り出すケースもある。 私はある外国人が日本における就労ビザのために100万円以上を必要としたと聞いたことがある。 良心的で法に則った受け入れと技能研修を行ってきた企業や組織の名誉のためにも、送り出し国側の諸問題は日本の受け入れの在り方と共に抜本的に解決されなければならない。 更に不法就労者たちの存在は、日本の治安の脅威となるだけでなく、何らの法的保護も設けられない彼ら自身の人権問題として深刻な事態を引き起こしかねない。 以上に見られるように、日本政府は 「移民政策」 という言葉を否定はしてきたが、事実上外国人労働者の受け入れを継続して行ってきた。 そして、ほとんどの決定は閣議決定でなされ、国会においても政府与党内においてもそれ以後、十分な審議が尽くされたとは言い難い。 仮に審議が尽くされたとしても 「少子化の実情から外国人受け入れは日本経済のために必要である」 という、政府や企業の多数派によって疑われることのない命題に沿った結論(及びリベラル側からの多文化共生と差別反対がこれを補強する)しか生まれないのではないだろうか。 私たちはこの命題自体を再検討すべき時に来ている。 そのために参考になる文献の1つは、自身もキューバからの移民である経済学者、ジョージ・ボージャスが著した『移民の政治経済学』(白水社、2017年)である。 ■単なる労働力ではなく『人間』 まずボージャスは、移民=外国人労働者は、 「人間」 であって 「労働者」 「労働力」 といった抽象的な存在ではないことを常に強調する。 彼らは自らの意志で行動し、受け入れ国にロボットのように使われ、必要がなくなれば処分されるような存在ではない。 外国人労働者を受け入れることは、彼らの社会福祉や人権を当然守ることを前提とする。 これは先述した国連の規定からも明らかだ。 同時にボージャスは、人類の歴史において、移民受け入れは受け入れ国にとって経済的利益がある場合のみ行われ、そうでない場合には国境は閉ざされたという歴史的事実を確認している。 この両面が外国人受け入れを考える上では必要な姿勢なのだ。 ボージャスは移民のもたらす経済的利益を一概に否定しているのではない。 移民が労働人口に参加すれば、確かに富は移民と競合する立場にある労働者から、移民を使う側の経営者に移転される。 移民が労働市場に入ることで、労働者の賃金は低下するが、この賃金減少分は、人件費を節約できた企業の利益となる。 これを 「移民余剰」 という。 この 「移民余剰」 によって受け入れ国全体の富は確かに増加するが、それは同時に自国の労働者にとっては富を失うことである。 ボージャスの指摘は更に付加すれば、企業が設備投資などの生産性向上よりも、安価な外国人労働者を雇うという安易な選択を行い、本来は社会的に改革すべき低生産性の工程・部門が国内に残存してしまう。 またボージャスは移民余剰の利益は、先進福祉国家では、移民への社会保障費によってほぼ相殺されると述べている。 短期的には移民は経済的のみならず、社会的、政治的、経済的に負の影響をもたらす可能性が高い。 そしてボージャスは現代のアメリカに対し 「1100万人もの書類不所持移民を入国させているような穴だらけの国境」 の現状のままでは、移民政策を論議すること自体が無意味だと断定する。 尚、不法移民の取り締まりのためには、ボージャスは国境封鎖よりも不法就労者を雇用する雇用主への処罰の厳格化を求めている。 更に中東からの難民にも触れ、自身の体験から深い同情を持ちつつ 「我々は現実的でなければならない」 「難民の中には少数だが恨みや争いを持ち込み、それを受け入れ国で晴らそうと思う人々がいる」 「また、受け入れ国の社会と政治の安定を揺るがす恐れのある文化的慣習を持ち込む人もいる」 「移民政策は益々(難民であろうがなかろうが)移民が単なる労働職以上のものを持ち込む存在であることを考慮に入れなければならなくなるだろう」 (『移民の政治経済学』) と警鐘を鳴らす。 ■脱北者の順法意識 ここで私のささやかな体験を述べておきたい。 私はある時期、北朝鮮から脱出して日本に入国した脱北者たちの定着支援に関わっていた。 日本は、1959年に始まった帰還事業により北朝鮮に渡った帰国者とその子孫に関しては、彼らが脱北後、希望した場合は歴史的経緯と人道的配慮で日本国に受け入れてきた。 その中には帰還事業の責任と国内の人権弾圧を告発して北朝鮮国家を訴えている人たちもおり、多くは無事日本社会に適応している。 