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※紙面抜粋
※2024年4月18日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
与野党一騎打ちの島根1区(C)共同通信社
「本日はこれにて解散いたします」
ん? 耳を疑う発言が飛び出したのは、岸田政権の余命を占う衆院3補選が告示された16日の衆院本会議だった。額賀議長に代わって議事を進行していた海江田副議長は、岸田首相らが入管法改正案などの質疑を終えると「解散」を宣言し、立ち上がって一礼。すぐさま議場からヤジなどを浴びせられると、ニンマリ笑いながら「失礼いたしました。散会いたします」と言い直した。
珍風景は意図的なのか、うっかりなのか。衆参両院の正副議長は就任にあたり、慣例で会派を離脱する。海江田の本籍は野党第1党の立憲民主党だ。立憲は落ち目の岸田政権を攻め立て、今国会中に衆院解散に追い込むことを基本戦略にしている。9月の自民党総裁選で再選の目がなくなれば、保身しか頭にない岸田は破れかぶれ解散に打って出て延命を図るとの読みだ。イザとなるとへっぴり腰がお家芸の立憲がこうまで強気なのは、「補選も含め、情勢調査の結果がすこぶるいい」(立憲ベテラン議員)からに尽きるのだろう。海江田ははやる気持ちを隠しきれなかったのか。解散時期をめぐる話題で持ち切りなのがにじみ出ている。
28日の投開票まで残り10日。自民は2人続けて逮捕者を出した東京15区、裏金事件が直撃した長崎3区は不戦敗で、すでに負け越し。全敗を回避すべく、与野党一騎打ちの構図となった島根1区に総力戦で臨んでいる。細田博之前衆院議長の死去に伴う選挙で、県連の公募を経て擁立した元財務官僚の錦織功政氏(55)と、立憲前職の亀井亜紀子氏(58)が火花を散らしている。
反日カルト、セクハラ、裏金
自民最大派閥・清和会(安倍派)の会長だった細田をめぐっては、反日カルト集団の統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とのズブズブの関係が露見。セクハラ疑惑も噴き出したが、マトモに説明することなく、安倍派が震源地といっていい裏金事件の表沙汰と相前後して鬼籍に入った。腐敗堕落を極める政党を象徴する人物であることは言うまでもない。三権の長の権威もおとしめた。にもかかわらず、自民はいずれの問題についても棚上げし、いけしゃあしゃあと後継を担ぎ出した。要するに、全く反省していないということ。島根1区の有権者のみならず、1億総ア然だ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう指摘する。
「細田氏は政治家としての責任を果たさず、有権者の納得を得ないまま他界してしまった。自民党に政権与党としての矜持があれば、恥ずかしくて公認候補は立てられないでしょう。細田氏と無関係の新顔だとしても、有権者に申し開きはできない。岸田首相は裏金議員の党内処分後、〈私自身については政治改革に向けた取り組みをご覧いただいた上で、最終的には国民、党員に判断してもらう立場にある〉と言っていました。自民党は主権者国民を完全にナメ切っていますし、後継候補も自民党の皮をかぶっている以上、島根1区の有権者は厳しい審判を下さなければなりません。僅差であろうが何だろうが、自民党を勝たせれば大きな顔をして〈国民に支持された〉と喧伝し、統一教会との癒着も『政治とカネ』をめぐる問題も終わったことにされてしまう。ますます増長するでしょう」
「保守王国」の弔い選挙が完全に裏目
規制法改正案をめぐる自公協議は形だけ(C)日刊ゲンダイ
いかれポンチの岸田は国賓訪米で大ハッスルし、国内ではついぞ見たことのない、はじける笑顔を振りまいていた。再演は望まれていない。朝日新聞(17日付朝刊)によると、自民への逆風は露骨かつ凄まじいようだ。こう報じていた。
〈党三役経験者は島根に応援に入った仲間から不穏な報告を聞いた。「車で島根に入った瞬間に『裏金〜』とか『自民党は来るな〜』みたいな反応がすごかった」〉
島根県は1996年の小選挙区制導入以降、全国で唯一、自民が県内全ての小選挙区の議席を独占する「保守王国」。細田は中選挙区時代の90年から一度も負けることなく、当選11回を重ねてきた。
本来は弔い選挙となる自民が有利に戦えるはずが、完全に裏目に出ている。
選挙情勢分析に定評のある政治評論家の野上忠興氏はこう言う。
「自民党に対する批判の嵐は全国各地で吹き荒れています。中国地方のある県連に寄せられたクレーム電話はこれまでの4倍ほどに急増し、対応に追われる職員が体調を崩してしまったと聞きました。島根も例外ではないでしょう。立憲民主党の前職は知名度で勝る上、電話作戦のプロでもある統一教会の力はもはや借りられない。各種団体などの組織票固めに徹するしかありませんが、選対委員長を務めるのが『ドリル優子』と揶揄される小渕優子氏だから話にならない。そもそも、疑惑の実態解明から逃げ回り続けているのですから、3補選とも自粛し、主権者に恭順の意を表するのが筋だったのです。バラバラだった野党が一部でまとまってきていますし、潮目は変わった」
「逃げない」ラストサンデー
岸田はラストサンデーの21日に島根入りを計画。街頭演説をする予定だというが、どのツラ下げて支持を訴えるつもりなのだろうか。
「統一教会にしろ、裏金事件にしろ、総理は一貫して〈オレは関係ない、オレは悪くない〉というスタンス。万が一、補選で全敗しても、党内に自分を引きずり降ろす力はないし、カードもないとタカをくくっている。宏池会(岸田派)の解散を突然ブチ上げたり、衆院の政治倫理審査会に出席すると言い出した時もそうですが、〈オレは逃げなかった〉と言いたいのでしょう」(自民関係者)
こんなデタラメ男が率いる政党が、後半国会の焦点である政治資金規正法改正案を議論しているのも噴飯ものだ。
野党が次々に政治改革案を打ち出す中、自民は16日になってようやく公明党との与党協議を開始。しかし、独自案をまとめない手ぶらの上、決してハードルが高くない公明案にさえ首をタテに振ろうとしない。不正があった場合に会計責任者だけでなく政治家も責任を負う「連座制」の導入や、政治資金パーティー券購入者の公開基準を20万円超から5万円超へ引き下げ、政策活動費(政活費)の使途公開にさえ消極的だ。
立憲は連座制導入のほか、政治資金パーティー、企業・団体献金、政活費の禁止を要求。連座制導入、企業・団体献金禁止、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開については野党各党がそろって求めているが、自民は見向きもしない。
「補選の結果は規正法改正論議にも影響します。『平成の政治改革』は結果的に名ばかりで、抜け穴だらけ。自民党はザル法を都合良く利用してきた。進んで抜け道を塞ぐわけがありません。立憲民主党を中心とする野党側が補選で全勝すれば、政治資金の透明化を求める世論が可視化され、自民党が幕引きを急ぐ裏金事件の実態解明にもつなげられるでしょう。日本の民主主義が停滞し続けるのか、ようやく発展するかの分岐点に立っています」(金子勝氏=前出)
有権者の選択は決まっている。そうでなければおかしい。
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