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※紙面抜粋
※2024年2月10日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
どこか他人事の顔をしている岸田首相(左)、覇気がない盛山正仁文科相(C)日刊ゲンダイ
〈一 切支丹邪宗門の儀は堅く御禁制たり〉
慶応4(1868)年3月、日本史の教科書で習った五箇条の御誓文発布の翌日、明治新政府が民衆に出した「五榜の掲示」の高札の一条である。
たった5つの「禁制」の1つにキリスト教の禁止を掲げたのは、江戸幕府以来の対民衆政策を踏襲したに過ぎない。
しかし、すでに世は開国の時代だ。西欧諸国の駐日公使は連名で「切支丹邪宗門」の表記に抗議書を提出。日本と条約を結んだ国々が信奉するキリスト教を「邪悪な宗教」と侮辱するとは何事ぞと攻撃したのである。
「知識を世界に求め、大いに国を発展させる」旨をうたった御誓文の趣旨にも反する。諸外国と由々しき事態に発展するのを恐れた新政府は、直ちに高札を訂正。とはいえ、西欧諸国で萌芽していた「人権」や「信教の自由」なる概念の外にいた人々のやることだ。時代の風潮を感じもせず、こう改めるにとどめた。
〈一、切支丹宗門の儀は、これまで御禁制の通り、固く相守るべく候事
一、邪宗門の儀は固く禁止候事〉
何のことはない。「切支丹」と「邪宗門」を切り分ける弥縫策で、逃げたのである。
この史実を作家の大佛次郎は名著「天皇の世紀」で紹介し、次のように評している。
〈諸外国が事件の本質を問題としたのに対し、日本側は表面を修正して取りつくろっただけで、問題の解決を誠実に考えたものではない。(中略)体裁だけ整えば、得たりとするのである〉
昭和を代表する大作家の明治新政府に対する非難の言葉が、2つの世紀をまたいだ令和の世の政権にもピタリと当てはまることに、震撼する。
「体裁だけ整えば、得たり」の悪弊
「記憶にございません」を連発し、野党議員から連日、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との接点を追及され、盛山文科相は火だるま。そのぶざまな姿と擁護する岸田首相の詭弁を見るにつれ、表面を取り繕うだけのゴマカシは150年以上もの間、この国の為政者に継承され続けた“伝統芸”かと思えてしまう。
盛山は2021年の前回衆院選で教団の友好団体から「推薦状」を受け取り、選挙支援を受けていたことが判明。信者らが有権者に電話で投票を呼びかけ、支援の状況は逐一、盛山の事務所に報告されていたという。
さらに、教団側との事実上の政策協定にあたる「推薦確認書」にサインした疑いも浮上。選挙公示2日前、友好団体主催の国政報告会に出席し、「みなさんの声をどう代弁するか」と発言して支持を求めたと朝日新聞に報じられたため、ついた異名は「統一教会代弁大臣」だ。
かような人物が宗教法人の所管省のトップとして、統一教会の解散命令を東京地裁に請求。22日には国と教団双方から意見を聞く審問が始まるのに、「統一教会代弁大臣」が教団側と対峙するとはシャレにならない。明白な利益相反である。
これほどズブズブの関係がありながら、自民党が22年9月に公表した所属議員と教団の接点に関する点検には「関連団体の会合で1度あいさつしただけ」と報告しただけ。選挙支援についても「記憶がなかった」と弁明したが、もはや記憶ウンヌンの話ではない。
シラを切り通して大臣ポストを得た盛山も許しがたいが、おざなり点検でお茶を濁した自民党側のずさんさも目に余る。それこそ“邪宗門”と「関係を絶つ」と宣言しながら、その内実は「嘘のお手盛り」。関係確認の回答期限はたった2日で、各議員の自己申告任せ。茂木幹事長は当時、「党としての調査ではない。点検結果の集約だ」と言い放ち、党の責任を曖昧にして議員個人に報告内容の責任を押しつける態度に終始した。
