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※紙面抜粋
※2024年4月12日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
浮かれっぱなし(米公式夕食会で、バイデン大統領と乾杯する岸田首相)/(C)ロイター
裏金首相がいい気なものだ。訪米中の岸田首相は浮かれっぱなし。現地時間10日夜にはホワイトハウスで公式晩餐会が開かれ、岸田のウキウキ気分も最高潮に。やれ、英語でジョーク連発とか、バイデン大統領夫妻に何を贈ったとか、誰それがゲストに招かれ、どんな料理が出たとか、大メディアもバカげた話題で持ちきりだ。
すっかり裏金報道は後退し、崖っぷち首相はしてやったり。国賓訪米に政権浮揚をかけたかいがあったとウハウハだろうが、その代償を払うのは国民だ。岸田の破顔一笑に隠れて、この国が米国の戦争に巻き込まれるリスクは、また大きく跳ね上がってしまった。「未来のためのグローバル・パートナー」──。日米首脳会談後の共同声明にその答えがある。
防衛費のGDP比2%への増額や敵基地攻撃能力の保有、防衛装備移転三原則と運用指針の改定など、岸田が強引に推し進めた軍拡路線の全てに、米国側は「歓迎する」と表明。「安倍元首相ですらできなかったことを岸田首相はここまでやるのか」と国賓として遇された理由がよく分かる。
70を超える合意項目の柱は防衛・安全分野だ。とりわけ従来の安保体制を大きく転換させるのが、米軍と自衛隊の連携強化に向けた指揮・統制枠組みの見直しである。今後、自衛隊が米軍と完全に一体化し、事実上、米軍の作戦傘下に置かれることは避けられない。
国賓訪米を足がかりに脱・崖っぷちを期す。そんな保身だけのため、岸田は自衛隊を米国に差し出したも同然なのだ。
首相の地位保障を求めた対米隷属の極み
具体的には、自衛隊が今年度末に陸海空3部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を発足させるのに伴い、現在は作戦指揮権を持たない在日米軍の司令部機能を強化する方針だ。
在日米軍は約5万4000人規模。駐留部隊として世界最大を誇るが、指揮権は現在ハワイにあるインド太平洋軍司令部が握っている。在日米軍司令部(東京・横田基地)は日本側との事務的折衝、日米地位協定に関する調整を担うのみだ。
そこで在日米軍司令官の階級を「中将」から「大将」に格上げし、米軍の調整組織を日本に新たに設け、在日米軍司令官に一定の指揮権を委ねる案を検討中だ。共同声明では、5月末の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で「突っ込んだ議論」を行うことで一致したが、自衛隊がますます米国の軍事戦略に組み込まれていくのは間違いない。
例えば敵基地攻撃能力の運用だ。平和憲法に基づく「専守防衛」の国是をかなぐり捨て、米国から先制攻撃につながる巡航ミサイル「トマホーク」を送られても、攻撃目標地点を特定できなければ手に余る。いざ有事となれば、攻撃目標の「ターゲティング能力」など圧倒的な情報収集力を持つ米軍の指揮に従うほかないだろう。
いくら日本政府が「自衛隊の統合作戦司令部が米軍の指揮統制下に入ることはない」(林官房長官)と指揮権の独立を強調しても、しょせん建前論に過ぎない。実態は米軍の先制攻撃体制に自衛隊を献上。米国と共に米国のための戦争を仕掛ける準備を着々ということだ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「岸田首相はやはり、自分の地位を守るためなら何でもやる人です。米軍と自衛隊の『高度の一体化』は、2018年に『第4次アーミテージ・ナイ報告書』で米国側が日本側に突きつけたもの。岸田首相は言われるがまま、自衛隊を米国に貢いだのです。訪米のたび、憲法破壊の軍拡を手土産にしてきたとはいえ、いよいよ日米安保体制が憲法と相いれなくなっても、躊躇すらしない。国内の窮地をしのごうと米国から政権延命のお墨付きを得たかったのでしょうが、ここまでしないと日本の首相は地位を保障されないのかと悲しくなります。岸田首相は対米隷属の極みです」
