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※紙面抜粋
※2024年4月1日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
大仰な言い回しで国民に空手形(会見する岸田首相)/(C)J M P A
裏金問題で迷走を続ける岸田政権だが、この内閣には他にも見過ごせないことが山のようにある。
殺傷兵器の第三国への輸出を可能にし、武器購入ローンも恒久化。あり得ないスピードで「戦争準備」に着々なのがひとつ。「賃上げと成長の好循環」などと言って、嘘も方便を繰り返していることがもうひとつだ。
とりわけ、聞き捨てならなかったのが予算成立を受けて行われた先月28日の首相会見だ。ふつうはこんなタイミングで会見はやらないのに、わざわざしゃしゃり出てきた理由はミエミエだ。株価が好調なので、「デフレ脱却」をアピール、裏金問題から目をそらさせる魂胆だろう。で、この日は「これでもか」と大ブロシキを広げてみせたのである。
「今我々はデフレから完全脱却する千載一遇の歴史的チャンスを手にしている」「30年ぶりのチャンスだ」「私の政権の存在意義はそこ(完全脱却)にあるという強い覚悟で取り組みたい」
大仰な言い回しからはいかがわしさがプンプンだ。そもそも、自分の政権に歴史的意義がある--などと言うか? マトモな人間は言わないものだ。
そのうえで、岸田首相は国民に2つの約束をすると言い切った。
「今年物価上昇を上回る所得を必ず実現する」
「来年以降、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」
「国民への2つの約束」は打ち上げ花火
自分で国民の給料を決められるわけでもないのに、よくもまあ断言できるものだが、果たして経済専門家はこう言った。
「物価を上回る賃上げを実現するのはまず、不可能だと思います」(経済評論家・斎藤満氏)
淑徳大大学院客員教授の金子勝氏(財政学)は「“新しい資本主義”と“1億円の壁”を思い出しました」と皮肉った。
岸田が首相就任前後にぶち上げたアレである。
「成長と分配の好循環とか、中間層の拡大とか派手にアドバルーンを揚げましたが、その後、“新しい資本主義”はどこかに置き忘れられています。税率が一定である金融所得課税で節税すれば富裕層の税負担率が下がっていく“1億円の壁”についても、中途半端な課税でおしまいです。今度の2つの約束も同じでしょうね。ぶち上げただけで、そのあとはゴマカしてしまう。4月の衆院補選や9月の総裁選に向けた打ち上げ花火じゃないですか」(金子勝氏)
岸田は春闘の賃上げ率が33年ぶりに5.25%(定昇+ベア、1446組合の集計)になったことでイイ気になっているのだろうが、いうまでもなく、この数値は労働組合を持つ企業の賃上げを連合がまとめたものだ。日本の企業の99%は中小企業だし、従業員数でいえば、7割が中小企業。しかも、これは正社員の話で、労働者全体を見れば、非正規雇用が4割もいる。組合を持ち、円安でボロ儲けした大企業に牽引された賃上げ5%超なんて、「どこの国の話?」が庶民の実感なのである。
それなのに、岸田は歴史的使命に自己陶酔している。
小沢一郎もSNSで<どこかへ消えた令和の所得倍増も、新しい資本主義も><この人物は約束など守った試しがない>と切り捨てていたが、同感だ。いつもの「やってる感」に国民はもう辟易なのである。
賃上げの中小企業への波及は「あり得ない」と専門家
改めて、前出の斎藤満氏に岸田の約束が「不可能」な理由を聞いてみた。
「連合の5%超の賃上げ集計にしても、かなりお化粧をしていると思います。これは定昇とベアを足した数字で、ベアだけだと3%ちょっとでしょう。残業やボーナスを抜いた所定内給与は3%に届くか届かないかのレベルだと思います。まして、苦しい中小企業はとてもじゃないが、賃上げなんてできない。なぜかというと、中小企業こそが人手不足なので、賃上げをしたいんですよ。なのにできないのは、ない袖は振れないからです。その一方で、物価高はというと、直近の消費者物価は2.8%ですが、これにもカラクリがある。ほとんど上昇しない帰属家賃(持ち家を家賃換算した消費)が含まれているので、全体を引き下げている。帰属家賃を抜いた実際の消費者物価はもっともっと上がっている。苦しい中小企業も含めて、物価高を上回る賃上げを実現させるハードルはとてつもなく高いのです」
帰属家賃を除けば、消費者物価は3.3%くらいに跳ね上がるという試算もある。
加えてきょう(1日)からハム、ソーセージ、ウイスキーなど食品2806品目が値上がりする。宅配便も上がり、社会保障関連の負担も増える。今でも22カ月連続で実質賃金はマイナスなのに、絵空事はいい加減にして欲しいのだ。
円安を止めて物価高を是正するのがまず先だ
それよりも岸田には手っ取り早くできることがある。円安を是正し、物価高を止めることだ。政府・日銀がその気になれば、明日からでもできる。
せっかく、マイナス金利解除を決めたのだから、「金融の緩和的環境継続」などという訳の分からない言い回しをやめて、金融正常化に舵切りすればいいだけのことだ。
それなのに、中途半端で、恐る恐るの政策転換に終始しているのは3つの圧力があるからだとされる。
長期金利が上がると困る財務省からの圧力、日本にだけは緩和を続けさせたい国際金融の圧力、もうひとつは今株が下がると困る富裕層からの圧力だ。そこに庶民はいないのだから、酷いものだ。
「できもしない賃上げのアドバルーンを揚げることよりも、正しい金融政策に戻して、円安を止めることが先決です。そもそも日銀の役割は物価の安定なのですから。ところが、政府・日銀がやろうとしていることは真逆です。賃上げと言うと聞こえはいいけれど、賃上げはコスト増ですから、必ず、価格に転嫁されることを忘れてはいけません。つまり、円安と賃上げの双方が物価上昇圧力になっていくのです。賃金が上がらない中小・零細企業の従業員や年金生活者の生活は地獄になりますよ。恐るべき格差拡大をもたらし、賃上げと物価高の悪循環に陥る恐れがあるのです」(斎藤満氏=前出)
前出の金子勝氏は「税制を変えて、大企業から財源を確保し、中小企業対策に回すことが必要」としたうえで、「そもそも日銀が国債を買い続けているのは、武器爆買いのためだ。これを直ちにやめるべきだ」と言い切った。
冒頭に書いた岸田政権で見過ごせない2つは相互にリンクしているのである。
庶民の生活を犠牲にし、それを口先の空約束でゴマカシ、「戦争国家」に着々の岸田政権がやっていることは亡国の所業と言うしかない。
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