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2024年4月16日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/321405
国賓待遇として訪米し、米連邦議会で演説した岸田文雄首相。防衛予算の増額や敵基地攻撃能力の保有を成果に「日本は米国と共にある」と訴え、同盟の深化を印象づけた。一方、米国への配慮を背景に、緊迫する中東情勢や核なき世界への対応は踏み込み不足で、沖縄の基地強化と引き換えに対中国を念頭とした枠組み連携をうたう。日米一体化で独自の外交スタンスはかすむ中、日本はどう世界の平和構築に寄与するべきか。(森本智之、山田祐一郎)
◆スタンディングオベーションに笑み
「米国の最も親しい友人、『トモダチ』として、日本国民は、自由の存続を確かなものにするため、米国と共にあります」
11日(日本時間12日)、米連邦議会の上下両院合同会議。岸田文雄首相が声を張り上げると、議場を埋めた民主、共和両党の議員たちは立ち上がり、スタンディングオベーションは20秒近くも続いた。岸田首相は手ぶりを交え、笑みを浮かべながら日米関係の深さ、とりわけ安全保障分野での関係の深化を訴えた。
中でも強調したのが、防衛力の抜本的な強化を掲げた、2022年の安全保障関連三文書の改定だ。23年度から5年間の防衛予算を43兆円へ大幅に増額、敵基地攻撃能力の保有にかじを切ったことを示し「米国は独りではない」などと日本が米国を支える姿勢を強調。これに先立つ日米首脳会談でも、自衛隊と在日米軍の指揮・統制面の連携強化で合意した。
◆歴代の首相も…
関係強化の背景には、対中国への抑止力を高める狙いがある。前のめりにも見える米国への協力姿勢だが、これまでの日米首脳会談を振り返ってみると、今回に限ったことではない。
例えば、1983年1月、初訪米した中曽根康弘首相は、日本が武器輸出三原則の例外として米国への武器技術協力を認めると表明。レーガン大統領を喜ばせた。中曽根氏側には前政権で生じた米国との摩擦解消を図る狙いがあった。
2001年9月、同時多発テロの直後には、小泉純一郎首相が急きょ訪米。ブッシュ大統領に対し「米国を強く支持し、日本として主体的に最大限の支援と協力を行う」として、自衛隊派遣を含む対応策を説明。直後に始まったアフガニスタン戦争では海上自衛隊をインド洋に派遣し米艦船への補給活動を展開した。
その後のイラク戦争でも、小泉氏はいち早く米国支持を表明。両氏の最後の首脳会談となった06年、ブッシュ氏は小泉氏がファンだというプレスリーの旧宅に招いて歓待。日米首脳会談は米国への協力姿勢をアピールする場になってきた。
◆首脳会談のたびに「お土産」
日米安保に詳しい九州大の中島琢磨教授(外交史)は「たしかにそういう側面はあった。これまでは首脳会談のたびに『お土産を用意する』とか『対米追従』と決まり文句のように批判されてきた」と指摘する。
今回はどうか。「日米共同声明のよく練られた内容を見ると、日本政府が主体的にそうした立場を選んだようにみえる」と述べる。
対中国の問題が差し迫っていることの表れとしつつ「こうした大きなビジョンを岸田首相がどこまで国民に自分の言葉で説明してきたのか、印象が薄い」と批判する。国民の大きな関心事である沖縄・辺野古新基地建設についても十分な説明はないとして、問題を提起する。
◆「これで対等な協力関係が築けるのか」
「基地問題をはじめ日米同盟で長く争点となっている問題をそのままにして同盟の未来を話しても、国民、とりわけ沖縄の理解や協力を得ることは難しい。米国側にとっては耳が痛いテーマについて今回、日本はどれだけ主張したのか。岸田首相本人の言葉で発信が必要だ」
岸田氏は演説で、日本が米国の「グローバル・パートナー」と強調した。これまでの米国が国際秩序を維持してきたことを評価し、自由と民主主義、法の支配を守ることは日本の国益だと訴えた。
