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※紙面抜粋
※2024年5月23日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
恩着せがましく「雀の涙」減税、国民の実感は「愚策と無策」(岸田首相=昨22日、参院予算委)/(C)日刊ゲンダイ
マトモな神経なら、もう少し隠そうとするが、この人はあからさまだ。岸田首相が卑しい魂胆をムキ出しである。
政府は6月から実施の定額減税について、給与明細に減税額の明記を企業に義務付ける。定額減税は1人当たり所得税3万円、住民税1万円の年間4万円で、「増税メガネ」の悪名払拭を狙った岸田の肝いり策だ。
岸田は「減税の恩恵を国民に実感していただくことが重要」と繰り返すが、政府はわざわざ3月に関連法令を見直し。6月1日施行の省令改正で、ありとあらゆる企業に給与明細への「恩恵」明記を押し付ける。こんなモン、単なる岸田の自己満足のお仕着せ。義務という名の「強要」である。
給与明細の明記は昨年末に決定した2024年度税制改正大綱で示していたらしいが、アナウンス不足。多くの国民にすれば「聞いてないよお〜」と言いたくもなる。
はた迷惑なのは「増税メガネ」の減税アピールに付き合わされる企業の事務現場だ。ただでさえ、インボイス制度導入などで煩雑な作業に追われる中、新たな事務負担が増えるのだ。実際、定額減税の仕組みは複雑で、システム改修や社員の扶養内容の確認、計算、金額表記のチェックなど難儀な作業が待ち受ける。
対象は当然、全ての給与所得者。その数は約5000万人もいる。その一人一人の給与明細に「恩恵」とやらをいちいち反映すべく、七面倒な作業を強制される現場はたまったもんじゃない。岸田もしょせん、世襲3代目のボンボン議員。減税を「恩恵」と言い放つ、上から目線のお坊チャマには事務作業に押し潰されそうな“下々”の苦痛など分かるまい。
現場の悲鳴顧みず「恩恵」アピールを強要
しかも、定額減税は1年限りの暫定措置。22日の参院予算委員会で、立憲民主党の辻元代表代行は「たった一度の減税のために煩雑な事務作業やシステム改修が必要だと悲鳴が上がっている」として、現場の声をこう伝えた。
「『国の減税しますよ』のアピールのため、会社も社員も振り回されている感が半端ない」
「こうした何の価値も生み出さない事務負担が、日本の民間の競争力を損なっていることに気づいていないのだろうか」
「手間を増やされた恨みの方が深く刻まれるだろう」
その上で辻元は岸田に「相当の負担をかけていると認識しているか」と迫ったが、岸田は「承知しているが、給与明細への明記は政策効果を国民に周知徹底し、知ってもらう上で効果的だ」と、どこ吹く風。1回こっきりの「施し」で余計な事務負担やコストを押し付けても恥じ入ろうとしない。苦労を乗り越えてオレ様の人気取りに手を貸せと言わんばかりで、もはやサイコパス級の異常な感覚である。
この人も現場の苦労を知るひとり。立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏に話を聞いた。
「ある講演の際、社労士の方から『定額減税の事務にあたり、手数料をいただいていいものなのでしょうか』と相談を受けました。それだけ事務作業は煩雑で大きな手間がかかるわけですが、その方はこうも言うのです。『顧客は零細企業が多く、手数料をもらうのは躊躇してしまう』と。こうした市井の人々の心情が想像できれば、岸田首相も事務負担増を強要しない。その思いに至らないだけで首相失格です」
他人の迷惑を顧みず、岸田は「増税」改め「減税メガネ」を猛アピール。いかんせん、新調したレンズはピント外れで、国民の姿は、ぼんやりとしか見えていないようだ。
砂上の楼閣にすがるしかない「恩着せメガネ」
長引く物価高、家計の苦労は岸田首相にはわかるまい(C)日刊ゲンダイ
