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9割超がインボイス中止求める 導入半年で7000人実態調査 免税業者も課税業者も負担増加 身を削って補填、廃業も
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/30241
2024年5月3日 長周新聞
実態調査報告書を財務省、国税庁、公正取引委員会、中小企業庁に提出する個人事業主・フリーランス、税理士たち(26日、東京)
実態調査の結果を発表する「STOP!インボイス」のメンバー(4月26日、東京)
インボイス制度が昨年10月1日に導入されて半年以上が経過した。「STOP!インボイス」は、確定申告時期の3月22日〜4月5日の2週間、「インボイス制度開始後における価格転嫁と確定申告に関する実態調査」を実施した。インターネットを通じた実態調査には、前回調査(昨年11月発表、回答者数約3000件)を大きく上回る7000件以上の回答が寄せられ、自由回答欄のコメントは4500件以上にのぼった【別掲】。インボイス制度に関連する調査としては国内最大規模だ。うちインボイス制度の中止・廃止を求める声は91・9%にのぼり、自民党の裏金問題がうやむやのまま幕引きされようとするなかでの実質大増税に怒りに満ちた声が多数寄せられた。同会は26日、その結果を国会議員、財務省、国税庁、公正取引委員会、中小企業庁ならびにメディアに届けるべく、結果報告会を開催した。(記事中のグラフは「STOP!インボイス」公表資料より本紙作成)
「STOP!インボイス」が調査報告
実態調査の報告をおこなった阿部伸氏は冒頭、「制度が開始後メディアでもとりあげられなくなり、世の中的に諦めムードがあるのかと思っていた。ところが、蓋を開けると前回をはるかにこえる人たちが回答を寄せてくれた。みなさんが怒りと不安を抱えており、可視化する装置があるとこれだけの数が一気に集まる。それがインボイス制度だと思っている」とのべた。
91・9%が中止・廃止を求めているという結果について、「インボイスに反対している人たちが回答を寄せてくれていることは重々承知しているが、そのバイアスを考慮しても相当な数だ」と指摘した。
今回、回答を寄せた人の約8割(5508者)がフリーランス・個人事業主だった。業界団体や労働組合といった組織とのつながりが薄く、自分たちの声を政治やメディアに届ける術を持たない人々であり、同会がその受け皿になっていると分析している。年代では40代、50代が人口比で突出している。「子育てや介護といったケアを担う」「社会的にも責任が求められる」世代である一方、自殺者が多いことでも知られる年代だ。また、就職や雇用の面で苦労した「ロスジェネ世代」も含まれる。産業別就労人口と比較して分析すると、「建設・土木・工業」「情報サービス業」「電気・ガス・供給熱・水道業」の回答が多かった。
6割が「事業成り立たず」 中小企業やフリーランス苦境に
今回の調査は、インボイス制度開始後初の確定申告の時期におこなわれた。現在は負担軽減措置がもっとも手厚い時期であり、個人事業主の場合、2023年10〜12月の3カ月間が課税の対象期間で、多くの事業者にとって負担が最小に抑えられたはずだった。それにもかかわらず、消費税の負担感を問う設問では、インボイス登録事業者(課税事業者)の約3割にあたる787者が「負担が大きく、事業が成り立たなくなりそうだ」と回答。「負担軽減措置のある間は対応できるが、その後の目処が立たない」(32・5%)と合わせると約6割が事業の存続を危惧している結果となった【グラフ@】。
「事業が成り立たなくなりそうだ」と答えた事業者は年間売上1000万円以上〜5000万円未満が全体の約2割ともっとも多い。5000万円以上〜1億円未満の事業者でもこの回答が約3割を占めていた。業種別に見ると「建設・土木・工業」が約2割を占めてトップだ。インボイス制度は免税事業者の問題と捉えられがちだが、自由回答欄のコメントでは「仕入先や下請のおかげで成り立っている仕事なので共倒れしてもおかしくない」など、もともと課税事業者だった立場ゆえの負担を吐露したものが散見されたという。
阿部氏は、「インボイスの問題を発信すると、フリーランスが…とか、声優業界、漫画家業界の問題だといわれるが、実は免税事業者よりも、この層の課税事業者の人たちがそう回答している。潤沢に利益を出し、下請に発注する強い立場の大手企業は価格転嫁ができるので、消費税は“預かり金的”になるだろうが、その下に価格転嫁できない人たちがいる。1000万円〜1億円の事業者は、免税事業者との付き合いがある人たちだ。元請から言い値で請け負わざるを得ないこともあるが、下請に仕事を発注すると彼らは免税事業者だったりする。その板挟み状態の人たちが事業が成り立たなくなるといっている」とのべた。さらに、ただでさえ人手不足が深刻な「建設・土木・工業」や「電気・ガス・供給熱・水道業」など、ライフラインを支える産業が、税金のせいで事業が成り立たなくなる状況に警鐘を鳴らした。
阿部氏が強調したのが、インボイス登録した事業者の6割超が、消費税や事務負担の費用を価格転嫁できていない事実だ。「値上げなどができなかったため、身を削って補填した」という回答は1699者にのぼり、深刻なものとして「借り入れをして補填した」という回答が203者(約1割)あった。