しかし、私の接した脱北者の中には、日本の法律や制度を軽視する傾向もまた見られた。 脱北者は中国においても難民としての保護は受けられず、警察に見つかれば強制送還の運命が待っていた。 「違法状態」 に置かれ、しばしば中国人のブローカーに匿われてきた脱北者の中に、法律への軽視の意識が生まれてもやむをえまい。 しかしその結果、中国朝鮮族が脱北者に成りすました形で入国したり、脱北者自身がブローカーまがいの振る舞いを行うこともあった。 あるいは麻薬の売買に関与したり、偽パスポートによって偽装難民化したりした事例が、ごく少数とはいえ、散見されたことも事実である。 私は一部の例を持ち出して脱北者を受け入れてきたという人道的意義を否定したいのではない。 ただ、難民の性格を考え得る上で決して無視できない一面である。 今、埼玉県川口市で問題になっているクルド人問題も同様である。 2024年4月13日の産経ニュースの記事 「川口の仮放免者700人、初めて判明 大半はクルド人か 各自治体に情報提供へ運用見直し」 によれば、埼玉県川口市内には、現在、難民認定申請中で入管施設への収容を一時的に解かれた不法滞在状態の 「仮放免者」 が約700人存在している。 これは出入国在留管理庁のまとめた数字であり、大半はトルコ国籍のクルド人とみられる。 記事によれば 「仮放免者の情報はこれまで、本人が希望しない場合は当該自治体へ通知されず、自治体にとって実態把握が困難」 であったが、今後は 「自治体から要請があれば入管庁から仮放免者の情報が提供されるよう、入管難民法の運用を見直した」。 更に2024年6月10日の改正難民法施行以後は 「仮放免許可書」 の携帯を新たに義務付ける。 埼玉県川口市内では近年、クルド人と地元住民らの軋轢が表面化している。 「仮放免者」 の問題は、今の入管の病が凝縮しているとも言えるだろう。 厳正な法執行こそがまず必要であるにもかかわらず、それが出来ずにいる。 一方で外国人への門戸を広げることは際限がないのに、在留管理という我が国の外国人受け入れの原則は貫けずにいる。 本誌令和3年8月号でも論じたが、今回の改正入管法で難民申請中の送還停止は2回までが限界となり、申請3回目(もしくはそれ以上)の場合は送還の対象となる。 これは難民認定が却下された後も、ほとんど同一の資料で、何度も申請要求を繰り返し在留を引き延ばす行為への防止策だ。 私にも国家を持たぬクルド人の歴史に一定の同情はある。 ただ、敢えて言えば国家を持ち得なかったクルド人に、国家秩序や法意識への軽視が見られるならば、それは受け入れ国の保護を自ら放棄したことと同じ事なのだ。 ■「国家」の在り方議論を 外国人の受け入れと文化的統合のモデルとしては、これまではアメリカ型の 「メルディング・ポット」(多様な人種、民族による文化が社会で溶け合い、新しい生活文化を形成する) という概念が存在した。 しかしこの理念は本家アメリカにおいて、1960年代の公民権運動やブラック・パワーをはじめとする様々なマイノリティ運動の中で否定されていく。 人種のるつぼ理念とは、白人多数派の価値観への従属を強いるもので、各民族の文化を否定するものだと批判されたのだ。 次に生まれたのが多文化共生の理念で 「モザイク型」 の受け入れ理念として世界に広がった。 だが、多文化共生には大きな落とし穴がある。 それは現在普遍的な理念として受け入れられている、政教分離、男女平等、自由民主主義、反差別主義、人権擁護、また伝統を尊重した上での自由といった、西欧近代の生み出してきた最良の理念を相対化し、各民族文化の差異を強調することで、BLM(ブッラクライブズマター)に代表されるような激しい分離・対立を社会に招くことに繋がってしまったのだ。 白人の差別意識への批判が行き過ぎたアファーマティブ・アクション(マイノリティ優遇政策)を引き起こし、人権擁護が事実上の言論弾圧であるポリティカル・コレクトネス(社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策(または対策)などを表す言葉の総称であり、人種、信条、性別、体型などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を使用することを指す)として猛威を振るい、表現の自由をも脅かしている。 少数派の文化が時として普遍的な自由や平等の価値観に反する場合にそれは無条件で肯定すべきなのか。 