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※紙面抜粋
※2024年4月15日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
明日にでも中東戦争が始まるのに日米軍事同盟を勝手に「グローバル」に格上げ(岸田首相とバイデン米大統領、左=イランのミサイル発射後にエルサレム上空で確認された物体)/(C)共同通信社
世界はいま、第5次中東戦争危機にさらされている。シリアの首都、ダマスカスにあるイラン大使館周辺がミサイル攻撃され、7人が死亡した一件は、イスラエルの仕業とみたイランが報復を宣言。イランの革命防衛隊は13日(現地時間)にイスラエルの特定目標にミサイルやドローンで攻撃を加えたことを発表した。
国連安保理はすべての関係者に自制を求め、日本政府はイスラエル在住の邦人に慌てて注意喚起をしているが、こんなときにとんでもない約束をしてきたのが、岸田首相だ。
国賓待遇訪米で舞い上がり、日米同盟をインド太平洋地域だけでなく、世界のあらゆる領域・レベルで協働する「グローバル・パートナーシップ」に“格上げ”してきた。そのために、日米の“軍事同盟”をさらに強化、米軍と自衛隊の指揮統制の連携を深め、あらゆる面で一体化を進めていこうとしている。世界中で戦争や紛争が起こり、米国もお手上げ状況なのに、日本は「一緒にやりますよ」とばかりに全面協力を申し入れたのも同然なのだ。
そんなことをいつ、国民は頼んだのか。どこで議論して決めたのか。その見返りが国賓晩餐会であり、岸田がリクエストしたとかいう、ポール・サイモンの歌だったのか。支持率1割台首相の憲法破壊には言葉を失うばかりだ。
すべては米国から「褒められたい」一心
東大名誉教授で哲学者の高橋哲哉氏は今の世界情勢をこう見ている。
「世界地図の中央にアメリカをイメージしてください。右側には大西洋があり、その先にヨーロッパがある。そのヨーロッパはロシアと対立し、ウクライナが最前線になっている。その南にはイスラエルがあり、イランと対立している。一方、アメリカの左側に目を転じると、太平洋があり、その先に日本、韓国、台湾があり、中国、北朝鮮と対立している。こうしてみると、米国は真ん中にいて、左右に対立するロシア、中国・北朝鮮を抱えているが、距離は隔てていることがわかる。グローバル・パートナーシップとか言って、アメリカは直接の対決を避け、近隣国に代理戦争をやらせているわけです」
くしくも岸田はウクライナを見て、「明日の東アジアかもしれない」と危機感をあおった。しかし、決定的に違うのは、ウクライナは攻められたのに対し、日本は攻められてもいないのに自ら「代理戦争」のお先棒を担ごうとしていることだ。
米国の言われるままに、中国との外交努力を放棄。覇権主義への批判に明け暮れ、対立をあおり、有事の際には自ら橋頭堡になろうとする。こうした言動のどこに国益があるのか。すべては首相が米国から「褒められたい」一心なのではないか。
そうして、ついには、インド・太平洋にとどまらない協力を申し出て、日米安保を歴史的大変質させたのが、今度の国賓待遇訪米なのである。バイデンは自衛隊と米軍の統制向上を指して、「日米同盟は全世界の道しるべになる」と言った。国民は目を白黒させている。
第3次大戦前夜にあり得ないような無神経
ウクライナ戦争にのめり込み(ゼレンスキー同国大統領と、=代表撮影)
今度の首脳会談では、他にも聞き捨てならないセリフがいくつもあった。バイデンが言った「日米は過去3年間で真にグローバルなパートナーシップに変貌を遂げた」というのもそのひとつだ。
岸田が首相に就任してから2年半。この間、岸田はNATOの首脳会議に出席したほか、安保3文書を決定、敵基地攻撃能力を認め、防衛費のGDP比倍増や、その財源を増税で賄うことも閣議決定、トマホークの爆買いなども決めている。
