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能登半島地震から100日…タレント清水国明さんが泥縄の災害対策に苦言「行政の人災です」 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/338797
2024/04/15 日刊ゲンダイ
清水国明(タレント)
タレントの清水国明氏(C)日刊ゲンダイ
元日に石川県で最大震度7の揺れを観測した能登半島地震の発生から、10日で100日が経過した。9日時点で県内の死者は245人、避難者は6328人に上る。行政の泥縄対応が問題視されているが、果たして何が足りなかったのか。1995年の阪神・淡路大震災以降、大きな地震が起きるたびに被災地に赴き、支援活動を行ってきたのがこの人。行政の不備や個人の備えについて話を聞いた。
◇ ◇ ◇
──発災後、5回にわたって被災地支援を行ったそうですね。現場を見て、どう感じましたか。
これまで日本で起きた震災の問題点が集約されていると思いました。津波発生に、建物の倒壊。火災や道路の陥没も起きた。特殊だったのはボランティアが集まりづらい状況になったことです。
「ボランティアは来るな」の弊害
──阪神・淡路大震災では発生から1カ月で活動したボランティアは延べ約62万人。ところが、今回は発生後3カ月以上経った3月中旬で延べ約1万人でした。単純比較はできませんが、明らかに少ないです。
震災発生直後から、SNSで「不要不急の人は被災地に来ないで」といった投稿があふれました。それを拾い読みしたのか、行政までが「ボランティアは来ないでください」と発信。これが大きく影響したと思います。
──石川県の馳浩知事はSNSに〈能登へ向かう道路が渋滞し、物資が届かない〉〈能登への不要不急の移動はくれぐれも控えてください〉などと投稿していました。
僕は1月3日の朝には現地に行ってボランティア活動をやらせてもらったのですが、そんな投稿については「現場を知らんだろ!」と言いたい。橋が落ちたり、道路が陥没して渋滞していた箇所はあったと思う。でも、実際はおおむねスムーズでした。緊急車両がバーッと来た時は、復旧作業に従事する自衛隊の車両がパッとよけて道をあけていたほど。「ボランティアに来るな」と言われるのはちょっと腹立たしかったです。実際、被災者の方たちは僕らが行くと感謝してくれました。
──行政の発信の仕方がマズかったのでしょう。現場での支援対応については、どう見ていますか。
一言でいうと泥縄ですね。震災が起きてから仮設住宅を建て始めているのだから、出たとこ勝負の対応です。それで、仮設住宅の建設中、自宅に戻れない被災者を体育館などに押し込んでいるわけです。プライバシーがなく、天井が高いから室内は暖まらない。床も冷たいから、いくら重ね着したって寒い。地震でショックを受けている人をさらに劣悪な環境に追い込むなどおかしいでしょう。
──避難所の環境の悪さは深刻です。避難者は一時、3万4000人にも上りました。
一番の問題はトイレが汚いことです。大勢の人が使うわけですから排泄物でどんどん汚くなっていく。トイレに行くのが嫌になってきますから、みんな水は飲まない、ご飯も食べない。それで体調を崩して災害関連死につながっていくわけです。なぜ、こうした状況を予測して備えておかないのか。行政による人災ですよ。
──石川県の発表によると災害関連死は15人ですが、増える恐れもあります。
少なくとも仮設住宅を事前に造っておけばいいわけです。それをしないのは、震災発生による仮設住宅の建設特需で関連業者を喜ばせたい意図でもあるからなのか。そんなうがった見方までしてしまいます。基本的人権が守られないような場所に被災者を押し込んで長期間ガマンしろというのは、行政の怠慢もいいところでしょう。
日本全国でキチンと備えることで災害に強い国にすべき
避難所にはプライバシーがない(C)共同通信社
──本来、どういう備えが必要なのでしょうか。
イチ押しは移動式のトレーラーハウスを準備することです。例えば東京なら、郊外のさまざまな地域に何千何万台というトレーラーハウスを分散して置いておく。平時はそれをキャンプなどができる「レクリエーションビークル(RV)パーク」として一般市民に利用してもらう。いざ、災害が発生した時は被災地に移動させるわけです。
──トレーラーハウスならトイレや寝室があり、プライバシーも守られる。
