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モスクワ銃撃テロ事件とプーチン大統領の誤算/石川一洋・nhk
2024年03月28日 (木)
石川 一洋 専門解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/492852.html
ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで武装したテロリストによる残酷な無差別テロが起きました。無防備の観客が銃撃され143人が犠牲となりました。中央アジアタジキスタンの出身者4人が末端の実行犯として起訴されました。テロを計画し実行した組織は何か、何故ロシアは防げなかったのか、プーチン大統領の誤算とテロの危険について、考えてみます。
今月22日 20時前 モスクワ郊外のコンサートホールに四人の男が侵入し、ホールの外と中で銃を乱射するとともに、瓶に入ったガソリンを撒き散らして火をつけました。人気ロックグループの開演直前で六千人の観客がいたと言われています。無差別の銃撃と火災で大混乱となる中、四人は車で現場を立ち去りました。実際の犯行時間はわずか13分。この無差別テロでこれまでに143人が死亡し、360人が負傷しました。警察、救急隊が現場に急行したのは反抗グループが現場を去った後でした。
私は2000年代から様々なロシアでのテロを現場で取材してきました。「目的のために手段を選ばない」これがテロ思想の本質です。目的がテロという手段を決して正当化するものではありませんが、これまではともかく目的があった。しかし今回のテロは、人を無差別に殺すことそのものが目的なような事件で、これほど残酷なテロをロシアでも見たことはありません。
▼テロは誰が行ったのか?
無差別テロの実行犯4人は、ウクライナとベラルーシの国境にある西のブリャンスク州に車で逃走する中、治安機関に拘束されました。4人とも中央アジアのタジキスタン出身で、ロシアに居住していました。イスラム過激派組織IS=イスラミックステートに近いアマーク通信社がISの戦闘員がテロを行ったと伝えています。犯行グループの写真や犯行の様子のビデオなどもアマーク通信も公開しており、アメリカやEUはアフガニスタンで主に活動するISIS―Kによるテロとほぼ断定しています。
ロシアはシリアではアサド政権と連携して、IS=イスラミックステートを殲滅する有志連合の主力となり、血みどろの戦いを繰り広げました。プーチン大統領は、ロシアや中央アジア出身者がISに参加していることを念頭にロシア国外でISの戦闘員を殲滅することがロシアの国益に叶うと当時発言していました。シリアなどでISが支配地域を失い弱体化する中で、アフガニスタンを主たる活動舞台とするISIS―Kの活動が目立つようになります。アフガニスタンの実権を握ったタリバンと対立し、戦闘を繰り広げています。一方ロシアは、かつては仇敵とも言えたタリバンとの関係をほぼ正常化しています。ISにとってみればアフガニスタンにおいてもタリバンと連携するロシアが主要な敵ということは言えるでしょう。実行犯の出身地タジキスタンはアフガニスタンとのつながりが深く、ISの勢力が浸透しています。このようなことからISが今回のモスクワでの無差別テロの背後にいるということは十分ありうることだと思います。
ただ今回のテロでは奇妙な点も残ります。一つは実行犯がロシアの治安機関の取り調べにSNSで多額の報酬で勧誘された。つまり金のためにテロを行ったと述べていることです。イスラム過激派が金のためにテロを行った例を私は知りません。また極めて短い時間の中で無差別テロを実行して逃走していますが4人の実行犯がどこで訓練や戦闘での実戦経験を積んだのか、まだ何の情報もなく、情報面を含めてどのような組織が支援したのか、大量の武器は誰が提供したのか、まだ犯行の全貌は明らかになっていません。
▼ではなぜロシアはこの残酷なテロを未然に防ぐことはできなかったのでしょうか。
私はウクライナへの軍事侵攻の中で、テロとの戦いでの米露の協力関係が大きく壊れたことが第一の要因だと思います。
私は、米露関係はすでにかなり悪化していた2020年2月モスクワでロシアのナルイシキンSVR対外情報庁長官と面会しました。その時のテーマの一つが米露関係でしたが、当時、ナルイシキン長官は、米ロ関係は最低レベルにあるが、テロとの戦いでの諜報機関同士の関係は極めて建設的に行われているとして次のように具体的に述べました。
「我々はかなり広い範囲で迅速な情報交換を行なっている。テログループの意図について、テロ組織の指導部及び構成員について、財源や個別のテロ組織の行動についてなどだ」
実際に当時、サンクトペテルブルクでの大規模テロのリスクをアメリカからの情報で未然に防ぎ、そのことプーチン大統領自身も称賛しています。
もしもテロとの戦いにおいて米露の治安諜報機関の間の信頼関係が維持されていれば、私は今回の無差別テロは防げた可能性はあったと見ています。モスクワのアメリカ大使館は3月7日にまさにモスクワでコンサートなどを狙ったテロの危険性があると自国民に警告し、内容をロシア側に伝えたとしています。一応チャンネルは生きていたということでしょう。しかしロシアのボルトニコフFSB連邦保安庁長官は、警告はあったが一般的なもので具体的な内容ではなかったとしています。しかもプーチン大統領は、こうした警告はロシアを挑発するものだとして、一蹴してしまいました。
全てを政治的な思惑の色眼鏡で見てしまう不信感がテロを防げなかった原因といえるでしょう。米ロのテロとの協力が崩れている現状はテロのリスクを高めるものです。
またロシア国内の軍事施設やエネルギー施設へのウクライナ側からと見られる破壊工作が続き、対ウクライナが最優先とされる中、ISなどイスラム過激派のテロへの優先順位が下がってしまったこともテロを防げなかった理由の一つだと思います。
▼プーチン大統領が今後どう動くかです。
大統領は、実行犯はイスラム過激派であることを認めましたが、背後にいるのはウクライナだと示唆する発言を繰り返しています。ボルトニコフ長官などロシアの治安機関の幹部も、テロの背後にはウクライナやアメリカがいるとの主張を述べています。
ウクライナは関与を全面否定しており、実行犯グループがウクライナ国境のブリャンスク州に逃走していましたが、それだけでウクライナに結びつけるのは無理があります。私は、ウクライナ関与は無理筋であるとみていますし、ロシアの治安機関も分かっているのではないかと見ています。
今回のテロを防げなかったことはプーチン体制にとって大失態といえるものです。プーチン大統領は、ロシア大統領選挙で投票率77%、得票率87%というこれまでにない圧倒的な結果で圧勝したとしています。様々疑問のある選挙結果ですが、圧勝で国民の信任を得たという状況に傷がつくことを恐れてウクライナ関与説を続けているのかもしれません。
ロシアはテロの実行犯、関係者を拘束しており、都合の良いストーリーを捜査結果として公表してくる可能性があります。すでにウクライナ、支援するアメリカ、そして国際テロ組織ISは、ロシアの敵としては同列だとして国内向けにプロパガンダを強めています。今後、プーチン大統領は国内の動員を強化する、あるいはロシアが戦争状態にあると宣言するなど、さらに強硬な姿勢を強める恐れはあるでしょう。
しかし政治的な思惑にテロの捜査を利用することはロシア自身をさらなるテロの危険に晒すことになるでしょう。アフガニスタンから中央アジアを経由したテロの脅威は、今、ロシアではかなり大きくなっています。卑劣な無差別テロは許されるものではありません。それだけにプーチン大統領自身も主張してきたテロとの戦いでの国際協力は必要とされています。ロシアはテロの客観的な捜査をすべきであり、今後の国際的なテロのリスクを下げるためにも米ロがテロとの戦いでの協力関係を少なくとも再開すべきだと思います
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