http://www.asyura2.com/24/kokusai34/msg/719.html
Tweet |
プーチンが核戦略の転換をついに決断…!「核拡散」と「先制使用」への道を開くロシア−北朝鮮軍事協定の「驚愕すべき狙い」/現代ビジネス
畔蒜 泰助(笹川平和財団主任研究員) によるストーリ
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E3%81%8C%E6%A0%B8%E6%88%A6%E7%95%A5%E3%81%AE%E8%BB%A2%E6%8F%9B%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%AB%E6%B1%BA%E6%96%AD-%E6%A0%B8%E6%8B%A1%E6%95%A3-%E3%81%A8-%E5%85%88%E5%88%B6%E4%BD%BF%E7%94%A8-%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%81%93%E3%82%92%E9%96%8B%E3%81%8F%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2-%E5%8C%97%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E5%8D%94%E5%AE%9A%E3%81%AE-%E9%A9%9A%E6%84%95%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%8D%E7%8B%99%E3%81%84/ar-BB1pmDeS?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=9a37b5ce494646449c442e2d0a2ad1fe&ei=11
プーチンの核戦略転換決断
6月19日に、プーチン大統領が金正恩総書記と平壌で締結した「ロシア−北朝鮮の包括的パートナーシップ協定」は、「軍事同盟」ともいえるが、総じて日本国内の反応は、それほど深刻な物と捉えてはいない雰囲気だ。むしろ報道を見ると、あの大国ロシアが、砲弾などの支援の継続を望んでかつての衛星国、北朝鮮まで大統領が足を運ばなければならなくなった、といった感想が主流のようだ。
しかしロシアを過小評価しない方が良い。ロシアは国際戦略においてまだ多くのカードを有している。核はその最強のものだ。約一年かけてプーチンは核ドクトリン変更へのステップを踏んできた。そして今回の北朝鮮との協定は、ロシアが事実上の核拡散への道を初めて開いたものと位置づけられる。今、日本は目の前で、核拡散のプロセスが始まる歴史的な転換点に立ち会っているのだ。
この露朝協定の背景には、大きなコンテクストとしてウクライナ戦争がある。詳しく言えば、アメリカが、ウクライナが米国製兵器を使用して、ロシアに対する越境攻撃をすることを正式に許可したことがある。
これまで、西側の関与が進むと、ロシア側はこれに反応して攻勢のレベルを上げ、それに対しウクライナ側は西側に、より高い要求をし、西側はそれを受け入れ……を繰り返し、事態はどんどんエスカレートしてきた。
そして、今回の越境攻撃許可に対するロシア側の反応が、6月初頭のサンクト・ペテルブルグ国際経済フォーラムの際にプーチンが行った2つの重要な発言ということになる。
その1つは、西側がロシア国境近くに武器を供与するのであれば、ロシアもまた西側に隣接する国に武器を供与する権利を有するというもの。もう1つが、核使用ドクトリンの変更の可能性に始めて言及したことだ。核煮対してはこれまで使用要件がかなり厳格であったが、それを柔軟に解釈できるとし、そしてエスカレーションの階梯を明確化するとしている。
「核先制使用論」のイデオローグ、カラガーノフ
この経済フォーラムで注目すべきなのは、プーチンの特別セッションの司会を行ったのが、セルゲイ・カラガーノフという学者であることだ。彼はロシア外交防衛評議会というロシアにおける安全保障問題に関する最初の民間シンクタンクの創設者で、国際的なフォーラムであるヴァルダイ・クラブの創設者でもあり、ロシアの言論界で非常に大きな影響力を持っている人物である。
カラガーノフは、昨年の6月に事実上の「核先制使用論」を提案するセンセーショナルな論文を発表している。そこに展開されているのは、「事態がここまでになると、西側に対して核に対する恐れを、もう一度、呼び起こさなければならない、それにはやはり一度、使ってみることが必要だ、それがある意味、世界を救うことになるのだ」というロジックなのである。