2023年3月にはウクライナを電撃訪問、5月の広島サミットにはゼレンスキー大統領を招待したのも記憶に新しい。こういうところばかりに血道を上げてきたのが岸田なのだが、言うまでもなく、ロシアとウクライナの戦争は日本にとって遠い国の話だ。
インド、ブラジルなどグローバルサウスの国々はしたたかにロシアとの対立先鋭化を避けていた。にもかかわらず、東アジアの岸田がNATOに首を突っ込み、ウクライナの戦争にのめり込んでいったのである。
一体、この男は誰のために仕事をしているのか。平和憲法を誇りにする国の首相なのか。挙げ句が自衛隊と米軍の指揮統制強化、武器の共同開発と生産、米英豪との軍事協力、日米豪のミサイルネットワーク構築など、世界規模の軍事同盟の“仲間入り”なのである。前出の高橋哲哉氏が言う。
「岸田首相のこうした言動に何か戦略、思想があるのでしょうか。何も考えずにアメリカについていっているだけで、中身があるようには見えません。いま世界を見渡せば、第3次世界大戦前夜のような緊張感が漂っています。あちこちで緊張、対立、戦闘が繰り広げられているし、その背景には帝国主義、植民地主義、反ユダヤ主義、極右の台頭など、第2次世界大戦前と似たような状況が見て取れます。そんな中、NATOや米国は日本を軍事同盟に引き込み、NATOの東アジア事務所にしたいのでしょう。それにホイホイ乗ることが国益なのか。また、その議論が国民の間で共有されているのか。ロシアや中国についていくよりマシと思っているのかもしれないが、米国についていくだけの属国になれば、矢継ぎ早にミサイル配備を進める南西諸島など沖縄が戦場になることも覚悟しなければいけません」
国民が気づいたときはもう遅い
国民はいざとなれば、「政権を引きずりおろせばいい」「日本は民主主義の国だ」とタカをくくっているのかもしれないが、大きな誤解だ。
防衛ジャーナリストの半田滋氏は今度の首脳会談の危うさをこう指摘する。
「共同声明にうたわれた“米軍・自衛隊の指揮統制の枠組み向上”について、指揮系統が一体化するのではないか、という疑問が出ていますが当然です。岸田首相や林官房長官は“それぞれ独立している”と型通りの答弁をしていますが、いざ敵基地攻撃をやるにしても日本側には何の情報もないのです。米軍からいつ、どこを撃て、という情報がもたらされなければ何もできない。アメリカにとって都合の悪い情報は教えてもらえないので、独自の作戦なんて無理なのです。どう考えても、自衛隊は米軍の道具になるしかなく、今度の共同声明で恒久的な従属関係が完成したと思いました」
すでに法制面では、存立危機事態に認定されれば、米国の戦争に日本は自動参戦する安保法制が成立している。そこで米軍が「撃て」と言えば「戦争は嫌です」なんて言えっこない。その領域も今度の声明でインド・太平洋に限らなくなった。世の中、世界大戦前夜なのに、なんてことをしてくれたのか。それがマトモな国民の実感だ。
それなのに、岸田は意気揚々と帰国した。米議会の上下両院での演説では「日本の国会では、こんなすてきな拍手をうけることはない」などと軽口をたたき、記者団には「日米両国がグローバル・パートナーとして連携していく重要性を発信することができた」と喜々としていた。国内で袋叩きの岸田にしてみれば、バイデンに気に入られることがすべてなのだろう。保身のために自衛隊を差し出し、沖縄を最前線にしても平気の平左。あり得ないような神経の持ち主だ。
「国内報道ではトランプ返り咲きも見越して、共同声明に米国との関係強化を盛り込んだことを成果とする見方もありましたが、トランプなんていつチャブ台返しをするかわからない。むしろ、日本が進んで自らの手足を縛るだけだと思います。岸田首相はこれまでも安全保障上の重大転換を閣議決定だけで決めてきた。その延長線上に今回の共同声明もある。その問題点を大メディアが報じないのが不思議です」(半田滋氏=前出)
この暴挙をひっくり返し、平和国家を取り戻すためには政権交代しかないのである。
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