イスラム教における 「名誉殺人」 (婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、「誤った」男性との結婚・駆け落ちなど自由恋愛をした女性、更には、これを手伝った女性らを「家族の名誉を汚す」ものと見なし、親族がその名誉を守るために私刑として殺害する風習のことである) (射殺、刺殺、石打ち、焼殺、窒息が多く、現代では人権や倫理的な客観から人道的問題としても議論される) (一部の文化圏では父や夫以外の男性と同空間滞在(非隔離)した女性や同性愛者が対象となったとされる) (殺害被害者は多くは女性であり、男性の場合は同性愛者の場合が多いが、異性愛の男性が殺される事件も稀にある) (「名誉殺人」とも言う) (イスラム教が盛んな地域で主に行われているため、その宗教や文化と関連付けられて語られることが多い) (しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの責任者の1人であるウィドニー・ブラウンは、この犯罪について「文化や宗教を超えて行われる」と警鐘を鳴らしている) やかつてインドで存在した寡婦が夫を追って焼身自殺する儀式(サティー)を私たちの社会で認めることなどできまい。 そして我が日本では、朝鮮総連の存在が 「在日朝鮮人の人権組織」 と見做され、このことが事実上国内での工作活動や犯罪を看過することに繋がった。 今、新たなモデルとして生まれているのは 「市民的統合」 である。 これは外国人が、受け入れ国の言語、歴史、自由民主主義の価値観について教育によって受け入れ、身に付ける形で統合を目指すやり方である。 これはオランダが最初に打ち出し、1998年、オランダ語習得や市民教育などの 「統合コース」 への参加が移民に義務付けられた。 その後、この統合システムはヨーロッパに拡大している。 私はこのモデルを応用することが日本の今後に最も相応しいと思うが、ここで敢えて 「国民統合」 という言葉を使いたい。 「国民統合」 とは、自由民主主義と政教分離といった現在国際社会で通用する普遍的価値観の許容や日本の文化伝統への一定の理解を外国人受け入れの前提とすることである。 このシステムは難民や準難民に対しても適応される。 受け入れた外国人を外国人と見てその文化を尊重する共生政策とは異なり、 「日本国民」 と同等に扱う同化主義に近いが、それは普遍性への同化と、今後在住する日本国の文化への理解を求めることだ。 もちろん、その原則の上でも各民族文化への尊重は同時に可能なはずであり、そのバランスを取ることこそが、元々寛容な姿勢で多文化を(西欧の近代主義も含めて)受け入れてきた日本の伝統である。 最後に、私は前述した人権規約や難民条約における、内外人平等待遇の原則を、今、国際社会は見直すべき時に来ていると考える。 難民や移民を保護してその権利を守ろうとする精神は何ら間違ってはいない。 だが、特に近年の欧州における難民・移民の現状を見る時、かつての 「迫害する国家から脱出した難民を守る」 という理念と同様に 「難民(及びそれと判別し難い大量難民)から、既存の国家や社会の秩序を守る」 こともまた重要な時代に私たちは生きているのだ。 社会秩序や安全保障の問題、ひいては国家とは何かという理念の問題まで拡大して議論することが、国会でも民間でもまず必要である。 川口の仮放免者700人、初めて判明 大半はクルド人か 各自治体に情報提供へ運用見直し 「移民」と日本人 2024/4/13 19:14 https://www.sankei.com/article/20240413-EBG6TISPPRGJTEK7FDFWV7C2FE/ 日本語、トルコ語、クルド語で「公園内で、夜に大きな声や音を出してはいけません」「ごみはきちんと持ち帰りましょう」と呼びかける看板=埼玉県川口市 https://www.sankei.com/article/20240413-EBG6TISPPRGJTEK7FDFWV7C2FE/photo/JESUUVVFENF75H7HMVM5MJDCNY/ 難民認定申請中で入管施設への収容を一時的に解かれた不法滞在状態の 「仮放免者」 が、埼玉県川口市内に700人程度いることが2024年4月13日、出入国在留管理庁のまとめで分かった。 大半はトルコの少数民族クルド人とみられる。 