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※紙面抜粋
※2024年5月1日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
円安に「無条件降伏」(日銀の植田和男総裁)、再び160円へ向かうのか(C)日刊ゲンダイ
「過度の相場変動が投機によって発生してしまうと国民生活に悪影響を与える」
財務省で為替政策を指揮する神田真人財務官は4月30日こう話していたが、ハッキリ言って、既に悪影響は及んでいる。政府・日銀は、狂乱円安が招く狂乱インフレに、国民生活をいつまでさらしておくつもりなのか。
週明け29日、円相場が乱高下した。日本が祝日で薄商いの中、アジア市場で円売りが急速に強まり、一時1ドル=160円台まで下落したのだ。ところが、その後に一転して154円台へ、ナント約6円も反発。市場では日本政府による為替介入の観測が広がったが、30日神田財務官は「介入の有無を申し上げることはない」とけむに巻いた。
ひとまず、異常な円売りはブレーキがかかったものの、30日は156円台から157円台へと、再び円安方向へ推移した。為替介入があろうが、なかろうが、5%もの日米金利差がある限り、円を売ってドルを買う動きは止まらないのである。
一時的とはいえ160円を突破する急激な円安は、先月26日の金融政策決定会合後の植田和男・日銀総裁の発言が引き金を引いたのは間違いない。
「足元の基調的な物価上昇率への大きな影響はない」
この発言に、記者が「ならば今の物価高は無視できる範囲にあるのか」と念押しすると、植田はアッサリ「はい」と答えたのだ。で、マーケットが「日銀は円安に積極的には対応しない」と受け止め、一気に円売りに走ったというわけだ。
あるまじき失策
経済評論家の斎藤満氏がこう言う。
「植田総裁が26日の会見で円安を牽制しなかったのは失敗でした。3月の決定会合でマイナス金利を解除した際、植田総裁は利上げへの反応を過度に恐れ、かなり慎重な言い回しで『今後も緩和的な金融環境が続く』と強調した。『日銀のせいで円高・株安・債券安になった』と非難されたくないためですが、結果、円安を加速させてしまいました。それに懲りたかと思ったのですが、また同じことを繰り返した。29日には、一時160円21銭まで急落し、1990年4月の160円35銭に近づきました。これを突破すると、1985年の『プラザ合意』時以来、39年ぶりの水準にまで行ってしまいます」
日銀が「緩和継続」とうそぶきながら、その一方で財務省が為替介入せざるを得なくなるなんて、アホみたいな話だ。
米連邦公開市場委員会(FOMC)が、ちょうど米国時間1日まで開かれている。好景気の米国で、FOMC後に利下げ観測が一段と弱まれば、円売り再燃。日銀の次回の金融政策決定会合は6月中旬で、まだ1カ月以上もある。それでも円安を放置するのか。打つ手なしなのか。
「次の利上げは7月とみていましたが、そんな悠長なことは言ってられないほど円安が進んでしまった。為替介入もどきでいったん戻しましたが、一時的でしょう。このままでは、6月の決定会合前に、臨時会合を開くことになりかねません。植田総裁がハト派コメントでマーケットに配慮しすぎた結果、円安を加速させ、結局、利上げを早めなければならなくなるとしたら、日銀は笑いもの。あるまじき失策であり、こんなぶざまなことはありません」(斎藤満氏=前出)
歪んだ経済で、国民生活は通貨危機に匹敵する苦しさ
日本円を棄損させた(異次元緩和策を取り続けた日銀の黒田東彦総裁=2013年当時)/(C)共同通信社
160円を突破する超円安とセットで目が飛び出しそうなくらい驚いたのが、黒田東彦・前日銀総裁への勲章の授与だ。29日付で発表された春の叙勲で、黒田が瑞宝大綬章を受章することが明らかになった。
“A級戦犯”に勲章とはブラックジョークでしかない。<アベノミクスで、国債を買いまくって政府の財政ファイナンスを助けて、日本円を棄損させた黒田に、叙勲なんて、この国どうなっているんだ?>というSNSのコメントの通りで、底ナシの円安・物価高は黒田が10年も続けた異次元緩和の副作用に他ならない。勲章ではなく、全国民に土下座して謝罪すべきだろう。
もっとも安倍元首相の下請けに成り下がって株高を演出し、自民党政権を支え続けた黒田は論外としても、1年以上、円安を放置し続ける植田総裁の手腕も怪しい。政府の顔色をうかがい、株価の下支えにばかり気を取られて、「物価の番人」の責任を放棄している。
インフィニティ・チーフエコノミストの田代秀敏氏が言う。
「植田総裁は円安への『無条件降伏宣言』をしたようなものです。ゼロ金利解除については1年かけてマーケットを納得させ、衝撃を抑える努力をしてきましたが、円安についてはマーケットとの泥沼の戦いから逃げた。つまり、大量の国債を発行している日本政府の利払い費を抑え、日銀の債務超過を回避することを、円安退治より優先したのです。黒田前総裁の異次元緩和の後始末がいかに困難かは、通常なら大蔵・財務官僚や財界人がなりたくて仕方がない日銀総裁ポストなのに、誰も手を挙げなかったことが物語っている。植田氏は日本を代表するマクロ経済学者であり、日銀審議委員を務めたこともある。その手腕への期待はありました。しかし、さすがの植田氏もここまでの激しい輸入インフレが進むとは思わなかったのでしょう。円安を止める手だてはありません。この秋にはものすごい値上げラッシュが庶民生活を襲うことになるでしょう」
「宿泊費が高いので自宅で過ごす」
問題は、この円安が国力低下を意味し、日本が欧米だけでなく、アジア各国と比較してもどんどん貧しくなっていることだ。
時まさにゴールデンウイーク(GW)。海外旅行で出国ラッシュが続いているが、コロナ禍前とは行き先が様変わりしている。今年の人気旅行先ベスト3は、近場の韓国、東南アジア、台湾。2019年は東南アジア、欧州、ハワイだった。GW予算は昨年比で1万円減という調査結果もあった。もちろん物価高の影響だ。
テレビのニュースでは成田空港で出国を待つ旅行客が「ハワイは無理なので、アジアのビーチへ」と答えていた。これはまだ優雅な方で、「海外は無理なので国内旅行」「宿泊費が高いので、自宅で過ごす」という声もあった。
ところが、寂しく貧しいGWを過ごす、青息吐息の日本人とは裏腹に、インバウンドの外国人観光客は、3000円のラーメンも6000円の海鮮丼も「安い、安い」と大喜びで日本中を豪遊三昧だ。
これ以上、狂乱円安が加速したら、この国の庶民はどうやって暮らしたらいいのか。日本発の「アジア通貨危機の再来か」と身構えている。
前出の斎藤満氏が言う。
「日本は経常黒字でファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)も悪くないため、政府がデフォルト(債務不履行)に陥ったり、財政危機にまで至ることはないとしても、国民生活という観点では、アジアやアルゼンチンの通貨危機に匹敵するような苦しさです。自国でコントロールできない円安により、一生懸命働いても、円でもらう給料の価値がどんどん目減りしていくのですから。実質賃下げであり、日本人のデフレが加速している状況です。しかし、表向きはインフレで、外国人観光客が大挙して押し寄せ、『安い』と言って日本を買い漁っている。こんな歪んだ経済がありますか。デフォルトでなくとも、日本は事実上の経済危機に陥っているのと同じです」
これ以上、岸田政権と植田日銀に任せていいのか。総とっかえが必要だ。
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