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※2023年12月23日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※文字起こし
首相は呼ばれても断る勇気を持て(21日の日本プロスポーツ大賞授賞式)/(C)共同通信社
「火の玉となって自民党の先頭に立ち取り組む」
自民党派閥の裏金疑惑を受け、岸田首相がチンケな言葉で信頼回復の決意を語ってから1週間。案の定、党内は東京地検特捜部の本格捜査に「火だるま」だ。
安倍派と二階派の事務所へのガサ入れに続き、松野前官房長官や高木前国対委員長、世耕前参院幹事長ら安倍派の中枢幹部に次々と任意の事情聴取を要請。近く実施の見通しで、萩生田前政調会長と西村前経産相の聴取も検討しているもようだ。いわゆる「5人衆」は一斉聴取の様相である。
公訴時効にかからない2022年までの5年間で、安倍派の裏金づくりは計5億円規模とされる。派閥主導の裏金システムの実態解明には幹部からの聴取は不可欠。とはいえ、21年10月の岸田政権発足以来、「政権の要」を務めてきた松野をはじめ、安倍派一掃人事まで閣僚や党幹部だった面々が、特捜部に呼ばれて一斉聴取とは前代未聞だ。
20日発売の月刊誌「Hanada」最新号掲載の西村、萩生田、世耕のインタビューは、もはやブラックジョークだ。西村は〈いま総理だったら、何をしますか〉と聞かれ〈第一に積極財政、第二に長年取り組んできた中東政策〉を掲げ、萩生田は〈大谷翔平選手の二刀流どころか、三刀流、四刀流でなければ総理は務まらない〉とビミョーな例えで意欲を示した。世耕に至っては〈いずれは国の舵取りをやってみたいなとは思っています。それだけの経験は積んできた自負もある〉とキッパリ。3人揃って臆面もなく「将来の首相」への野望を言葉の端々ににじませているのだ。
取材時期は、世耕が11月下旬、西村と萩生田は今月上旬。その間も特捜部は裏金捜査を着々と進めていたが、「俺たちに火の粉は及ばない」とタカをくくっていたのだろう。いいツラの皮だ。
聴取対象の5人衆のうち、松野と西村は直近5年間に派閥の実務を取り仕切る事務総長を経験し、高木は現職。特捜部は安倍・二階両派閥の会計責任者を立件する方針で、共謀が認められれば歴代の事務総長も刑事責任を追及される。松野、高木、世耕はそれぞれ1000万円を超える裏金化の疑いがあり、罪に問われかねない立場にある。
派閥の論理にどっぷり漬かり抜け出せない
ちょっと前までふんぞり返っていた5人衆に対する聴取要請の報を受け、自民党内は右往左往。所属99人の大半が裏金化を疑われる安倍派の議員や秘書を中心に「次のターゲットは誰だ」「うちは2000万円弱だけど、大丈夫か」と疑心暗鬼に陥り、殺気立っている。
そんな混乱を尻目に、トップの岸田はシレッと会食の日々だ。21日夜に「ザ・キャピトルホテル東急」の日本料理店「水簾」で森山総務会長と会食したのに続き、22日昼も官邸を抜け出し、高級ホテル「The Okura Tokyo」の日本料理店「山里」で麻生副総裁、茂木幹事長とランチ。裏金捜査を受け、党幹部と今後の党内情勢や政権運営について意見を交わしているにしても、豪華メシは必要ない。
22日夜は「ホテルニューオータニ」の会員制クラブ「ガーデンコート」に駆け付け、ゴルフ仲間の山本有二元農相や東急の野本弘文会長らと会食。いよいよもって、ムダな歓談だ。前々からの約束だったのかもしれないが、党内が「政治とカネ」で揺れる中、連日の高級ホテル通いは、ますます世論の反発を招くだけ。支持率1割首相の“鈍感力”には唖然だ。
安倍・二階両派が強制捜査を受けた19日も、岸田は母校・開成高校OBの親睦団体「永霞会」の会合に出席。在学当時の世相を振り返り、「今日より明日はよくなると信じてみんな日本人が頑張った。今の日本をそういう国にしていきたい」と抱負を語ったという。
