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※2023年11月16日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年11月16日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
2年で2%達成のはずだった(黒田前日銀副総裁=左)、“負の遺産”引継いで先が見えない…(植田日銀総裁)/(C)日刊ゲンダイ
異次元緩和が招いた副作用で、止まらない円安と物価高に庶民が喘いでいる。そんな中で今月1日から始まった黒田東彦・前日銀総裁の日経新聞の連載。後任の植田和男総裁が“負の遺産”の扱いに手間取るのを尻目に、退任からわずか7カ月で厚顔無恥にも登場したことに、驚きとともに注目が集まっている。
名物コラム「私の履歴書」は月替わりだから、15回目の16日は連載も半ばを過ぎたあたりか。ここまででよく分かったのは、黒田という人物の“関心”と“人間性”だ。官僚人生を振り返りながら、いかに自分がエスタブリッシュメントであるかを強調する文面からは、財務官僚として、物価の番人として、国民生活を預かっていたという“体温”が感じられない。
自らの半生を語るこの連載は、各界で業績を残した大物が、子ども時代の失敗談や挫折について触れるなど、人間味あふれる内容が持ち味だ。しかし、黒田連載には、そうしたものがない。東大や留学先の高名な教授たちから高い評価を受けたり、若手官僚として八面六臂の活躍をしたりという自画自賛エピソードを淡々と羅列し、まるで論文でも書いているかのようなのだ。
マイナス金利の導入や長期金利を低く抑え込む「イールドカーブ・コントロール=YCC(長短金利操作)」、ETF(上場投資信託)を通じた約35兆円分もの株の買い上げなど、黒田がひねり出した奇策の数々は、他国の中央銀行がためらうようなハイリスクな禁じ手のオンパレードだった。その結果、2年で終えるとしていた金融緩和の出口を見失い、日本経済を、国民生活を路頭に迷わせている。
ところが黒田はこの期に及んで、<だれかがデフレを止めねばならない。この(日銀総裁)指名は私にとっての天命と思った><困難の中で常に頭にあったのは、何が国益かということであった〉と自らを正当化する。そこに、自身の決断における逡巡や苦悩などは見えない。どこまでも自分は正しいと思っているのだろう。
経済評論家の斎藤満氏が言う。
「黒田氏の連載には、共感を呼ぶような失敗談や苦労話がなく、エリート主義、官僚主義が前面に出ていて、読み物としての魅力も感じられませんでした。この微妙な時期に、黒田氏を登場させた新聞社にも違和感を覚えます。今まさに、黒田時代を含めた金融政策のあり方が問われているのです。超円安と物価高で日本経済をめちゃくちゃにした戦犯的な当事者の責任が問われているわけで、過去の歴史を美化して振り返るような状況ではありません」
利上げは来年1月か4月か 中小企業は逃げ場がない
その一方で、金融政策の修正はジワジワと進む。
植田日銀は7月の金融政策決定会合で長期金利の上限を0.5%程度から1%程度まで引き上げ、先月の決定会合では「1%めど」として、1%超えを容認した。植田は、「物価目標の2%を持続的・安定的に達成できるまで大規模緩和を続ける」とこれまで通りの発言を続けてはいるものの、実際はマイナス金利を含めた異次元緩和修正へのカウントダウンが始まっている。
9日に公表された先月の決定会合の「主な意見」で、異次元緩和からの出口についての発言がいくつもあったことが明らかになったのだ。
<最大限の金融緩和から、少しずつ調整していくことが必要である><将来の出口を念頭に「金利の存在する世界」に向けた情報発信を進めることが重要だ>──。金融業界やマーケットが注目しているのは、来春の春闘の行方だ。次なる緩和修正の動きとして、囁かれる今後のシナリオは、年明けの1月や来年4月。
15日も首相官邸で開かれた政労使会議で、岸田首相が「来年の春闘で今年を上回る水準の賃上げ」への協力を求めていたが、例年3月中旬ごろの大企業による集中回答日で大幅な賃上げの実現が見えれば、4月に日銀が動く、というわけだ。大幅賃上げの方向性が少しでも確認できれば、年明け早々の修正もあり得るとの見方もある。
地銀の連鎖破綻も
ただ、副作用ばかりの異常な金融緩和政策を早期に終わらせるべきなのは間違いないが、そうなればこれまでのツケが一気に噴き出すことになる。その時、誰が犠牲になるのか──。
既に巷では「これからの住宅ローンは変動か固定か、どちらにすべきか」がホットなテーマになりつつある。
先月末の長期金利の「1%超容認」を受け、メガバンクが11月に住宅ローンの固定金利を引き上げた。日銀がマイナス金利の修正にまで踏み切れば、短期金利が上昇し、既に住宅ローンを組み、変動金利で借りている人たちもパニックになりかねない。
コロナ禍で始まった実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)利用後の倒産が増えている中小・零細企業も、金利上昇ならさらなる倒産に拍車がかかるだろう。利上げのスピード次第では企業業績や景気悪化で株価暴落もあり得る。
さらに深刻なのは、政府債務の償還だ。日本は債務残高が1200兆円を超え、GDP比250%強という世界有数の借金大国だ。財務省は今年1月、金利1%上昇により国債の償還・利払い費が2026年度には約3.6兆円上振れし、30兆円に迫るとの試算を発表している。今度の13兆円の補正予算案のように、赤字国債をジャブジャブ発行する放漫財政体質が染み付いてしまった中で、将来世代の借金がさらに積み上がっていくことになるのだ。
「もっとも、長期金利は上昇傾向にあっても、短期金利はまずはマイナス金利解除からですから、上昇に時間がかかります。政府はひとまず長期国債をやめて短期国債発行へ逃げることができるし、住宅ローンも変動への逃げ場がある。しかし、最も困るのは中小・零細企業です。ただでさえ人手不足で賃上げコストが膨らんでいるところに、融資返済の金利負担が上乗せされる。中小企業には逃げ場がありません。そのあおりを受け、不良債権を抱えて破綻する地銀が出てくるかもしれません」(斎藤満氏=前出)
黒田に二重三重の罪
黒田が始めた異次元緩和が10年を超える長期になった。その結果、「金利のない世界」に慣れてしまったこの国では、インフレ下で金利が上がるという当たり前の世界が想像できなくなっている。それはマーケットも同様だ。正直、日銀も金融当局も、緩和修正の先に何が起こるのか、本当のところは分からないのではないか。
黒田の10年は、つくづく罪つくりだ。能天気な日経連載で「後は野となれ山となれ」で自慢話に明け暮れるA級戦犯は、この落とし前をどうつけるつもりなのか。聞いてみたいものだ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「黒田バズーカの異次元緩和については、最初から出口戦略が難しいといわれてきた。結局、思い描いたようなデフレ脱却はできず、それどころか悪いインフレを招き、失敗。出口が描けない難しさも実証されました。バズーカは不発ではなく、むしろ大暴発したようなもので、日本経済をぶっ壊してしまいました。いま国民生活を苦しめている物価高は、人為的に円安誘導した結果の人為的なインフレです。15日発表された7〜9月期のGDPの実質成長率は、物価高の影響などで3四半期ぶりのマイナス成長となりました。実質賃金は18カ月連続のマイナスで、個人消費は買い控えが起きている。日本経済は黒田緩和の悪循環から抜け出せないでいる。黒田氏には二重三重の罪があります」
日経連載の後半で反省の弁や謝罪の言葉はあるのか。ま、期待するだけ無駄だろう。
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