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トランプは革命家ではなく、旧態依然たる不動産国家アメリカの伝統の継承をしている不動産屋に過ぎない。
「グリーンランドを買い取る」「パナマ運河を返還させる」、あるいはカナダに「51番目の州になれ」というようなトランプの言動がショッキングに聞こえるのは、彼が新しい領土や運河の支配を、国際法上の問題ではなく、「私権」の問題であるかのように語っているからだ。
トランプは「専制的」といわれるが、むしろあれは「私的自由」を「権利」として野放図にふるまうアメリカ的「自由」の権化なのだ。その「自由」はあくまで「私的」だから、「私権」といってよい。トランプは合州国の公権力をこうして私物化してしまう。一期目にはうまく行かなかったが、今度はまず公的制約の制度体の解体から始めている。
実はそれは、アメリカ合州国(ユナイテッド・ステーツなのでこのように表記する)を形成する基軸論理なのだ。
トランプは不動産業出身だ。だからトランプのやり方は、アメリカ国家を作るうえでの重要セクターの伝統を体現している。大地を商品に転換して売買することが不動産業者のコアビジネスだ。それが私的自由(所有権)を実質化し、領土売買で拡大するのが合州国の「偉大な」時代のあり方だった。だからこそ大統領になった彼は、アメリカに新たな土地を割り当て、そこを執拗に「掘って、掘って、掘りまくれ!(ドリル、ドリル、ドリル!)」と呼びかける。
アメリカの世界化は、一般的な帝国主義のモデルとされているヨーロッパのそれとは根本的に異なる。
それまでのヨーロッパによる世界統治は、ある国や地域を植民地にして、そこに住んでいる人間も全部含めて支配し、帝国に統合していくやり方だった。だが、アメリカはそうではない。欧州のように、住民を奴隷にして自分が主人になるというような面倒なことはしない。自分たち(ヨーロッパ人)が進出した大陸を「無主地(誰もいない土地)」と見なし、実際にはそこに暮らしている先住民(インディアン)を追い出し殲滅して、そこに自分たちの「自由の国」をつくった。
キリスト教ヨーロッパの法秩序とは無縁の大陸を見つけ、土地を確保し、それを柵や壁で囲い込み、そこに私的所有権を設定し、当初はヨーロッパ諸国の国法によってその「所有」を合法化した。
そのことによって、もともと存在した世界(先住民やその生存空間)は、固有性も実体も認められない影であるかのようにして締め出された。
なおかつアメリカはイギリス本国から独立した。「新大陸」に渡ったヨーロッパ人による各植民地(ステート)の大部分は、植民会社(民間企業)によって開発する方式をとっていた。マサチューセッツ植民会社、ニューイングランド植民会社……これらの民間企業は、イギリス国王の特許状によって土地の払い下げを受け、たとえば「5年間開拓したら私有地にしてよい」というようにして開かれたそれぞれのステート(自治政体)を形成した。だが、その特許状のために国王が税金だけ取る。何も働いていないのに税金だけ取る本国に反発し、13のステートがまとまってその国家権力を排して連邦政府をつくった。
これは私企業が自分の上前をはねる公権力を排除し、企業組合を連邦政府にしたようなものだ。その私企業の根本は、まず土地の私的所有権だ。それが入植した者たちの最初の資産になる。その資産の力で、私権のおよぶ範囲を広げていく。それがアメリカ人の「自由」だ。それが13にまで広がると公権力を排して、一つの連合国家(いわば企業組合)を作った――これがアメリカ国家の基本形態であり、それはヨーロッパの主権国家体制とは違う。
ヨーロッパも当時、「私的所有権」が制度的に確立されていく時期ではあったが、土地支配をめぐる伝統的事情(王政や封建制に伴う事情、あるいは教会が領地を持つ伝統など)のため、個人が土地を排他的に所有し、かつそれを自由に処分しうるという「私的所有権」が確立されるには、統治権限の移行にとどまらない大規模な社会再編が必要だった。
だが、新大陸アメリカでは、障害物である先住民をいないことにすれば、他にはなんの支障もなく「処女地」に私的所有権が設定でき、それを自由に処分することができた。「お互い戦争ばかりやるヨーロッパの主権国家体制とは違う自由の領域を西半球につくる」「俺たちはもう古いヨーロッパではない。新しいヨーロッパだ」ということで、アメリカはヨーロッパ的な国際秩序(ウェストファリア体制)から出て西半球に引きこもる。
その西半球に「自由の領域」、つまり、私的所有権をもとに私人や私企業が統治をコントロールする地帯を広げていく。そこで起こったのは、統治の「民営化」であり、権力の「私営化」だと言ってもいい。
独立した当時のアメリカ合州国は東部13州だけだったが、その後、フランスからルイジアナを買い取り、先住民を追い出して併合。スペインからフロリダを買収した。さらにメキシコとの戦争でテキサス、南西部のカリフォルニア、アリゾナ、ネバダを奪い、独立からわずか半世紀あまりで「自由の領域」を太平洋岸にまで押し広げた。さらにアメリカは、ロシアからアラスカを買い取り、スペインとの戦争では、ついに太平洋のハワイ諸島(50番目の州)を併合した。
このように「アメリカ」とは、私的所有権を軸に「自由」を拡大していく制度的空間であり、だから「アメリカ合州国」なのである。アメリカが「自由」の別名であるなら、それは地理的なアメリカにとどまる必要さえなかった。「西への運動」を展開して大陸国家となったアメリカは、今度は太平洋を越えて世界へ広がろうとした。「私権」は無制約に拡大すると飽和や限界を知らないのだ。
アメリカの西部開拓を図式的にいえば、土地を取ってそれを全部財産に変えていくことだった。東部13州が広がって、「フロンティア」が西に進み、太平洋岸にまで行き着いたことで何が起きたかといえば、あそこの自然の大地がすべて「不動産」になったことを意味する。
不動産になるということは、国の書類倉庫の中に、それぞれの区画が誰の所有であり、誰がいくらで売り買いしたかが登記され、それを保障するのが国の役割となる。そのようにして合州国は拡大していく。
合州国独立期、イギリスは産業革命の真っ最中だったが、アメリカは100年足らずでイギリスを抜いて世界一の工業国になる。それほど発展したのは、土地も資源、金も石炭もふんだんにあり、それがすべて資産に転化し、移民と解放奴隷で労働力はいくらでもあったからだ。何より、イギリスと違って封建制の足かせがなく、制約なしの産業化が可能だった。ついでに言えば、農業さえ初めから産業だった。それが「新世界」と言われるゆえんである。
そのアメリカの国家形成、社会形成で一番重要な役割を担ったのが不動産屋だ。そんな職業はヨーロッパではまだのさばっていなかった。建物の売買はあったが、土地の売買にはさまざまな制約があった。
原野を囲い込んで値段を付けて売る――つまり、自然を「財」にコンバート(変換)し、その流通を仲立ちする。その中核になるのが不動産屋だ。
だからアメリカでは、毛皮卸売商人や不動産屋、それと弁護士が集まり、ニューヨークのハドソン川の近くに商業取引の中心地をつくった。それが現在まで続くウォール街だ。
国家さえも私企業と同じようにみなされ、一番大事なのは財務諸表となる。私企業は常に成長を求められ、みんな競い合うようにしてグローバル市場の中に飛び込んでいく。「カネこそが力である」という経済システムの中でみんなが張り合うようになる。
われわれの知っているアメリカはそういうアメリカだ。
https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/33806
- 「アメリカがガザを所有する」 中川隆 2025/2/18 01:45:44
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