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※2023年12月12日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年12月12日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
安倍一強を象徴する(代表撮影)
権力は腐敗する。
7年8カ月に及んだ第2次安倍政権に何度も何度も向けられた言葉だが、その残滓を見るにつけても、この国の政治は落ちるところまで落ちたと言っていい。かといって、今がどん底とも限らない。
岸田政権が自民党の政治資金パーティー裏金化疑惑の対応に追われている。立憲民主党は11日、渦中の安倍派(清和会)で2021年10月まで事務総長を務めた松野官房長官に対する不信任決議案を衆院に提出。派閥パーティー券の販売ノルマ超過分のキックバックが1000万円を超え、政治資金収支報告書に記載せず裏金にしていた疑いが浮上しているのに、説明から逃げ回っているからだ。12日の衆院本会議で採決される不信任案は自公与党の反対で否決される見通しだが、組織ぐるみの還流が常態化していた安倍派議員のパージは既定路線。岸田首相は臨時国会を13日に閉じた後、安倍派の閣僚、副大臣、政務官15人のほか、党執行部のメンバーも更迭する方針だ。東京地検特捜部が政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)容疑で安倍派の捜査に注力する中、幹部の「5人衆」は政府与党の中枢から追放されることになる。
派閥パーティーの自粛、今さら岸田派から離脱、そして泥縄の果ての安倍派の一掃。世論の大半が反対したあの国葬強行から1年2カ月で、岸田はわが身かわいさの手のひら返し。最大派閥の支援、それを支える岩盤保守層の支持欲しさで国を挙げて安倍元首相を弔ったことは忘却のかなたといった様相である。
安倍派の還流は「1998年から」
政治ジャーナリストの田崎史郎氏が情報番組で語ったところによれば、「安倍派はキックバックを四半世紀にわたってやっている。1998年くらいから」「ほかの派閥にも知れ渡っていた」という。当時は90年代の政治改革によって政治家個人への企業・団体献金が禁じられる前夜。森元首相が清和会の会長に就いた時期と重なる。岸田はすでに2回生だった。政治資金規正法の抜け穴をつく安倍派の錬金術を知らなかったなんてことがあるのだろうか。百歩譲って初耳だったとして、そんなウブな政治家に政権を預けていたら国政は自民党のオモチャにされ続けるだけだ。
「安倍三代」などの著書があり、「政治とカネ」を取材してきたジャーナリストの青木理氏はこう指摘する。
「パー券収入の裏金化問題は政治資金規正法が『ザル法』だというところに端を発してはいますが、『ザル法』であることは本質ではない。自民党という組織は倫理の底が抜けていることが問題なのです。長期政権を率いた総裁派閥だった安倍派、長らく党ナンバー2の幹事長派閥だった二階派の裏金づくりが突出していると指摘され、特捜部が2派閥を中心に捜査しているのは偶然ではないでしょう。安倍元首相は敵と味方を峻別し、権力を維持するために使えるモノは何でも使おうとする幼稚な政治をやり続け、権力の行使に対する恐れが決定的に欠落していた。独立性が担保されなければならない日銀や内閣法制局、NHKのトップに息のかかった人物を送り込み、内閣人事局を通じて霞が関を牛耳った。『官邸の守護神』と呼ばれた東京高検検事長の定年を延長して検察トップの検事総長に就け、権力を監視する検察をも掌握しようとしたのは、自身や派閥が不正にまみれていたからではないか。あの時、世論のうねりが生まれず、検察庁法改正案が成立していたら今の事態は起きていなかったかもしれません」
本質は権力維持が目的化した空っぽ政治
オトモダチに甘い汁を吸わせたモリカケ桜疑惑。円安誘導で応援団の大企業をいまなお潤す一方、庶民を苦しめる物価高を招いているアベノミクス。いずれも元凶は安倍だ。「戦後レジームからの脱却」と威勢のいいセリフを吐いて、政権へのお墨付きを得るために米国隷従を徹底したのも安倍。世論の反発を無視して特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法の戦争3法をまとめて米国と戦争のできる国へとつくり替え、菅政権と岸田政権がそれを深化させる土台を固めたのも忘れてはいけない。国政私物化のドンが反日カルト集団の統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との癒着が原因で横死した後も、保守層の間では安倍政治とその手法を礼賛する声が消えなかったが、今度の一件で明らかなように、この国の政治には百害でしかなかった。
「志もなければ、高い目標もない。権力維持が目的化した空っぽ政治が安倍政治の正体であり、安倍派の本質でしょう。山上徹也被告が元首相に銃口を向けたことで、安倍元首相と安倍派をめぐる景色は一変した」(青木理氏=前出)
裏金づくりの常態化は安倍派や二階派に限ったことではないだろうが、銭ゲバ、大企業癒着政治、モラル欠落、国民愚弄、法の軽視がこの結末につながるのは必然だ。
支持率は政権復帰後以降で最悪
NHKの世論調査(8〜10日実施)によると、内閣支持率は前月比6ポイント減の23%に下落し、自民党が政権に復帰以降で最低に落ち込んだ。自民党の政党支持率も8.2ポイント減の29.5%に下落し、こちらも政権復帰以降で最悪の数字。「青木の法則」に基づけば、政権は崩壊寸前だ。「参院のドン」と呼ばれた自民党の青木幹雄元官房長官が経験則に基づいてはじき出した持論で、「内閣支持率と政党支持率の合計が50を切ると政権運営が厳しくなる」という。派閥消滅は自業自得。安倍晋三と仲間たちの大罪は打ち消すことができず、歴史的評価は定まった。自民党に権力の驕りを蔓延させた安倍政治がようやく瓦解に近づいている。
共同通信政治部記者時代、清和会を担当した政治評論家の野上忠興氏がこう言う。
「内閣の顔ぶれを変えたところで、国民の政治不信は拭えない。パー券収入の裏金化なんて、店番が売り上げの一部をくすねるようなもの。政治家としての矜持はみじんも感じられません。旧来の自民党政治をチンマリと再現し、害悪を流しまくった安倍元首相に踊らされて自民党に一票を投じ、あるいは投票所に行かなかった有権者にも責任がある。国会で118回も虚偽答弁を重ねた国会軽視もまた象徴的で、政治は緊張感がなければ腐敗する。元首相に7年8カ月も政権を担わせたことが、政治の劣化を加速させた。1強政治は国民を置き去りにし、そのツケを回されるのもまた国民なのです」
順法精神のかけらもない連中が憲法改正なんて冗談じゃない。岸田は大好きな人事で目くらましをしようとしているが、内閣総辞職でも生ぬるい。
野党による選挙管理内閣に託すのが筋だ。安倍が好んだ「リセット」でこの国の政治体制を一新しなければ、歴史は何度でも繰り返される。
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