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ロシアへの経済制裁では、暗号資産による資金流入は止められない/SECURITY
https://wired.jp/article/russia-ukraine-cryptocurrency-funding/
ロシアがウクライナに侵攻して以来、日本円にして約6億円相当の暗号資産がロシア軍の支援団体に渡ったことが、このほど研究者の調査で明らかになった。この調査結果は、資金の流れがわかっても阻止したり凍結したりすることが難しい現実も浮き彫りにしている。
この8カ月に大勢のロシア軍の兵士がウクライナへとなだれ込み、さらに何十万人もの兵士が動員されようとしている。そこで西側諸国は、ロシアの侵略と占領の“燃料”となっている経済の流れを断つべく、大胆な措置を実施してきた。
ところが、こうした国際的な制裁措置でロシアを世界の商取引から慎重に引き離しても、何百万ドルもの資金が暗号資産(暗号通貨、仮想通貨)というかたちでロシアの軍や準軍事組織に流れ込み続けている。そしてこのような流れは、制御することが難しいことも明らかになった。
ロシアがウクライナに本格的な侵攻を始めた2022年2月以来、少なくとも400万ドル(約5億9,400万円)相当の暗号資産がウクライナに拠点を置くロシア軍の支援団体に流れている──。そんな事実が、このほど調査によって判明した。
暗号資産の追跡を手がけるChainalysis、Elliptic、TRM Labsに加え、世界最大の暗号資産取引所であるBinanceの調査員の分析によると、暗号資産の受取人には弾薬や装備を提供する準軍事組織や軍事関連の請負業者、武器の製造業者などが含まれている。
ロシアの軍事関連組織へと流れ込む資金
このような資金は、公的な制裁の対象となった組織に流れていることが多い。一方で、こうした組織の勢いは衰えず、むしろ増しているようだ。
Chainalysisによる資金の追跡調査では、ロシアの軍事組織が過去2カ月に約180万ドル(約2億6,700万円)もの資金を集めていたことが判明している。この額は、それ以前の5カ月間にこの組織が集めた220万ドル(約3億2,200万円)に匹敵する額だ。
ただし、このような資金の流れは追跡できても、送金を阻止したり、資金を凍結したりすることは困難であることも明らかになっている。これは規制や認可を受けていない暗号資産取引業者(そのほとんどがロシアに拠点を置いている)が、募金活動で集まった資金を侵略者に流しているからだ。
「わたしたちの目的は、ロシアの軍事組織とそれを支援する人たちが使用しているすべての暗号資産のウォレットを特定することです。そして侵略行為に用いられる弾丸と弾薬の購入と関連するすべての活動を特定し、差し押さえ、阻止しようとしています」と、最近までウクライナのサイバー警察の副長官で検事総長の顧問を務めていセルヒー・クロピヴァは語る。
「ChainalysisやBinanceといった企業との密接な連携により、犯罪行為に関与するすべてのウォレットと数百万ドルの金の流れを確認しています。しかし、残念ながらこうした送金がひっきりなしに起きていることも確認しています」
クラウドファンディングによる募金が活発化
暗号資産の追跡会社とBinanceの調査チームは、ロシアの軍事活動への寄付金の出所を別の調査で追跡してきた。その結果、多くがメッセージアプリ「Telegram」でクラウドファンディングによる寄付を募る公開投稿を起点としてることが判明したのである。
例えばChainalysisの調査では、親ロシア派のメディアである「Rybar」と「Southfront」や、悪名高いロシアの民兵組織「ワグネル」と関係がある準軍事組織「Rusich」などによるTelegramへの投稿が見つかった。そしてどの投稿にも、暗号資産を寄付するためのアドレスが記載されていたのだ。
この投稿は寄付金について、武器化したドローンから無線機器、ライフルの付属品、防護服まで、あらゆるものに使用するとフォロワーに説明していた。ほかにもChainalysisは、「Project Terricon」と呼ばれる組織が東ウクライナの親ロシア派の民兵団体を支援すべく、NFTのオークションによる募金活動を主催していることも突き止めている。
Binanceの調査チームは2月以降、ロシアの軍事組織に総額420万ドル(約6億2,000万円)相当の暗号資産が流れたことを、独自のレポートで明らかにしている。この調査で名前が挙がった組織は、Chainalysisが報告した組織と完全には重複していなかった。これはロシアの軍事組織が受け取った寄付金の総額が、BinanceやChainalysisが示した合計額よりはるかに大きい可能性があることを示している。
Binanceのレポートは、「MOO Veche」として知られる親ロシア派の“文化遺産”の保護団体が、Chainalysisが報告した組織の募金活動と同じように、軍事的な装備のための募金活動を実施した例などを特定している。Binance、TRM Labs、Ellipticは、いずれもMOO Vecheを主要な募金活動の組織として挙げていた。
またEllipticの調査では、この組織が170万ドル(約2億5,000万円)相当の暗号資産を集めたとしている。これはほかの調査結果をはるかに上回る金額だ。
Telegram上でクラウドファンディングを通じて暗号資産で寄付を募っていることをBinanceが特定したほかの組織としては、親ロシア派の愛国主義組織である「Save Donbas」と「REAR」、ロシアの武器メーカーのLobaevなどが挙げられている。Lobaevはプラットフォーム上で直接寄付を募っていたことが確認された。