これは何も自分で思いついたわけではなくて、米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)が既に実施している対策です。いまの日本の災害対策は、海外の人からすると「なんで日本は先進国で税収もたくさんあるのに、災害のたびに“難民”が発生するのか」と不思議なのだそう。日本全国でキチンと備えることで災害に強い国にすべきです。
──事前の備えが足りていないと。
災害に対する考えが甘いのでしょう。人間は、大したことは起きないだろうと思い込もうとして、事態を矮小化してしまう特性があります。いわゆる「正常性バイアス」と呼ばれるものです。行政自体が「正常性バイアス」にとらわれてしまっているとしか思えません。
──行政が事態を過小評価しているわけですか。
この前、家に東京都から防災ブックという冊子が送られてきてビックリしました。内容もだけど、小池百合子知事の顔写真入りのチラシが同封されていて、なんじゃこりゃと……。
──今夏の都知事選に向けた事実上の選挙活動という指摘もあります。
まあ、そうですよねぇ。一応、全部読みましたけど、中身もおかしい。首都直下地震が起きた場合の被害者数の想定が10年前と比べて3割ほど減ったと書いている。理由は、住宅の耐震化とか不燃化を進めた結果だと、成果を強調しています。でも、建物や道路といったインフラは10年で老朽化するわけです。東京は人も増えていて人口密度も高くなっている。それに、10年前の想定は「東京湾北部地震」を基にしていたのに、今回は「都心南部直下地震」を基にデータを取っている。インフラ老朽化や人口密度の違いを加味せず、データを取る震源も違うなら、数字が変わるのは当たり前だろうと思います。「やることはやりましたよ」というアピールにしか見えない。これも「正常性バイアス」で想定を矮小化したのではないかと思わざるを得ません。
「自助」「共助」を求める小池都知事
──いわゆる、“やっている感”の演出ですね。
最も納得がいかないのは「自助」「共助」の重要性ばかりをうたっていることです。「自分で命を守りましょう」「皆で助け合いましょう」と。いやいや、おまえがそれを言うなよ、と思います。僕たち民間が担う自助、共助は重要だけど、大前提である「公助」はどうなっているのか。災害関連死を防ぐためのしかるべき場所と備品を備えているんですか? ちゃんとした仮設住宅すら造らずに「自分たちで何とかしてください」ということばかり言っている。これは、今から言い訳してやがるなと思ってしまいますね。
──小池知事は「備えよ、常に」を合言葉にしています。
災害発生後に首長さんが防災服を着て陣頭指揮を執ることを「防災服コスプレ」と言うのですが、小池知事の場合は襟を立てて出てくるのではないですかね。見た目を良くして人気取りばかり考えているような人には、災害対策のトップに立ってほしくない。現場に行って、怒ったり泣いたり叫んだりしている人の方がふさわしいと思います。何が必要か分かるわけですからね。
防災訓練より1回のキャンプ
──国民一人一人はどう備えるべきでしょうか?
僕は100回の防災訓練よりも1回のキャンプが重要だと考えています。2004年に発生した新潟県中越地震の際、現地に支援活動しに行った時の話です。揺れによる被害を避けるため、交差点の真ん中でブルーシートを敷いて一晩過ごしたおばあちゃんに話を聞くと「夜が明ける寸前が一番寒いんです」と。よくキャンプをしている僕からすると当たり前の話で、「数十年生きてきて、おばあちゃんはそんなことも知らないんだ」と思った。1回キャンプをすれば、火をつけるのがどれだけ難しいか、火がどんなに熱いか、消火がいかに難しいか──。そういうことが分かる。一晩地べたで寝ることで、眠っている本能がプチプチプチッと覚めるような感覚があるんですよ。そんな経験が万一の災害の時、どう行動すればいいかの判断材料になると思います。それこそが真の備えです。
(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)
▽清水国明(しみず・くにあき) 1950年、福井県生まれ。73年にフォークソングデュオ「あのねのね」で芸能界デビュー。95年にアウトドアライフネットワーク「自然暮らしの会」を主宰、代表を務める。2011年の東日本大震災以降、NPO法人「河口湖自然楽校」を拠点に被災地復興支援活動に積極的に関わっている。
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