戦争リスクと歴史的な物価高で国民は不幸に
切り詰めても切り詰めても追いつかない(C)日刊ゲンダイ
共同声明には、ミサイルなど防衛装備品の共同開発・生産に向けた協議体「DICAS」の新設も盛り込まれた。米艦艇や航空機の大規模補修を、日本国内で日本の防衛産業に担わせることが念頭にある。とどのつまりが米軍の「下請け化」と、体のいい軍事費の肩代わりだ。他にも軍拡メニューは目白押しで、中国をにらんだ米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS」との技術協力にも踏み込んだ。
「米国は中国と対峙する一方、直接対話を欠かさない。バイデン大統領は今月2日、日米首脳会談の前に習近平国家主席と電話で協議。イエレン財務長官を訪中させるなど、高官協議を続けています。そんな対中外交のしたたかさは岸田政権にはみじんも感じられず、『台湾有事』をあおるのみ。軍拡強化で中国など周辺諸国を刺激するだけでは、自ら戦禍に飛び込む危うさすら感じます」(金子勝氏=前出)
日本が戦争に巻き込まれるリスクが高まろうが、何のその。岸田が米国スリ寄りの朝貢外交にオダを上げている裏で円安が急速に進み、物価高に喘ぐ国民生活をさらに一段と苦しめそうだ。
11日は、米国の3月消費者物価指数が市場予想よりも上昇し、米FRBの早期利下げ観測が後退。一気に円売りドル買いが加速し、一時1ドル=153円台と約34年ぶりの水準に達した。市場の一部に為替介入への警戒感もあるが、「今の政府・日銀は打つ手なし。円安はとめどなく続きかねません」と指摘するのは、経済評論家の斎藤満氏だ。こう続ける。
「今のドル高は米国の堅調な経済に起因し、あらゆる通貨に対して強い。円は売られるべくして売られています。かような市況では為替介入は効果薄。兆単位の資金を投じても、すぐに元のもくあみです。また、『新NISA』の人気投資先はドル建て資産。為替介入でドルの価値を下げ、岸田首相の肝いり策に冷や水を浴びせるわけにはいかない事情もある。米FRBが利下げしない以上、円安要因の日米金利差を縮小させるには、日銀が利上げに踏み切るしかない。しかし、植田総裁が『緩和的な金融環境の継続』を宣言した手前、大幅な利上げは困難です」
強まる高齢者の長生きリスク
かくして歴史的な円安水準は当面、続くとみるのが妥当だ。円安は輸入コストを押し上げ、物価高に直結する。歴史的な円安水準はすなわち、歴史的な物価上昇とイコールである。24年春闘は賃上げ率5%超、33年ぶり高水準と喜んでいたのも、ホンのつかの間だ。歴史的な賃上げすら、歴史的な円安物価高の波にのみ込まれてもおかしくない。
となると、すでにリーマン・ショック期と並び、過去最長23カ月連続マイナスの実質賃金も今後、上がるわけナシ。まさに「地獄の円安」である。
許しがたいのは少子化対策の財源に充てる「子ども・子育て支援金」制度だ。岸田は「実質的な負担は生じない」と連呼したが、根拠のひとつは「賃上げ」だ。9日に初めて公表された年収別の試算によると、28年度以降の負担額は年収600万円で月1000円、800万円で月1350円。為替が円安に張り付き、賃上げ効果が薄れるほど、詐欺のような負担増を実感させられる。
「この4月から65歳以上の介護保険料も飛躍的にアップし、年金生活者を苦しめています。保険料は所得税・住民税の非課税世帯からも容赦なく徴収し、年金からいや応なく天引きされるのです。さらに少子化対策の負担増まで押し付けられたら、高齢者の長生きリスクは強まるばかりです」(斎藤満氏=前出)
米国に自衛隊を差し出す半面、国民には詐欺のような負担増と地獄の円安を押し付ける。岸田が首相の座にいる限り、国民はずっと不幸だ。
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