仮放免者の情報はこれまで、本人が希望しない場合は当該自治体へ通知されず、自治体にとって実態把握が困難だった。 このため、自治体から要請があれば入管庁から仮放免者の情報が提供されるよう、入管難民法の運用を見直した。 また、2024年6月10日施行の改正入管難民法では、仮放免者に 「仮放免許可書」 の携帯を新たに義務付け、携帯しやすいよう、許可書の大きさを従来のA4判からカード大のサイズに変更するという。 川口市内では近年、クルド人と地元住民らの軋轢が表面化している。 この日、市内で国会議員らが 「一部の外国人による迷惑行為のある地区」 を視察。 その後に市や市議、入管庁との意見交換会が開かれ、終了後に参加者らが報道陣に明らかにした。 入管庁によると、仮放免者数は日々変動するが、直近では川口市内に約700人おり、大半はトルコ国籍という。 同市内にはトルコ国籍の正規の在留者が約1300人おり、トルコ人も含め、合わせて約2000人となる。 強制退去処分が出ながら送還を拒む不法滞在状態の 「送還忌避者」 は、令和3年末時点で3224人。 このうち半数に当たる1629人は難民申請中で送還が停止されていた。 送還忌避者は令和4年末時点では4233人まで増えた。 改正法施行後は、難民認定申請中の強制送還停止が原則2回までに制限され、仮放免者の数も減ることが想定されている。 きっと再燃する外国人参政権問題 正論2024年7月号 日本政策研究センター 岡田邦宏 我が国の外国人政策が大転換しようとしている。 今、国会に提出されている法案(出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案など)は、出身国への技術移転など国際貢献を建前とした現在の 「外国人技能実習」 制度を廃止し、人手不足を補うことを正面に掲げた 「育成就労」 制度、つまり外国人労働者を労働力として位置付け導入する制度へと転換することが眼目となっている。 この 「育成就労」 資格で3年の在留期間を経て技能や日本語能力が育成されたとなると在留資格が 「特定技能1号」 となり、更に次の段階として熟練技能が求められる 「特定技能2号」 の試験に合格すれば永住資格の取得も家族呼び寄せも可能となる。 また、これまでの技能実習制度では原則認められていなかった実習先の転籍が、新制度では1つの職場で1年を超えて働いた場合、条件付きで認められることとなる。 こうして 「育成就労」 資格で3年の在留期間を経て在留資格が 「特定技能」 となった場合も、外国人が働くことのできる職種が従来の14業種に自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野が追加されることが決定している。 近い将来、水産加工や製造業、農作業だけでなくバス・タクシーの運転手や鉄道の駅員として外国人が働く姿を見ることとなる。 まさに、外国人政策の大転換と言えるが、この転換がもたらすものは何か。 人手不足が幾分か解消されるというだけの単純な話ではない。 朝日新聞は 「未熟練労働者として入国した人たちに中長期のキャリアパスを示し、将来的な定住への道筋が見えるようにした」(2023年10月20日・社説) と評価したが、外国人労働者の定住を促進するかのような政策変更と言える。 我が国の外国人政策は在留期限と在留資格を限定して在留を許可する 「在留管理」 が原則で、期限が切れると在留できなくなる制度のはずだったが、今回の政策転換が定住を前提とまで言わないが、定住を促進する、移民政策に転換するかのような内容と読めてしまうことは否定し難い。 ■外国人が10%を超える日 問題は定住化だけではない。 既に日本人人口が急激に減少する一方、今回の政策転換以前から在留外国人は着実に増加する時代が始まっている。 2023年6月時点での在留外国人の総数は322万3856人(出入国在留管理庁)で過去最高となった。 そのうち外国人労働者は204万8675人(2023年10月末時点)で、前年から22万人余り増加し、初めて200万人を超えた。 政府は今回の政策転換によって5年間で82万人の外国人労働者の増加を見込んでいるというのだから、今回の法改正が外国人労働者の流入を加速させることは間違いあるまい。 このまま日本人人口が減少し、外国人人口の増加が続けばどうなるか。 