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背後に隠れているエースの専制、岸田政権を「総括」する
毎日新聞 2022年10月24日
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20221019/pol/00m/010/019000c
安倍晋三元首相は2020年に突然退陣し、その約2年後には衝撃の死を迎える。首相の座を手に入れた岸田文雄首相は、巨大化した安倍派(清和会)をけん制しつつ政権を運営していると評されていたが、そのけん制すべき相手の頭目が突然消えてしまったのである。してみれば、本来ならば、岸田氏は自分のやりたかったことを妨害されずに実行に移すチャンスを得た状況となったはずである。
しかしこの間、「やりたかったこと」は、何も見えてこない。その筆頭が、岸田氏が政権獲得時には高唱していた「新自由主義を克服した新しい資本主義」であったが、金融所得課税の「1億円の壁」の問題にすら、いままで着手できていない。「所得倍増」のスローガンが「資産所得倍増」にすり替えられるに至っては、「新自由主義」という言葉の意味を知らずに使っていたのだとみなさざるを得ない。
ところが、このように「やりたいことがないうえに、人気は落ちる一方」とあっては、「退陣近し」の観測が流れるのも無理のない状況である一方、岸田政権が、「挑発的」とも形容すべき尖(とが)った指針を出していることもまた事実なのだ。
その代表が原発政策であり、積極的な再稼働のみならず、新設にまで踏み込み、さらには、原発運転期間のいわゆる「40年ルール」「60年ルール」の撤廃にも進もうとしている。そして、安全保障に関しては、米中の緊張が高まるなかで、米国寄りの姿勢をより一層鮮明にし、防衛費の大幅増額へと突き進もうとしている。米中両国に挟まれ、中国に対していかんともしがたく依存しているにもかかわらず、外交を通じて両者の緊張を緩和しようという姿勢は、まったく見受けられない。
こうした原発政策の背後に、経済産業省を中核とする「原子力ムラ」の原子力回帰への執拗(しつよう)な意思があるのは見やすいし、より一層の対米追従一辺倒の安保政策の背後に、外務省・防衛省を中核とする「日米安保ムラ」の意向があるのは見やすい。首相の意志薄弱、思想の空洞を突いて、既得権益勢力の鉄の意志が遠慮会釈なく貫かれようとしている。つまり、安倍政権の統治が「政治主導」に偽装したむき出しの官僚専制であったとすれば、岸田政権の統治はそうした外観を取り繕うことさえしない官僚専制と化しつつある。
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