普通、減税すれば国民に歓迎されそうなものだが、「増税メガネ」の減税アピールは逆効果。施し感覚の上から目線が災いするのが、いかにも岸田らしい。批判噴出のSNSでは「恩着せメガネ」と呼ばれ始めている。
一律4万円の定額減税は納税者とその扶養家族が対象で、3人家族なら12万円、4人なら16万円と額が増えるとはいえ、1人当たりの減税額は月に3000円チョット。小遣い程度に過ぎない。
たったこれだけで政権浮揚をもくろみ、事務負担を増やすバカらしさ。コスパ最悪の「恩着せメガネ」に国民は絶望しているのに、岸田は「集中的な広報などで発信を強める」と鼻息が荒い。原資は血税の広報予算をジャンジャンつぎ込もうとする自覚症状のなさだ。
もはや存在自体が害悪でしかないが、少しばかりの「施し」を最大限、国民に実感させるため、岸田はあくどい手も打つ。6月の給与から住民税を一律で徴収せず、給与明細では「0円」となる。それを見た給与所得者に自分の「施し」への感謝を味わわせたいからこそ、減税額明記を強要するわけだ。
確かに手取りは増え、6月は多くの企業では夏のボーナス支給と重なる。少しは懐が温まり、ついハメを外しがちだが、ぬか喜びは禁物だ。減税分を差し引いた残りの納税額は7月以降の11カ月で、きっちり徴収される。
はて? 12カ月均等割りの納付期間が11カ月に減れば、1カ月あたりの納税額は増えやしないか。そう考えた向きは、ご明察である。
「住民税の減税額は一律1万円。単身者の場合、住民税の年間納税額が12万円以上なら減税分を差し引いても、7月以降は1カ月単位の徴収額が増え、手取りは減っていく。その額は家族構成にもよりますが、数千〜数万円に達する人も出てきます。まさに『朝三暮四』の世界で、国民をサル扱いして『6月』にこだわるのは、国会会期末解散を意識した岸田首相の選挙目当てのバラマキとしか言いようがありません」(浦野広明氏=前出)
この2年で家計の金融資産は120兆円減少
岸田にとって最大の関心事は、自身の首相続投。9月の自民党総裁選の再選しかアタマにない。それには総裁選前に衆院解散・総選挙に打って出て、自民勝利の実績をあげることが全て。そのためなら何だってやる。根底にあるのはわが身かわいさで、自分の地位を守るためなら国民を欺いてもヘッチャラ。しかし、子供だましの定額減税で国民がなびくと思ったら、大間違いだ。国民生活はすっかり疲弊しきっており、4万円減税など「雀の涙」ほどでしかない。
長引く物価高に賃金は追いつかず、実質賃金は実に24カ月連続のマイナス。ついにリーマン・ショックを挟んだ期間を抜き、過去最長を更新した。2年間も実質の所得が減り続ければ、消費意欲の減退は当然。GDPの半分以上を占める個人消費も今年1〜3月期まで4四半期連続のマイナスで、こちらもリーマン期以来、15年ぶり。33年ぶり春闘の賃上げ率5%超の高水準に浮かれているのは一握りの大企業の従業員のみだ。
それでも岸田は定額減税の意義を強調。「経済の好循環が30年ぶりに戻ってくる。元気な日本を取り戻す」などとホザいていたが、経済の脆弱さへの無理解にもほどがある。この人のオツムは大丈夫なのか。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「金融緩和継続の円安政策で物価高を放置したせいで、この2年間で家計全体の金融資産は120兆円も減少しています。減税効果はせいぜい4兆円。『大海に水1滴』では景気の刺激策になりません。それどころか、6月から電気・ガス代の補助金が消え、標準世帯では年間3万円の負担増が見込まれます。歴史的な円安水準が招く、さらなる物価高もこれからが本番。雀の涙の『施し』は相殺され、動機不純の減税に効果ナシ。『好循環』は砂上の楼閣なのに、岸田首相の切るべき延命カードは、もはや尽きました。だからこそ、減税効果を針小棒大に訴えるしかないのでしょう」
これだけアピールした減税・賃上げで消費が戻らなければ「恩着せメガネ」もオシマイだ。4万円減税は岸田政権の命取りになる。
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