国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研と略)による推計(2023年4月公表)では、今から45年後の2070年に日本の総人口は8700万人に減少し(2020年の国勢調査による1億2615万人から31%減)、その一方で在留外国人は939万人へと増加するとの推計を発表している。 つまり、総人口に占める外国人の比率が10.8%となり、現状の比率約2%と比べて約5倍、日本は10人に1人が外国人という人口推計となると予測されている。 しかも、既にその時期が45年後の2070年よりかなり早く前倒しされる可能性すら指摘されている。 入管庁の発表によると外国人の入国者数から出国者数を引いた 「入国超過」、 つまり外国人の増加数は2023年9月までの1年間で24万人と前年同時期を5万人も上回っていた。 実は、先の社人研による外国人人口推計は毎年16.4万人の入超を想定した推計だったが、現実には既にその1.5倍も増加している。 この増加傾向が続けば外国人人口比率10%は2070年より10年、20年早まるのは確実と言える。 ちなみに外国人比率10%と言えば、ヨーロッパではドイツ(19%)には及ばないが、イタリア(11%)とほぼ同率、フランス(13%)やイギリス(14%)に近い数字と言える。 これらの国々では移民問題が国政上の大問題となっているが、外国人労働者を移民とは呼ばない我が国においても、本格的な 「外国人政策」 が論じられねばならない時代がやって来ていることは確かである。 ■抜け落ちた地方への視点 外国人政策は、出入国管理が国家の主権に係わり、労働政策を含めて出入国や在留、帰化などの制度も基本的に国政マターであり、今回の政策転換を行った背景となったのも外国人材受け入れ・共生に関する関係閣僚会議の報告書 「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」 と言える。 そこで何が掲げられているのかと言うと、 「外国人も社会の一員として包摂する安全・安心な社会」 「外国人を含む全ての人の社会参加」 「個人の尊厳と人権を尊重した社会」 の3つのビジョンを挙げ、外国人との共生社会を目指そうという構想である。 このロードマップに掲げられた共生のビジョンを真っ向から否定しようとは思わないが、その実現性に疑問を持たざるを得ないというのが率直な感想と言える。 というのも、外国人人口の増加、定住化の波に直面するのは 「地方」 なのだが、このロードマップにはその 「地方」 への視点が見当たらないというかすっぽり抜け落ちていると言わざるを得ないからである。 外国人は日本で働くために入国し在留しているが、単なる労働力として位置付けるだけで済む問題ではない。 「我々は労働力を呼んだが、やって来たのは人間だった」 というスイス人の言葉があるように、職場での労働環境、年金・健康保険、子供の保育・学校教育、本人と家族の日本語教育、更には生活保護を含めた生活環境の整備が必要とされることは言うまでもない。 そうした課題や問題に実際に直面するのは中央官庁ではなく地方自治体である市町村だが、自治体財政や人的問題への言及は余りに少ない。 そうした地方との連携が余りに希薄で、 「外国人との共生」 だけが独り歩きしているように読めてしまうというのが筆者の感想である。 ■その先に外国人参政権 先に挙げた行政対応など財政的・人的問題はクリア可能だとしても、もっと深刻な問題がある。 ロードマップが外国人を 「日本社会を共に作る一員」 と位置付け、外国人の 「個人の尊厳と人権」 が尊重される社会を目指すことを強調している。 しかし、外国人の 「個人の尊厳と人権」 を強調すれするほど、その先には 「外国人参政権」 という議論が待ち構えていることは間違いない。 そもそも参政権(選挙権・被選挙権)は国民が自国の政治に参加する権利であり、外国人には与えられていない。 少し説明すると、平成7(1995)年の最高裁判決は概略次のように外国人の地方参政権を否定している。 憲法15条1項は公務員の選定罷免権は 「国民固有の権利」 と規定し、その 「国民」 とは憲法が規定する国民主権の原理における国民、つまり我が国の国籍を有する者を意味することは明らかで、そうした性質上、地方選挙であっても在留する外国人には及ばない。 また 「住民」 についても 「憲法第93条2項に言う『住民』とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当」 とも判示した。 