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※紙面抜粋
※2024年5月10日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
ついにリーマン・ショック越えの実質賃金下落。貧弱政策でドヤ顔されたくない(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
ついにリーマン超えだ。もう丸2年も物価上昇が賃金の伸びを上回っている。家計はいつまで苦しめられるのか。じわじわとしたダメージの蓄積ほどこたえるものはない。
厚労省が9日公表した3月の毎月勤労統計調査。現金給与総額(名目賃金)に物価の変動を反映させた実質賃金は、前年同月比2.5%減で、24カ月連続のマイナスとなった。リーマン・ショックという世界同時不況に日本も巻き込まれた2007年9月〜09年7月の23カ月連続マイナスを超え、過去最長を更新である。
「今年物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と岸田首相は繰り返すが、雲行きは怪しい。
連合が集計した春闘の平均賃上げ率が、33年ぶりに5%超の高水準となったことで、それが反映される「夏には実質賃金がプラスになる」と政府や財界に期待感が広がっている。しかし、1ドル=160円を一時突破するような急激な円安が、すさまじい勢いで物価高を加速させ、賃上げ効果は相殺。「このままなら秋には一昨年の8000品目値上げが再来する可能性」まで囁かれる。
それでなくとも、電気・ガス代は5月使用分から政府の激変緩和措置の補助額が半減し、6月使用分から補助が消滅する。当然、物価は押し上げられることになる。
同志社大名誉教授でエコノミストの浜矩子氏がこう言う。
「実質賃金のマイナスが24カ月も続いている。これは大変なことです。人々の購買力がどんどん削り取られていく。まさに生命の危機。生存に必要なものを手に入れられなくなるわけですからね。この状態を放置するのは、政策的無責任も甚だしい。日本はマクロ的には蓄えの豊富な国とみなされているのに、一方で家計がこれほど苦しめられるとは、恥ずべきことです」
意味不明の「実質負担ゼロ」
「夏には実質賃金プラス」とソロバンをはじく岸田政権の“捕らぬたぬきの皮算用”は、春闘の賃上げ効果に加え、6月から始まる所得税と住民税の定額減税をアテにしている。減税で名目賃金が底上げされるからだ。
だが、雀の涙の1人4万円ぽっちで、岸田にドヤ顔されたくない。みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、円安や原油高の影響で、2人以上世帯における家計負担増額は今年度、平均10万5506円に上るという。減税分なんてすぐ吹っ飛んでしまう。
そのうえ、「増税メガネ」と揶揄された岸田が、ムキになって定額減税にこだわった一方で、防衛増税に少子化対策の財源と、この先も負担増が目白押しだ。26年4月創設が予定される「子ども・子育て支援金」は、公的医療保険料に上乗せして新たに徴収される。段階的に増額され、3年目の28年度には、広く国民から年間1兆円をむしり取る算段だ。
ところが、岸田は相変わらず「実質負担ゼロ」と言い張る。歳出改革と賃上げによって徴収分を補うと強弁するが、何度聞いても、意味不明だ。賃上げしても物価高の分すら補えていないのに、何をフザけたことを言っているのか。ゴマカシと嘘八百にもほどがある。
「岸田さん、あなたは国民をバカにしているのか」──。こう叫びたくなる人が、どんどん増えているゾ。
支離滅裂の日銀総裁は官邸でお灸すえられ軌道修正
評判ガタ落ち(日銀の植田和男総裁)/(C)共同通信社
岸田に負けず劣らず、評判を下げているのが日銀の植田和男総裁だ。このところ、発言がクルクル変わる。8日の講演で急速に進む円安について「為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」「日本経済にとってはマイナスであり、望ましくない」と指摘、「最近の円安の動きを十分に注視している」と発言したのだ。
しかし、である。金融政策決定会合後の4月26日の記者会見では、「足元の基調的な物価上昇率への大きな影響はない」と円安を“静観”していたではないか。記者から「ならば今の物価高は無視できる範囲にあるのか」と念押しされると、植田はアッサリ「はい」と答えてもいた。円安は物価に影響あるのかないのか、一体、どっちなのか。
もっとも、この4月の会見中に、市場は日銀が「円安を容認」したと見て、一気に円が急落。植田発言が一時160円突破の引き金を引いたのは間違いない。で、慌てた通貨当局が、2度も「覆面介入」せざるを得なくなってしまった。財務省の神田真人財務官は、「コメントしない」と繰り返すが、市場関係者の推計では、実に8兆円規模の為替介入が実施されたとみられている。
介入により円高方向に進んだドル円相場は、その後ジリジリと円安に戻している。5%もの日米金利差がある以上、介入効果が一時的でしかないのを当局だって分かっている。日銀総裁の迂闊な発言のせいで、アホなことをやっているものである。
「植田総裁は8日の講演の前日、岸田首相と官邸で会談している。そこで岸田首相に円安についてお灸をすえられ、慌てて軌道修正を図ったのでしょう。もともと植田総裁は円安をテコに、安定的・継続的な2%の物価上昇を達成しようともくろんでいた。そのシナリオは少し引っ込めざるを得なくなりました。しかし、日銀総裁の発言がこうまで支離滅裂では、市場もメディアも混乱する。口先でけむに巻いて時間稼ぎばかりで、政策責任者としての意識が足りないのではないでしょうか。それにしても、岸田首相に呼ばれて出向いて、軌道修正というのは、日銀の独立性から見てどうなのか。米国でバイデン大統領がパウエルFRB議長を呼び寄せ、金融政策について話すなんてことはやりませんよ」(浜矩子氏=前出)
生前の安倍元首相は日銀を「政府の子会社」と言い放ち、物議を醸した。だが、安倍政権時の安倍と黒田前総裁の関係性を思えば、実態はその通りだった。「日銀は政府の子会社」が岸田政権の今も続いている。
幅広い世代に不満が充満
アベノミクスの失敗で「安いニッポン」にした「アベ・クロ」コンビは酷かったが、その円安を放置し続ける「キシ・ウエ」コンビも同罪だ。
政治評論家の野上忠興氏が言う。
「安倍元首相自身、アベノミクスについて『表面的には成功しているように見えるけど、実際はダメなんだよな』と周辺にボヤいていたそうです。岸田政権はそれを引き継いでいるのですから、うまくいくわけありません」
それでも岸田は国民生活そっちのけで、政権延命のため、総裁再選のために6月の会期末解散・総選挙を画策中。「聞く力」改め「鈍感力」全開の首相は、ガチガチの保守王国での衆院補選敗北であらわになった有権者の怒りをまったく分かっていない。
最新のJNN(TBS系列)の世論調査で、岸田内閣の支持率が7ポイント上昇(29.8%)した一方で、「立憲民主党などによる政権交代」が6ポイント増えて48%となり、「自公政権の継続」(34%)を大きく上回ったことをどう捉えるか。前出の野上忠興氏はこう言った。
「岸田首相が外遊している映像が支持率上昇の材料になったのだろうと思いますが、今の世論は『総論賛成、各論反対』。少子化対策の支援金、年金減額、防衛増税など、一つ一つの政策については『冗談じゃないよ』という不満がたまっている。それは、若年層から高齢者まで幅広い世代に及んでいます。これまでいざ選挙となると、『野党は弱小でバラバラ』などと言われ、自公が勝利してきた。しかし、自分たちは裏金づくりの一方で、国民には物価高や負担増を押しつける現状では、野党がうんぬんといった理屈を飛び越えていく。岸田さんが解散総選挙をしたら、これまでとはガラッと違う結果が出ますよ」
倒閣クーデターの国民運動が静かに広がっている。
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