そのために「核使用ドクトリン」をより柔軟な形にすることの必要性についても触れている。そして、この時期は、ちょうど、プーチンがベラルーシに戦術核の配備を開始したタイミングだった。
ロシアの識者がこのような重大論文を発表する際には2つのパターンがある。国内議論を喚起するための論文と、海外向けにメッセージを出すための論文だ。前者の場合は、ロシア語で書かれ、英語版は出ない。一方、対外的なメッセージを含む場合、必ず英語版もでる。この論文の場合は、ロシア語だけでなく英語でも同時に発表されたので、国内向けだけでなく、対外的なメッセージの意味合いがあったはずだ。
そして昨年10月のヴァルダイ会議には、プーチンと創設者のカラガーノフが出席した。カラガーノフが、そこでプーチンに核ドクトリンの変更の必要性について質問すると、その時のプーチンの答えは「その必要はない」だった。
ところが今回、6月のサンクト・ペテルブルグ国際経済フォーラムは、ちょうどロシアが南部で戦術核の使用訓練を開始し、続いて、ベラルーシを含めた第二弾の訓練を行うというタイミングで開かれた。そして、プーチンは同様の質問に対し、初めて「今は必要ないと思うが、状況が変われば、その可能性は否定しない」と、言及したのである。
GOサインは出た
そもそも、カラガーノフをこのセッションの司会に持ってくるということ自体が、もはや重大なシグナルといえる。これまでのカラガーノフとのやりとりに、何らかのアクションを起こすことを示唆しているからだ。
核ドクトリン変更については、この直後にロシア外務省の次官が、その可能性に言及した。それはフォーラムでのプーチンの発言が「この件について議論し始めてよい」というゴーサインを出したという意味を持つからといえる。そして、6月24日にはロシア大統領府のペスコフ大統領報道官が「核ドクトリンの変更プロセスを開始した」と公式に発表した。
ここで注目すべきことに、サンクト・ペテルブルグ国際経済フォーラム開催のタイミングで、ロシアの軍艦があからさまにキューバに寄港したことがある。非常によく出来たデモンストレーションだ。かつてのキューバ危機の再現をロシアは今でも出来るということを示したことになる。
そして今回、北朝鮮を訪問してこの条約を結んだというのも、その一環だ。この意味するところは何なのか。今すぐロシアが北朝鮮に対して武器を供与するということは、行わないと思う。ただし、その可能性は見せつけたのである。
繰り返し言うが、ロシアを決して過小評価すべきではないのは、カードを持っている事だ。これまでは、西側との友好という外交のラインをある部分まで守ってきていたので、踏み込んではいなかった領域というのが結構まだ残っている。そこに踏み込み始められると、西側にとって、これまで前提としてきた戦略的な計算が相当に複雑化してしまう。
ロシアが狙っているのは、正にそれなのであると思う。「我々はいつでも牽制できるのだ」という球を投げてきたというのが、今回の北朝鮮への訪問への一連の流れなのである。
中国に飲み込まれないための核戦略
注目すべきなのは、露朝の隣国である韓国、中国の反応だ。
今回の協定が発表された直後、韓国政府は、これまでのウクライナに殺傷兵器を供与しないという方針の見直しを検討する、と発表した。これに対してプーチンは、その後に訪問したベトナムでの記者とのやりとりで、「もし韓国が、ウクライナへの殺傷兵器供与に踏み切ったら、“以前も言ったけど”、その時は朝鮮半島も含む世界の他の地域に武器を供与する権利を我々は保有する」と反応した。
当然、中国はいやだろう。北朝鮮を自らのアメリカとのゲームのカードとしてキープし続けたいと考えているはずだ。しかし、今回、ロシアが北朝鮮とこのような条約を結んだことで、潜在的には、金正恩が中国の意図に反して、いろいろなことをやり出しかねない可能性をつくった。それはもちろん、中国にとっては全く喜ばしくないことだし、だからこそ、プーチンが北朝鮮に行っているそのタイミングで、中国は韓国と次官級の安全保障協議をやっている。これは、中国が完全にロシアと立場が一緒ではないということの意思表示だ。
今回のプーチンの北朝鮮訪問、更にそれに続くベトナム訪問の意味は、短期的には、当然、ウクライナで闘っている西側に対する牽制である。それだけではない。中長期的には、ロシアの中国に対する、ある種の戦略的自立性を担保する一手でもある。
