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ロシア国営放送で“決死の「NO WAR」”掲げた女性は今…ロシアの未来をどう見ているのか? 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/340289
2024/05/20 日刊ゲンダイ ※後段文字起こし
マリーナ・オフシャンニコワ(ジャーナリスト)
ジャーナリストのマリーナ・オフシャンニコワ氏(C)DPA/共同通信イメージズ
〈NO WAR 戦争をやめろ。プロパガンダを信じるな〉〈ロシア人は戦争に反対だ〉──。2022年3月14日、そう大書されたポスターを掲げ、ロシア国営「第1チャンネル」の報道番組に乱入した女性職員を覚えているだろうか。プーチン大統領がひと月前に始めたウクライナ侵攻への「6秒間の抗議」は世界を驚嘆させた。決死の行動に踏み切ったのはなぜか。プーチン体制が続くロシアの未来をどう見ているのか。本人を直撃した(取材はメールで実施)。
◇ ◇ ◇
──今月9日に日本で刊行された「2022年のモスクワで、反戦を訴える」で、抗議直前から国外脱出を果たすまでの7カ月間の様子を克明に記しています。「国境なき記者団」の協力でフランスへ亡命後、どのように暮らしているのでしょうか。
仏警察の護衛のもとで生活し、安全を確保するため定期的に住居を変えて暮らしています。詳細はお伝えできませんが、ルールに従って生活しています。獄中死したロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の元側近レオニード・ボルコフ氏が、リトアニアの首都ビリニュスの自宅で襲撃されたことをご存じだと思います。見知らぬ人にハンマーで殴打されたのです。
──ロシアでは7日にプーチン大統領の5期目就任式が行われました。
3月の大統領選は大規模な腐敗が横行し、ロシアの歴史上、最も不公正な選挙でした。ある専門家は2000万票以上がプーチンに上積みされたと分析しています。反戦を訴える候補者は誰ひとり選挙に参加することはできませんでした。欧州議会はロシア大統領選の正当性を認めていません。ロシアが民主主義の道を歩むには、できるだけ早く戦争に負ける必要があります。ソ連がどのようにして崩壊したか、思い出してみてください。プーチンもまた、この戦争で資源を使い果たさなければなりませんが、残念なことに、その状況には至っていません。西側諸国からの経済制裁にもかかわらず、プーチン政権下でロシア経済は成長しています。反体制派は牢獄にいるか、国外に追われています。政治的抑圧は高まっており、この状況に終わりは見えません。
抗議直後は手足がブルブル震えた
──反体制派の活動家やジャーナリストが暗殺される中、ポスター抗議は極めて大きな決断を要したと思います。
ウクライナ侵攻は決定的であり、もう黙っていられませんでした。プーチンは24年にわたり、ロシア国内の独立系メディアを徹底的に破壊してきました。代わりに、政権にとって都合の良い情報やフェイクニュース、陰謀論を情報空間に垂れ流す「プロパガンダ・マシン」をつくり上げました。
──ポスター抗議によってキャリアを失ったり、政治犯として処罰されたり、家族に危害が及んだりするかもしれない恐怖とどのように向き合ったのでしょう。
ロシアとウクライナの全面戦争が始まるとは想像しなかったので、かなりショックでした。ウクライナ侵攻の当初、何が起こったのか、頭で理解できませんでした。ロシア軍がキーウやオデーサを爆撃し、何の罪もない女性や子供が犠牲になりました。最悪の悪夢でも、こんなことは起こり得ないでしょう。ウクライナ侵攻が始まって、私に個人的に起き得ることはどうでもよいと思いました。抗議の瞬間は恐怖を感じませんでしたが、抗議の直後は、グラスに入った水をまともに飲めないほど、手足がブルブルと震えていました。上司から釈明書を書くように指示され、「わたしは第1チャンネルのインフォメーション・ポリシーに同意しません。あなたたちは犯罪に加担しており、いずれハーグ国際裁判所の被告席に着くことになるでしょう」とシンプルにまとめました。
大統領府の特別指導で「プロパガンダ・マシン」に
「6秒間の抗議」、世界は驚嘆した(ポスターを掲げ抗議する本人=右後方) (C)NTC/ZUMA Press Wire/共同イメージズ