これに対し「米国を国際秩序の盟主としてのみ見るのは一面的で古い価値観だ」と指摘するのは、同志社大の三牧聖子准教授(米国政治外交)だ。
◆ガザ攻撃には触れず
岸田首相は演説でロシアの侵攻を受けたウクライナ支援で結束を呼びかける一方、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃には触れなかった。「ガザに関して法の支配を乱しているのはイスラエルであり、支援する米国だ。演説であえてガザに触れないことで、米国の耳が痛い問題に触れられない日本の姿勢を世界にさらしてしまった」
イランとイスラエルの軍事的応酬で中東の緊張はさらに高まっている。三牧氏は「イランを批判する一方で、ガザの市民を巻き込むイスラエルの軍事行動を批判しない欧米は、アラブやグローバルサウスの国々には二重基準に映る。米国が負の歴史を持つ中東では、日本は米国とは距離を取った外交が求められているはずだ」と訴える。
◆「中国の脅威」を強調
また今回の訪米で強調されたのが中国の脅威だ。共同声明には沖縄・尖閣諸島が米国による防衛義務の適用対象と明記。日米同盟の抑止力維持のため、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設は名護市辺野古での建設が「唯一の解決策」と改めて言及された。
青山学院大の羽場久美子名誉教授(国際政治学)は「米中で紛争が起きた場合、戦場となるのは台湾や沖縄南西諸島、さらには日本列島だ。国民の犠牲を前提としたもので極めて危険」と警鐘を鳴らす。日米の指揮統制連携の強化は「米国の指揮下に入り、主権を放棄することにつながる」と懸念する。
そもそも緊張緩和のため、日本が中国にとってきた対応は十分といえるのか。
羽場氏は昨年10月に訪中代表団として北京を訪れ、外交筋と意見交換した。「中国側が強調したのは、日本との経済協力と若者育成など。米国の『同盟』は周りの国を巻き込むが、米国の利益にしかならない。中国との対立をあおり、軍事化を進めるのではなく、経済交流を維持し信頼醸成に努めることが、日本の利益になる」
◆「核なき世界」も中身なし
岸田首相の持論である「核なき世界」についてはどうか。共同宣言では両国がその実現へ決意を共有すると表明したが、具体的な中身には触れられなかった。
日米首脳会談の直前、緊急提言を発表した有識者グループの座長を務めた長崎大の鈴木達治郎教授(原子力政策)は「今までやってきたことの繰り返しでしかない」と物足りなさを指摘する。提言では、日米首脳会談の場で、すべての核保有国と核の傘で恩恵を受ける国が「核の不使用継続」の理念を共有するべきだとの宣言を求めた。また、核保有国同士の対話についても米国と中国の間で「日本は特別な役割を果たすことができる」と促していた。
鈴木氏はこう危ぶむ。「共同宣言は日米のパートナーシップを強調し核抑止論への依存をさらに高めるというメッセージ。被爆国の日本が核保有国と非保有国の首脳との核軍縮の議論の場を提供することを期待していたが、正直残念だ」
平和構築の努力が見えないまま、米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)や日米豪印の協力枠組み(クアッド)など米主導の対中国包囲網は強化が進む。前出の三牧氏は日本に求められる外交をこう提案する。
「対中強硬論では具体的な対応が次々と出てきたが、中国との対話については具体案がない。米国は、経済的相互依存を意識した対中外交をしている。隣接する日本は中国とはさらに複雑な関係を構築しなければならないはずだ」
◆デスクメモ
安保関連法案を巡る与野党の攻防が続いた2015年秋。若者たちが雨の国会を囲み「法案通すな」と夜通し叫んでいた。採決を告げるスマホを見つめ「やりやがった」とつぶやいた高校生。あれから8年余。戦争はより近くに迫り、日本の平和ブランドは一層色が失われて見える。(恭)
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