また、募金活動をしていたことをTRM LabsとEllipticが発見した別の組織「Romanov Light」は、ロシアの特殊部隊のために暗号資産による募金をしているという内容だった。Ellipticによると、Romanov Lightは最大33万ドル(約4,900万円)を集めており、寄付者には武器の付属品や懐中電灯、装甲板などの軍事装備に使用すると伝えていた。
資金の流れは止められない
資金の流れは比較的明らかになっているものの、ロシアのウクライナへの一方的な侵攻を支援する暗号資産の流入を防ぐことは簡単ではない。
取引業者なら、暗号資産が法定通貨に両替されるタイミングで換金を阻んだり、資産を凍結したりできる。ところがChainalysisによると、こうした組織が集めた暗号資産の大半は、同社が「高リスク」と分類する犯罪的なマネーロンダリングに対する予防措置がほとんど実施されていないロシアの取引業者を通じて現金化されていたのだ。
以前のレポートでChainalysisは、ロシアに拠点を置く不正な取引業者の例として、Chatex、Suex、Garantexを挙げている。これらの取引業者は犯罪者による幅広い利用により、すでに西側諸国の制裁の対象になっている。ChatexとGarantexにコメントを求めたが、回答は得られなかった。またSuexは現在はウェブサイトを公開していないようで、連絡先が見つかっていない。
ところが、ロシア軍の暗号資産のクラウドファンディングの“ATM”として機能しているすべての取引業者が、ロシアに拠点を置く企業というわけではない。取材に応じたブロックチェーンのアナリストたちが親ロシア派の資金を追跡したところ、インドや中国に拠点を置くほか7つの取引業者が使われていたのだ。取引業者の名を明らかにしなかった理由のひとつは、どれも金額が10,000ドル未満だったからである。
こうした資金の現金化の阻止が、いかに難しいかを示す例がある。アナリストはMOO Vecheが、中国の暗号資産取引事業者であるHuobi(フォビ、火幣)のインフラにホストされている取引所(つまり、Huobiに組み込まれ、基本的にHuobiの取引プラットフォームを使用している)に15万ドル(約2,200万円)以上のビットコインを送金したことを確認している。
一方でアナリストたちは、資金がHuobiのホストするサービスに流入する前に、別の仲介サービスを経由していたことも確認している。これにより資金の出所は複雑化され、Huobiの取引を阻止したり、資金を凍結したりする責任はうやむやになっていたのだ。
Huobiにコメントを求めたところ、同社は声明で「顧客の資金源に問題がないことを可能な限り保証する」ために、本人確認を実施していると説明している。
Binanceでも、追跡した4つの組織によって同社の取引口座が使われ、20万8,000ドル(約3,000万円)以上の暗号資産の入金があったという。Binanceは発見した4つの口座すべてを凍結したと、『WIRED』に説明している。
「こうした過激派による資金調達によって一般市民に被害が及ばないよう、わたしたちは手を尽くしています」と、Binanceの情報及び調査チームを率いるジェニファー・ヒックスは語る。「暗号資産取引業者が最終的に現実世界に影響を与える違法な行為を知ったなら、なるべく早くそれを阻止する責任があります」
ただし、制裁対象となる親ロシア派の組織による募金活動で集まった暗号資産の取引を取引業者が監視していても、不正な資金を常に簡単に検出できるとは限らないと、Ellipticでの研究を率いるティボー・マデリンは警告する。
マデリンによると、ロシアの資金源となっている違法な資産が「ブリッジ」や「コインスワップ」(暗号資産を別の暗号資産と簡単に交換できるサービスで、識別情報を提供せずに利用できるものが多い)で資金洗浄されることが増えているという。こうした手口は、ダークウェブの闇市場やサイバー犯罪者の間で広まっており、軍事に用いる不正な資金を洗浄しようとする者たちの間にも同じように広まるだろうと、マデリンは予想している。
「断定するには少し早いでしょう。しかしこれまでの観測から、この問題は今後より大きくなると言えます」と、マデリンは話す。「ダークネットのサービスの利用者が使う手口をまねて、大規模な資金洗浄や制裁を回避をしようとする可能性があります」
ロシアの“戦争マシン”の経済的な命綱となるか
ロシアがウクライナに侵攻するために軍に数十億ドルを投じている戦争において、ロシア軍への数百万ドルの暗号資産の流入は、ウクライナにとって重大な問題ではないかもしれない。ウクライナはロシアを圧倒的に上回るほど暗号資産で資金を集めていることも特筆すべきだろう。Ellipticの計算によると、戦争が始まって以来、ウクライナ政府には7,700万ドル(約114億4,000万円)以上の暗号資産による寄付があったという。
ロシアのいわれのない攻撃を受けて欧米がウクライナを広く支援し、ロシアに世界的な制裁を加えている状況から、これは予想されたことだ。ロシアの軍事関連組織が集めた暗号資産の額は少ないものの、暗号資産の募金はこうした欧米の制裁を回避し、ロシアの“戦争マシン”の経済的な命綱となる可能性を示している。
「ロシアがその資金で新しい戦車を買っているわけではありません。暗視スコープや無人航空機の調達に使っているのです」と、Chainalysisの研究者で主に制裁について調査しているアンドリュー・フィアマンは指摘する。「しかし、民兵の活動を草の根的に促すにあたり、軍事装備を強化するための資金提供はどんなに少額でも影響を与えることになるでしょう」
暗号資産の追跡者がこうした資金の流れに光を当て、西側諸国はその流れを阻止しようと手を尽くしている。それでも、ロシアの軍事組織への暗号資産の流入は止められないでいるのだ。
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