「借り入れをして消費税を納税したという人を集計すると、おおむね納税額が50万円以下の人たちが多い。銀行からの融資というより、親や知人、消費者金融、カードローンなどで借りて消費税の納税の補填をしているという人たちだ」とのべ、「消費税が“預かり金”ではないことが、この数字から見えるのではないか。租税のなかで一番滞納が多いのが消費税だ。インボイス制度が始まったことで、さらにそれが加速していくのではないかと思う」と指摘した。
水面下で取引排除や値引きが横行
インボイス未登録事業者(4139者)の回答では、約45%が重要な発注元・売上先からの値引き、発注量の減少、取引排除などの不利益を被っていた【グラフA】。未登録を理由にした値引き・取引排除があった割合は4者に1者以上だ。企業の経理担当者からは「独禁法や下請法に抵触しないように免税事業者との取引を打ち切るといわれている」などのコメントが複数寄せられ、「サイレント取引排除」が横行している実態も改めて明らかになっている。
また、もう一つの特徴として、新規事業の足かせになっていることがある。長年付き合いのある取引先の場合、「登録しなくてもいい」と取引を継続するケースが少なからずある一方、「新規契約の場合はインボイス登録が必要」という企業は多い。新規事業を始めて「売上が小さいが可能性があるので踏み出したい」と思っても、それにはインボイス登録が必要になり、踏み出すことができないとの声が寄せられている。
「今後の事業の見通し」については、「廃業・転職を視野に」を含めて7割が暗いと回答した【グラフB】。
阿部氏は、「さらに深刻なのは自死を含む死を意識したコメントが29件確認されたことだ」と語気強く語った。会のメンバーもそうしたコメントに接し、戦慄が走ったという。
「確定申告に加えて消費税の納税。搾り取られて怒りしかない。政治家は優遇されているのに。取りやすいところからお金を取る政府に不信感しかない。生活が成り立たないときは年齢的に再就職も難しいため自殺しかないと思っている。生活保護もどうせ受けられないだろうし」
「ウェブ制作の個人事業主です。ただでさえ業務過多になる年度末に経理がのしかかり、もともと病弱なのとリウマチと鬱がひどくなり、自殺、病死の両方で危うく死にかかりました。インボイスでなんのメリットがあるのか教えてほしい」
「今は2割特例だけれども、特例が無くなれば私含め家族4人自殺すると思います」
コメントを紹介した阿部氏は、「人々にこういうことを思わせる税制が正しい税制なのか。僕たちは“そんなことない、つながって変えていこう”という声を少しでも届けていきたい。僕たちにしか声を届けることができなかった人たちだからこそ、みなさんに伝えなければならないと思っている」と語った。そして、特例措置が終了したのちに危機的な状況が訪れることを訴え、「十数名の有志の調査でこれだけの声が集まっている。省庁のみなさんには、なかなか声が届かない免税事業者、フリーランス、小規模事業者たちがどのように苦しんでいるのか、インボイスでどんな不利益を被っているのか、ぜひとも実態調査をしていただきたい」と要請した。
影響深刻な建築土木業 一人親方の多くが免税事業者
集会では現場からの声として、内装業を営む東京土建一般労働組合副執行委員長の石川信一氏が制度導入後の実情を、次のように話した。
私は売上が5000万円いかないくらいの零細法人事業主だ。父親、職人と3人で内装・仕上げ工事をしている。地域のみなさんの細かい住宅の修繕がおもだ。私は税理士に依頼しており本則課税だ。ただ、昔からつきあっている一人親方で免税事業者が数人いる。このままいくと10月決算までに私の消費税負担がどのくらい増えるだろうかと心配している。
免税事業者のなかには、高齢で年収200万円ほどの大工さんがおられる。必要なときだけ大工を頼むのだが、地元の長年のつきあいであり、免税事業者の仲間とともにお客さんがとれるようになってきたので、自分のことだけを考えて「課税事業者になってくれ」ということは、スタート時から考えていなかった。ただ、免税事業者の仲間には、私がどこまで耐えられるか、負担が増えすぎて会社がつぶれてしまったら仕事も供給できないという話をした。
仲間の現状では、初めて課税事業者になって、今年の申告でほとんど納税できていない。「払えないが、どうしたらいいのか」「分納相談はどうするのか」などと聞いてくる仲間もいる。一人親方はどうしても外注という形になる。2人でやっている個人事業主は、先輩に消費税が集中してしまうので、一緒に仕事をしている仲間に毎月払う給料から10%カットしないとだめだなという話も出ている。
また、価格転嫁ができていない。ほとんどの仲間がこれまでと同じ価格で、消費税込みだという。そういう方たちが課税事業者になったので、消費税を払うために実際の稼ぎが減っているのが現状だ。8割特例があっても、免税事業者を使うと、大手の会社から手数料をとられる仲間もいる。事務が繁雑になるから迷惑料をとっているのかなと思う。
すぐにでもインボイス制度を中止・廃止していただきたいというのが本音だ。下町で1人、2人でやっている職人さんたちと仕事をしているが、親方と職人が「お前、課税事業者になって来い」というように、分断が起きている状況がある。
インボイス制度は零細事業者ほど分断するし、建設業界は発展もできない。私たちがいなくなれば、地元の住宅の修繕もできない。今年1月の能登地震のように、震災などがあれば復興に真っ先に駆けつけるのが私たち中小零細事業主だ。地域のインフラも支えられなくなってしまうのではないか。なんとしても中止・廃止、見直しをしていただきたい。
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