私たちが放送している内容と現実との認知的不協和は、だんだん強まっていきました。私が働き始めたころの第1チャンネルは、世界中のニュースを取り扱う一般的な放送局でした。しかし、徐々に規則が変わり、触れてはいけないトピックが増えていきました。近年では、米国や西欧諸国、ウクライナをおとしめるような情報を好んで探す傾向にあり、真にジャーナリストが果たすべきこととは、まったくかけ離れています。ロシア国内すべての放送局はクレムリン(大統領府)の管理下に置かれており、この「プロパガンダ・マシン」から逃れられる場所はありません。
──著書にあった〈ロシア人をゾンビ化してきた〉方法とは具体的に何でしょうか。
ロシアに行けばすぐ、偏った情報のただ中にいると実感するでしょう。テレビ、新聞、ラジオは「これは戦争ではなく、ドンバス(ウクライナ東部)にいるロシア語話者を守るための特別軍事作戦である」と喧伝しています。「狡猾な西側諸国がロシアを破壊しようともくろんでいる」とか、「伝統的な家族の価値観、この世のすべての善を守るために、ロシアはあらゆる悪と戦っている」とか、そんな“物語”があふれているのです。プロパガンダ・メディアは国民の関心を操作することに非常に長けており、ロシア人の愛国心に訴えかけます。「国やプーチンとともにあるか、それとも裏切り者か」と。しかし、ロシアの国益にとって最大の裏切り者がプーチンであることは決して言いません。プーチンはロシアを戦争へと引きずり込み、ロシア国民を死地へと送り、メチャクチャにしています。国民に対して、スターリンの恐怖政治と変わらない政治的圧制を敷いています。
──70年前に逆戻りですね。
プーチンのプロパガンダは、黒を白と言いくるめるゲッベルス(ナチス時代の宣伝相)の手法を真似ています。したがって、何百万ものロシア人が残酷な死刑執行人になり、武器を持ってウクライナ人を殺しに行くようになったことは驚くべきことではありません。プーチンはプロパガンダを通じて、ウクライナ人をナチス呼ばわりしてきました。ロシアのメディアは常にウクライナ人への憎悪をかき立てる放送に徹しています。あらゆる放送番組の担当者が定期的に大統領府へ出頭し、そこで何をどのように放送するか特別な指導を受けているのです。
「FSBのスパイ」となじられた
──抗議の後、ロシア国内で批判を浴び、ウクライナでも「FSB(ロシア連邦保安庁)のスパイ」と非難されたそうですね。
情報戦に巻き込まれていると感じました。ウクライナでも「そもそもロシアには生放送がない」とか「マリーナ・オフシャンニコワは偽物である」とか、果ては私が体制側からお金をもらっているとウワサされていました。私の真摯な後悔と真実を伝えようとする気持ちを誰も信じることができなかったのです。残虐性と暴力の沼に落ちた世界では、高尚で人らしい何かを信じることは忘れられがちです。
──著書の中で、ロシア連邦刑執行庁の査察官から「わたしたちは皆、あなたに好感をもっていますし、支持しています」と言われたエピソードに触れ、〈政治体制が完全に腐りきっているとわかっている人たちが、なぜその犯罪的な命令に従い実行し続けるのだろう?〉と書いていますね。
彼らは命令に従うほかに選択の余地はありません。もし反体制の主張をすれば、人生を破壊されるでしょう。不幸なことに、ロシアには大衆が抗議できる前提条件が整っていません。かつて、どれだけの人がヒトラーやムソリーニに抗議したでしょう? そんなことができるのは今や、失うものがない一匹狼だけです。
──著書の中で〈プーチンは国家を裏切り、正常な未来を奪い、ロシアを破滅させたことをロシア国民は悟るだろう〉と書いています。ロシア国民が覚醒するには、プーチン体制の崩壊を待つほかないのでしょうか。
ソ連が崩壊したとき、スターリンの信奉者たちは、国民への背信行為や、何百万人もの命を奪った共産主義による恐怖政治について公に話し始めました。やがてプーチンにも同じことが起こると思います。21世紀で最も凄惨な戦争を始め、何十万人ものウクライナ人やロシア人を犠牲にした血ぬられた死刑執行人として歴史に刻まれることでしょう。
(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)
▽1978年、オデーサ生まれ。母はロシア人、父はウクライナ人。6歳から16歳までチェチェン共和国のグロズヌイに在住。第1次チェチェン紛争で難民となる。大学卒業後、地方テレビ局記者、ニュースキャスターを経て、2003年から国営第1チャンネルでニュース編集者として活動。フランスに亡命した。
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