現在、ウクライナ戦争のなかで、ロシアの中国への依存度は無視できないまでに高まっている。であるから、中国との関係を壊してまで、北朝鮮との関係強化に踏み切るという選択肢は、よほどのことがない限り、取らないはずだ。
お土産は中国の日本海進出への協力
今回、露朝は3つの文章にサインしている。戦略的パートナーシップ条約、豆満江に掛かる国境の横断自動車道橋の建設に関する協定、保健医療・科学分野における協力だ。
露中朝の3カ国関係を考えると、この2つ目が重要だ。プーチンが5月に訪中した際、露中共同声明の中に、両国は北朝鮮と共に、豆満江下流域における中国船舶の航行に関する議題について建設的な意見交換を継続するという項目がある。つまり、中国東北部から日本海への水路を開くと言うことだ。これは中国が長く望んできたことだ。国際法上はすでに通れるはずなのだが、架かっている橋のために物理的制約がある。さらに浚渫が必要なようだ。そしてもう1つ、露中間で北極海航路に関する協力で共同委員会をつくる旨を初めて文書で結んでいる。日本海から北極海に向かうルートが出来ることになる。
要するに、朝鮮半島を巡る中国との協力関係を「我々は促進する」という建て付けになっている。「中国と対立するつもりはない、中国の望んでいることも行う」という意思表示である。
しかし、カラガーノフは昨年6月の論文の中で、核を使って早く戦争を終わらせなければならないという理由の一つに、このままだと中国に圧倒的に有利な状況が続いてしまうという見通しを挙げた。だから核を使っても出来るだけこの状況を変えなければいけないとしているのだ。彼は、基本的に中国との関係は重要だし、中国の力を積極的に活用して、世界の安定化を促しロシアの発展を図るが、ただし過度に中国に依存するというのはよくないと考えている。
彼は最近の論文の中で「中国に対する友好的なヘッジング」という戦略概念を打ち出している。中国と喧嘩しないように、将来的な保険をかけていく。今回の北朝鮮訪問は、その実践的なあり方だった。当然、5月にプーチンが訪中した際に、習近平と北朝鮮との協定の問題については話していると思う。
「泥沼流」核戦略に踏み切ったプーチン
露朝協定の国際戦略上の意味は、プーチンが、アメリカや西側諸国、そして日本に対し、国際戦略上の計算を複雑化させる一手を打ったということだ。当然今後、そのカードを西側に対して切ってくることになる。当面、もっとも懸念されるのは、北朝鮮のミサイル技術の向上であり、衛星技術の向上である。
もう一つのファクターとして、本当にこの豆満江の問題が前に進んだときに、中国の商船のレベルであれば、まだしも、そこに艦船、軍艦もという話になると日本にとっては問題だ。まだどの程度の結果になるかはわからないが。しかし、良くも悪くも日本はロシアを無視できない。
今回の露朝の協定の中で、日本にとって、もっとも神経質にならざるを得ないのは、言うまでもなく「北朝鮮も含めて」、攻撃兵器の供与、核ドクトリンの見直しを行うとしたことだろう。ただ、それがどう動くかは、日本やアメリカのアジアでの核抑止の体制がどうなるのかということとの相互作用の中で決まってくることだと思う。
例えば、韓国において独自核武装論が高まる可能性が高い。日本はどうするのか。とりあえずは、中国に対する抑止体制の対応としての中距離ミサイルの配備がある。アメリカはフィリピンには中距離ミサイルの発射装置「だけ」配備した。それでは日本にはどうするのであろうか。また、その対応として、ロシアは極東への中距離ミサイルを配備するのであろうか。
いろいろな形での核兵器の拡散のプロセスが始まっているとみていいのだろう。
ロシアからすると、かつては核を独占することで、アメリカと並ぶ超大国の地位を享受していたし、その体制というのは、ついこの間まで続いていた。だが、もはや中国も追いついてくる。そうなってくると、ロシアの戦略観からすると、核兵器を持っている国を、より増やすことが、よりゲームを複雑化させ、ロシアによる情勢操作の余地を拡げる。そういう方向に、ロシア自身が変わっていく可能性があるし、今回の北朝鮮への訪問はその一つのプロセス、一環かもしれない。
このプロセスは、昨年6月のカラガーノフの論文から始まり、今回の露朝協定へとステップを踏んできている気がする。日本にとっては静かなる国難だといえる。静かなる核拡散が、日本の前面で始まった、という歴史的な状況なのだ。
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。