本紙が入手したのは防衛省が2023年4月、三菱重工業と1734億円で製造契約した巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型」の仕様書。作成したのは陸上自衛隊補給統制本部の誘導武器部で、ミサイルの要求性能として命中精度や最大有効射程、破壊力を示す「撃破性」などを列挙している。
　命中精度の数値は消されて非公開となっているが、「％以上」と記載されている。中心にした半径で示す「半数必中界」が一般的。「撃ったミサイルの半分が目標に当たれば『命中』ととらえるのが国際常識」（政府関係者）という。
　巡航ミサイルは目標への誘導装置を備え、飛翔（ひしょう）中も自ら発する電波で目標の位置を確認するなど命中率は比較的高いとされる。それでも、悪天候や相手側の電波妨害などにより、実際の命中率は要求性能よりさらに下がる。
*防衛省が公開した12式地対艦誘導弾能力向上型の発射試験の写真＝防衛省のホームページから(画像略)
　本紙が入手した仕様書は射程や撃破性も数値が隠されて非公開にされたが、防衛省関係者によると、射程は1000キロ以上という。撃破性は「トン級の戦闘艦を貫徹」と記されている。

◆運用リスク「政府はしっかりと説明すべきだ」
　国際法は、攻撃に着手した相手国に対する自衛のための武力行使を認めるが、対象は原則、軍事目標に限られ、過剰な反撃にならない範囲にとどめる均衡性などが求められる。政府は国会で、敵基地攻撃能力を行使する際は「国際法を順守する」と繰り返してきたが、誤爆や民間人の巻き添えの恐れについては踏み込んだ説明をしていない。
　地対空ミサイル部隊の指揮所運用隊長も務めた林吉永元空将補は「誤爆や運用側のミスによる誤射は生じうる。砂漠や大海原にある目標と違い、相手基地を狙えば周辺への被害は避けられない」と指摘。「相手の民間人を殺傷すればさらに攻撃する口実を与え、日本で多くの市民が犠牲になるリスクもある。政府はしっかりと説明すべきだ」と警鐘を鳴らす。
　敵基地攻撃能力　長射程ミサイルで他国領域の軍事拠点などを直接攻撃する能力。歴代政権は、敵の誘導弾攻撃を防ぐなどやむを得ない場合は憲法上可能とする一方、平時から周辺国に脅威を与える攻撃兵器を持つのは「憲法の趣旨ではない」として保有してこなかった。岸田政権だった2022年末に改定された安全保障関連3文書では、迎撃困難なミサイルなどを開発する中国や北朝鮮などの動きを念頭に、保有を明記。憲法9条に基づく専守防衛の形骸化や、地域の軍拡競争を加速させる「安全保障のジレンマ」を引き起こすとの懸念は根強い。
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