同僚議員の政治生命が「今日より明日」と日増しに危ぶまれる中、この厚顔ぶり。その足で都内の高級中華料理店に移り、地元・広島選出の国会議員や広島県議会関係者らとの会合にも参加。四川料理に舌鼓を打っていた。岸田の胃袋と神経はどうなっているのか。「食事が喉を通らない」という常人の繊細さとは無縁のようだ。
毎度おなじみ当座しのぎの突貫工事
安倍派一掃の後任人事も突貫工事の付け焼き刃だ。特に当選10回のベテラン、無派閥の渡海紀三朗衆院議員を政調会長に据えた背景には、今なお岸田の「派閥重視」の姿勢がうかがえる。
当初は9月に岸田派に入会した田村憲久政調会長代行の起用案が有力視されたが、岸田はウジウジ。なぜなら同じ岸田派の林芳正氏を官房長官に登用したばかり。安倍派の退場に乗じて2ポストを奪ったと党内で受け取られ「岸田派の焼け太り」と言われるのを恐れたという。果たせるかな、田村の起用案には麻生が「岸田派ばかりじゃないか」と反発したらしい。
今や依存を強める麻生に岸田があらがえるはずもなく、裏金捜査に揺れる安倍派、二階派から選ぶわけにもいかない。選択肢が限られる中、茂木派の加藤勝信元官房長官も候補に挙がったが、すでに党4役に茂木幹事長、小渕選対委員長がおり、3人目の登用は「茂木派偏重」と党内の不満を買ってしまう──。思い悩む中、甘利前幹事長に要職から遠ざかっていた渡海を推挙され、岸田は食いついたというのだ。
しょせん「派閥均衡」に苦しんだ末の窮余の策。岸田は政調会長起用を電話で打診した際、渡海が政治改革の意欲を伝えたのに対し、「それはそれとして」と素っ気ない返事だったという。毎度おなじみ当座をしのげればどうでもいいのだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)が言う。
「これだけ派閥の弊害が露見しても、岸田首相は派閥の力学を引きずったまま。安倍派一掃に対し、二階派の閣僚を残すダブルスタンダードも、派閥のバランスに左右されている証拠です。とりわけ二階派だった小泉法相の続投はあり得ません。検察の指揮権を持つ法相が捜査対象である組織の息がかかっていれば更迭がスジですが、二階派の報復を恐れてか、小手先の派閥離脱のポーズでごまかす。岸田首相は『御恩と奉公』の旧態依然とした派閥の論理にどっぷりと漬かり、むしろ派閥の力学に従った方が首相の在職日数を増やせると思い込んでいるフシすらある。いくら国民を愚弄しようが、わが身が大事。驚くほどの日和見主義です」
受け身、侮り、逃げ回り
岸田にもう少し、マトモな神経があれば、こんな異常事態を招いていなかった。派閥パーティー収入の不記載問題が浮上した時点で、自民党総裁として素直に国民にわびて自派閥の実態を説明。他派閥にも洗いざらい打ち明けるよう指示しておけば、ここまで政治不信が高まることはなかった。
ところが、岸田は裏金事件を非常に甘くみていた。各派閥任せの受け身の姿勢に徹し、収支報告書の訂正で済むと侮っていた。11月下旬には国会で疑惑を追及されても「裏金うんぬんという指摘は当たらない」と答弁。楽観ムードの“お花畑”から一転、事態の急変後も「政府の立場」を理由に説明を拒み、派閥パーティー自粛や自身の派閥離脱など場当たり的な後手対応を積み重ねた。より国民の不信感を募らせ、もはや何をやっても許されない域に達している。
「自民党自体の存立を否定されても仕方のない局面なのに、岸田首相は派閥の在り方や法改正の方針など、具体策を何ひとつ示そうとしない。『事態の推移を見ながら、しかるべきタイミングで』と逃げ、決断は常に先送り。もう何もできない政権に継続の正当性はありません」(立正大名誉教授の金子勝氏=憲法)
まず説明も謝罪も懺悔もなく、ただ居座り続ける首相を一刻も早く引きずり降ろすこと。それが自民党再生の第一歩だ。
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