その意味で外国人の参政権問題はこの最高裁判決で決着が着いていると言えるが、近年、当時とは違う事情が生じてきていることに留意したい。 平成7(1995)年の最高裁判決当時は憲法学者の間でも外国人の参政権は憲法上保障されないとする全面否認説(禁止説)が有力であったが、最近では国政レベルにおいて外国人の参政権は認められないが、地方自治体レベルの参政権は、外国人に認めても憲法違反にはならないとする学説(許容説)が有力となっているからである。 例えば、芦部信喜・高橋和之『憲法』(第7版)は、 「狭義の参政権(選挙権・被選挙権)は外国人には及ばない」 「しかし、地方自治体、特に市町村という住民の生活に最も密接した地方自治体のレベルにおける選挙権は、永住資格を有する定住外国人に認めることもできる、と解すべきであろう」 としており、樋口陽一『憲法』(第4版)も 「(外国人の)地域社会構成員としての性格に着目して、地方自治体の選挙につきそれらを認めることは、一般的に言って、違憲の問題を生じないと解することができよう」 と解釈している。 こうした憲法解釈を読めば、外国人を 「日本社会を共に作る一員」 と位置付けるロードマップのロジックと類似していることが分かる。 外国人の 「個人の尊厳と人権」 が尊重される社会を目指すという方向性は外国人地方参政権許容説と重なると言えよう。 尚、この他に憲法学者の中には憲法が外国人参政権を要請しているとの学説もあるがここでは省略する。 今現在、具体的に外国人参政権要求が叫ばれているわけではない。 しかし、近い将来、新たな参政権要求が提起された場合、最高裁判決当時(平成7年、1995年)とは学説状況が変わっていることを考えれば、従来の最高裁判決が維持できるのかどうか、不安なしとは言えない。 今の政府の閣僚会議が最高裁判決を超えて外国人参政権の議論を報告書に書くことはあり得ないが、関係閣僚会議のロードマップが外国人を 「日本社会を共に作る一員」 とし、外国人の 「個人の尊厳と人権」 の尊重を提言したことが、参政権議論の中で許容説の布石となることは十分にあり得るように思える。 ■急増する10%超の市町村 参政権問題では、こうした憲法解釈とは別に外国人人口の増加によって市町村単位で深刻な問題が持ち上がることが予想される。 前提となる解説をさせて頂くと、先に外国人の人口比率が10%を超える時代が到来すると書いたが、この10%はその時の総人口の分母とし全外国人を分子とした比率、言わば全国平均であって、これを個別の市町村で見ると事情が大きく変わってくる。 4年前2020年の国勢調査では、外国人比率が10%を超えている市町村は10自治体程度しかなかったが、外国人人口の増加傾向を踏まえて5年後10年後に10%を超える市町村がどれほど増えるだろうか。 実は将来の市町村ごとの外国人人口は推計されていない。 ただ、社人研は毎年の全国レベルの外国人人口の 「入超」(増加) 分を16.4万人として計算しているので、この増加分を既知の国勢調査(2020年)の市町村別の外国人人口のシェアに基づいて年ごとに市町村に加算する方法で計算してみると、個別の市町村の数字は正確ではないにしても、ある程度のトレンドを知ることができる。 全体の傾向として言えることは、今から6年後の2030年になると、外国人比率が10%を超える市町村の数は40〜50と急増し、しかも分母となる日本人人口が少なくて外国人人口が多い現在の10%越えの市町村とは違って、地方では製造業の大規模工場や工場団地周辺の小都市、都市部では大阪や東京の一部の区に加えて名古屋市や神戸市の一部の区も、埼玉県川口市など特定の国の外国人が集中する自治体も10%を超えるという傾向が読み取れる。 このままの傾向が更に次の10年も続けば、10%超の自治体は100近くになる可能性がある。 また、10%超の予備軍とも言える外国人比率7〜9%の市町村は4年前2020年の国勢調査時には26しかなかったが、2030年の段階で既に倍増するとの傾向が窺える。 ■地方政治を左右する勢力に こうした外国人人口の急増は、仮に外国人に選挙権が与えられたとすれば、地方政治に大きな影響をもたらすこととなる。 人口10万人規模の市では市会議員は1200票程度で当選している(定数25〜30)。 その市の外国人人口比率が10%の場合、有権者数や投票率を考慮しない粗っぽい計算だが、複数の議員を外国人だけで当選させられる。 