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※2023年12月21日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年12月21日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
驚きの“鈍感力”(岸田首相)/(C)共同通信社
毎年の師走の光景ではある。
岸田首相は20日、東京都内の百貨店で開催中の「2023年報道写真展」を観賞。自身の晴れ舞台だった5月の「G7広島サミット」と8月に米ワシントン近郊で開かれた「日米韓首脳会談」の写真2枚に「内閣総理大臣 岸田文雄」とサインし、笑顔を見せた。
19日の夜は都内のホテルで開かれた母校・開成高校出身の国会議員や官僚らの親睦団体「永霞会」の会合に出席。ことのほか開成同窓会を大事にする首相だが、安倍派と二階派の事務所に東京地検特捜部の家宅捜索が入った当日である。
自民党を震撼させている派閥パーティーをめぐる裏金疑惑が、強制捜査によりついに刑事事件へと発展したのに、懇親会や行事出席をこなす岸田の“鈍感力”には驚いてしまう。
「令和のリクルート事件」と呼ばれるほどの「一大疑獄」なのである。政治資金収支報告書へのパーティー収入の不記載は、安倍派が2022年までの5年間で約5億円、二階派は1億円超とみられる。
さらに安倍派では、パーティー券販売ノルマの超過分のキックバックを5年間で1000万円超も受けながら、不記載にしていた議員が十数人いるとされる。自民党の派閥が長年にわたって維持してきた「裏金システム」にメスが入ったわけだが、岸田は「宏池会(岸田派)」への捜査ではないから関係ないとでも思っているのだろうか。
口では「党として強い危機感」とか言っても、直ちに政治資金規正法改正に動くでもなく、「派閥解消」の号令をかけるでもなく、再発防止の具体策も時期も何も示さず、お粗末さだけが際立つのだ。
首相本人が派閥に固執
最新の世論調査では、読売新聞で59%、毎日新聞で70%が「派閥を解消すべきだ」と答えている。しかし、派閥均衡を重視し、派閥単位でしかモノが考えられない岸田に、腐臭漂う「派閥政治」の改革など期待できるはずもない。
加えて、この期に及んで派閥を死守する言説が自民党内のあちこちから噴き出しているのにはア然だ。
記者会見で「派閥解消」について問われた林官房長官(岸田派)は、「議員が集まって議論し、政策を磨き上げていく活動には意義がある」と牽制し、森山総務会長(森山派)も「政策集団の組織は非常に大事だ」とクギを刺す。辞表を出した萩生田政調会長(安倍派)に至っては、「(派閥を)立て直すことが私の務め」と、かつて同じ派閥に所属した元参院議員の葬儀で述べたという。
世間一般との意識のズレが広がる自民党だから、二階派の小泉法相を「続投」させるというあり得ない判断を下すのだろう。法相は検事総長に指揮権を持つ。東京地検が二階派を強制捜査したというのに、法相が二階派では捜査の公正性に疑念が生じる。
さすがに批判に抗しきれず、20日小泉は自ら派閥離脱を決め、二階派を退会したが、野党は「一時的な対応にすぎない」と反発。珍しく野党6党が一致して小泉の法相更迭を要求したのは当然だ。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「二階派に家宅捜索が入った時点で、岸田首相は小泉法相に交代を求めるべきでしたし、少なくとも、すぐに派閥離脱を指示すべきでした。もっとも、そもそも閣僚が派閥に所属していること自体がおかしい。日本は議院内閣制ではありますが、内閣はすべての国民の幸福を追求することに存立基盤があり、大臣や副大臣は、在任中は派閥離脱するというのがあるべき姿です。しかし、岸田首相にそうしたリーダーシップは無理でしょう。つい最近まで本人が派閥領袖にとどまることに固執していたわけですから」
「数は力」「寄らば大樹」カネでつながる薄汚い関係
自民党が末期的だと思えるのは、世論の支持を失っても派閥に執着する醜悪な幹部らに対し、決起する若手がひとりも出てこないことだ。
35年前のリクルート事件の時は、鳩山由紀夫や園田博之ら当選1回の議員が「ユートピア政治研究会」を立ち上げるなど、若手が連日、政治改革を訴えて侃々諤々の議論を戦わせた。
ところが今回はみな、ダンマリを決め込んでいる。徹底的な改革を求めることも、首相や党執行部を突き上げる場面もない。
あるのは、安倍派の若手が「派閥の方から収支報告書に記載しなくてよいと指示があった」と裏金づくりの実態を暴露したことぐらい。不記載の共謀で立件されでもすれば、公民権停止となり政治生命が終わる。生き残りをかけ右往左往する同僚を、他の若手が遠巻きに傍観している……、そんな様相である。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏が言う。
「国会議員がサラリーマン化した。小選挙区制で党の言うことを聞いていればお山の大将でいられる。弱い野党に選挙で勝てさえすれば安泰なので、緊張感がなくなってしまいました。特に2012年の第2次安倍政権以降の10年は、上に盾突いたりすればたちまち公認を外されてしまうほど総理(総裁)や官邸の力が強かった。党改革を求めて声を上げるのは損、黙っていた方が褒められるという空気が自民党内に蔓延しています」
封建時代の軍閥政党
野党が弱すぎるという事情もあるが、選挙に勝てるから、自民の若手はどんどん従順になる。所属議員の半数以上が、安倍総裁の下で政権を奪還した12年以降に当選した4回生以下だ。“安倍チルドレン”が多数を占め、清和政策研究会(安倍派)は膨張、99人の最大派閥として権勢を振るう。
総裁派閥だからパーティーを開けば、仕事が欲しい企業・団体からのカネも集まる。それをキックバックしてもらって、若手の懐は潤う。派閥への忠誠心も高まる。実際、「裏金は議員を派閥に囲い込む手段だった」とする安倍派元秘書の証言も報じられた。
派閥にとっては「数は力」。所属議員にとっては、カネの面倒だけでなく、ポストももらえる「寄らば大樹」。これでは、派閥丸抱えのチルドレンが反旗を翻すわけもない。
「派閥は『政策研究会』と名前を変え、政策集団になったと喧伝されましたが、派閥からの政策提言なんて聞いたことがありません。結局、派閥は互助会でしかなく、議員らは薄汚いカネでつながっている関係だった。1、2回生は自分で政治資金パーティーを開くほどの力はありませんから、会場費や飲食を用意してくれ、キックバックまでもらえる派閥は都合のいい存在なのです」(角谷浩一氏=前出)
リクルート事件後にまとめられた自民党の「政治改革大綱」には、「派閥の弊害除去と解消への決意」という項目が確かにあった。あれから30年以上が経過し、途中、無派閥議員が増えた時期もあったが、気づけば「政治改革」は完全に形骸化。裏金づくりのため法律に抜け穴を残し、派閥による集金と集票システムがなければ成り立たないのが自民党なのである。
「結局、自民党は『近代政党』になりきれていないのです。いまだ封建時代の軍閥みたいなもので、主権者国民全体に責任を果たすのではなく、派閥中心にパーティー券を買ってくれる大企業のために政治を行っている。だから、一握りのお金持ちしか利益を得られない。
行政を私物化した安倍政権時の『モリ・カケ・桜』はまさにその象徴でした。そういう政党が、党内で疑似政権交代を繰り返しているのがこの国の一番の問題です。今度の裏金事件への有権者の怒りは相当なもの。派閥がなければ立ち行かない自民党には、国民が三くだり半を突き付けることになるでしょう」(金子勝氏=前出)
パー券利権政党は、いよいよ自壊への道へ。ご臨終に向かってまっしぐらだ。
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