党が責任を持って調査しなかったツケで、新たに接点が判明しても当事者を処分できない。先人の言葉を借りるまでもなく、まさに「体裁だけ整えば、得たり」。やったふりのアリバイづくりに過ぎなかったのである。
昭和さながらの「不適切にもほどがある」
表面を取り繕うだけの悪習は、自民党内の裏金調査にも見事に踏襲されている。関係議員への聞き取り調査は、身内の党幹部によるお手盛り。調査にあたる1人は政治資金規正法違反事件で、14年に経産相を引責辞任した「ドリル優子」こと、小渕選対委員長という、おまけ付きだ。
教団との総点検では、最も深刻な癒着関係が取り沙汰された安倍元首相が、故人であることを理由に対象から除外。今回の聴取対象は「現職」限定で、森元首相が外れた。安倍派の裏金づくりは20年以上前からの慣行で、幹部5人衆は検察の聴取に「会長案件」と供述。だったら元会長で、今も派閥に強い影響力を持つ森に事情を聴くのは絶対不可欠だろう。
全議員アンケートに至っては論外だ。A4の紙ぺら1枚に設問は2つだけ。まるで調査とは名ばかりの隠蔽工作で、「実態把握に努める」という岸田の言葉はしらじらしい。
「お客に対するファミレスやコンビニのアンケートの方が、もっと質問項目を設け、詳細なリサーチをかけますよ」と、ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう言った。
「いつもの自民党の『やっている感』で、問題の本質には誠実に向き合わず、やる気もなければ中身もない。岸田首相もその場しのぎの場当たり策の連続です。『派閥ありきから完全に脱却』と誓いながら、安倍派や二階派を潰し、麻生派などは残す。『派閥からお金と人事を切り離す』と豪語したのに、もはや大臣失格でも、岸田派の盛山文科相は擁護する。同じく岸田派の林官房長官にも教団との新たな接点が浮上し、首相自身も教団幹部と並んで撮った写真も報じられています。それだけに、辞任ドミノを恐れているのでしょうが、常に玉虫色の曖昧決着がつきまとう。適当にゴマカすだけだから、実は統一教会問題はまだ終わっていないし、裏金問題も終わらせてはいけないのです」
今こそ「あいまいな日本の私」から脱却を
そもそも、5人衆ら安倍派幹部は裏金づくりの経緯を「任せきり」「報告がなかった」と一様に秘書のせいにして責任放棄。萩生田前政調会長や高木前国対委員長らは、政治資金収支報告書を訂正したものの、収入・支出の総額も翌・前年の繰越額も「不明」「不明」のオンパレードだ。これじゃあ、実態把握もクソもない。
「『不明』だらけの訂正で、政治資金に使った裏付けがない以上、裏金を受け取った議員は全額を『雑所得』として税務申告し、申告しなければ税務署は調査に動くべきです。『国民は増税、自民は脱税』なんて決して許されません」(立正大法制研究所特別研究員・浦野広明氏=税法)
これが政権与党のガバナンスなのかと呆れる話ばかりだが、これぞ、国民愚弄政党の正体だ。大体「記憶にございません」や「秘書のせい」がまかり通るつもりでいるなんて、いつの時代を生きているのか。昭和のダメおやじが令和の現代にタイムトリップする宮藤官九郎脚本のドラマじゃあるまいし、「不適切にもほどがある!」だ。
「日本人は同調圧力の強さもあり、何事にもシロクロをつけず『曖昧さ』を受け入れやすい。その国民性がウヤムヤ決着で忘却を待つ算段の歴代政権を助けた側面もありますが、今度ばかりは通用しません。それだけ国民生活は物価高に苦しみ、インボイス導入で税金を根こそぎ取り立てられるのに、巨額裏金におとがめナシの自民党に不満を募らせています。確定申告の時期を迎え、怨嗟の渦がエスカレートするのは間違いありません」(鈴木哲夫氏=前出)
今こそ国民は「あいまいな日本の私」から脱却し、明治以来の悪弊に決別すべきである。
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