人口20万人の市と言えば地域の中心的な自治体だが、市議は1400票〜1500票で当選している。 ここでも外国人の人口比率が10%を超えていれば、更に複数の議員が当選可能と言える。 そうなれば外国人の政治集団ができると言えよう。 在留外国人からすれば、人口の一定比率を占めながら(ここでは仮に10%としたがそれ未満でも問題の性質は変わらない)、自分たちの代表を持てないのは、 「個人の尊厳と人権を尊重した社会」 というロードマップの共生ビジョンに反する、まさに人権が損なわれているという問題意識が生まれても何ら不思議ではない。 日本人の側にも、こうした外国人の政治パワーを利用しようと地方参政権の獲得を掲げる政治勢力も出てこよう。 かつて民主党政権は2009年の総選挙での民団(在日本大韓民国民団)の選挙支援と引き換えに外国人地方参政権法案を当時の小沢一郎幹事長が主導して提出しようとしたことがあった。 外国人労働者問題の専門家の中には参政権など当然だと主張する向きもある。 宮島喬(みやじまたかし)お茶の水女子大学名誉教授は 「(外国人労働者は)住民として国や自治体から様々なサービスを受ける権利を持ち、またサービスを受けるだけでなく、参加する権利、つまり地域の諸組織に参加したり、地域政治に参加する権利も認められるべきでしょう(住民投票、地方議員・首長の選挙に参加したり、請求権などを行使したりする権利)」 と主張している(岩波ブックレット『新版外国人労働者受け入れを問う』)。 今後、子弟の教育など外国人の生活に係わるテーマが地方選挙の争点となった場合、選挙権が認められていないことが問題視されることは十分に考えられよう。 こうした状況の背景にあるのは、これまで日本人が経験したことのない外国人の増加であることは間違いない。 にもかかわらず、先のロードマップは、こうした地方に係わる深刻な問題について問題意識がすっぽり抜け落ちていると言わざるを得ない。 ■「国益の原則」忘れるな そもそも外国人政策の原則とは如何なるものなのか。 外国人の政治的自由と在留許可を国が制限できるかが問題となったマクリーン事件において最高裁は、余り注目されなていない論点だが、法務大臣の任務についてこう判示している「昭和53(1978)年10月4日」。 「法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・杜会等の諾事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしやくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならない」 この判決で注目すべきは 「出入国の管理及び在留の規制」 は 「国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定など」 の 「国益の保持」 を目的としている点にある。 外国人政策は 「国益」 が原則だということである。 外国人労働者を受け入れる究極の目的は我が国経済に寄与してもらうためであることを考えれば、当然とも言える。 現在の外国人政策もこうした 「国益の原則」 に沿って、ここまで取り上げてきた地方の観点だけでなく、様々な観点から外国人政策がデメリットを含めて論じられ捉え直されるべきであろう。 外国人に係わる治安問題は国民の関心事だが、そうした問題指摘はロードマップには余りにも少ない。 経済的観点からは外国人労働者の受け入れの経済効果について、経済界は人手不足だけを強調するが、外国人労働者の受け入れにはどんなデメリットがあるのかも論じられるべきであろう。 また安全保障という観点からも検討が必須である。 中国の国防動員法は中国政府が有事を認定すれば日本在住の中国人も動員対象となる。 我が国に在留する外国人約342万人のうち、中国人は約82万人で最大勢力である。 外国人の4人に1人が中国人という現実を踏まえれば、中国の国防動員法は、それが実際に在留中国人に適用されるかどうかは別として、日本の外国人政策にとって検討されるべき大問題と言える。 こうして見ると、外国人との共生を目指すと言っているだけで問題が解決できるかのように思える、そんな時代では既にないことは確かと言えよう。
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